幼馴染たちが美しく歌う中、俺は哭き叫び狂い堕ちる   作:零城

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第三十話 疑い

ッガサ——

 

翼のコンサートから数日後。

人里離れた森の奥、フィーネの根城。

 

周囲を囲うように、複数の人影が草木を掻き分けて現れる。

夜の闇に溶け込むような動き——明らかに訓練された者たちだ。

 

城の内部。

巨大なモニターが並ぶ室内で、フィーネは一人、キーボードを叩いていた。

 

(先日の夜……蒼月昇が、新たに幻想体を“三体同時”に発現させた)

 

カタカタと乾いた音が響く。

画面には、二課が回収した膨大な観測データ。

 

フォニックゲイン——

それは、本来ならシンフォギア装者ですら一定値以上は到達できないはずの領域。

 

あの夜、異変は突然だった。

 

立花響からの緊急連絡。

観測装置が、見たこともない数値を叩き出した直後だった。

 

フィーネは即座に状況を把握し、

風鳴翼のコンサートが行われていたドーム——その天井裏へと急行した。

 

幸い、蒼月昇本人に意識障害はなく、

外見的にも大きな異常は確認されなかった。

 

(……なんて高出力のフォニックゲインなの)

 

画面に映る数値を、フィーネはもう一度睨みつける。

 

これまで、昇の体内で確認されていた幻想体は

『魔弾の射手』

『道を失った乗客』

『さすらいの狐』

 

——すべて HEクラス。

 

だが、今回観測された波形は、それらを明確に上回っていた。

 

(WAW……いえ、それ以上……?)

 

しかも奇妙なのは、その後だ。

 

回収後、再計測したフォニックゲインは——

急降下し、HEクラスの半分程度にまで落ち着いていた。

 

(蒼月昇自身の精神的・肉体的負荷も、今回は比較的軽微……)

 

本人は「TETHクラス程度」と笑っていたらしい。

だが——

 

(そんな分類、今はどうでもいい)

 

問題は、一瞬だけ観測された“異常値”。

 

ほんの刹那。

だが、確かにそこにあった。

 

HEクラスの数倍。

——いや、そんな比較すら無意味な数値。

 

再計測時には、観測不能。

 

(……天井が、ない)

 

理論上の上限すら突き抜けたフォニックゲイン。

もはやそれは——

 

(神か、化け物……)

 

フィーネは、無意識に眼鏡を押し上げた。

 

——否。

 

その仕草と同時に、

彼女の表情から、研究者の仮面が剥がれ落ちる。

 

そこにあったのは、

かつて神話に名を刻んだ女——フィーネそのものだった。

 

「……人間と聖遺物の完全融合」

 

それは、

櫻井了子という名を借りたフィーネが、

長年追い求めてきた計画。

 

立花響は“種”。

蒼月昇は“模範解答”。

 

計画は、本来なら順調だった。

 

——それなのに。

 

(……心配? 私が?)

 

自嘲気味に、フィーネは口元を歪める。

 

(蒼月昇の完全聖遺物——禁断の書庫)

 

デュランダル。

ネフシュタン。

 

同じ“完全聖遺物”でありながら、

その性能差は、あまりにも異常だった。

 

(……本当に、これは“この世界の”聖遺物なの?)

 

胸の奥に、黒い霧のような不安が広がる。

 

——存在していいのか?

——この世界に?

 

そう考え込んだ、その瞬間。

 

ガシャン!!

 

窓が爆音と共に粉砕された。

 

「——っ!?」

 

屈強な男たちが突入し、

迷いなく引き金を引く。

 

銃声。

衝撃。

 

了子——いや、フィーネは腹部を撃ち抜かれ、床に倒れ伏した。

 

「手間をかけさせたな。

 聖遺物と——例の男に関する研究データは、我々が回収する」

 

低い英語の声。

アメリカ政府直属の特殊部隊。

 

「……協力関係の末路がこれ?」

 

フィーネは、苦笑を浮かべる。

 

「徹底してるわね。使い終わった研究者は、切り捨て」

 

男たちは答えない。

撃たれたフィーネを足で転がし、

致命傷であることを確認すると、機材の接収を始めた。

 

——その時。

 

「……っ、う」

 

視線が外れた一瞬。

フィーネは、銃創に右手を当てた。

 

淡い光。

 

