響と未来、そして昇がツヴァイウィングのコンサートに行くと決めた、その同じ日。
巨大なドーム。外周では朝から工事車両が唸りを上げている。搬入口には大型トラックが列をなし、照明機材やスピーカーが次々と積み下ろされる。
スタッフはインカムで短く指示を飛ばし、脚立を駆け上がってケーブルを繋ぎ、汗を拭う暇もなく次の持ち場へ向かった。
「ステージ裏、配線チェック急げ! 明日のリハまでに全部終わらせるぞ!」
「はい! こっちはセット半分まで組み上がりました!」
鉄骨が積み木のように組み上がり、舞台装置は少しずつ全貌を現す。天井のリグから照明が試験点灯されるたび、巨大なホールの闇が鮮やかに切り裂かれた。
観客の歓声をまだ知らない空間に、機械音と声だけが響く――それでも顔は明るい。誰もが知っている。主役はツヴァイウィングだ。その名が、作業員も警備員も、確かに鼓舞していた。
――――――――――
同時刻、練習室。防音の壁と鏡面。青と赤が並ぶ。
床のテープは立ち位置、回転の始点、ブレイクでの角度――すべて正確な座標だ。
吸う。吐く。胸郭の上下が同時に揃う。
クリックは鳴らさない。空調の風と鼓動だけが拍になる。
マイクを握る手首の角度が揃う。一拍の沈黙。
次の瞬間、声が空気を掴む。低く厚い始点を奏が置き、翼が上から縫い合わせる。倍音が重なり、部屋の容積がわずかに広がったように感じられた。
ステップ。右、左、クロス、ターン。
奏は床を蹴るたび重心が前へ出て、音を押す。
翼は軌道が正確で、回転の終端を刃物のように止める。止めた刃の気配が、次の拍へ橋を架けた。
ブレスは短い。フレーズの終わり、0.3秒だけ顎が同時に下がる。汗がこめかみを伝い、顎先で弾けて床に点を打つ。点の位置まで、二人はほぼ同じだ。
サビ前、足音が一度だけ強く鳴る。明日の歓声が来る地点に、身体で付箋を貼っておく。誰にも聞こえない打ち合わせを、今日のうちに筋肉へ縫い付ける。
一巡。無言で水分を取る。
奏は無造作にボトルをあおり、タオルを首の後ろに掛ける。
翼は喉を湿らせ、畳み跡を正してからスタンドへ触れた。動作の癖まで、既に相方の視界に馴染んでいる。
奏が顎を引き、口角だけで合図する。
翼は視線で受ける。
二巡目は強弱だけを反転させる。先に細く入るのは翼、厚みを重ねるのは奏。外から聞けば同じ歌でも、内部では担当が入れ替わる。どちらが前に出ても他方が噛み合うよう、歯数を合わせ直す作業だ。
ブリッジ。翼の背筋が僅かに緊張し、高音域へ上がる。奏は半歩だけ寄って側面から支える位置に入る。見えない風へ、二人で耐風姿勢を取った。
終端。残響を短く切り、同時にマイクを下ろす。鏡の中で視線が合い、頷きがひとつ。
「……ふー。いい感じ」
「奏、股を開かないでよ。だらしない」
「わかってる、わかってる」
二人の表の顔はツインボーカル・ユニット【ツヴァイウィング】。
そして裏の顔は、特異災害対策機動部二課に所属するシンフォギア適合者――
夕焼けなように赤い髪をした姉御肌なガングニールの装者である【天羽奏】と、青い長髪に武士のように鋭い瞳をした天羽々斬の装者【風鳴翼】であった
今回のライブに懸けるものは二つある。
一つは、歌で誰かの背を押すこと。
もう一つは、会場地下で進む第四号聖遺物【ネフシュタンの鎧】の起動実験――フォニックゲインの収集だ。
足裏に残る床の感触、肺の奥の熱、指先に残った金属の冷たさ。
それらの答え合わせは、明日だ。
「・・・成功するかな」
「大丈夫だって!私と翼ならどんなとこにも飛んでいけるだろ!」
「・・・嬉しいけど、ライブの方じゃなくて実験の方」
「あ、そっち〜」
と奏は苦笑いする
「大丈夫だって、おっさんとか博士がいるだろ?ネフシュタンのやつは成功するって」
「おっさんって・・・奏って司令官と会ってから変わらないね、その呼び方」
と翼は懐かしそうに思い出す
奏と翼の出会いは5年前にあった奏の家族を襲った長野県皆神山でノイズに襲撃され、奏は聖遺物発掘チームの生き残りで奏は特異災害対策機動部二課に保護された後、ノイズへの復讐を誓いシンフォギアの適合者になるべく制御薬「LiNKER」を過剰投与した結果、血を吐きながらも適合者となった。翼とは保護された当時から血を吐きながらも手に入れた力というのに奏を尊敬していた
二人はその後、装者として数々のノイズを殲滅してきたが奏は助けていくうちに「自分達の歌は誰かを勇気付け、救うことができる」と気づき翼とツヴァイウィングを結成することになった
「・・・いやー、ちゃんとした場だったら言うけどよ・・・やっぱ、おっさんが1番落ち着くわ」
と苦笑いする奏
それに翼は呆れる
「ライブも実験も両方とも無事に終わらせて・・・あ、そういや翼?」
「なに?奏?」
汗を拭いたタオルと練習用の女性用のスポーツインナーを片付ける翼
「ネフシュタンで思い出したんだけど、
「・・・ああ、
と翼も今思い出したかのように天井を見上げる
ネフシュタンの鎧は第二次世界大戦時、ガングニールと共に、ドイツから日本へもたらされたものであり、特異災害対策機動部が管理している第四号聖遺物である。それとは別にもう一つ近年、北極海の海底から発見された聖遺物で今回の実験の数か月前に輸送され櫻井理論の提唱者である『櫻井了子』が研究をしている
「結局、あれなんなんだ?」
