響は肩で息をしながら、ボロボロになった街を駆け抜けていた。
さっきから何度も聞こえる爆発音と悲鳴が、胸の奥をせき立てる。
遠く、ビルの屋上を跳ねる影と、ノイズの群れが一方向へ雪崩れていくのが見えた。
あの先にいるのは——きっとクリスと昇だ。
(二人のところに行かなきゃ——)
駆け出そうとした、その瞬間。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ビルが崩れ落ちる音と、女性の悲鳴が聞こえた。
反射的に顔を向けると、今にも倒壊しそうな雑居ビルが一棟。ガラスは割れ、壁はひびだらけだ。
「——!」
クリスたちのほうへ走ろうとしていた足を、響はきゅっと止めた。
次の瞬間には、そのビルの中へと飛び込んでいた。
中はノイズの襲撃を受けたのか、崩れた天井や瓦礫が床を覆い、配管からは水が漏れている。
焦げたような臭いと、舞い上がった粉塵で、視界が白く霞んでいた。
悲鳴は、さらに下の階——地下の方角から聞こえてきた。
「誰か! 誰かいますか——!?」
響は階段を駆け下りながら叫ぶ。
その声に応えるように、上の階からぬるりと巨大な影が迫った。
天井を突き破り、無数の触手が階段室へと落ちてくる。
「っ——!」
咄嗟に手すりを掴み、響は身体を投げ出すように一段飛ばしで飛び降りる。
直前までいた階段は、触手に薙ぎ払われ、轟音と共に崩れ落ちた。
見上げると、タコのようなノイズが、ぐねぐねと触手を蠢かせながら標的を探している。
「あ——」
今すぐ歌って、ガングニールを纏わなきゃ——そう口を開いた瞬間。
「しーー」
柔らかな手が、横から伸びてきて響の口を塞いだ。
驚いてそちらを見ると、そこにいたのは——未来だった。
「……み、未来?」
なんでここに——と問いかけようとしたが、それより先に未来の方が動く。
ポケットからスマホを取り出し、素早く何かを打ち込み、画面を響に向けてくる。
『静かに。あれ、大きな音に反応するみたい』
薄暗い階段の踊り場で、画面の白い光だけが二人の顔を照らす。
『アレに追いかけられて、ふらわーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』
未来の後ろには、【ふらわー】のおばちゃんが気絶したまま横たわっていた。
息はある。血も見えない。だが、いつまたこのフロアごと崩れてもおかしくない。
(ここで歌ったら……未来とおばちゃんごと、ノイズが襲ってくる)
歌えば場所がバレる。
歌わなければ、ここから出られない。
最悪な二択に、響は喉の奥で息を詰まらせる。
その時、未来の指が、ふたたび小さくスマホの画面を走った。
『響聞いて。私が囮になってノイズの気を引くから、その間におばちゃんを外まで運んで』
響も慌てて自分のスマホを取り出し、震える指で打ち返す。
『ダメだよ、そんなこと未来にさせられない』
『元・陸上部の逃げ足なめないで。なんとかなる』
『なんとかならないよ!?』
『じゃあ、なんとかして』
声は一言も発していない。
でも、幼馴染だからこそ、文字の向こうにあるお互いの顔も、温度も、全部わかってしまう。
『危険なのは分かってる。だからお願いしてるの。
私の全部を預けられるの、響だけなんだから』
そう打ち込んだ後、未来はそっとスマホをしまい、響の耳元で小さく囁いた。
「……私、響に酷いことをした。今更、許してもらおうなんて思ってない。
それでも一緒にいたい。私だって戦いたい。昇と、三人でまた笑い合いたい」
「……ダメだよ、未来」
「どう思われようと関係ない。響と昇の二人だけに、全部背負わせたくないの」
響の声が震える。
膝も、心も、止めたいと叫んでいるのに、未来の瞳は揺らがない。
未来はゆっくりと立ち上がり、深く息を吸い込む。
そして——その肺いっぱいの空気を、一気に解き放った。
「私はもう、迷わない!!」
その叫びに、タコ型のノイズがビクリと反応する。
触手を震わせ、音源を探し——未来の方へ一斉に伸びた。
未来は振り返らず、階段から外へ向かって駆け出す。
触手が壁を裂き、床を砕きながら追いすがるが、ギリギリのところで空を切った。
ノイズは重たい音を立てながら、未来を追って外へ出ていく。
「未来……!」
その背中を見送りながら、響は奥歯を噛みしめる。
胸の奥で、何かが焼けるように痛んだ。
だが、今は——。
気絶しているおばちゃんの呼吸を確かめる。
外傷はない。意識さえ戻れば、大丈夫だろう。
「ッ!!」
確認した瞬間、響は決意を固めた顔で立ち上がる。
囮になってくれた幼馴染を、今度は自分が助ける番だ。
『Balwisyall Nescell gungnir tron〜♪』
痛いほどの気持ちを、歌に乗せる。
胸元から赤い光が溢れ、破片が共鳴するように全身を駆け巡った。
ガングニールを纏った響は、おばちゃんを慎重に抱きかかえ、崩れかけたビルの出口へと一気に跳躍した。
「響さん!!」
「緒川さん!!」
偶然、付近の逃げ遅れを探していた緒川の車が通りかかる。
響は着地と同時に声を上げ、緒川へと駆け寄った。
「緒川さん、おばちゃんをお願いします!」
「了解しました。こちらは任せてください!」
緒川におばちゃんを託し、響はすぐさま地面を蹴る。
(未来、どこ——!?)