血に染まった腹部の皮膚が、

まるで血管のような異様な紋様へと変質し——

やがて、傷そのものが消えていく。

 

「……相変わらず」

 

ゆらりと立ち上がり、不敵に笑う。

 

「痕跡を残しながら立ち回る。品性下劣ね、アンクルサムね」

 

男たちが気づいた時には、すでに遅い。

 

「ブラックアートの深淵を——覗いたことすらない青二才が……」

 

「くそ! 撃て!!」

 

「……まだ試作段階だけど」

 

無数の銃弾が放たれる、その刹那。

 

フィーネの前に——

巨大な金属の箱が、轟音と共に降り立った。

 

次の瞬間。

 

右腕の機関銃。

左腕の回転鋸。

銃弾を弾く、分厚い装甲。

 

“それ”は、無慈悲に特殊部隊を蹂躙した。

 

血と鉄の匂いが、城内に満ちる。

フィーネ——いや、櫻井了子は、

静かにその光景を見下ろしていた。

 

「……やっぱり、蒼月昇」

 

その名を、低く呟く。

 

「あなたは——私の想定すら、超えていく」

 

                     

 

——リディアンでは。

 

「「ありがとうございましたー」」

 

職員室に提出物を届け終えた響と未来は、そろって一礼し、廊下へと戻った。

木目の床に二人分の足音が軽く響く。窓の外は明るく、どこか空気が澄んでいる。

 

ふと、遠くから歌声が流れてきた。

合唱部の練習だろう。廊下の角を曲がった先の音楽室から、和音が風みたいに漂ってくる。

 

「ふーんふふーん♪ ふふふふーん♪」

 

思わず鼻歌が漏れたのは響だった。

 

「あら? 合唱部に触発されちゃった?」

 

「うん。リディアンの校歌ってさ、聴いてると……まったりするっていうか、落ち着くっていうか。

みんながいる場所、って思うと安心するんだよね。自分の場所って感じがするっていうか……入学してまだ二ヶ月なんだけどね」

 

言いながら、響は少し照れたように笑う。

 

「……もう二ヶ月か」

 

今度は、響が抱えている少し大きめのカバンの中から、ぼそりと声がした。

 

「え?」

 

カバンのファスナーが、じー……っとほんの少しだけ開く。

そこからひょこっと覗いたのは——罰鳥のフードをかぶった、小さな昇の顔だった。

 

傍から見れば、完全に「怪しいものを運んでる」絵面である。

が、もちろん理由はある。

 

「色々とあったねー」

 

未来が苦笑しながら言うと、カバンの中の昇がむすっと返す。

 

「おう。なんなら現在進行形であってんだけどな」

 

先日の夜、昇は幻想体の発現で“罰鳥”の姿へと変わった。

問題は——そこから戻らないことだった。

 

「何で戻らないの?」と二人が焦った結果、了子の見立てはこうだ。

 

『前までHEクラスに慣れていたのに、急にTETHクラスの発現になったから、身体が驚いて反応が遅れてる……とかじゃない?』

 

一生このまま、というわけではないらしい。

フォニックゲインも徐々に落ち着いてきているし、時間経過で元に戻る見込みはある——

 

とはいえ本人は不安だったのだろう。

 

「いやー、永遠にこの6才ボディで暮らすのかと思った」

 

カバンから器用に顔だけ出して、昇はきょろきょろと廊下を見回す。

昇にとっては、ここが“初めてのリディアン”だった。

 

二課から外に出るときは、基本的に車移動。

ましてや今は「見た目が幼児」だ。制服だらけの女子校を歩くなんて、普通にアウトである。

だからこそ、こうしてカバンに潜んで“見学”しているわけだが——

 

罰鳥を模した可愛らしいフードをかぶった少年が、目を輝かせているのは否定できない。

 

「……」

 

その光景に、響の手が勝手に伸びた。

ぽん、ぽん、と頭を撫でる。

 

「な、なんだよ響」

 

「……いやー。昔見た昇の保育園時代の写真に似てるなーって」

 

「だからって——おぶぅ」

 

横から未来が無言で両手を伸ばし、昇の頬を掴んだ。

ぷに。ぷにぷに。容赦がない。

 

長い間一緒に育って、昇も少しずつ「男」になってきてはいる。

……が、子供時代の可愛さの破壊力には勝てない。

 

(ぁぁぁぁぁ可愛いぃぃぃぃぃぃぃ♡♡♡!!!)

