はじめちゃんは堪能したい   作:junnama

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誤字脱字報告宜しくお願い致します。

 


ママ登場

 

 

 

 

 ーー春の暖かな風が吹く中、高校生活は入学してから一ヶ月が経った。

 

 俺の名前は『孤幸はじめ』

 今年、無事受験に合格して高校に入学した普通の女子高校生だ。

 

「ひとり、帰るぞ」

 

 後ろを振り向き、1人の少女にそう告げた。

 その少女は、全身ピンクのジャージを着ていて、ちゃんとした制服姿は入学式から見ていない。

 その少女の名前は『後藤ひとり』

 名簿順からして俺の席の後ろにいる。

 

「は、はじめちゃん……私はまた失敗を……うう」

 

 このひとりと言う名の少女、気付いた時からずっとブツブツと言いながら机にどんよりとした雰囲気を出しながら突っ伏している。

 

「……『話しかけて大作戦』は前に玉砕したろ。なんでまた……」

「うう……き、昨日、高校でギターできる人いないかなっていうコメントを動画内で見たから……これだけロックにき、興味あります的な格好してたら、もしかしたらって……」

 

 それを聞いて俺は納得した。

 ひとりは『ギターヒーロー』という名で、弾いてみた的な動画をサイトにあげている。

 中学からずっと練習をしてきたことから、ひとりのギターは素人が聞いても上手だと思えるだろう。

 

 しかし、この女……友達が俺以外いないのだ。

 ひとりと俺の出会いは、幼稚園の時だ。

 ここで俺の話を一応しておこう。俺はとてつもなく無愛想で、モノをはっきり言ってしまう性格から、幼い時から怖がられて一緒に遊ぶ友達なんていなかった。

 幼い時から「俺」という一人称で、不信感をもたれたり、不意に俺からはっきりと言われる言葉の刃物から怯える子達はたくさんいた。

 別に「俺」と言う一人称は変えようと思えば変えれるけど、女の子らしさを残して男に負けない自分を育てようと思った結果だから後悔はない。

 幼稚園の頃からそんな他愛のない目標を掲げていたお陰で、男の子だけじゃなく女の子に不審がられ、遂には友達ができなかった。

 

 いつものように「鬼ごっこする人この指とーまれ!」という高々に挙げた指を見つめていた。

 そこでまた1人の女の子が視界に入った。

 その女の子は、また仲間外れにされている訳ではなく、いつの間にか1人になってしまう程、1人になってしまう事が当たり前のような存在だった。

 

 俺はまるで一番星を見つけた時のように、その子を見て気分がとても高揚したんだ。

 何故、みんなその子に話しかけないのかと疑問に思う。

 手を伸ばせば、話しかければ、星に触れられる存在がそこにいるというのに。

 

 いつの間にか、そんな風にそのような事を考えていたら、その子の元へ歩き始めて話しかけていた。

 この行動にどういう意味があるのかは、自分でもわからない……けど、アニメの主人公だからとか、推しだからとか、そういう色眼鏡で見ているわけじゃなくて……

只々、この子を1人にはさせたくないと思った。

 

「なあ、俺と遊ぼ」

 

 その子は、いきなり話しかけてきた俺に一瞬固まりながらも、慣れない笑顔でそれでも幼い少女らしくーー

 

「ーーう、うん!」

 

 そう頷いてくれた。

 そして、初対面から幾度となく失敗を重ね、距離を縮め今日に至るわけだ。

 

 

――――やっぱ今思い出しても可愛いなっ!!!!

 

 

「はじめちゃん……私にはこの世が残酷に見えて仕方がない……」

 

 机から頑なに動かなかったひとりを無理やり動かし、俺達は近所によくあるような公園でブランコに座って道草をくっている。

 今日の出来事を引きずっているひとりは、絶望した顔を下に俯かせ暗い声音で未だに回復する見込みがない。

 

「……いいか、ひとり。この世には友達100人作れる人間と作れない人間に別れているんだ……俺たちは間違いなく後者、しかもお互い1人だけ。後者であり、義務教育を終えた俺達に、他力本願はもう通用しなくなる頃だ」

 

「……つまりもういい加減自分から話しかけにいけよ……ってことですか……」

 

「そういうことだ」

 

「ぐぐぐ……は、はじめちゃんは話しかけたり、しなくていいの? それに……私に友達ができたら寂しいんじゃ……」

 

 寂しいか寂しくないかと聞かれると、別にそうでもない。ひとりに俺以外の交友関係が増える事はこの先を考えるとメリットが多い。

 それに俺は自分から話しかけても、表情筋が動かない無愛想なことから、相手から離れていってしまう。

 その事をひとりに伝えると、思った返答ではなかったらしく、指をもじもじとさせながら俺を見てボソボソと話し出した。

 

「そ、そういうことじゃなくて……はじめちゃんも傍に……」

 

 いまいちひとりの真意が理解できず、どういう事だ? という顔をしたが、ひとりは少し言い淀んで「やっぱり何でもない……」と言って顔を俯かせてしまった。

 

