幼馴染たちが美しく歌う中、俺は哭き叫び狂い堕ちる   作:零城

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今年中には全話終わらせたいな
んで、来年からG編を始めたい


第二十八話 デート

響たち装者がデートの相談をしているころ。

外では細かい雨が降り、弦十郎は傘を差して無言のまま歩いていた。手には小さなビニール袋。

辿り着いたのは、くすんだ外壁のマンション。エントランスで傘の水を切り、無人のエレベーターで上へ。廊下の奥で足を止め、金属音を残して扉を開ける。

 

中は暗い。灯りはない。家具もない。退去したばかりの空き部屋のようだった。

弦十郎は警戒する素振りも見せず、靴を脱いで上がり、まっすぐ居間へ。ビニール袋を取り出して、低い声で言う。

 

「ほらよ」

 

「っな――!」

 

壁際へ視線を向ける。そこにうずくまっていたのは、クリスだった。

床には、食べ尽くした弁当箱や空のペットボトルが転がっている。

 

「応援は来ていない。俺ひとりだ」

 

僅かに身構えるクリス。

未来に保護されたあと、帰る場所のない彼女は漂うように街をさ迷い、今はこの空き部屋に身を隠している。誰も信用できず、助けも求められないまま。

 

「君の保護を命じられたのも……もう俺ひとりになっちまったがな」

 

「……どうしてここが」

 

「元公安の御用物件でね。こういうのは慣れた仕事さ。――ほら、差し入れだ」

 

ビニール袋を差し出す。中にはパンと牛乳、最低限の食料。

拒む言葉より先に、腹の虫が鳴った。ここ数日、まともに口にしていない。だが、敵対していた組織のトップからの施しに、警戒心は消えない。

 

「ほら。何も盛ってない」

 

弦十郎はパンを一つ取り、豪快に齧ってみせる。

堪えきれなくなったクリスは、パンをひったくってかぶりついた。

 

「……バイオリン奏者・雪音雅律。その妻、ソネット・M・ユキネは難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡――八年前だ。残された一人娘は行方不明。

その後、国連軍の武力介入で事態は急転。現地組織に囚われていた娘が発見され、保護される」

 

「……よく調べてるじゃねぇか。そういう詮索は反吐が出る」

 

弦十郎の手から牛乳パックを奪い、喉に流し込む。

 

「当時の俺たちは適合者を探して、音楽界のサラブレッドに片っ端から当たっていた。

天涯孤独になった少女の身元引受先として、二課が手を挙げた」

 

事実だけを、感情を挟まずに並べる声。

 

「――だが、少女は帰国直後に消息不明。俺たちも慌てた。二課から相当数の捜査員が出たが、この件に関わった多くが死亡、あるいは行方不明。そうやって幕が引かれた」

 

「……何がしたいんだよ、おっさん!!」

 

「俺がやりたいのは君を救い出すことだ。引き受けた仕事を務める――それが大人の役目だからな」

 

「ふん。大人の務めと来たか。

言わせてもらうが――いつも何もしてくれなかった大人が、偉そうに!」

 

怒気を帯びた吐き捨て。空になった牛乳パックが床を転がる。

次の瞬間、クリスは窓へ駆け、肘でガラスを割った。冷たい雨気が一気に流れ込む。

 

「待て、雪音――」

 

言い終わる前に、彼女の身体は夜の雨へと飛び込んでいた。

 

『Killiter Ichaival tron〜♪』

 

落下の最中、細い喉が歌を紡ぐ。

赤い光が瞬き、イチイバルがその身を包む。

 

弦十郎が割れた窓辺へ走り寄ったときには、すでにクリスは遥か遠くの雨幕の向こうへ消えていた。

彼はしばし窓外を見据え、静かに拳を下ろす。

 

「――必ず、連れ戻す」

 

                     

 

翌朝。昨夜の雨が嘘のように澄み切った青空。

待ち合わせ場所の公園は家族連れで賑わい、池にかかる小さな橋の上で、翼が腕時計を一瞥してため息をつく。

 

「——あの子たち、何やってるのよ」

 

ほどなくして、はぁはぁと息を切らせながら二人の少女が駆けてきた。

 

