幼馴染たちが美しく歌う中、俺は哭き叫び狂い堕ちる   作:零城

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忙しい中、ちょこちょこと書いていたやつです。割と難産でしたわ
なんかこの小説、戦闘多くね?


第十六話 七発目の魔弾と代償

工場地帯の一角は、まるで砲撃を浴び続けた戦線の跡だった。

鉄骨はねじれ、タンクは腹を割かれ、焦げた油と薬品の臭いが熱気に乗って鼻腔を刺す。粉塵が陽炎のように立ちのぼる中央で、三つの影が対峙した。

 

ひとつは、デュランダルを掲げた立花響。

赤く灼けた双眸は焦点を結ばず、金色の刃は低いうなりを上げて歌の残滓を振動させている。

ひとつは、魔弾の射手――蒼月 昇。黒い炎を纏う撃手は狙撃銃を肩に預け、左足を半歩引いてサイト越しに刃の根を計る。

もうひとつは、ネフシュタンを着た雪音クリス。紫の鞭が空気を裂き、杖頭の宝玉が不穏に明滅した。

 

「ウゥゥゥ……」

 

獣のような喉鳴り。響が金の刃先をわずかに傾けるたび、周囲の粉塵が磁化したみたいにざあっと流れた。

 

「……あの金ピカが原因くさい――な」

 

昇は息を一拍止め、引き金へ指を置く。

 

 

ドクン

 

 

(狙うのは響じゃない、剣だけだ)

 

幼馴染を狙うことに吐き気やらなんやら嫌な気持ちになるが自分を鼓舞し引き金を引く

 

 

【魔弾 一発目】

 

 

魔法陣が咲き、射線が剣の鍔元へ吸い込まれる。

――が、響は見ていた。

デュランダルが一閃、弾丸そのものを両断。切断面から零れた光が横薙ぎの衝撃波になって押し寄せる。

 

二課のオッサン(弦十郎)よりはマシな光景だが……常識で見りゃ地獄だな」

 

昇は横ッ飛び。背後で白金の爆風がアスファルトをめくり上げ、鉄骨が風鈴みたいにジャラついた。

 

「おらぁっ!」

 

 

【NIRVANA GEDON】

 

 

クリスの鞭先に黒い電撃が凝り、白いエネルギー塊が射出――しかし真っ二つ。

完全聖遺物同士でも、純出力が違いすぎる。近寄る前に薙がれる。

 

響は歩く。ほんの数歩――それだけで圧が近づく。刃は守りも構えもなく、本能だけで最短の殺意を描く。地面は踏むたびに浅く凹み、響の体重では説明できない負荷痕が残った。

 

「絡めて止めてやるよ!」

 

クリスの鞭が刃身に絡み、きぃんと嫌な硬さで締まる。

勝ち筋――のはずが、次の瞬間には逆に引かれていた。

 

「なっ――」

 

響の片手が鞭を握り込み、抵抗をそのまま引力に変える。クリスは首根っこを掴まれ、クレーター級の勢いで地面に叩きつけられた。刃が天へ掲げられる。落ちる。落ちる前に――

 

 

【魔弾 二発目】

 

 

昇がコッキングを捻り上げる。二重の魔法陣がクリスを挟み込み、斜めから二発が掠め撃ち。

響の肩が半拍遅れて反応、刃筋が逸れて土煙だけが柱を作った。

 

「……ちっ。剣だけ狙いは骨が折れる――のぁっ!?」

 

「オイてめぇ! 今あたしに撃っただろ!」

 

「仕方ねぇだろ! 二発目はこういう性格なんだっての!」

 

文句の応酬の最中、クリスの鞭が反射的に振られ、昇の顔面へ走る。昇は銃床で受け流し、砂利を蹴って距離を取った。

 

「ウ、ァァァァァァ!?」

 

そんな光景を見て嫉妬したのか響はデュランダルを振りかぶり、一直線に昇へ迫った。

 

「っく――!」

 

