幼馴染たちが美しく歌う中、俺は哭き叫び狂い堕ちる   作:零城

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まず感謝と謝罪を
シオンさん、たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます!
シオンさんのおかげで読みやすくなりました
・・・が、誤字脱字報告のやつを適応させようとしたら全部適応させてないのに誤字脱字欄が消えたんですけど、どなたか再度見る方法を知っている方は知りませんか?
本当にごめんなさいシオンさん


第二十話 戦う理由

「ふぅ、終わりました!」

 

病室に入った響は、事情を聞いて苦笑しつつも、残った衣類を手際よくまとめ、床やテーブルをさっと片づけていく。ちなみに昇は、入室時から土下座体勢のまま一切動かない。

 

「もう、それくらいいいのに」

 

「私、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです!だから片付けさせてください!」

 

「わ、私はその・・・こういうところに気が回らなくて」

 

「意外です。翼さんって完璧にこなすイメージがあったので」

 

響はショックどころか、むしろ昇と同じ種類の“謎の安心感”を覚えていた。完璧な人にも“生活のほつれ”はあるのだ、と。

 

「—真実は逆ね。私は戦うことしか知らないのよ」

 

「なら、衣類をせめて一箇所にまとめるくらいしてくださいよ」

 

土下座のまま、昇が床からぼそりと抗議する。

 

「あら、なんかゴミがしゃべってるわね」

 

「ア、ハイスミマセェェェェェェェェェ⁉︎」

 

笑顔のまま、翼は容赦なく逆エビ固め。怪我人とは思えないキレの良さに、響は相変わらずの苦笑を浮かべる。

 

「彼のせいでこんな体になってしまったけど報告書は読ませてもらったわ。私が抜けた穴をあなたがよく埋めていることもね」

 

「え、いやいや!?私だって二課のみんなに助けられてばっかだし!?」

 

響が慌てて手を振る一方、昇は十文字固めに移行されて白旗寸前。

 

「ギブ!?モウムリデスッテ!?」

 

「でも嬉しいです。翼さんにそんなことを言ってくれるなんて」

 

「・・・ふぅ、だからこそ聞きたいの。『貴方が戦う理由』を」

 

ひとしきり昇を“お仕置き”したあと、翼はベッドに腰を下ろし、静かに視線を響へ向ける。空気が一段引き締まった。

 

「ノイズとの戦いは遊びなんかじゃない。それは今日まで死線を超えてきた貴方ならわかるはず」

 

「・・・よく、わかりません。人助けが趣味みたいなものだから、それで・・・」

 

「それで?それだけで?」

 

響は言葉を探し、胸の奥を掬い上げるように続ける。

 

「だって、勉強とかスポーツとかは誰かと競って結果を出すしかないけど人助けって誰かと競わなくていいじゃないですか。私には特技とか誇れるものなんて何もないからせめて、自分にできることで誰かを助けれたらなーって・・・」

 

気恥ずかしさをごまかすように笑う響を、翼は真顔のまま受け止める。

 

「・・・でもやっぱり一番の原因は2年前のライブです」

 

響はぽつりと切り出した。声は小さいが、芯があった。

 

「奏さんが私を助けるために命を燃やした日から・・・奏さんだけじゃありません。あの日、たくさんの人があそこで亡くなりました。でも、私は今日も生き残って笑ったりご飯を食べたりしています。だから、せめて誰かの役に立ちたいんです。明日も誰かと笑ってご飯を食べたいから・・・人助けをしたいんです」

 

言い終えた顔は、曇りなく明るい。小さな太陽のように。

 

(・・・・・・そうか、響。やっぱり2年前からか)

 

「・・・貴方らしいポジティブな考えね。その思いは前向きな自殺衝動みたいね」

 

「じ、自殺衝動!?」

 

「・・・ごめん響。こればかりは翼さんと同意見だわ」

 

「昇!?」

 

床から声を投げる昇に、翼が淡々と補足する。

 

「誰かのために自分を犠牲にすることで古傷から救われたいという自己断罪の現れ・・・かも」

 

