煙る盤上   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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本来だと緒方さんと名人の十段戦の最中に名人と佐為が対局しますが、十段戦の後に名人が倒れたことになっています。悪しからずご了承ください。


sai vs toya koyo

「参りました」

 

 緒方さんとの十段戦。

 最終戦の第五局まで縺れたタイトル戦。どこか集中しきれなった一局目。そして何より勝ちにこだわる怒涛の巻き返しをさばききれず、タイトルを決めきれなかった四局目の敗戦が響き、結果タイトルを緒方さんに渡してしまった。

 

 緒方さんはこれで初めてのタイトル。

 惜しいところまでは進んでいたもののどこか勝ち切れず、棋界の二番手集団のような立ち位置から一足早く飛び出すことができた。

 

「やっと、一つ目」

 

「おめでとう緒方さん。結局四局目で勝負を決めきれなかったのが全部かな? ここまで自分を出せて負けたのは久しぶり」

 

「どれだけお前のことを研究したと思ってる」

 

「研究というか、執念だね。ここまで行くと」

 

 何が何でも勝つ。そんな強い意志が現れた三局目から一気にレベルを上げた四局目。

 序盤攻めていたはずの形勢が、防御を捨てた緒方の攻め手によってどんどんと受けに回らざるを得ず、結果3目差で負けた時点で嫌な気がしていた。

 

 珍しく桑原の力を借り真正面から戦い合う乱戦を行い、また最終局でも攻めてくるであろう緒方を想定した研究もおこなったが、それでも届かなかった。

 

 慢心でも何でもなく、ただ純粋に俺自身の力が足りていなかった。それが答え。

 

十段戦(これ)に力を入れ過ぎて本因坊戦は落ちたが、来年はお前から本因坊も貰うぞ」

 

「ははは。言ってなよ。本因坊だけは誰にも渡さないから」

 

 そんな感じで終わった十段戦だが、一難去ってまた一難。

 

「今度、佐為と名人がネット碁で戦うことになりました」

 

 その一報を受けたのは、タイトルを落とした数日後だった。

 

 ついに来たか。始まってしまうのか。

 当日まで続いたその気持ちのまま、俺はパソコンの明かりを浴び、まもなく始まる対局のことを考える。

 

 ヒカルと塔矢名人の新初段シリーズの結果から、おそらく知っている流れをたどることは知っていた。そして、これから始まる対局も、記憶の中で何度も研究したあの一局になるのだろう。

 

 佐為がやりたいことをすべて受け入れたように意に沿いながら、真綿で首を絞めるかのようにじわじわと一手ずつ追い詰める塔矢名人。これぞ塔矢行洋というような重厚な手を見せた一局は、プロを引退した以降の対局を含めても彼を象徴する一局だったと俺は思っている。

 

 対局時間はヒカルから教えてもらっていた。

 壁の時計を確認し、そろそろ始まるかというときに先にログイン状態になったのは名人のアカウント。続いてsaiが現れると二人の対局が始まる。

 

 何百回も繰り返し研究した一局。何も見ずそらで一手目からなぞれるほど研究した一局が始まる。

 そして、ヒカルに神の一手を見せた一局が、佐為が消滅する一番の原因となる一局が始まる。

 

「はぁ......」

 

 思わずため息が出たその時、珍しく家のチャイムが鳴った。

 果たして誰だろうか。両親とはほとんどやりとりをしていないし、恋人もいない。直近でよくここにくるのはヒカルだが、本人はこれからネット碁がある。

 

 もう一度鳴るチャイムに苛立ちながらドアまで向かい覗き窓から向こうを見れば、そこにいたのは白スーツとおかっぱのストーカー2人。

 白スーツの方のストーカーが3度目のチャイムを押そうとしたが、その前にドアを開いて無理やり止める。

 

「塔矢門下がなんの用事? 今からネット碁しようとしてたんだけど……」

 

「お前のネット碁か。ちょうど良い。見せろ」

 

「すみません新堂本因坊」

 

「なんの用で来たわけ?」

 

「先生が心筋梗塞で倒れたのは知っているだろう? 十段になった報告をしに行こうと病院へ伺おうとした時アキラから電話が来てな」

 

「はい。どうやらネット碁をしてるらしいのですが、父がお母さんに誰も来ないようにと伝えてたらしくて。不思議に思って緒方さんに電話を」

 

「saiについてだ。上がらせてもらうぞ」

 

「許可取る前に上がるのやめろやインテリヤクザ」

 

 俺が許可をする前に玄関に押し入り、そのまま革靴を脱いで部屋へと入っていく。少し戸惑うそぶりを見せたものの兄弟子である緒方がズカズカと進むを見て謝りながらアキラが入っていく。

 

「何さ二人とも……。ふざけてんの?」

 

「ふざけてなどないさ。俺はお前とsaiと進藤ヒカルについて聞きたい。そのために来た」

 

「アキラもか?」

 

「……。はい……」

 

 思わずため息が出る。

 

 塔矢門下は猪突猛進な奴しかいないのか? そもそも無礼すぎるだろ。人の家にやってきてそのままソファーにどかっと座り、卓上にあるライターを使ってタバコを吸い始める緒方。