視界を開くように、高く跳躍する。
夕焼けに染まった街並みの中、黒煙と炎が点々と広がっている。
(戦っているのは、私一人じゃない。
シンフォギアで誰かの助けになるって思ってたけど、それだけじゃ違う。
助ける私だけが一生懸命なんじゃない——助けられる誰かも、一生懸命なんだ。
本当の人助けは、私一人じゃ出来ない。
だからあの日、奏さんが言った「生きるのを諦めるな」って言葉……今ならよくわかる!)
「こいやごらぁ!!」
クリスはビルの屋上から屋上へと跳び移りながら、イチイバルの砲撃でノイズを薙ぎ払っていた。
しかし、その背後——別のビルの縁から、狐耳と尻尾を揺らす影がそれを見ていた。
「……ったく。病み上がりなくせに、全力全開かよ」
さすらいの狐となった昇は、肩で息をしながらも周囲を見渡す。
手にはいつもの黒い傘。右肩の包帯は、戦闘のせいでじわりと赤く染まりつつある。
(クリスの周りのノイズは……っと。デカいのはあいつが引き受けてる。問題は——)
ふと、遠くの方、別のエリアから聞こえてくる、崩落音と悲鳴。
その方向にはリディアン方面、そして——
(……嫌な予感しかしねぇ)
耳の奥で、UNKNOWN——いや、言いづらいから『禁断の書庫』とでも言うか。コイツの中にいる幻想体って大体がろくでもないし——がざわつくような気がした。
こめかみがズキリと痛む。
「マジかよ。こんな時に頭痛とかやめてほしいんですけど」
自分にツッコミを入れながらも、昇は胸ポケットの通信機に手を伸ばす。
『——昇君、そちらの状況は?』
「こっちはまぁ、なんとか。クリスがかなり無茶してるけど、生きてはいます。
それより司令、避難区域側でビル崩落っぽい音がしました。あの辺、未来とおばちゃんが避難してるはずで——」
『……そうか。そちらの対処が終わり次第、立花君の方へ合流してくれ』
「了解。……ったく、こっちもこっちで修羅場なんすけどね!」
そうぼやきつつも、昇は傘を構え直し、クリスの側面に迫るノイズの群れへと飛び込んでいった。
(響が、未来を——信じてる。
だったら俺は、響を信じるだけだ。アイツは必ずやり遂げる。
……だから、その間は俺がこっちを抑えねぇと)
雨具についてた水滴を振り払い残滓を引きながら、昇はノイズの群れを斬り払い、弾き飛ばし——
そして、あの“嫌な気配”が、決定的なものになった瞬間、彼はそっちへと全力で駆け出していくのだった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「いた!!」
地上に目を凝らすと、未来が必死に走っている姿が見えた。
そのすぐ背後には、さっきのタコ型ノイズ。
距離は、もうほとんどない。
(私が誰かを助けたいって気持ちは、惨劇を生き残った負い目なんかじゃない。
二年前、奏さんから託されて——今、私が受け取っている気持ちなんだ!!)
