幼馴染たちが美しく歌う中、俺は哭き叫び狂い堕ちる   作:零城

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二週間ほど失踪してすみません
大阪へ行ったけど夜について夕方に帰って観光する暇なかった件について
たこ焼きすら食えなかったよ(´・ω・`)

評価数40越えありがたい


第二十七話 少年よ、涙を拭け

「……へぇ、本当にリディアンの地下に、こんな施設があるんだ」

 

二課の長い廊下を、響と未来が並んで歩く。

昨日までのわだかまりは解け、肩が触れれば小さく笑い合える距離感が戻っていた。未来は“外部協力者”として登録されたばかりで、今日は響が案内役だ。

 

「――あ、翼さん!」

 

自販機の並ぶ休憩スペースでは、翼と緒川が談笑している。

 

「ん? 立花か。そちらは……協力者の」

 

「こんにちは。小日向未来です」

 

「わたしの“いちばんの親友”のひとりです!!」

 

えっへん、と胸を張る響。

 

「……立花は、こういう性格だ。いろいろ面倒をかけると思うが、支えてやってくれ」

 

「はい。響は残念な子ですが、よろしくお願いします」

 

「ちょ、ちょっと待って!? いま“残念”って言ったよね!?」

 

翼と未来は目を合わせ、同時に苦笑。空気はすっかり穏やかで、かつての刺々しさは影も形もない。

むくれた響の頬がふくらみ、保護者二名の視線がやわらかく落ちる。

 

「でも……未来と一緒に二課にいるなんて、なんか、くすぐったいです」

 

「小日向は外部協力者として移籍登録済みだ。司令が手を回してくれた。多少、不都合を強いられる場面もあるかもしれないが」

 

「説明は聞きました。自分で納得して決めたので、“不都合”とは思っていません」

 

「そういえば師匠と昇は?」

 

「それが、私たちも探しているが見当たらなくてな」

 

と翼が肩をすくめた、その時――

 

「――あ〜ら、ガールズトークで花盛りじゃない♡」

 

ウキウキとした声とともに、了子がひらりと現れる。後ろからは、げっそり顔の昇。

 

「あ、昇〜!」

 

響は尻尾を振る子犬のような勢いで飛びつき、胸元に頬をすり寄せた。

 

「ひ、響。あまり揺らすな、頼む……」

 

言葉では制しつつ、昇は結局、慣れた手つきでその頭をぽんぽんと撫でる。

 

「蒼月、また博士の実験に付き合っていたのか?」

 

翼が問えば、昇は小さくため息。

 

「まぁな。今回はUNKNOWNの“限界”を測る試験。……相変わらず、無茶するメニュー持ってくるけど」

 

「も〜、許してよ昇くん? 限界を先に把握しておけば“引き際”が読めるでしょ?」

 

「……まぁ、理屈はそうなんですけど」

 

反論の糸口を塞がれ、曖昧に頷くしかない。

 

「UNKNOWNの限界、か……。確かに、あれほど装者の体を乗っ取ったりする不安定な聖遺物なら、身体への負荷は無視できまい」

 

緒川が腕を組む。昇は苦笑いで肩をすくめた。

 

「HEクラスは“六回”が限界。それ以上やると、目とか鼻とか口から……血が出る」

 

「……え、血?」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

響と未来の声が重なり、表情が強張る。

 

「ん? いや、血は出るけど――止血して薬のんで爆睡すれば、だいたい戻る。だから平気」

 

ケラケラと笑ってみせる昇。

UNKNOWN由来の回復なのか、致命的に見える出血でも、数時間の休息で日常動作に復帰してしまう

少しずつ、本当に少しずつだけ人間から離れていっているような気がする

 

「…………」

 

「…………」

 

だが、“平気”と言い切る彼の笑顔を見ても、幼馴染ふたりの瞳からはハイライトがすっと消えていた。

響は袖を、未来は指先を、きゅっと握る。言葉の代わりに、その沈黙が「無茶はしないで」と告げていた

 

「――いいわねぇ。私も、そういうガールズトークは大好きよ?」

 