昇は狙撃銃全体で刃を受け止める。金属どうしが噛み合う甲高い悲鳴、肩から背へ抜ける衝撃。押し返す力が足りない。地面はタイヤ跡みたいに抉れ、後ろのタンクへとずるずる押し付けられる。

 

「響! 俺だ! 昇だ!!」

 

刃と銃身が噛み合ったまま、距離は拳一つぶん。至近でぶつかる視線。昇は張り裂ける声で呼びかけた。

 

「ノ、ボ……ル」

 

一瞬、響の動きが止まる。刃先がわずかに揺れた。

 

「早く、そんなもん離せ!」

 

鍔迫り合いのまま、昇は左手を滑らせて柄へ――奪い取るつもりで握り込む。

 

ブァァァァァァァ――ッ!

 

掴んだ瞬間、指先から黄金の暴風が腕に噛みついた。UNKNOWNの不協和音とは違う。勇壮で、前進を強制する金色の大合唱。視界が白く瞬き、足場ごと押し返される。

 

(なんだよ……これ!?)

 

一歩が出ない。風圧というより圧倒的な威圧が胸板を押し潰し、前傾した体が起き上がってしまう。

 

「ウ……アァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

響の身体から、剣に呼応するように奔流が噴き出す。近距離で浴びた昇は弾かれ、タンクを突き破って空へ投げ出された。

 

「やべっ!?」

 

飛びながら、視界の端に海。工場は護岸に張り付くように建っている。このままだと、真っ逆さま――。

 

シュバッ!

 

足首に食いつく紫の閃光。クリスの鞭が昇を引っかけ、海面寸前で失速させる。

 

「痛ぇ!?」

 

助かった、と思う間もなく、受け止めはない。そのまま地面に背中から叩きつけられ、肺の空気が全部抜けた。

 

「え、ちょ、おま!? そこはキャッチしろよ!?」

 

「するわけないだろ、バーカ!」

 

砂煙の向こう、クリスは鞭をひと振りして構え直す。昇は咳をひとつ、黒い炎を噛み殺しながら、再び暴走する月――デュランダルを掲げた響へ銃口を向けた。

 

「――許せよ、響!!」

 

【魔弾 三発目】

 

地面に青白い魔法陣が三輪、花弁のように開く。狙いは剣と両肩――一撃で制動を奪うつもりで、昇は呼吸を殺して引き金を絞った。

 

ズドォォン――!

 

撃発と同時、響の足元が閃く。デュランダルの金光が踵に絡みつき、次の瞬間には数十メートルの間合いが一息で潰される。踏み抜かれた路面が蜂の巣のように割れ、衝撃波が魔法陣を粉砕――弾丸は行き場を失い、光の屑となって霧散した。

 

(速――っ!)

 

回避が一拍遅れる。視界の端で金色がえぐれ、横合いからの蹴撃が肋を砕く勢いでめり込んだ。世界が横倒しになり、昇の身体は四棟分の壁と配管を貫通して飛ぶ。コンクリが弾け、鉄骨が啼き、肺の空気が全部吐き出される。

 

「が……っ、くそ……!」

 

砂煙の向こう、クリスが鞭を裂帛の気合とともに横薙ぎに振る。

 

「やろうが――!」

 

だが金影は紙一重で沈み込み、鞭の外をなぞるように抜ける。次の瞬間にはもう目の前。白い手がクリスの喉元を鷲掴みにした。

 

「ぐっ――!」

 

重力が反転する。地面に叩き付けられ、背骨がバチンと跳ねる音が耳の奥で弾けた。掴まれたまま引きずられ、アスファルトに深い溝が刻まれる。遠心力が絶頂に達したところで、肩口を軸に投擲。クリスの身体は岩塊のように転がり、ガードレールをなぎ倒して停止した。

 

 

 

 

がはっ、がはっ――!