「す、すみませ〜ん、翼さん!」「遅れてごめんなさい!」

 

「遅いわよ!」

 

未来がぺこりと頭を下げる。「お察しのとおり、原因は——響のいつもの寝坊です」

 

「む? 蒼月は?」

 

「昇は“ちょっと遅れる”って——」

 

キィッ……ガラガラッ……ドシャーン! ガシャガシャガシャ……

イテテ

 

「すまん、遅れた」

 

「え、昇。今、盛大に転んだ音がしたよね!? ドリフトで入ってきたと思ったら、そのまま駐輪場で——」

 

「気のせいだ」

 

(いや、間違いなく転んだやつだ)と三人の視線が一致する。

二課に保護されてから自宅に戻っておらず、MTBにも乗っていなかったせいで、あの凶暴なハンドリングも少し鈍ったらしい。

 

「ま、とにかく全員そろったわけだし——さっさと行くわよ」

 

そう言って翼の方を見た響が、ふと足を止めた。

 

「な、何よ」

 

白いキャスケット、青×白の半袖シャツに軽いスカート。

ステージ衣装でも制服でもない“街の風鳴翼”に、三人とも思わず見入ってしまう。

 

「……すっごく楽しみにしてた人みたいだ」

 

と響がぽつり

 

「誰かが遅刻した分を、取り返したいだけだってば!」

 

翼は顔をそむけ、大股で歩き出す。耳まで、りんごのように赤い。

 

「先輩ってさ、部屋は汚いし生活力はないし、超有名人だからパーカーで変装して来るのかと思ってた」

 

じっと翼を見て、改めて褒める

 

 

「うん、意外。——似合ってるよ」

 

 

昇が素直に続ける

 

「その、服も雰囲気も……可愛いと——ぐふっ!?」

 

言い終わる前に、翼の捨て身の飛び蹴りが昇の腹部へクリーンヒット。

 

「時間がもったいないの。行くわよ!」

 

勢いそのまま歩を進める——頬と耳は、やっぱり真っ赤のままで。

 

* * *

 

そこから四人の“デート”が始まった。

デパートでのんびりとウィンドウショッピング。試着室前で昇が荷物持ちを買って出ると、翼は素直に「助かる」と一言。

映画館では全員で泣いて、出てきたところで未来が「泣きすぎ」と響の目元を拭う。

ソフトクリームは結局ひと口ずつ回し食いになり、響が落としかけたコーンを昇が反射神経でキャッチ、翼が小声で「ナイス」と親指を立てる。

 

ノイズも任務も、今日だけは遠い。

年相応の休日が、ゆっくりと、確かに流れていった

 

 

「翼さんご所望のぬいぐるみも! この立花響が必ず取ってみせます!!」

 

四人がやってきたのは、賑やかなゲームセンター。

目の前のクレーンゲームに、響がやる気満々で挑んでいた。

 

「期待はしているが……たかが遊戯に、少し注ぎ込みすぎではないか?」

 

チャリーン♪

 

翼の苦言をよそに、響は容赦なく課金し、レバーとボタンに荒々しく手を置く。

 

「キェェェェェェェェ!!」

 

「鼓膜ないなった」

 

「変な声出さないでよ、響!」

 

奇声を上げつつアームを操作していく。

狙いは黄色のぬいぐるみ。アームはスムーズに下降し——

 

スルッ。

 

「あっ!?」「あ、落ちた」

 

アームの間からぬいぐるみが滑り落ちてしまった。

 

「このアーム壊れてる! 壊れてるなら壊してもいいですよね!?」

 

「やめんかい阿呆!」

 

幼馴染の暴走を未来が止めている間に、昇はため息をつきつつスマホ決済。

 

「響、こういうのは“掴む”んじゃなくて“引っかける”んだよ」

 

レバーを繊細に操作し、アームをタグの輪っかへ正確に合わせる。

 

カシッ。

 

「ほれ」

 

「おおぉ!!」

 

見事一発で吊り上げ成功。取り出し口からぬいぐるみを取り出した——と思ったら。

 

「……ん? お、ラッキー」

 

黄色いぬいぐるみに絡むように、青いぬいぐるみも一緒に取れていた。

 