重くなりかけた空気を軽くするみたいに、了子が肩をすくめて話題を替える。

 

「……は、博士って、そういう話するんですか?」

 

昇も苦笑で合わせる。

 

「もちのろん。私の“恋バナ百物語”を聞いたら、夜も眠れなくなるわよ?」

 

「ま、まるで怪談ですね」

 

「了子さんの恋バナって、きっと大人でおしゃれでメロメロな恋物語~!」

 

(やっぱり響、こういうの好きだよな……)

 

「そうね。遠い昔の話になるけど――こう見えて、呆れるくらい“一途”なんだから」

 

「「おぉ〜〜!!」」

 

「意外です。櫻井博士は、恋より研究一筋かと」

 

目を輝かせる響と未来。翼は少し意外そうに目を細めた。

 

「“命短し恋せよ乙女”って言うじゃない? 女の子の恋するパワーはすごいのよ」

 

「……女の子、ですか」

 

「……なぁ、緒川さん。博士っていくつ――いてっ!」

 

「誰が“女の子でもない年”よ?」

 

無言の拳が男二人の頭に優しくないツッコミを入れる。

 

「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも――」

 

「「うんうん、それで!」」

 

「……ま、まぁ、私も忙しいから。ここで油を売ってはいけないの」

 

「じ、自分で振っといて!? うわっ」

 

緒川の顔面に軽い前蹴り。頬を赤くして、了子はわざとらしく咳払いした。

 

「と・に・か・く! “できる女”の条件は、どれだけ“良い恋”をしているか。ガールズたちも――どこかで良い恋、しなさいね? ……で、昇くん。UNKNOWNの実験の“続き”、いきましょうか?」

 

「……またっすか」

 

「安心して。次は身体を酷使する類じゃないわ。簡単な検査よ」

 

「えー?」

 

(いや、“簡単”って前も言ってたよな……)

 

「ほんとほんと。――それに、これが終わったら、しばらく実験はお休み。完全聖遺物UNKNOWNはもっと調べたいけど、私だって悪魔じゃないもの」

 

「……ようやく休み、か」

 

「じゃあさ、昇! 今度“デート”行かない?」

 

「デート……ん? デート!?」

 

思わず二度見。

 

「うん! 私と未来と――翼さんで行くんだけど、昇も一緒に!」

 

「わ、私も?」

 

巻き込まれた翼は、やれやれとため息をつきつつも拒まない。

 

「いや、こういうのは女子だけで行くものだろ?」

 

「昇は“嫌”なの?」

 

「嫌ってわけじゃないけど……未来と先輩は、まだ“響の件”以外での接点が薄いだろ? なら、こういう時こそ二人で――」

 

「…………」

 

「だ、ダメだからな!? 中学時代、あまりにも三人で一緒に居たせいで“立花さんちの犬”って呼ばれてただろ。今回はそうはいかん!」

 

(なんと情けないのだ蒼月……)

 

「……だめ?」

 

子犬の上目遣いで袖を引く響。

 

「だめ! 譲らん!」

 

「…………」

 

「ほんとだぞ!? 大好きな先輩と遊べるんだぞ? ファンでも羨ましいだろ!?」

 

「……昇と一緒じゃなきゃ、いや」

 

「……なんでさ」

 

はぁ、と昇が深い溜息をひとつ。

 

「もう、響ったら。昇も困ってるでしょ?」

 

「未来! やっぱ“真面目な親友”だな!」

 

「押しに弱い男は、引っぱって連れて行けばいいのよ」

 

「あれ未来??」

 

助け舟だと思ったら、その舟で沈められた。

 

「それに昇も。せっかくの休日なんだから、“ちゃんと休む”――ね?」

 

「い、いや、俺はいいから三人で――」

 

「一緒に行こ?」

 

「だ、だから俺なんかより――」

 

「い こ う ね?」

 

「……ひゃい」

 

情けない小動物の鳴き声みたいな返事が出る。

“未来を怒らせると怖い”は、蒼月家の遺伝子に刻印済みである。右腕に響、左腕に未来。二人は満面の笑み、中心の少年は半泣き。

 