「まー、響って本当に誰かを救うためならなりふり構わないよな。少しは自分の方も心配しろよ」

 

「・・・誰が土下座をやめていいと言った?」

 

「え、いや、もういいでしょ?」

 

「・・・・・・っう、火傷のあとが痛む」

 

「あ、はい、土下座を続けさせてもらいまーす」

 

昇は華麗に“ジャンピング土下座”。室内の空気は重くならず、むしろ少しだけ和む。

 

「あ、あの、私、変なこと言いましたか?」

 

「変かどうかは私が決めることじゃないわ。自分で考え自分で決めることね」

 

翼の目は優しくも厳しい。響は小さく息を吸う。

 

「——考えても考えてもわからないことだらけなんです。デュランダルに触れた時、暗闇に飲み込まれかけました。気がついたら人に向かってあの力を・・・私がアームドギアを上手く扱えていたならあんなことにはならなかったのに」

 

「・・・力の使い方を知るというのはつまり戦士になるということ」

 

「——戦士?」

 

「それだけ、人としての生き方から遠ざかることなのよ。貴方はその覚悟はあるのかしら?」

 

張り詰めた沈黙。響は視線を落とし、そして顔を上げた。

 

「——守りたい人がいるんです。それはなんでもない日常、そんな日常を守りたいと思うんです。だけど、思うばかりで空回りして・・・」

 

「戦いの中、貴方が思っていることは?」

 

「ノイズに襲われている人がいるなら一秒でも速く救い出したいです!最速で!最短で!真っ直ぐに!!一直線に助けたい!!!!」

 

迷いのない即答。その眼差しに、翼はふっと微笑む。

 

「そして、もし相手がノイズじゃなくて人である誰かなら、どうしても戦わなくちゃいけないのかっという胸の疑問を!私の思いを願いを届けたいと考えています!!」

 

翼は力強く頷いた。

 

「今貴方の胸にあるものを出来るだけはっきりと貫きなさい。それが貴方が戦う力、立花響のアームドギアよ」

 

響は、嬉しそうに、確かに頷いた。

 

翼は、昇の方にだけゆっくりと視線を移した。

さっきまでの柔らかな空気が、薄く張った硝子みたいに静かに緊張する。

 

「——蒼月昇。君は、なぜ戦う?」

 

昇は答えを急がず、掌を見つめた。撃鉄の重みも、血の温度も、まだ取れない煤の匂いも、そこに残っている気がして。薄く笑って、すぐに消す。

 

「俺のは、たぶん綺麗な理由じゃないよ」

 

短い沈黙。

 

「表向きは“助けるため”。現場に居合わせた以上、見て見ぬふりはしたくない。……それに、あの日のツケにケリをつけたい。俺が撃ったもの、見た顔、積もった泥を、少しでも薄めたい。だから前に出る。ただ、それだけ」

 

(——本当は。響を戦わせたくない。授業の愚痴を言って、テストに青ざめて、未来と他愛ないことで笑って。そういう“普通”だけを、彼女に返したい。俺が汚れ役を全部引き受ければ、響は刃物を握らなくて済む。俺は、影でいい)

 

翼はその影を見逃さない目をしていた。言葉より先に、核心を射抜く。

 

「それは“誰かの代わりに傷を負う”という答えね。だが、君が折れたら——立花は、もっと傷つく」

 

昇は視線を逸らさずに受け止める。喉の奥の苦さを飲み込んで、淡々と。

 

「知ってる。だから折れない練習をしてる。俺が壊れるのは、全部が終わってからでいい」

 

(彼女がもう、戦場に呼ばれなくなった時。それまでの間だけでいい。俺はまだ、立っていられる)

 

翼はほんの僅かに目を細め、評価と警告を同時に落とす。

 

「覚悟は買う。だが——“終わり”を誰か一人の胸に勝手に決めるな。戦士は、守りたいものの側で生きてこそ強い」

 

昇は小さく息を吐いた。自嘲にも感謝にも似た、曖昧な笑み。

 

「肝に銘じとくよ、先輩」

 

