はじめちゃんは堪能したい   作:junnama

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邪魔はしたくないはじめちゃん。

 

 

 暖かな風が吹く

 ーー季節は既に春を迎え、針のように突き刺さる寒さはなくなっていた。

 

 この世界に転生してから、15年経った。

 高校入学してから一ヶ月、毎日変わり映えのない日々を過ごしていた。

 

 前世では、男として生きていたのだが、大学四年の時に、部活動で大会が行われる会場に向かう途中で事故に遭ってしまった。

 はい、いわゆるトラ転ですね。多少のご都合主義は目を瞑ってくれ。

 

 まあ、事故に遭って俺を轢いた車は逃走……轢かれてすぐ死んだ俺は、やり残したことやアニメでよくある天使が迎えに来た的な描写を見ることや考えることもなく、ぽっくり死んでしまった。

 

 正直、根暗で陰キャな俺は友達と言える関係も無きに等しく、このままずっとひとり寂しく生きていくことに危機感を持ち、部活や服や様々な趣味に手を出した……が、そもそも人と話すこと自体に問題があることから、趣味を披露する事や服を見せる機会なんてできなかった。

 

 死んでから目が覚めたら、赤子の姿になっており、しかも性別は女の子だった。

 前世が男だったのもあって、最初は色々苦労したがなんだかんだ上手くやっていけてる。

 女の子の服も、髪を伸ばすことも、女性特有の事なら今では慣れたもんさ。

 しかし、「俺」から「私」呼びになるのは少し抵抗感があって、いまだに俺は「俺」と言っている。男だった自分が「私」と言っているところを想像で第三者視点で見たら気持ち悪かったから。

 

 俺は、死ぬ数日前に【ぼっち・ざ・ろっく!】というアニメにハマっていた。

 SF系や青春系、バトル系のアニメや漫画をこれでもかと言うほど網羅した俺は、百合系に目をつけた。

 別に、ぼざろが百合百合してる訳ではないが、女の子が仲良くしている絵ってすごく目の保養になるからしゅきっ!!である。

 

 大変気持ち悪いことを言っているかもしれないが、友達も趣味友もいない俺からしたら百合アニメは俺の癒しだったのだ。

 この世界でも、前世からの性格を考えると友達100人どころか友達1人つくる事でさえ難しい。

 喋りたい事は頭に浮かんでいるのだ、しかしいざ人を目の前にすると口が硬くなって思うように喋れない。その為、無愛想やら某鬼退治の漫画、水の柱様のように口数が足りない不器用キャラみたいになってしまった。

 

 心はこんなに陽キャ? なのに、今世でも俺は友達を作れないのか……と思っていた。

 

 ーーが、しかしそんな事は考えなくともいいような存在が俺にはできた。

 その存在とはまあ、妄想の中ではなく、ちゃんと人間で女の子だ。

 小さい頃からの付き合いで、親に公園に連れて行ってもらった時に、たまたまその子と出会ったのだ。

 そこで俺はある登場人物であることに気付くべきだった。自分から知らない子に話しかける事、人の目、幼女という緊張感を生む怒涛の素材が散りばめられ、その子の事をちゃんと見れていなかった。

 

 その子は、一人取り残されて「鬼ごっこする人この指とーまれ!」と高々に人差し指を挙げる男の子と、それに集まる他の子供達は仲良く遊んでいる中、輪に入れずどうしたらいいかわからないような顔をしていた。

 

「よし、話し掛けよう」

 

 俺は何を血迷ったのか、それとも今世でも友達を作れない事への必死の抵抗なのかその子の元へ歩き出した。

 慣れない事はやるべきではない。その子が一人でいて、可哀想で見ていられないという誰も求めてない正義感が湧いてしまった事を感情のドーピング剤として俺は今歩いている。

 人は野菜……野菜だと思えば、少しは気が楽になるはず。

 

 その後、俺はいっときの感情に身を任せるべきではないと激しく後悔した。

 

 

「おい」

 

 前世22年間生きてきたとは思えないぐらい酷い話の掛け方だ。

 女の子だよ? 精神年齢は断然こちらが上なのに情けなくて仕方ない。

 背後から話しかけられ、体をビクッと跳ねさせた女の子は真っ青な顔をしてこちらを振り向いた。

 

「ヒェ……」

 

 俺の顔を見るや否や、女の子は顔を真っ青にさせながら小さく悲鳴をあげる。

 微かに聞こえる程度の悲鳴だけど、たしかに聞こえた。陰キャは耳がいい。わからんけど。

 無愛想な顔で「おい」なんて言われたら怖いよね、ごめんね。でも、人の顔見て「ヒェ……」はやめて、泣くから。

 

 しかし、折角行動に移したのだから俺は俺の責務を果たす。

 言え……言うんだ、言え!! 何かこの子に明るい気持ちを提供できる王道系主人公みたいな言葉を!

 

「しけたツラして突っ立ってんじゃねえよ」

 

 違う。

 本当は、そんな悲しそうな顔してそこにいないで一緒に遊ぼう的な事を言いたかったんだ。

 嫌な汗が全身から流れる。

 やってしまった感と恥ずかしさから急に体温が上がる。

 暑い、ここサウナ?

 

「ーーーー」

 

 女の子は一気に顔が白くなり固まってしまった。

 掴みは大失敗に終わった。

 

 あ、そういえば俺の顔見てから真っ青にして悲しそうな顔してたんだった。

 余計な事を考え、余計な事をした。嫌悪感から生まれるそのなんともいえない感情から現実から逃げたくなった。

 

 その日俺は泣いた。

 

 

 まあ、そんな感じで仲良くなり、先ほど話した女の子『後藤ひとり』は、俺と同じ学校に通う見ていて退屈しない、俺の唯一の親友である。

 

「ひとり、帰るぞ」

 

 机に突っ伏しているひとりに俺がそう告げると

 

「……あ、はじめちゃん……」

 

 こちらを向くひとりの顔は、この世の終わりとも言えるほど絶望に満ちた暗い顔をしていた。

 そういえば、今日やけにバンドバンドした如何にもロックに興味あります的な格好で来てたな。

 少し考えてひとりのその奇行の目的を理解した。アニメ一話で見たからね。

 

「……また『みんな私に話しかけて作戦』失敗したのか?」

 

「た、他力本願ではダメと理解してたはずのに……また同じ過ちを私は……ああ、同じことを繰り返す私は……ダメな人間です……」

 

 ひとりの世界に入ってしまった。

 またイマジナリーフレンドやら、人生ゲームのような図を想像して、最終的に自分の行き着く最悪な未来を考えているのだろう。

 

 

 はあーーーーー、かわい。

 俺はバレない程度に息を吸って吐いて心でそう呟いた。

 

 ここまできたらわかるよね?

 

ーーそう、俺は【ぼっち・ざ・ろっく!】の世界に転生していたのだ!

 

 ぼざろ主人公のひとりとは同じ高校だけでなく、同じクラスになった。

 まあ、あの素敵? な出会いから付き合いも長く、お互い友達は俺達以外いないというとてつもない仲良しさんである。

 

 

 こんぐらっちゅれいしょん。

 おめでとう俺ーー

 

 その場で天を仰いで、静かに息を吐いた。

 

 俺はその日、また泣いた。

 

 

 

 これは、俺がぼざろ世界で主要キャラを眺めつつ絡みを邪魔しない! そして堪能する物語である。

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