 

胃の底まで揺さぶられる咳が勝手にせり上がる。肋の内側で何かがひしゃげた感触。UNKNOWNを纏ってなかったら、さっきので終わってた。

視界の端、金光がゆらゆらと揺れる。デュランダルを掲げた響が、無機質な赤い瞳でこちらをただ見下ろしている。

 

(……今の蹴り、殺す気だった。あの響が、俺に殺意を――)

 

喉の奥がからからに乾く。背筋を寒気が駆け上がり、汗は熱いのに指先だけが氷みたいに冷える。

足が一歩、勝手に後ずさった。恐怖は、思っていたよりも生き物に近い。噛みついて離さない。

 

背後でタンクが呻き、どこかで非常ベルが鳴り続ける。まだ人の灯りがあるビルが見える

 

(このままじゃ街が焼ける。響自身だって、持たない。止めないと――)

 

理屈は瞬時に並ぶ。結論も出ている。撃って止めろ。デュランダルでも、腕でも、膝でも。とにかく止める。

 

銃床に片手をかけて立ち上がる。コッキングレバーを引くたび、内部で噛み合う金属音が骨伝導で頭蓋に響く。

狙いは剣だ。彼女じゃない。剣を弾く。奪う。封じる。それで済む――はずだ。

 

「……許せ、響」

 

狙撃銃を上げる。引き金に指をかける。

そこまでやって、動かない。

 

指が震えて、ぜんぜん落ちてくれない。呼吸が浅くなる。喉が鳴る。

黒い炎の奥で、『魔弾の射手』が低く囁く。

 

 

撃て

 

 

胸のどこか別の場所で、十数年分の記憶が囁く

 

(撃てば助かる。撃てば守れる。――でも、幼馴染を狙う俺は、なんだ?)

 

引き金が、鉛に変わった。

頭に焼き付いて離れない。二年前の血の色。今日、自分の弾が抉った肉の手応え。

そして、笑っていた普通の響の顔。

 

「っ……くそ」

 

照準が剣先と彼女の胸元の間をふらつく。ほんの数センチの迷いが、数年分の躊躇いになる。

もし剣じゃなくて響に当たったら?逆に当たらなかったら?

その一拍で、誰かが、響が――。

 

(怖えよ。でも、このまま見てるだけの俺のほうが、ずっと怖え)

 

奥歯を噛みしめ、銃口を剣に固定する。引き金の上に乗った指に、ゆっくりと圧を積む。

魔弾の射手のざらついた囁きが、耳の芯を掻く

俺は小さく首を横に振る。

 

「剣だけだ。響は撃たない。」

 

宣言は、自分に向けた縛りだ。逃げ場を塞ぐための、最後の綱。

肺いっぱいに海風を吸い込み、吐く。

指に、あと一目盛ぶんの力を――。

 

金色の残光がまた走る。響が半歩、沈む。踏み込みの予備動作。

時間が伸びる。世界が薄くなる。

その薄さの中で、俺はようやく落とす。

引き金が、――落ちた。

 

……はずだった。

 

その瞬間、背骨の内側から氷の指が這い上がり、後頭部の根元を掴まれる。視界の色味が一段、鉛へ沈む。俺の呼吸とは違うリズムが胸腔を揺らし、別の声が喉の裏でささやいた。

 

(甘い。中心を撃て)

 

勝手に、銃口が撓む。剣先に固定していた照準が、音もなく響の胸の中心へ滑っていく。

指が――俺の意思より速い。圧を抜こうとした瞬間、逆にぐいと押し込まれ、キレの良いブレイクが指腹を裂いていく感触。

 

「やめろっ……剣だけだって言ってるだろッ!」

 

(黙れ。獲物は心臓)

 

二つの力が引き合う。前腕の屈筋が軋み、手首の腱が悲鳴を上げる。

狙いは胸、俺は剣先へ。

銃身がミリ単位でぶれる。汗が引き金へ落ち、冷たい。

魔法陣が、横一列に同時に開く。

青白い炎の弾丸が形成される気配――

 

 

【魔弾 四発目】

 

 

乾いた衝撃。銃声が遅れて脳を叩く。

同時に俺は肘を跳ね上げ、手首を強引に捻る。

 

火花が散った。

弾丸はデュランダルの刃と胸甲のわずかな隙を斜めに掠め、響の左肩の装甲を抉り、赤い線を一筆、引いていく。

 