腰のブースターが火を噴き、響の身体を前方へと押し出す。
下り坂を蹴り砕きながら、コンクリートが割れるほどの勢いで加速した。
「もう、足が……」
囮になるため、ずっと全力で走り続けていた未来の足が限界を迎えかけていた。
膝が笑い、呼吸がうまく入ってこない。
背後では触手が風を裂き、今にも届きそうになっている。
(ここで……終わりなのかな。仕方ないよね……響)
ノイズは一度跳躍し、未来へ覆いかぶさるように身体を投げ出した——
「だけど……まだ響と昇で流れ星を見に行けてない!!」
未来は最後の力を振り絞り、一歩前へと足を踏み出した。
その一歩が決定的な差となり、ノイズの触手は頭上すれすれで空を切る。
だが、逃げ切れたと思った先で——
足元の道路が、悲鳴を上げるようにひび割れた。
アスファルトが崩落し、縁石ごと未来の身体が前のめりに落ちていく。
未来の身体は、そのまま崖下へ——真っ逆さまに吸い込まれていった。
「未来ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
崩れ落ちる道路の縁から、響もそのまま身を投げるように飛び込んだ。
眼下には、空中でもがく未来と、そのすぐ下で追いすがるタコ型ノイズ。
落下の最中、響の右腕の装甲がガシャンと変形する。
「――っそりゃああっ!!」
突き出した拳が、パイルバンカーの杭のようにノイズの甲殻を貫いた。
鈍い手応えと共に、ノイズの身体を串刺しにする。
「未来!!」
「響!?」
ノイズの胴体を踏み台にして跳び上がり、響は空中で未来の身体を抱きとめる。
未来の腕が、反射的に響の首にしがみついた。
だが、炭へと変わり始めているノイズは、最後の悪あがきとばかりに触手をしならせる。
浮遊する黒い残骸から伸びた触手が、響と未来をまとめて道連れにしようと迫ってきた。
「未来、しっかり捕まって!!」
響は未来を強く抱き寄せ、身体を捻って触手から未来を庇う姿勢を取る。
このままじゃ、二人とも地面に叩きつけられる——
そのはるか上空から、巨大な黒い影が降ってきた。
「響ぃ!!」
「昇!!」
「死ぬ気で未来を放すなよ!!」
クリスのおかげでノイズを大体は殲滅したが嫌な予感がしてこちらに無意識で走ったら幼馴染二人が崖から落ちているのが見えた
狐耳と尻尾を生やした【さすらいの狐】の姿になった昇が、上空から傘を構えたまま落下してくる。
その傘の先端は、炭になりかけのノイズへと一直線。
『――何かを探す鳴き声』
短い、悲鳴にも祈りにも聞こえる不気味な旋律が、昇の口から漏れる。
「うらぁっ!!」
ライダーキックのように傘の持ち手を蹴り込み、ノイズめがけて強烈な一撃を叩き込んだ。
巨大な傘がノイズの中心を突き刺し、そのまま地面へと押しつける。
山肌がめくれ上がり、コンクリートが削られ、傘とノイズは凄まじい勢いで斜面を滑り落ちていく。
そのまま土手をえぐり取りながら、下に流れる川まで到達した。
ノイズは傘に串刺しにされてもなお、触手をばたつかせてあがく。
だが——
ポツ、ポツ、と最初の雨粒が、二人の頬を打った。
「雨……?」
空は晴れ間さえ見えている。
それでも、昇の傘と同じ色をした雫が、上空から静かに降り注いできた。
それは、【さすらいの狐】が呼び込んだ雨。
「……間に合えよ。俺が“傘”って言うなら、守れるくらい仕事しろ」
昇は傘の柄をぎゅっと握りしめ、小さく呟く。
傘の骨組みが不気味に震え、雨脚がさらに強くなった。
ザァァァァァァァァァァァァァッ!!
にわか雨は一瞬でゲリラ豪雨へと変わり、ノイズを中心に叩きつけるように降り注ぐ。
雨に触れたノイズの身体から、バチバチと音が弾け、輪郭が崩れていく。
ノイズは、昇の傘に串刺しにされたまま、雨に溶かされるように炭へと変わり、やがて跡形もなく消え去った。
「っしゃ……二人は——」
川面から顔を出し、昇は崖の上を見上げようとした——そのとき。
頭上を、赤い光の軌跡が駆け抜ける。
その頃、響は未来をしっかりと抱え、落下の体勢を整えていた。
「っ――く!」
足を下に向け、川沿いの土手に狙いを定める。
「響ー! ちゃんと減速しろよ!? マジで死ぬなよ!?」
「がんばるー!!」
聞こえる昇のツッコミに、響は思わず笑いながら叫び返す。
ズドォォォォォォン!!