 

響は内心で叫びながら、撫でる速度を上げる。摩擦熱で煙が出そうな勢いだ。

 

(……今の昇じゃ味わえないモチモチほっぺ)

 

未来は静かに微笑みつつ、もちもちと頬の感触を確かめる。まるで職人である。

 

「や、やめろって……っ、聞けぇ……!」

 

「んー? 聞こえないなぁ」

 

「全然聞こえませーん」

 

二人はにやにやしながら、抵抗する昇の訴えを綺麗にスルーした。

 

廊下の向こうでは、合唱部の歌声が今日も変わらず響いている。

その平和さが、なおさらこの光景を“事件”っぽく見せてしまうのだった

 

                     

 

同時刻、フィーネの根城。

 

「……なんだよ、これ……」

 

クリスは、フィーネともう一度だけ話をするために、この場所へ足を踏み入れた。

だが、そこに広がっていたのは――言葉を失うほどの惨状だった。

 

銃弾で蜂の巣にされた死体。

真っ二つに裂かれた身体。

血と硝煙の匂いが、静まり返った城内に染みついている。

 

「……なにが……どうなってんだよ……」

 

足音を殺して奥へ進む。

生きている者の気配はない。ただ、死だけが転がっていた。

 

パキッ。

 

「……ここにいたのか」

 

背後から低い声が響く。

振り向くと、そこに立っていたのは弦十郎だった。

その背後には、二課の部下たちが静かに展開している。

 

「ち、違う! 私じゃない!!」

 

言い訳が喉まで出かかった。

だが、部下たちはクリスに銃口を向けることなく、彼女の横を素通りし、死体や装備の回収を淡々と始めた。

 

「……え?」

 

「誰も、お前がやったとは思っていない」

 

弦十郎はそう言って、クリスの頭に手を置いた。

乱暴ではない、落ち着いた手つきで。

 

「すべては……君や俺たちのそばにいた“彼女”の仕業だ」

 

「……」

 

「風鳴司令! これを!」

 

部下の一人が、米国特殊部隊の死体のそばから紙切れを拾い上げる。

 

そこには、乱れた文字でこう書かれていた。

 

『I LOVE YOU sayonara』

 

血文字かどうかは分からない。

だが、その癖のある筆跡に、覚えがあった。

 

「……フィーネの置き土産、か」

 

弦十郎が紙に手を伸ばした、その瞬間――

 

ズドォォォォォン!!

 

爆音と衝撃。

紙に仕掛けられていた爆薬が起爆し、天井が崩落した。

 

城全体が揺れ、土煙が濁流のように押し寄せる。

 

「――っ!」

 

弦十郎は一歩前に出ると、素手で瓦礫を受け止め、クリスを庇った。

 

「……ふぅ。罠か」

 

「……どうなってんだよ……」

 

「衝撃は発勁でかき消した」

 

「そういうことじゃねぇ!!」

 

クリスは弦十郎の腕を振り払った。

 

「ギアも纏えない人間が、なんで前に出るんだよ!?」

 

「俺が守るのは、ギアの有無じゃない」

 

弦十郎は真っ直ぐに答える。

 

「お前より、少しだけ長く生きている“大人”だからだ」

 

「……大人?」

 

クリスの声が震える。

 

「私は大人が嫌いだ!!死んだパパもママも大嫌いだ!!臆病者も嫌いだ!!戦地で難民救済? それで世界が救えると思ってたのか!?いい大人が、夢見てんじゃねぇよ!!」

 

「……大人が夢を、か」

 

「戦争をなくしたいなら、戦う意志と力を持つ奴らを片っ端から潰せばいい!それが一番、合理的で現実的だ!!」

 

「……それがお前の流儀か」

 

弦十郎は静かに問い返す。

 

「なら聞く。そのやり方で――戦争はなくせたか?」

 

「……っ」

 

言葉が詰まる。

 

「大人は夢を見ない、と言ったな」

 

弦十郎は一歩近づく。

 

「違う。大人だからこそ夢を見る。背が伸び、力がつき、叶える手段が増える。子供の頃は“見るだけ”だった夢を、“叶えにいける”ようになる」

 

「……」

 

「お前の両親はな、逃げなかった。

歌で世界を平和にするという夢を、現実にしようとした」

 