「わからない、櫻井さんが研究中だけど成果なしって聞いたことがあるわ」
「…結局、わからずじまいか」
一方、特異災害対策機動部二課本部
職員やオペレーターが慌ただしく走ったり情報の整理などをしていた
「ネフシュタンの鎧、実験区画に収容完了」
「ライブ建設もまもなく完了とのことです」
「わかった、くれぐれも安全第一に頼む」
と司令室の中央にて、ここの司令官である【風鳴弦十郎】がいた
ここにいる全員の表情は真剣で少しのミスも許さないような空気だった
「あとはツヴァイウィングの二人のコンディションだな」
モニターにはライブ会場となる施設の建設風景が見えていた
トラックやクレーンが慌ただしく動き回って、人も資材をフォークリフトなどでせっせと忙しそうに運んでいるがみんなの顔は疲れなど一切見せないほどのやる気で満ちていた
「ネフシュタンの鎧について最終確認をしたいのだが・・・ところで、了子は?」
弦十郎はここにいないシンフォギアに詳しい了子を呼ぼうとするが見当たらない
「了子さんなら、研究室で例の聖遺物を研究していますよ」
「・・・まだ、やっているのか」
と弦十郎はため息を吐き、司令室から出て行き了子の研究室へ移動する
機械的な扉が開く音と共に研究室に入る
「・・・・・・・・・・・・」
研究室の奥にいるのは赤いメガネに茶髪の技術者の【櫻井了子】。シンフォギア適合者達のメディカルチェックに加え、聖遺物の管理や二課本部の防衛システム構築など、特異災害対策機動部二課の主要技術を一手に引き受ける。いつもマイペースな彼女だが顔はFXに有り金溶かしすぎて生命保険まで解約したような絶望的な顔になっていた
「・・・おい、了子。大丈夫か?」
流石に心配になる弦十郎
「・・・・・・・・・・・・全くわからないわよぉ」
今にも消えそうな声で呟く
目の前のモニターには例の聖遺物が台座の上に置かれていた
例の聖遺物は了子の今までの経験の中でも観たことがない形状で第四号聖遺物【ネフシュタンの鎧】のようなスケイルメイルや第五号聖遺物【デュランダル】のような剣ではなく
外側は金属のように硬いが木材のような感触、表面には【セフィロトの樹】、樹を囲うやつに【地獄の門】を模した表紙となっていた
「剣とか鎧ならわかるけど・・・本って見たことないわよ」
天羽々斬のような刀でもなくガングニールのような槍のようになるわけでもなく本であった
しかも、シンフォギアとして起動するためには「フォニックゲイン」というエネルギーが必要だ。この聖遺物はそのエネルギーが完全聖遺物なのに少なすぎるのだ
「エネルギーがないなら本として内容くらい見ようにも紙が鉛のように重くて硬くて開かないし・・・」
がっくしと肩を落とす了子
奏や翼に起動させようにもうんともすんともしない。
「この子、本当に完全聖遺物なの?暴れるとかならわかるけどあまりにも無反応すぎて困るわぁ・・・」
カタカタとキーボードを叩いて、まとめていく。しかし、内容はどれも【不明】で終わっていた
「便宜上、仮称:完全聖遺物【UNKNOWN】として呼称するわ。ここまでくると本当に聖遺物なのか怪しくなってきたし」
コーヒーを一杯飲み、ふーっと座ったまま背を伸ばす
「ライブ会場の建設も後少しで終わる。ネフシュタンの鎧もライブ会場の地下に輸送を完了した」
「りょーかい、ならUNKNOWNもネフシュタンの鎧の同じ区画に入れて実験をするしかないね」
二人は最終確認をするために研究室を出ようとした瞬間
「手順は私が監督する。明朝、フォニックラインを再調整してから地下区画で最終確認だ」
「了解。非常導線と退避ルートの再点検も回すわ」
「奏たちの歌が実験の成否を左右する。油断はできん」
「わかってるって……私だって、歌に賭けてるんだから」
「では、別件として政府からだが・・・ん?」
弦十郎が踵を返しかけ、ふと眉を寄せた。
――見られている。
研究室を一巡する視線。蛍光灯の唸り、了子の小さなため息。誰もいない。気のせいだろうか。
「どうしたの?」
了子は不思議そうに見るが今一瞬だけ人間ではない何かの視線を感じ取った
しかし、いくら周囲を見回しても気配が感じられない。今回の実験で少し気が張りすぎて変な気配でも感じ取ったのか?と思った弦十郎は了子に「なんでもない」と言うと研究室から出ていった
そのとき、台座の《UNKNOWN》は表紙の紋の裂け目を糸のように開き、眼を象る像を一瞬だけ浮かべて二人を観察していた。
――使い手に非ず。
そう判じるや、気取られる前に像は音もなく閉じた。
どうも領主ホンルを交換してストーリー見たけど割と不穏すぎる終わりに少し心配な作者です
ここで読者の皆さんにお願いごとがあります。実を言うとタグに幻想体とねじれのみって書いてあるんですけど感想とかになんの幻想体やねじれを出してほしいか書いてほしいです(作者が集計してどれを出すのか決めたいから)
ちなみにロボトミと図書館で出た幻想体とピアニスト(作者が1番好きなねじれだから)は出す予定です
投稿する際、どういう感じにして欲しい?
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完成次第、すぐに投稿する
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