「すごいな。二つもか」

 

青い方は黄色と同じデザインで、頭にリボンがついている。

 

「まさか二つも取れるとはな」

 

昇が感心していると、翼が少しためらった後——

 

「……一つ、あげる」

 

「ん? いいのか?」

 

「二つもいらないし……せっかく取ってくれたんだから、一つくらいね」

 

黄色いぬいぐるみを胸に抱え、青いのを昇へ差し出す。

 

「……ありがとさん」

 

「いいなー昇。翼さんとペアルックなんて」

 

「ペアルックって……俺の家に、響と未来の“ペアもの”がどんだけあると思ってんだ」

 

そんなやりとりをしつつ、四人は前々から行きたいと言っていた場所へ向かった。

 

 

 

 

「すごいすごい! 私たちトップアーティストとカラオケに行けるなんて!」

 

リディアンの生徒だからだろうか、三人ともテンションが高い。

昇は注文したジュースを手に、(歌は下手だし……響たちを見てる方が楽しいか)と静かに構えていた。

 

部屋が暗くなり、イントロが流れ始める。最近人気の曲かと思いきや——

 

【恋の桶狭間】

 

(いや、渋っ!? もっとポップなのくると思ったんだけど!?)

 

誰が入れたんだと視線を向けると、響と未来はお互いを指差して「違う!」と首を振る。

 

つまり——。

 

「一度こういうの、やってみたかったのよね」

 

マイクを持った翼が前へ歩み出て、一礼。

 

「……渋い」

 

「ブフォォォッ!!wwwww」

 

思わず飲んでいたジュースを吹き出す。

ステージに立つ“トップアーティスト・風鳴翼”の姿に、三人のテンションが上がった

 

昇もなんやかんやで歌い、気がつけば辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。

 

「翼さーん!」

 

「はぁ……はぁ……二人とも、どうしてそんなに元気なんだ……」

 

四人は沈みかける夕日を背に、長い階段を登りきり、公園へとたどり着く。

 

「翼さんがへばってるだけですよ」

 

「今日は慣れないことばかりでしたから」

 

「……防人であるこの身は、常に戦場にあったからな」

 

翼はふと足を止め、空を見上げた。

思えばここ最近、戦いと歌のことばかりを考えていた気がする。

 

幼い頃から戦うことを教えられ、「普通の女の子」らしい時間とは縁がなかった。

奏を失い、ひとりになってからは、ただ前だけを見て、我武者羅に進んできた。

それでも——響が二課に入り、少しずつ、確かに世界は変わっていった。

 

「……本当に今日は、知らない世界をたくさん見た気分だ」

 

「そんなことないですよ!」

 

響は翼の手を取り、高台から見下ろせる街を指さして、笑顔を向ける。

 

「あそこ、待ち合わせに使ってた公園です。

一緒に遊んだ場所も、まだ知らない場所も、全部……翼さんが守ってきた世界です。

昨日、翼さんが戦ってくれたから、今日もみんなが普通に暮らせてるんです。

だから、知らないなんて言わないでください」

 

その言葉に、翼の胸に懐かしい声がよみがえる。

 

――『戦いの裏側とか向こう側には、また違ったものがあるんじゃないかな。

私はそう考えてきたし、ちゃんとそれを見てきたよ』

 

「……そうか。これが、奏が見てきた世界なんだな」

 

しみじみと呟いた、その瞬間。

 

「——感動してるところ悪いけど、そろそろ荷物持ってくれない?」

 

場の空気を切り裂くように、少年の声が飛んできた。

 

ぜぇぜぇと息を切らし、買い物袋を両腕に抱えた昇が、ようやく階段を上ってくる。

 

「む……男のくせに体力がないな、蒼月」

 

「持ってもらってる側が言う台詞じゃないでしょ、それ……」

 

沈みゆく夕日と、他愛ない言葉。

その中で、翼はほんの少しだけ——

“戦場の外”に足を踏み入れた気がした。




久しぶりの新しいアンケートです

奏とか死亡キャラを復活させて欲しい?(ちなみに白夜の力で)

  • して欲しい
  • 欲しいけど、お前はダメだ
  • ダメだ
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