着地と同時に轟音が鳴り、土煙がぶわっと立ち上った。
華麗に決めるつもりだったが、衝撃に足を取られ、そのままバランスを崩す。
「わ、っととととっ!?」「きゃっ!?」
結果、二人して土手をゴロゴロと転がり落ち、小石や草を巻き込みながら斜面の中腹でようやく止まった。
「「あいたたたた……」」
同時に腰をさすり、同じ声を漏らす。
思わず目が合い、二人とも数秒固まる。
「……っぷ」
「な、なに?」
「いやだってさ……かっこよく着地決めるつもりだったのに、盛大に転んじゃってさ……!」
堪えきれず、響が吹き出した。
「もう……私だってあっちこっち痛いけど……でも、生きてるって感じがする。……ありがとう、響。絶対来てくれるって、信じてた」
未来は目尻を赤くしながらも、ふわりと笑ってそう言った。
「ありがとうはこっちのセリフだよ。未来なら、絶対最後まで諦めないって、信じてた。
——だって、私の友達だもん!!」
響の顔には、昨日まで浮かべていた罪悪感だらけの曇った表情はもうなかった。
夏のひまわりみたいに、ただまっすぐな笑顔だけがあった。
その笑顔を見た途端、張り詰めていた未来の心がぷつりと切れる。
「う、うぅ……こわかった……怖かったよぉ……!」
次の瞬間には、響を押し倒す勢いで抱きつき、大粒の涙をぼろぼろとこぼした。
「私……響が黙ってたことに怒ってたわけじゃないの。
誰かの役に立ちたいって思ってるのは、昔からの響だって分かってる。
でも最近の響は、つらいことも苦しいことも、全部ひとりで背負い込もうとしてた。
それが嫌だったの。
また、響が大きな怪我をするんじゃないかって……怖くてたまらなかった。
だけど、本当はそれって、響を失いたくない私のわがままなんだって気づいてた。
気づいてたのに……今までみたいに、ちゃんとそばにいられなかった……!」
「……未来」
響の頬にも、静かに涙が伝う。
ようやく二人とも、胸の底に押し込めていた本音を言葉にできた。
「それでも未来は、私の——っぷ、あははは!!」
「な、なによ急に!」
「だってさぁ……髪、ボッサボサでぐっちゃぐちゃなのに、すっごいシリアスなこと言うんだもん!」
「ひ、響だって同じような状態じゃない!」
「えっ、うそ!? ちょ、鏡貸して!?」
さっきまで泣きそうだった顔が、一瞬で慌てふためく顔に変わる。
未来は慌ててポケットを探り、苦笑しながらスマホを取り出した。
「ご、ごめん、手鏡までは持ってないから……これで我慢して」
スマホのインカメラに映った自分たちの姿は、確かにひどかった。
髪は跳ね、顔は涙と泥と汗でぐちゃぐちゃ。
でも、その画面には、間違いなく並んで笑っている二人の姿が映っていた。
「あはは……ひどい顔」
「ふふ、響もね」
二人はスマホの画面越しに、いつもの調子で笑い合う。
昨日までのギスギスした空気は、もうどこにもなかった。
――その時。
「……仲良くしているところ悪いけど、そろそろどいてくれない?」
腰の下から、くぐもった声が聞こえた。
「え?」
「……ん?」
二人して首を傾げつつ、同時に下を見る。
「あ、ああああああああ!? 昇っ!?」
そこには、顔面から地面に埋まった昇がいた。
どうやら、川から上がってきて土手をよじ登ってきたところに、絶妙なタイミングで二人が転がり落ち、そのまま綺麗に上に座ってしまっていたらしい。
「ご、ごめん昇!! 今すぐどくから!」
「き、気づかなくて……って、あ、やっぱちょっと待てもうちょい伏せさせて!!」
「どへぁっ!?」
起き上がろうとした昇の後頭部を、響が反射的に押さえつける。
結果、再び顔面が地面にめり込んだ。
「もがもがもがもが!?」
「だ、だって……こんなボサボサのぐしゃぐしゃ顔、昇に見せたくないもん!!」
「もがもがもが(意訳:十年一緒に風呂入ってた仲だろそれ今さらだろ!?)」
「み、未来! 早く整えよ、なんか、もういろいろ手遅れだけど!」
「わ、わかってるってば!」
スマホを鏡代わりに、二人で慌てて髪を直し始める。
その間も、昇の頭はしっかりと地面に固定されたままだった。
(……ま、いいか。二人とも笑ってるし)
土の中で、昇は小さく息を吐いた。
右肩や身体中が痛いはずなのに、不思議と今だけは、その痛みが少しだけ軽く感じられた。