 俺は、ひとりをひとりぼっちにさせないとあの日誓ったんだ。

 承認欲求高いくせに自信がないことから上手く本領を発揮できない友人に正直な気持ちを告げてみる。

 

「ひとり、お前は可愛い」

「ーーえっ!? なななな、何急に……?」

 

 いきなりそう告げた俺にひとりは、顔を赤面させて動いていないブランコでも落ちそうなぐらいに体を動かし動揺する。

 さすがに危ないので、落ち着くように施し改めて告げる。

 

「ひとりは可愛くてギターも上手なのに、見せる機会がなく、注目されず1人になる事が当たり前みたいになってる。まるで……そうだな。飲み切った空き缶は捨ててなくなるが当たり前、みたいに」

「……あれ? 高揚した気持ちからなんで奈落の底に落とされてるの? た、例えもわかりにくい……! わ、私を落ちてるゴミを拾って捨てるのが当たり前! ……みたいに言うのやめてよ……!」

「……違う、そうじゃなくて……俺が言いたいのは、ひとりは一番星で、気付いたら星が無数に輝いてどこにひとりがいたかわからなくなって、探していたのに気付いたら忘れて消えていた……みたいな感じのことを言いたかったんだよ」

 

 我ながら酷い例えだと思う。

 上手く言えないが、気付いたらそうだったっていうのがひとりの現状であるからして間違いはないだろう。

 元気付けようとしたつもりが、意外と貶してる事に気付いて、これはやってしまったか……と思ったが、ひとりの方を見ると何故か嬉しそうに、人間の体の構造ではできないナメクジのようにウネウネした動きをして、だらしない顔をしながら喜んでいる姿があった。

 

「い、一番星って……はじめちゃん、大胆……ですね。へへ、へへへ……」

 

 女性としてそのへへ、という異様に音程が波打つような笑い方はどうなのか。

 それにこいつ、「一番星」という言葉だけ聞いて後の方聞いてないな。

 昔からそうだが、ひとりはよく自分の世界に入って会話をしている。側から見たり聞いたりするとヤバいやつだが、俺は付き合いが長い事から慣れているので別に問題はない。

 

 ひとりのイマジナリーフレンドと会話をしている様子を見ていると、後ろから「あ!! ギターーー!」という可愛らしいこのどんよりとした場を浄化せるようなハツラツとした声が響いた。

 声がする方へ振り返ると、長いサイドテールで頭頂部には三角定規のような毛が立っている女の子がこちらへと走って来ていた。

 

「それギターだよね? 弾けるの!?」

 

 怒涛の勢いと質問がひとりに投げつけられる。

 話しかけられたひとりの方へちらりと目を向けると

 

「……! ……」

「あ、あれ? おーーい?」

 

 案の定固まり、女の子もひとりを心配して声を掛けながら顔の前で反応を確認するかのように手を振る。

 

「あー……すまない、俺以外と話すのは久しぶりなせいか、声が出ないみたいだ」

「え!? あ、そうなんだ……はは」

 

 このままじゃ話が進まないと考えて助け舟を出した。

 俺のこの説明は正常に生きている人からしたら驚くべき事なのだろうが、女の子も少し戸惑いながらも納得してくれた様子を見て伺える。

 この子、すごく人当たりも良くて知らない人へ話しかけるコミュ力は、ひとりにとって未知の世界を生きる人物である事は確かだな。

 ただ、俺という一人称に不信感を抱くはずなのに、それを顔に出さず……かつ、ひとりの失礼な反応に対してそれを受け止める肝と器のデカさ……この子、絶対いい人だ。

 

 若干顔が引き攣ってはいるが。

 

「あ! いきなりごめんね。私、下北沢高校二年の伊地知虹夏! よろしくね」

「先輩だったんですね、すみませんタメ口で。俺は秀華高校一年の孤幸はじめです。伊地知先輩、よろしくお願いします」

「全然いいよ〜! 丁寧にありがとうね。名前も呼びやすいように呼んで構わないから! 私もはじめちゃんって呼ぶね!」

 

もちろんーーこの子がぼざろの主要キャラ、みんなのオカンこと虹夏ママだという事は重々承知している。

こちらが一方的に知っているだけなので、ある程度の社交辞令は必要だろう。

 いやまあ。知っていたが、すごくいい人だ。そんで可愛いなこの子も!

 ひとりと話してばかりの日常なので、世の中には色々な人に溢れいるのだと強く実感した。

 この先輩から放たれる笑顔からの強烈な光は、ドラキュラもお手上げなのでは?