(……苦労しているのだな、蒼月)

 

翼はどこか憐憫の眼差しで見守り、了子だけが愉快そうに手を叩いた。

 

「ん〜、まさに“両手に華”ね」

 

「それじゃ、“今度の日曜日”に決まり」

 

「う、うぃっす……」

 

その後、響と未来は行き先会議で盛り上がり、翼は緒川とスケジュール調整。“少しずつ慣らして増やす”方針で話をまとめ、全員が散っていく。

 

「あ、あの……了子さん。」

 

「んー? どうしたのかしら、響ちゃんに——お友達の未来ちゃん?」

 

別れ際、未来は小さく歩幅を詰め、了子の前で声を落とした。

 

「昇、また……実験させられるのですか?」

 

「もう、心配性ね。安心して。怪我をさせる類のものじゃないわ。」

 

「そ、そうですか。すみません。」

 

——無理もない。

目の前で、響は“美しく”変わるのに対して、昇は“痛々しく”変わって、化け物みたいな姿になったのだから。心配にならない方がおかしい。

 

「いいのよ。友だち想いの、良い子ね。」

 

未来はぺこりと頭を下げ、ためらいなく言葉を置いた。

 

「はい、『私の昇』を、よろしくお願いします。」

 

一拍。

了子の睫毛が、かすかに止まる。

 

「……ええ。大切に——扱うわ。」

 

微笑はそのまま。けれど瞳の底だけ、温度が一度だけ変わった。

その言いぐさを胸の内で転がしながら、了子は横目で廊下の先——少年の背を一瞥し、何事もなかったように手を振る。

 

「じゃあ、またね。二人とも、今日はゆっくり休むこと。」

 

「はいっ!」

 

「失礼します。」

 

響が元気よく、未来が静かに頭を下げて去っていく。

残った静けさの中、了子は小さく首を傾げ、誰にも聞こえない声量で囁いた。

 

「——“私の”、ね。……ふふ。」

 

「さっき、何を話してたんですか?」

 

廊下の角を曲がったところで、昇が何気なく切り出す。

了子は肩をすくめ、笑みだけ残して答えた。

 

「いーや? 君って人気者だなーって。」

 

「さいですか。」

 

軽いやり取り。けれど、了子の目の奥だけは温度が一定だ。

 

「そうだ、恋バナついでに——昇君って、好きな子いないの?」

 

「好きな子、ですか?」

 

「そうそう。」

 

小さな間。蛍光灯の低い唸りが、ふたりのあいだを埋める。

 

「……いませんよ。」

 

「あら? 響ちゃんとか未来ちゃんみたいに可愛い子がいるのに?」

 

「はぁ……響と未来は、俺の“大切な友人”ですよ。」

 

そこで、了子の眉がほんのわずかだけ動いた。

言葉の選び方——“大切”と“友人”の置き方を、彼女は逃さない。

 

「それに、俺みたいな化け物より、きっと良い男がいますよ。」

 

斜め下へすべる自己評価。口ぶりは軽いが、芯は固い。

(——自分で、自分を輪の外に置く癖。)

了子は心のメモにさらりと線を引く。

 

「ふふん。」

 

彼女は何も追及しない。ただ、口角だけ楽しそうに弧を描いた。

頭の中では、昼の帯ドラマ顔負けの相関図が、するすると組み上がっていく。

 

(これは、面白くなりそう——ね?)

 

だが、はっと今の気持ちにため息が出てしまう

 

(……らしくないこと、言っちゃったかもね)

 

昇と二人、廊下を歩きながら。

了子は独り言みたいに思考を転がす

 

(変わったのか。それとも――変えられたのか)

 

利用する駒、と割り切るはずの彼女たちに、ふと“普通の感情”が滲むのを自覚して、舌打ちにも似た息を飲む。

 

「……博士?」

 

「え? ど、どうしたの、昇くん?」

 

「いえ、その。UNKNOWNのことなんですけど――そろそろ“ちゃんとした名前”、つけませんか?」

 