「っ――!」

 

響の身体が一瞬たわむ。血が、鋼の上で一滴だけ咲いた。

 

胃が反転する。喉奥に鉄の味。握っているのが銃か喉輪か、境目が壊れる。

黒い炎が背で逆流し、魔弾の射手のざらついた笑いが骨に擦り付けられる。

 

(これでいい。次は確実に)

 

「勝手に撃つなぁぁぁぁッ!!」

 

叫びは風に千切れた。

返事の代わりに、内側の“射手”は冷笑を残して沈む。

引き金に残る痺れだけが、たった今の主導権が俺ではなかった事実を刻みつける。

震える照準の先、赤い瞳の響が、痛みと戸惑いの境でわずかに目を細めた。

俺は奥歯をきしませ、銃口を剣へ引き戻す。

心臓なんてもう狙わない。二度と、狙わせない。

 

(ッチ、焦ったい。寄越せ)

 

「何を———」

 

 

ドクンッ

 

 

鼓動がふいに跳ね外れ、胸の奥で不整脈が荒ぶった――その刹那、昇の意識は暗い底へと沈降した。

 

『——————っふぅ、久しい外だな』

 

E.G.Oギフトの鉄パイプを片犬歯で咥え、ソレが浮上する。灰色の衣、青の外套、黒い炎、青白く灯る双眸――外形は同じでも、纏う気配だけがまるで別物だ。冷えた愉悦が足跡のように空気へ刻まれていく。

 

「さて、獲物は――」

 

「うっ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

肩を撃ち抜かれながらも、響はデュランダルを離さない。血に濡れた指で柄を締め、完全に乗っ取られた昇――魔弾の射手を睨み据える。

 

『嗚呼……退屈させるなよ?』

 

口角だけが笑い、瞳は氷。躊躇の欠片もなく、引き金が切られる。

 

【魔弾 五発目】

 

「ッ!!」

 

足元に魔法陣の輪郭が閃く。響は反射で横へ跳ぶ――が、

 

『お返しだ!!』

 

次の瞬間、魔弾の射手は側面に回り込んでいた。叩き込まれた踵が響の肋を抉り、空中へと蹴り上げる。そのまま魔法陣の中心へ叩き戻す。

五条の青光が、()()()()()()()()()()

 

ズドォォォォオン!!

 

甲高い金属音と火花。響は四発を弾き、断ち落とすも、最後の一発が右肩を貫通した。シンフォギアの装甲が裂け、熱い血潮が弧を描く。

 

『おいおい? もうおしまいか? まだこれからだろ?』

 

支配は完全。幼馴染を穿つ痛覚が高揚に変換される。魔弾の射手は狩人の笑みのまま、迷いなく次を準備する。

 

「うぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁ!!」

 

響が咆哮。デュランダルを天へ掲げ、刀身から金色の嵐が噴き上がる。空気が軋み、工場群の影が震えた。

 

『そうこなくてはな』

 

殺意に最適化された満点の獲物――とでも言いたげに、射手は再び指を落とす。

 

【魔弾 六発目】

 

響を挟み込むよう、六つの魔法陣が花開き、弾丸が同時起動。響は切り捨てに移ろうと――戸惑う。

弾道が逸れる。いいや、外している。

「当たる弾」には身体が先に反応する。だが「外れる弾」は刃の振り出しを鈍らせる。見極めを狂わす嫌らしい間合いで、デュランダルの一閃が空を斬った。

 

『おしまいだ』

 

そこで、真の狙いが合う。引き金が、静かに――

 

 

【魔弾 七発目】

 

 

撃つたびに増幅される魔弾が、空間に七芒星のような軌跡を描く。

まず六発――響を囲うように魔法陣が開き、弾道が刃の要へ次々と叩き込まれた。

 

「ぐ……っ!」

 

デュランダルを切先で受け、響は反射的に斬り払おうとする。だが七発目の工程はこれまでとは桁が違う。刃に乗る金色の奔流と、魔弾が与える反力が衝突し――斬撃は弾かれる。

 

カン、ガン、ギン――

六連の衝撃が柄、鍔、峰、切先を的確に打ち、握力の軸をずらし、重心を狂わせる。そして――

 

ドンッ!