 

「ありがとうございます。じゃあ、虹夏」

「丁寧な態度からの距離の縮め方が凄いねっ!? ーーて、ああ違う……ギター持ってる子の方もそろそろ大丈夫かな?」

「仕事人やなぁ」

「え?」

「いやなんでも」

 

 虹夏の鋭いツッコミから、すぐさま切り替えるように隣で破顔し未だに固まっているひとりの事を気にかける。

ちょっと休んでもいいのにすべてを回収しようとする虹夏ママ……

 そんないい子を困らせるわけにはいかない。何か用事があるのだろうと、ひとりに早く帰って来てもらうように肩を揺らし、やっと夢から現実へと帰ってきた。

 

「う、えええ、あ、ご、後藤……ひとりです……はじめちゃん、と同じ高校と、学年です……」

 

 消え入りそうな声でも、ちゃんと自己紹介できた事に成長を感じる。

 頭を撫でてやると、「えへ、えへへ」という不気味な照れ方をするひとりと俺の一連の行動を見た虹夏は、また少し顔を引き攣らせてしまった。

 

「そういえば、ひとりに何か?」

 

 俺がそう問いただすと虹夏は思い出したように、首激しく上下に振り肯定する意を示す。

 

「そう! 私バンドやってるんだけどさ!」

「(バンド!?)」

「ひとりちゃんはさ」

「(いきなり名前呼び!?)」

「ギターどのくらい弾ける?」

「あ……そこそこかと……」

 

 テンポが良さそうに話は進んでいるが、これ虹夏のお陰で会話できてるなという光景がはじめの前で繰り広げられる。

 虹夏が端的に自身の紹介や問い掛けをしてくれているお陰で、キャパオーバーして人の話を聞かなくなるひとりでさえ聞き取れいてる。

 

「(やっぱ凄いなこの子。ひとりと会話をしている)」

「お願い!! 今日だけサポートギターしてくれないかな!」

 

 と、感心して考え事をしていたら話が少しだけ進んでしまっていた。俺も人の事は言えないなと反省をする。

 虹夏が何故、そんな申し出をしたかというと、本日虹夏が組んでいるバンドがライブをやるらしい。だが、本番当日、ギターボーカルの子が突然辞めてしまったという、なんとも災難な出来事だった。まあ知ってたけど。

 そんな頼みに対してひとりは、当然固まって返事ができていない。

 これは、多分心の中で悲鳴をあげているな、と考え……面白いからそのままにした。

 

「ありがとう! 早速ライブハウスへGO!」

「(へ!? まだ何も言ってない……)」

「ぷっおもろ」

 

 まるでコントをやっているかのようなリズムでひとりを手懐ける? 虹夏に対して、とてもいい印象を持った。

 そんな虹夏は、俺の事も気にかけてくれていたようで「はじめちゃんも行くよ!」と言ってくれた。――ええ子や……涙ほろり

 

「本当は良くないんだけど、今回はイレギュラーだからライブチケットのお金はこっちでなんとかするね! ひとりちゃんもはじめちゃんがいた方がいいだろうし……」

 

 そう言った虹夏は満面の笑みで俺に説明してくれた。俺がいた方がいいという言葉にも、ひとりは激しく頷き、この子本当に気遣いができていい子だな。

 よし、この不安定な生命体後藤星人の保護者として着いて来て欲しいという事だな、と虹夏の目を見て即座に理解してその説明を受けて了承した。

 

 俺とひとりは、公園を出てから虹夏の後に続きライブハウスへ向かっていた。

 虹夏は、先程から一目置いているコミュ力を遺憾なく発揮し、ひとりへと話しかけているのだが、ひとりの落ち着きがなく、ソワソワとまた何やら百面相している様子が見て伺える。

 

「ひとり、落ち着け。大丈夫だから」

「あ、うう……わかってるけど、いいい、いざライブハウスに向かうとなると、心臓がやばくて……」

 

 ひとりが顔面真っ青にしながらそう答える。

 まあ、たしかに。いつも薄暗く自分の手元しか見て演奏していないひとりからしたら、いきなり知らない人達のバンドでお客さんに演奏するってのも、中々度胸のいる事だと思う。

 

「ごめんね! ライブハウスはもうすぐだから!」

「すまんな、道案内してもらって」

「全然! むしろこっちこそごめんだよ! 初対面でいきなりあんなお願いされたら困るよね〜今度から気をつけよ」

 

 俺と虹夏は他愛のない話を続けてライブハウスへと歩く。

 しかし、ひとりが先程から虹夏の匂いを嗅いだり、自分の匂いを確かめたりという……側から見たら変態みたいな行動を取っていた。

 

「歩くの早い?」

「い、いえ」

 

 そう聞かれひとりはバッと違う方向へと顔を向ける。虹夏はよく話しかけてくれているが、ひとりは極度なコミュ症のせいか、いっこうに虹夏と目を合わせないで会話が続く。

 

「私は武道館をも埋めた女……」

「え!?」

「すみません、ほんとに悪い奴ではないんです……」

 

 こんな風にひとりは一人の世界に入る。

 さすがに虹夏も困るだろうと思い、ひとりを現実へと引き戻し陳謝する。

 折角、ひとりの隣に来て会話を続けてくれる虹夏も「頼む相手を間違えたか……?」という微妙な顔をして目的地のライブハウスへと着いた。

 

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