「あー、確かに。何もかも不明だったから“UNKNOWN”呼びのままだったわね」

 

「なので、勝手に考えてきました。無難に――『禁断の書庫(パンドラ・ライブラリ)』。どうでしょう?」

 

了子は一拍、目を細め――口角を、愉しげに、ほんの少しだけ上げた。

 

「……いい名前じゃない。開けたら戻れない、って意味合いも含めて、ね」

 

「……あと、頭痛薬ももらえます?」

 

昇はこめかみを押さえながら、診察台の端に腰を下ろした。

 

「やっぱり“パンドラ”使用後の後遺症は消えないの?」

 

タブレットを操作していた了子が、視線だけを上げる。

 

「ええ。使ったら頭はガンガン、吐き気はするわで――地獄っすね。」

 

今さらだが、あの“幻想体”たちの発現条件はいまだ掴めない。

連中はふいに現れては、『力が欲しいか?』みたいな調子で耳の奥に囁きかけてくる。

 

「これは私の“仮説”だけど……たぶん、昇くんの感情で発現しているのよね。」

 

「……感情?」

 

「シンフォギアも、装者の“心”に応えるでしょう? ほら、歌って気持ちを込めないと“響かない”。」

 

「まあ……それは、そうっすけど。じゃあ俺の場合は、そこに“幻想体”が乗ってるだけ?」

 

「“パンドラ”は俗に言う“種”の状態。そこへ昇くんの感情という“栄養”が注がれることで、個々の能力――“魔弾”や“乗客”、それから“狐”が芽吹く。そんなイメージね。」

 

昇は短く息を吐いた。喉の奥に、鉄の味がまだ少し残っている。

 

「……なら、感情を無くせば止まる?」

 

「結論だけ言えば、理屈の上ではYes。でも実際はNoよ。」

 

了子は薬瓶を指先で転がし、からん、と軽い音を立てる。

 

「生き物は等しく感情を持つし、仮に抑え込めても、今度は出力も制御もガタ落ち。鈍るだけならまだいいけど、最悪は“別の芽”が暴発するわ。」

 

「……なるほど。抑えればいいって話じゃない、と。」

 

「そう。無くすんじゃなくて、扱うの。――はい、頭痛薬と制吐剤。今日は強めに出しておくわ。」

差し出された錠剤を受け取りながら、昇は肩をすくめる。

 

「ありがと。……やっぱ“種”に水やりするのは、ほどほどが一番ってことか。」

 

「ええ。潤しすぎても、枯らしてもダメ。――君は“温室”じゃないんだから、ね。」

 

了子は冗談めかして微笑み、すぐ真顔に戻った。

 

「次の検査で“芽吹きの前兆”を拾えるか、試してみましょう。痛くないやつよ。」

 

「……その前置き、信用していいんすかね。」

 

「女の子の言葉は、信じて?」

 

からかうように片目をつむると、彼女はタブレットに検査項目を追加した

蛍光灯の唸りと、離れた非常口の緑が、白い実験室に薄い影を落としていた。

了子は薬瓶のキャップを戻し、指先で「からん」と軽く鳴らす。

 

「ねえ、昇くん。」

 

「……なんですか、博士。」

 

「“歌”ってさ、誰のためにあると思う?」

 

唐突な問いだった。昇は眉をひそめる。

 

「……届いてほしい誰かのため、じゃないんですか。」

 

「そう。響ちゃんの歌は“救い”の旋律。聴く者の心拍や呼吸を整えて、前へ踏み出す勇気をくれる。対して、君の“歌”は——」

 

了子は軽く首を傾げ、言葉を選ぶ。

 

「ときどき、“悲鳴”に聴こえるの。何を叫んでいるのか、意味すら判別できない、原始のノイズ。……彼女たちは、あの音を隣で聴き続けられるかしら?」

 

昇の喉が、音もなく鳴った。錠剤を握る手に、知らず力が入る。

 

「比喩だよ。責めてはいない。だけど——」

 