「・・・貴方に先輩って呼ばれるの、なんか嫌だわ」

 

「はい!?」

 

夕食前の、街の空気が少し冷えはじめる頃。三人の間だけは、世界の騒がしさから切り離されたみたいに、軽くて温かい空気が流れていた。

 

「・・・でも、アームドギアの使い方なんてすぐには思い浮かばれませんよ。それより翼さん知っていますか!?お腹空いたまま考えても碌な答えが出せないってこと!」

 

「な、何よそれ?」

 

「前に言われたんです!お好み焼き屋のおばちゃんに!」

 

「・・・そういや、あの日から連絡すらしてなかったな。せっかくだし、【ふらわー】のお好み焼き、俺が買ってこようか?」

 

「なら行こうよ昇!食べたらギアの使い方とか思い浮かばれるかもしれないし!」

 

「あ、ちょ、待ちなさい!立花!蒼月!!」

 

軽口と笑い声を背に、響と昇は病室を飛び出す。世界から争いが消えないとしても、この瞬間だけは、日常が戻ってきたみたいだった——はずだった。

 

 

エレベーターが動き出した直後、甲高い着信音が静けさを裂く。

 

ピリリ、ピリリ——。

 

「はい!立花です!」

 

『俺だ!ネフシュタンの少女がそちらへ向かっている反応をキャッチした!』

 

スピーカーから弦十郎の声。緊張が、一拍で現実に引き戻す。

 

『近くに昇君もいるのだろう?二人で現場に急行してくれ!』

 

「了解しました!」

 

『周辺地域の避難警報はすでに発している!急いで向かってくれ!!』

 

「ったく、二課に配属されて最初の任務がアイツとの戦闘とはねぇ」

 

「行こ!昇!!」

 

「へいへいっと」

 

病院を飛び出し、非常階段を駆け降りる。靴底がコンクリを叩くリズムが、鼓動と重なる。現場へ——その矢先。

 

「っあ!響!昇!!」

 

「未来!?」

 

「おいおい冗談だろ!?」

 

道の向こう、手を振る未来。よりにもよって今この時に。胸が嫌な音で軋む。

 

空気が、びり、と震えた。

 

「お前らはぁ!!」

 

ネフシュタンの鎧に紫の鞭。クリスが空から直線で突っ込んでくる。影が伸び、風が裂け——

 

「来ちゃダメだ!!」

 

「未来!速く逃げろ!!」

 

次の瞬間、鞭が街路を薙ぎ、アスファルトがめくれ上がる。爆風が三人をばらばらに弾き、視界が白い粉塵に埋もれた。

 

「しまっ!?アイツらの他にもいたのか!?」

 

クリスの狙いは空の地帯——住民がいないはずのルートだった。だが現実は最悪に偏る。吹き飛ばされた未来の上へ、跳ね上がった乗用車が重力に引かれ落ちる。

 

時間が伸びる。

 

今から走っても、間に合わない——判断より先に、喉から歌が飛び出していた。

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron』〜♪

『諱先?悶→蟇セ髱「縺玲悴譚・繧剃ス懊l縲らスェ縺ィ蜷代″蜷医>閾ェ謌代r遒コ遶九○繧』

 

金色の光が響の胸から噴きあがり、金色の空気が空気を裂く。同時に、昇の身体も体が軋み、輪郭がひしゃげて再構成される。

 

光が収束した時——響は未来の前に立って車体を粉砕し、『道を失った乗客』となった昇は、裂け目を踏み台にクリスへ斬りかかった。紫の鞭が火花を散らして受け止める。

 

「・・・・・・う」

 

助けを選び、変身を選んだ直後の後悔が、響の瞳に一瞬だけ影を落とす。隠し続けてきた嘘。飲み込んだ言い訳。その全部が胸に重い。

 

「ひ、響?」

 

「・・・ごめん」

 

短く、それだけ告げると、響は再び前へ出た。迷いは、走りで削るしかない。

 

「響、ここで戦うのはまずい。市街地から離していこう」

 