「……なんで……そんなこと……」

 

「お前にも見せたかったんだろう。

夢は、現実になり得るんだってことを」

 

弦十郎は、そっとクリスを抱きしめた。

 

「……お前は嫌いだと言った。

だがな――あの二人は、間違いなくお前を愛していた」

 

「……っ……う……」

 

堰を切ったように、涙が零れ落ちる。

 

今まで誰も信じなかった。

フィーネだけが、自分の世界だった。

 

だが、押し殺してきた感情が、初めて溢れ出す。

 

クリスは、初めて――

人前で、子供のように泣いた。

 

 

 

 

 

 

その後、元アジトの捜索を終えた二課は撤収準備に入っていた。

 

「……やっぱり、私は……」

 

「一緒に来ないのか」

 

沈黙。

 

「お前はな、自分が思っているほど、ひとりじゃない」

 

弦十郎は背を向けたまま言う。

 

「たとえ今は別の道を行こうとも、いずれまた交わる」

 

「……今まで敵だった相手と、一緒になれるっていうのか?」

 

「……本当に変わらんな」

 

弦十郎は振り返り、通信機を一つ投げた。

 

「限度額なし。公共機関も使えるし、自販機も動く。便利だぞ」

 

それだけ言って、車に乗り込む。

 

「……カ・ディンギル!!」

 

クリスが叫ぶ。

 

「フィーネが言ってた。それが何かは分からないけど……もう完成してるって」

 

「……カ・ディンギル、か」

 

弦十郎は目を細める。

 

「どのみち、放置はできん」

 

エンジンがかかる。

 

「もう後手は踏まない。次は――こちらから打って出る」

 

車は静かに二課へと動き出した

 

                     

 

二課へ戻った弦十郎は、フィーネの根城で起きたことを報告するため、作戦司令室へ入った。

既にオペレーターが端末を立ち上げ、各装者への回線を繋ぎ始めている。

 

「……全員、聞こえるか」

 

モニターに次々と顔が映る。

 

「翼です」

 

「響です!!」

 

「……昇です」

 

弦十郎は短く頷き、要点から切り出した。

 

「収穫があった。敵の拠点は“すでに空”だったが、米国特殊部隊の死体と機材が残っていた。……そして、フィーネの置き土産もな」

 

「置き土産……?」

 

「紙切れだ。血文字で『I LOVE YOU sayonara』。さらに、爆薬が仕掛けられていた。罠だ」

 

空気が一瞬だけ沈む。

その沈黙を、翼が静かに破った。

 

「……被害は」

 

「死者は敵の人員のみ。こちらは無事だ。……ただ一点」

 

弦十郎は視線を細める。

 

「了子くんは?」

 

オペレーターの緒川が、端末を見ながら答える。

 

「まだ出勤していません。朝から連絡不通でして……」

 

「了子さんならきっと大丈夫です!」

響が勢いよく身を乗り出した。

「何が来ても、私を守った時みたいにドカーンってやってくれますよ!!」

 

「いや、戦闘訓練など受講していない櫻井女史にそのようなことは……」

翼が真面目に返す。

 

「うぇ? 師匠とか了子さんって、人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?」

 

(いや、司令みたいなバケモンが二人もいて困る)

画面の向こうで昇が静かに眉間を押さえる。

 

その時だった。

 

プツッ、と回線に雑音が入り――音声のみが割り込む。

 

『やーっと繋がった! ごめんねー寝坊しちゃった。あと通信機の調子が良くなくてさぁ』

 

「……了子くん」

 

弦十郎の声がわずかに低くなる。

安堵と同時に、説明の“都合の良さ”が胸に引っかかった。

 

「無事か? そちらに異常は?」

 

『寝坊してゴミが出せなかったけど、何かあったの?』

 

軽い。いつも通りの、櫻井了子の声。

だが弦十郎は、その“軽さ”が逆に不自然に感じた。

 

「……ふむ。ならばいい。だが、聞きたいことがある」

 

『もー、せっかちね。何かしら?』

 

弦十郎は間を置き、言葉を選びながら吐いた。

 

「……“カ・ディンギル”。この言葉が意味するものは?」

 

『カ・ディンギルは古代シュメールの言葉で「高みの存在」。転じて「天を仰ぐほどの塔」を意味しているわ』

 