 

決定打が刀身の芯を撃ち抜いた。金の剣は天へ跳ね上がり、回転しながら軌道を外れ、離れた路面へ杭のように突き刺さる。

響の視線が逸れた、その一拍。

背に殺気。

 

『じゃあな』

 

振り返った先、魔弾の射手は最後の一発を静かに据えていた。建物一つを覆うほどの巨大な魔法陣が地と空に重ね描きされ、青白い光が飽和する。

 

ズドォォォォォォォォン!!

 

放たれた“最後の弾丸”は、もはや狙撃の域を超えていた。戦艦主砲の直撃のような圧。

青白い奔流はタンク群を呑み砕き、工場棟を穿ち、舗装を抉り――そのまま海面へ突き通る。残滓が遅れて爆ぜ、塩気を帯びた風が砂塵を攫う。

 

「な、なんだよ……これ……」

 

吹き飛ばされたクリスは、息を荒げながら現場に戻る。目に映るのは、戦場の残骸と、なお悠然と立つ魔弾の射手。

同じ“完全聖遺物”の装者――そう呼べるのか。天と地ほどの差を見せつけられ、奥歯を噛みしめると、その姿を煙のように掻き消した。

 

「あ、が……」

 

至近距離の衝撃は、デュランダルの残滓が受け止めた分だけ殺意を剝いだ。

それでも響の全身のあちらこちらに火傷をし、力なく崩れ落ちる。

 

『……なんだ。もう終いか。――興醒めだな』

 

まだ立てるなら、まだ撃てるのに。名残惜しさを滲ませ、射手は肩を僅かに竦める。

 

『さて、返すぞ。勝ったんだから、いいだろ?』

 

――――――

 

「―――っかは!?」

 

瓦礫の上で、昇は跳ね起きた。

脳裏を焼くのは、さっきまで身体を勝手に動かしていた別の自分の残滓。こめかみが鈍く疼く。

 

「……響は!?」

 

掠れ声が漏れる。

激しい頭痛の中で視界を掃くと、破壊の爪痕だけが延々と続く。三秒と経っていない――そんな実感が妙に冷たい。

胸の底では、さっきの光景が逆再生のように蘇る。銃口、金色の風、崩れる建屋、赤く濁った瞳。

 

嫌でも、思い出す。

自分の手が引き金を引いたという事実と、そこで崩れた幼馴染の姿を。

 

「響!? どこだ――!」

 

上空では、戦闘終結を確認した二課のヘリが降下を始めている。

昇は狙撃銃を杖代わりに、粉塵の舞う瓦礫帯を踏み分けて進んだ。焦げた鉄の匂い、割れたガラスの感触が靴底にざり、と鳴る。

 

「……響!!」

 

崩れた配管の陰に、装甲を解いたいつもの姿の響が横たわっていた。

露出した肌に火傷の痕が走っているが、致命ではない――胸がひとつ、安堵で緩む。

 

「よかった……響! 大丈夫——」

 

 

ドクンッ

 

 

胸が、ひと拍遅れて跳ねた。

心臓が空白を挟んだような、嫌な沈み込み。その直後、右腕の腱が「自分ではない何か」に繋ぎ替えられる感触が走る。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、なんで腕が――っ!」

 

左手で前腕を押さえ込む。だが筋肉は逆らい、指は蛇のように勝手にトリガーへ這い上がる。銃身がゆっくりと持ち上がり、冷たい口吻が倒れている響へ向いた。

 

「おい、待て……やめろ、待ってくれ!?」

 

銃口をずらそうと、肩でぶつかり、肘をこじって力の流れを遮ろうとする。だが「意志」はこちらにない。右手は、正確に、無慈悲に、標的へ整準していく。

魔弾の射手の七発目の代償が発動してしまった

 

カチャ

 

薬室が閉じる乾いた音が、耳の奥で反響した。

銃口は完全に響を捉え――

 