「わかった!!」

 

昇が耳元で低く落とす。

 

 

『次元裂き』

 

 

路面に口が開く。昇はそこへ落ち、裂け目から裂け目へと跳び移った。姿を見せては一太刀、また消える。ヒット・アンド・アウェイでクリスの注意を自分に釘づけにし、戦場を森へ引き離していく。

 

「とろくさいのとバケモンが一丁前に挑発かよ!!」

 

「あぁ!?負け犬が何かピーピー言ってんなぁ!?」

 

「うっせぇ!!」

 

罵声とともに、三人は林縁へ。街の喧騒が遠ざかり、葉擦れの音が戦いの匂いを混ぜる。

 

十分に距離を取ったところで、響が振り返り、真正面からクリスと向き合った。

 

「鈍臭くなんて名前じゃない!」

 

「私の名前は立花響!15歳!誕生日は9月の13日で血液型はO型!身長はこの間の測定で157cm!体重は・・・もう少し仲良くなったら教えてあげる!!」

 

「いや何敵の前で自己紹介してんだ!?」

 

突然の名乗りに、クリスが目を瞬かせる。空気の流れが、一瞬だけ和らぐ。

 

「好きなものはご飯アンドご飯!特に昇が作ったやつが好き!!あとは・・・彼氏いない歴は年齢と同じ!!」

 

ドンッ、と見えない効果音が落ちたみたいに堂々と。

 

「な、何をトチ狂ってるんだお前?」

 

「それは俺も思う」

 

「ほら、昇も!!」

 

「え、は?お、俺も!?」

 

影から顔を出した昇にも強制参加が飛ぶ。仕方なく短く続ける。

 

「えー、どうせ内通者のせいで知っていると思うけど俺の名前は蒼月昇。見た目は化け物、中身は響と同じ15歳の男だ。誕生日は7月、趣味はコーヒーと紅茶淹れだ」

 

風向きが、ほんのわずか変わった。響はその揺らぎに押しを重ねる。

 

「私たちはノイズと違って言葉が通じ合える!通じ合えるんだからちゃんと話し合いたい!!」

 

「何悠長なことを!この期に及んで!!」

 

クリスの鞭が振り下ろされる。ひゅっと空を裂く線——

 

「ふん!」

 

だが刃が交差した。昇の紫の刃が一条を止め、もう一条を響の蹴りが跳ね上げる。二人は互いの死角を埋めるように前後し、鞭の間隙を縫って間合いを保つ。

 

(この二人・・・前より動きが良くなってやがる!?覚悟でも決めたのか!?)

 

クリスの眉がわずかに歪む。思考を断ち切るように、響はなおも叫ぶ。

 

「話し合おうよ!私たちは戦っちゃダメなんだ!!」

 

声は真っ直ぐに伸び、葉の隙間から差す光みたいに、敵味方の境界を照らす。戦いはなお続く——けれど、届くはずの言葉を、まず投げずにいられない。

クリスはその言葉に、舌を強く打った。顔が怒りで歪む。

 

「言葉が通じ合えば人間は——」

 

「うるさいっ!!!!」

 

溜め込んでいた感情が、噴き上がる。怒声が森を震わせた。

 

「分かり合えるものかよ人間が。そんなふうに出来ているものか!! 気に入らなぇ気に入らなぇ気に入らなぇ!! 分かった風にペラペラ言っているお前がぁ!!」

 

あまりの剣幕に、響は一瞬だけ息を呑む。クリスは肩で荒く呼吸し、憎悪を刃のように研いでこちらを睨み据えた。

 

「お前を連れてこいって言われたがもうどうだっていい! お前をこの手で叩きのめす!! 今度こそお前の全てを踏み躙ってやる!!」

 

「・・・やっぱ、響が狙いか」

 

「だけどぉ・・・私が気に入らないのはお前だが、一番嫌いなのはバケモンのお前だ!!」

 

「ま、まぁ、妥当か」

 

昇の脳裏に、魔弾の射手として無慈悲に撃ち込んだ記憶がちらつく。苦みが舌に残った。

 