了子は壁のモニターに手をかざし、波形ログを呼び出した。

一方には、響の安定したフォニックゲイン。もう一方には、昇の“パンドラ・ライブラリ”発動時に跳ね上がる鋸歯状のスパイク。

 

「見て。響ちゃんの融合は調和の曲線。君は裂け目みたいに、一定の閾値を越えると空間がきしむ。現場で“黎明”が集中的に湧いた座標、君がいた半径五百メートルで顕著に増えてるの、気づいてた?」

 

「……俺が、呼んでるって言いたいんですか。」

 

「“可能性”の話。原因と結果を決めつけないのが研究者の礼儀よ」

 

やわらかく微笑む。その微笑みに、底の見えない深さがあった

 

「ただ、結果だけは確か。君の近くで事象が連鎖する。良いことも、悪いことも。」

 

沈黙が落ちる。エアダクトの風が、天井の隅で小さく唸った。

 

「それにね。」

 

了子は声を落とした。相談を打ち明ける姉のような、甘い温度。

 

「共鳴は、音だけで起きるとは限らないの。感情でも起きる。

響ちゃんは優しい子。君が苦しそうにしていると、無意識に“同調”しようとする。

その先にあるのが——支え合い? それとも、共依存?」

 

鋭い単語が、穏やかな口調のまま、昇の胸に刺さる。

 

「……博士は、俺に離れろって言いたいんですか。」

 

「お願いや命令はしない。選ぶのはいつも君よ。」

了子は薬袋を差し出す。その指先は、驚くほど温かかった。

「ただ、問いを置いていく。君は“彼女たち”の隣にいて、彼女たちの歌を強くできる?

それとも、君の“悲鳴”が、彼女たちの旋律を濁す?」

 

昇は視線を落とした。掌の白い錠剤が、やけに冷たく感じる。

 

「想像してみて。仮に次の現場で、響ちゃんが“絶唱”に手を伸ばす。でも響ちゃんを何よりに大切にする君は止めようとする。でも止めようとする感情がトリガーでALEPHクラスの幻想体が現れた時——そのとき、誰の責任?」

 

息が詰まる。喉の奥で、鉄の味が蘇った。

 

「もちろん、最悪を恐れて何もかも止めろとは言わない。」

 

了子は小さく肩をすくめる

 

「距離ってね、愛情の逆じゃないの。守るために置く距離もある。“観測者”として後方に回る、あるいは期限付きで距離を置く——チーム全体の健康を考えるなら、戦略として悪くない。」

 

「……俺が近くにいると、あいつらが弱くなるかもしれないって?」

 

「可能性、ね。」

 

彼女はまた、優しく笑った

 

「反対に、君が一歩引けば、響ちゃんは“自分の足”でより遠くへ行けるかもしれない。君がいなくても強い、ではなくて——君がいるからこそ、離れても強い、という在り方。」

 

言葉は甘い。なのに、残るのは苦い余韻だけだった。

 

了子は踵を返し、自動扉の前でふと立ち止まる。

振り返った瞳は、どこまでも穏やかで、どこまでも冷たい。

 

「ねえ、昇くん。英雄と器は違うの。前に立って刃を受ける人と、歌が正しく鳴るように枠を保つ人。——君は、どっちであるべきだと思う?」

 

返事は出ない。出せない。

 

「忘れていいわ、今の話。私の独り言。」

 

了子は人差し指を唇に当て、愉快そうに片目をつむった。

 

「でも、次に歌う前に、一度だけ思い出して。“君は、響たちと一緒にいていい存在なのか?”って。」

 

扉が音もなく開く。

白い背中が消え、静寂が戻った。薬袋のビニールが、握るたびに小さく鳴る。

 

昇はしばらく動けなかった。

胸の奥で、微かなざわめきが膨らむ。雨粒が黒い湖面に落ち続けるみたいに、輪が重なっていく。

 

——君は、隣に立てるのか。

それとも、隣を壊すのか。

 

答えのない問いだけが、いつまでも耳の奥で反響していた。




え、え、12月31日に良秀章が始まんの!?
やば、良秀が花嫁になってる!?
あ、やば、脳が溶ける!?
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