「何者かがそんな“塔”を建造していたとして、なぜ俺たちは見過ごしてきた?」

 

『……確かに、そう言われると……』

 

嘘ではない。けれど、どこか“整い過ぎた”応答。

弦十郎は、確信にならない違和感を握り潰すように拳を握った。

 

「……だが、ようやく掴んだ敵の尻尾だ。このまま情報を集めれば勝利も同然。相手の隙に、こちらの全力を叩き込む」

 

弦十郎の目が、モニター越しに装者たちを射抜く。

 

「最終決戦――仕掛ける。……仕損じるな」

 

「「了解(!)」」

 

翼は短く、響は勢いよく、昇は重く頷いた。

 

『ちょっと野暮用が済んでから、私もそちらへ向かうわ』

 

回線が切れる、直前。

 

――了子の声が、ほんの一瞬だけ違った気がした。

笑っているのに、温度がない。

声だけが、すっと“よそ”を向いたような――。

 

けれど昇は、その違和感を「疲れのせいだ」と片付け、通信機を直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、う」

 

通信を切った了子は、腹部に受けた銃創へ手を当てる。

ネフシュタンの力で塞がるとはいえ、痛みが消えるわけではない。

 

「……やっぱり、痛いものは痛いわね」

 

指の隙間から緑の光が漏れ、傷口が“縫い付けられる”ように閉じていく。

だが――塞がるほどに、彼女の眼差しは冷えていった。

 

「……あの様子だと、そろそろ潮時かもね」

 

了子――否、フィーネはゆっくり息を整える。

そして立ち上がり、目を細く開いた。

 

その目は、かつて二課にいたムードメーカーの櫻井了子のものではない。

冷たく、冷酷で、計算だけで世界を測る――フィーネの目だった。

 

「さて。計画を実行しましょうか」

 

唇だけが微笑む。

 

「どうせクリスも動く。……あの子は、私を追ってくる」

 

思い返すのは、二課で過ごした時間だった。

響と未来に囲まれての恋バナ。

翼や奏の話題。

弦十郎やオペレーターたちとの、仕事混じりの何気ない会話。

 

――くだらない。

そう切り捨てるはずのものが、なぜか胸の奥に残る。

 

(……こんな私でも、“楽しい”と思ってしまうほどの時間だった)

 

一瞬、目を閉じる。

 

だが次の瞬間、瞼の裏に浮かぶのは“野望”の設計図。

 

人類の呪縛を破壊する。

装者たちのデータを基に、カ・ディンギルを完成させる。

 

そのための駒は揃った。

――ただ一つを除いて。

 

「……唯一のイレギュラー。蒼月昇」

 

あの少年は、自分でさえ把握できなかった聖遺物を起動させた。

本来なら、利用価値の塊だったはずだ。

 

だが――昨夜の“罰鳥”で状況が変わった。

 

(……やはり故障じゃなかった)

 

計測されたWAW級の波形は、あの三体が出したものだろう。

しかし、問題はそれではない。

 

ほんの刹那。

観測機器が“天井のない数値”を叩き出した瞬間があった。

 

WAWには天井があった。

だがアレは違う。

出口の見えない黒い森のように、無限に続く、膨大なエネルギー。

 

「……WAWのさらに上……」

 

フィーネは自分の喉が乾くのを感じた。

 

「……あれが、ALEPH」

 

いつもなら興味を持って、実験台に載せていただろう。

だが今回は違う。

 

“知りたい”より先に、“危険だ”が来る。

存在そのものが世界を壊しかねない――そう直感が告げていた。

 

フィーネは静かに笑った。

それは優しさでも愉悦でもない、決定だけの笑み。

 

「……蒼月昇。貴方はこの世界のためにも――」

 

呼吸を一つ。

 

「私が作る新しい世界のためにも……」

 

そして、冷たい結論を落とす。

 

「――消えるべきよ」

 




悲報 主人公、黒幕から消えるべきだと決めつけられる


いやまぁ、消えるとかまでは・・・いやまじで制御不能の塊で周辺被害とか考えたら消えた方がいいかも?

良秀章も明日ですね
みなさん、エンケファリンはモジュールにしないように
あと、死ぬ覚悟は出来ました?
作者は前出たPVで既に魂と肉体がさよならしているので無敵です

今年最後のアンケートです! この小説、面白いですかー!!

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