「私だって! やられるわけには!!」

 

「俺たちはお前に何があったのか知らんが、響を傷つけさせはしない」

 

二人は視線を交わし、同時に踏み込む。土が爆ぜ、距離が潰れる。

 

「吹っ飛べ!!」

 

【NIRVANA GEDON】

 

鞭の先に凝った黒いエネルギー球が、うなりを上げて解き放たれた。一直線に、響の胸元へ。

 

響は正面から踏み込み、拳を握り込む——

 

「持ってけ!!」

 

追い打ちの二発目。黒球が唸りを重ねる。

 

【次元斬り】

 

「させんよ」

 

紫の刃が滑り込み、黒球を真横に裂く。二つに割れたエネルギーは軌道を外し、背後で轟爆した。熱風が木の葉を捲き上げる。

 

「お前なんかがいるから・・・私は!」

 

砂煙が渦を巻き——晴れた先、響は両掌に圧縮した黒い奔流を抱え込むように受け止め、甲高い軋みとともに相殺していた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

爆ぜる寸前の圧力を拳でねじ伏せる。完全聖遺物ネフシュタンの直撃を、欠片のガングニールが押し切った——無茶な所業。

 

(やっぱりダメだ。翼さんみたいに、ギアのエネルギーを固定できない)

 

「おい響、やるなら言ってくれ。俺の目の前であの黒い球を真正面から受け止めるからビビったぞ」

 

「え、えへへ、ごめんごめん」

 

「この短期間でアームドギアまで手に入れようとしてんのか!?」

 

(エネルギーが“形”にならないなら——形にする前に、拳で“掴んで”ぶつける!)

 

響の両腕へ、光が吸い込まれる。装甲がゴリ、と音を立てて変形し、拳の周りだけが極端に厚く重くなる。

 

「させるかよ!!」

 

(雷を握り潰すように!!)

 

腰のブースターが唸り、響の身体が矢のように前へ。“一直線”の軌跡。

 

クリスが鞭を振りかぶる——その刹那。

 

「響!」

 

昇が割り込み、紫の刃で鞭の一本を斜めに断ち切った。火花が散り、重い先端が草むらに落ちる。

 

「昇!」

 

「そのまま進め!!」

 

「うん!!」

 

迷いのない返事。響は速度を落とさず突き抜ける。

 

「くそ!」

 

クリスが身を捻る——が。

 

――ッパキ。

パキ、パキパキパキパキッ!!

 

足元と周囲に、黒い切り傷のような“裂け目”が次々と走る。空間そのものにノコ歯で切り込みを入れたみたいに。

 

【次元切断】

 

「ぐあ!?」

 

裂け目から昇の影が飛び出し、一閃。消える。別の裂け目から、また一閃。縦、横、斜め、間断なく。追えば別口から刃が現れ、ネフシュタンの装甲に浅い傷が積もっていく。

 

視界が乱れ、足場が削がれ、反撃の起点が掴めない。クリスの意識が一瞬だけ泳いだ——

 

(最速で! 最短で! 真っ直ぐに! 一直線に! 胸の響きを! この思いを! 伝われぇぇぇぇぇ!!)

 

響の拳が、真芯を撃ち抜く。

 

ドンッ——

 

鈍い破砕音。ネフシュタンの腹部装甲に、蜘蛛の巣状の亀裂が走った。空気が一拍遅れて震え、枯葉が円を描いて舞い上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

フィーネの居城・地下最下層——。

 

カツ、カツ、とヒールが石床を叩く。

照明は最低限、壁面に埋め込まれた制御盤のインジケーターだけが、暗闇を緑と橙の点滅で染めていた。

 

「……ふふ。なんて美しいのかしら」

 

足を止めた先、強化ガラス越しに四基の培養カプセルが並ぶ。満たす液は翡翠色。泡がたゆたい、内部で“それ”がゆっくり息づいている。かつてクリスにほのめかした“素材”——魔弾の射手が自壊した瞬間に四散した、脳組織・眼球・骨片。その寄せ集めが、今では「人ひとり」と錯覚するほどへと肥大し、器官らしき陰影を宿しはじめていた。