ノイズ殲滅作戦が一段落した頃には、あたりはすっかり夜の帳が下りていた。
街灯のオレンジ色が、瓦礫と炭と水たまりを淡く照らす。
響と未来、そして昇は、救助隊の集合地点まで歩いて戻ってきていた。
響と未来はもう私服に着替え直しているが、昇だけはまだ肩に包帯を巻いたまま、さすらいの狐の傘を杖代わりにつきながら歩いている。
「え、えっとー師匠。その……また、この子に戦ってるところをガッツリ見られてしまったんですけど……」
響が頭を掻きながら報告する。
その横で、未来も深々と頭を下げた。
「ち、違うんです。私が勝手に首を突っ込んじゃったから……」
「ついでに俺も、さりげなく傘でライダーキックかましてるとこ見られてるけどな」
昇がぼそっと付け足すと、未来がクスッと笑う。
「……ふむ、事情はあとできっちり報告書にまとめてもらうとしてだな」
弦十郎は腕を組み、ふぅと一息ついてから苦笑した。
「不可抗力ってやつだ。それに、人命救助の立役者を頭ごなしに叱るほど、私は鬼じゃないさ」
「ほらな、響。司令は優しいだろ」
「ん、うん!」
「だが昇君には追加で報告書を書いてもらう」
「え、そこピンポイントで俺!?」
「
「え、だってアイツ——」
そんなやり取りに、未来が小さく笑い声を漏らす。
その笑い声が聞こえた瞬間、昇の肩の力がすっと抜けた。
(……ああ、よかった。
本当に、二人とも——無事でよかった)
その時——
キィィィィィィィィィ!!
夜の静けさを破って、ピンク色の車が急ブレーキ音を鳴らして止まった。
乗っていたのはもちろん、了子だ。
「主役は遅れて登場ってね!さーて、ノイズちゃんたちのお残しは……どこから調べようかしら〜♪」
まるで遠足に来た子どものようなテンションで、現場へ駆け寄っていく。
あまりにいつも通りな姿に、弦十郎以下、現場の面々は揃って苦笑いを浮かべた。
「さて、ここからは我々二課の後始末だ。響君たちは寮に戻って休んでいなさい」
「その……あの、避難の途中で友達とはぐれてしまって。雪音クリスって言うんですけど……」
未来が不安そうに口を開く。
その名前に、弦十郎は一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに柔らかく笑った。
「避難者の救助状況はすべて確認済みだ。今のところ負傷者の報告はあるが、行方不明の情報は来ていない。
その友達とも、きっとまた会えるようになるさ。心配するな」
「……よかった」
未来は胸を撫で下ろし、響と一緒に深々と頭を下げる。
「響、未来。送っていこうか?」
昇が軽く傘を肩に担ぎながら言うと、未来が少しだけ照れ臭そうに笑った。
「う、うん……でも、肩は大丈夫?」
「これくらい、俺の聖遺物の副作用に比べたらマシマシだって」
「それ、全然安心できないんだけど!?」
響のツッコミに、弦十郎が「あとで詳しく検査な」とジト目を向ける。
「ひぃ、了解です師匠……」
「でも……ありがと、昇」
ぽつりと、未来が小さな声で呟いた。
昇が「ん?」と振り向くと、未来はわずかに目を逸らしながら続ける。
「さっき……上から来てくれて。すごく、安心したから」
「……そりゃ、幼馴染が落ちてったら全力で飛んでくるだろ。地球の裏からでも助けに行くって言ったしな、俺」
「ふふ、前に言ってたね、それ」
響も隣で笑い、三人の影が夜道に並ぶ。
そんな、いつものような軽口を交わしながら——
三人はリディアンの寮へと帰っていった。
帰り道、未来はスマホの写真フォルダをそっと開く。
そこには、さっき撮ったばかりの一枚。
夕暮れの残光に照らされながら、泥だらけの姿で抱き合って笑う響と未来。
その少し後ろで、苦笑いしている昇の姿も、しっかりと写っていた。
三人分の笑顔が、画面の中で静かに寄り添っていた。
八人くらいお気に入りがいなくなったと思ったらまた八人くらいお気に入りと読者が急増したことの温度差に風邪を引きそうな作者です
ちょっと次回の話を投稿(完成するか未明)したら一週間だけお休みをします
用事(ガチ目な仕事系)で関西に行くので書く暇がない。多分大阪だと思うけど、どこか行ったほうが良いおすすめなところってある?(作者は大阪はたこ焼きとかそういうのしか知らない)