「……う、うぅぅん。あれ? 私……」

 

薄く目を開け、上体を起こそうとする響。まだ銃口には気づいていない。

 

「響ぃ!!!!!! 避けろぉ!!」

 

喉が裂けるほど叫ぶ。せめて逸れてくれ、と祈りながら体重で銃を押し潰そうとする――が、指は冷ややかに引き絞られた。

 

 

ドシュッ

 

 

乾いた破裂音。次の瞬間、小さな赤が胸もとに咲く。

響の身体がびくりと震え、ゆっくりと後ろへ崩れた。

二年前の地獄が、色も匂いもそのまま、昇の網膜に重なる。

 

「響君!?」

 

「響ちゃん!?」

 

ヘリから飛び降りた弦十郎と、どこかに身を潜めていた了子が駆け寄る。弦十郎がそっと抱き上げ、了子が傷口を押さえる。

 

「急げ! 近くのどこの病院でもいい!」

 

怒号が飛び交い、救急の手順が叩きつけられるように展開する。

昇はその場に釘付けのまま、右手の痺れだけが自分の手かどうかもわからず、凍りついた足で一歩も動けなかった。

 

瓦礫の風が止む。耳鳴りだけが残る。

誰かが叫んでいる。担架、止血、救急要請――全部、遠い。

 

———誰が、撃った?

 

自分の声が、他人のものみたいに乾いていた。

右手はまだ痺れている。指先には、ついさっきまで燃えていた金属の余熱。火薬のにおいが皮膚にしみついて、落ちない。

 

誰が撃った?

 

——俺だ。俺が、撃った

———俺が、響を…殺した

 

喉がきしむ。言葉にすると、重さが落ちてくる。

守るはずだった。二度と泣かせないと決めた。あの夜、約束した。

――なのに、胸に咲いた赤は、俺の弾だ。

 

(違う、あれは“ヤツ”が……)

 

言い訳が脳裏に浮かぶより早く、内側の誰かが嗤う。

 

――引き金を絞ったのは、誰だ。

――その指は、誰のものだ。

 

視界の端で弦十郎が叫ぶ。了子が指示を飛ばす。

響は腕の中で息をしている。まだ、間に合うかもしれない。そう考えるだけで、胸の奥が裂けた。

 

「守る、って……言ったのに」

 

口の中が砂みたいに乾く。舌に鉄の味が広がる。

二年前の断末魔と、いまの自分の息遣いが重なって、世界がぐにゃりと歪む。

心拍がひとつ抜け落ち、次の拍が乱暴に胸を叩く。

 

――怪物。

――ようこそ、こちら側へ。

 

否定しようとしても、声にならない。足が震える。

気づけば、人の輪から外れていた。照明の届かない陰、折れた梁の影に、長い影が沈む。

 

狙撃銃が重い。なのに、迷いなく手が伸びる。

銃身の冷たさを唇が知る。歯に触れた鉄は、錆と火薬の苦い匂い。

喉奥で息がつかえる。肩が小刻みに震える。目から正気が消え炭のように黒くなり、涙か汗か、分からない湿りが頬を伝った。

 

「……ごめん、響。未来。俺、やっぱり――」

 

言葉が崩れる。

たった一人も、守れなかった。

現実は、あまりにも重く、冷たく、容赦がない。

 

指が、前へ。

ほんのわずかの抵抗も、もう残っていない。

 

「おい待てっ!?」

 

弦十郎はいち早く気がつき昇を止めようとするが…遅すぎた

 

パァン

 

乾いた音が、夜を裂いた。

弾丸は脳幹を貫き小脳を破壊し大脳を焼き尽くし赤い薔薇を咲かせ———そして、すべての音が消えた。




撃つだけ撃っておいて代償は宿主に払わせるスタイルです
しばらくは戦闘シーンはいいかな
なんか主人公が自殺しましたが次回には生き返らせて謝罪botにする予定です(あとそろそろ『とあるアブノマ』を出そうかなと思います)
あと、響も蘇生させます
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