 

「完全聖遺物の“欠片”めいた反応が出たから、試しに人間へ移植してみたけれど……やっぱり“彼”以外には適合しない、ってわけね」

 

視線を横へ移す。マジックミラーの向こう、観察室。

そこでは、隔離チェアに括り付けられた被験体が、形容しがたい呻きを垂れ流している。

 

「あ、ぁァァ……ア゛ァ゛ァ゛……!」

 

皮膚は泡立つように隆起し、骨格は軋みながら逆関節を描く。人間の輪郭はとうに失われ、臓器の位置すら曖昧だ。首元のタグには、供与元の国名と死刑囚番号。アメリカから“協力”の名目で送られてきたモルモットたち——だったもの。

 

「驚いたわ、本当に。まるで聖遺物そのものに“意志”があるみたいに振る舞うんだもの」

 

フィーネの口角が、楽しげにしなる。研究者の理性と、探究者の狂気の狭間で輝く笑み。

 

「そして……“もしや”と思ってフォニックゲインを投与してみたら——」

 

培養槽の中心で、肉が泡立つ。

ボコ、ボコボコ……と湿った破裂音。

ゼラチン質が寄り、ちぎれ、また結合し、色も形も違う“生命”へ変わっていく。

 

ひとつは——掌大の、赤い帽子をかぶったピエロのような奇態。

もうひとつは——オレンジ色の節くれを持つ、肥え太った芋虫じみた体節。

さらに——黒と紫の境目で脈打つスライム塊。内部に星雲のような妖しい光が漂う。

そして最後は——他と一線を画す、角張った外装と光学センサーを思わせる孔を備えた、簡素な“機械”の躯体。

 

(……彼の一部から、これほど多様に?)

 

あり得ないはずの分化と収斂。

人ではない。だが、ただのノイズでも、既知の聖遺物でもない。

“未知(UNKNOWN)”の別の側面——そう呼ぶほかない振る舞い。

 

「これが初めて、“彼”以外の個体で見せた純粋反応。改良さえ重ねれば……」

 

フィーネは思考の蒸気に酔う。

脳裏に描くのは、人間の適合者に頼らず、意図した時に、意図した数だけ“力”を生み出す青写真。兵站が、外交が、覇権が——計算式の答えは、どれも甘美。

 

「なら、これは“始まり”にふさわしい名を」

 

——警報。甲高いビープが空気を切り裂く。

 

ビー、ビー、ビー——!

 

同時に、カプセル上部のロックピンが順に跳ね、圧の抜ける音が低く尾を引く。

 

プシュウウウウウ——。

 

シールが開き、緑の液が溢れ、台座のドレーンへと吸い込まれていく。四つの影が、濡れた床へぬるりと降り立つ。

フィーネは一歩も退かない。片手で白手袋の皺を伸ばし、もう片手でソロモンの杖のホルダーを軽く叩く。

 

「ようこそ、私の可愛い()()たち」

 

四体がカク、と同時に首(らしきもの)を傾ける。

命令待機——そんな静けさが漂った。




悲報 主人公の体の一部から試練たちが生まれてくる模様

アンケート結果 魔法少女 50票!!
他は多くても7票!(赤ずきんは除く)

( ゚д゚)?

(・Д・) 混乱

いや、これは本当に想定外だった
せいぜい30いけばいいかなって思ってたらそれ以上をいったわ
・・・仕方ない、やるか


『WAWクラスのアブノマ』再選考を開始する!!(魔法少女は殿堂入り!!)
あと【夢見る流れ】と【蒸気運搬装置】君たちが1票も入ってくれなかったので除外しました
セルマぁ、俺、泣きそうだよ

新しいアブノマ、何がいい?『WAWクラス再選考回』

  • 赤ずきん➕狼(喧嘩見たいので)
  • 軽蔑の視線
  • 縛られた王
  • 四百輪の薔薇
  • 夢貪る濁流
  • 次元屈折変異体
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