 確かに俺はへビースモーカーだからローテーブルには灰皿もライターも置いてあるものの、事前に連絡もなくやってきて人の話も聞かず家に入りタバコを吸う緒方を全力でぶん殴るかと真剣に考える。

 どこか申し訳ない気持ちはあるのか緊張したように顔を強張らせてはいるものの、それでも聞きたいことはあると強く目で訴えているアキラ。

 

「左手ならお前を殴っても良いよな?」

 

「悪いのは連絡もせず来た僕たちですがやめていただきたいです……」

 

「そんなことより、打たないのか? ネット碁を今からすると言っていたろう?」

 

「2人来て打てると思ってる? 邪魔しかしないでしょ? 特にヤクザが」

 

 それに、今から佐為と名人が対局する。それを見ないといけない以上他のやつと対局なんて全くする気はない。

 

「誰かと約束をしていたわけじゃないのか?」

 

「適当にやろうと思ってたし」

 

 とりあえずパソコンを置いてある部屋に行く前に、一応飲み物を出すために冷蔵庫を開ける。どうせ緒方はコーヒーなので、アキラには麦茶を準備する。

 

「飲むなら取りに来て」

 

 自分の分のコーヒーを入れたグラスだけを持った俺はそのまま2人を気にせずパソコンに向かう。

 ログイン状態で待っていた画面。隠しているわけじゃないので俺のアカウントであるTorajirouにはすでにいくつも対戦申し込みが来ているが、いくつかは待機時間が終わりキャンセルされている。

 

「ふん。誰と打つんだ?」

 

「後ろからごちゃごちゃ言われたくないから打たないよ」

 

 引っ切りなしにやってくる対戦依頼のことごとくを拒否するためにキャンセルボタンをクリックし続ける。

 

「新堂さん、これ……」

 

「sai……、だね」

 

 ログイン中のプレイヤー一覧の所に新しく増えたたった三文字のプレイヤー。

 ネットの海だけに生きる姿なき無敗の最強棋士。

 

「saiだと!? 見せろ新堂」

 

「良いよ。碁盤とか諸々後ろにあるから適当に座って。saiならすぐ誰かと打ち始めるでしょ」

 

「待ってください! 対局を始めてます! 相手は……、toya koyo!? お父さんがsaiと対局!?」

 

「面会拒絶はsaiと打つためか? なぜ......。何時saiと接触した!?」

 

「始まったばかりですね……」

 

「とりあえず並べよう。打たれたら俺が言うから」

 

 持ち時間は3時間の対局。先番は塔矢名人。

 じっくりと腰を据え名人の初手。そして対する佐為は俺の知っている手で返し始める。

 平穏に始まった出番を並べ、俺は一手が打たれるごとにその位置を2人に教え、二人は順番に石を置いていく。

 

「それにしても先生とsaiが対局する? saiはアキラとネット碁をして以降2年くらい出てきていなかったろう?」

 

「はい。それが突然……」

 

「saiはお前だと思っていたんだがな?」

 

「俺が手合いの日に現れたりしてたから、だいぶ前に疑いは取れたと思ってたんだけど? まあ良いや」

 

「打ち方はお前に似ているがな。相変わらず」

 

 何度でもいうが、佐為も俺も秀策流の打ち手。それは仕方ない。秀策である佐為から碁を学び、佐為が消えて以降も佐為の痕跡を残すために戦える秀策流を研究し続けていたから。

 

「ふむ。あまり動きはないな」

 

「様子見の序盤ですね。それにしても、お父さんはかなり慎重に打ってる」

 

「ネットの棋士とは言え名人が警戒するに足る存在ということか。……やはり打ちたいな」

 

「saiの真似をして打とうか?」

 

「本物じゃなければ意味がないだろう。お前は秀策の亡霊と対局して秀策と打ち合ったと誇れるか?」

 

 誇れるよ。秀策の亡霊じゃなくて本物の秀策なんだから。

 

「動きましたね」

 

 明らかに挑戦する一手を佐為が打つ。

 名人もその思惑や意図を理解しているだろう。そしてそれに対して少し時間を空けて打った名人の一手は佐為の思惑に乗る。

 

「これで良いのか?」

 

「悪くないよ。ボウシからの攻め方が決まれば真綿で首を絞めるように佐為の形勢が悪くなる」

 

「saiの優勢が崩れますか?」

 

「重厚な受けを展開しつつ相手を追い詰める。それが名人の碁だよ。惚れ惚れする」

 

「かなり細かくはなりそうだがこのまま行けば名人方が優勢だな」

 

「黒が手厚くすれば負けないとは思いますが、このままsaiが終わるとは思えないです。絶対に相手を読み切ったような、遥か上からの一手をどこかで打ってくる」

 

「だがこの状況でどこに打つ?」

 

 定期的に手が止まる対局の中、佐為は対局の分かれ目と判断し長考する。

 佐為の持ち時間はすでに1時間ほど使われているが、それでもまだ時間を使い有効な最善手を探している。

 対して名人の持ち時間はまだ2時間と少し。かなり先を読んだ手を返してはいるが、想定通りなのかあまり時間を消費してはいない。

 

 完全に手が止まった場面でタバコに火を着け、2本、3本と消費する。

 

「saiもかなり時間をかけるな」

 

「まあ、大ヨセになってある程度進んでるし、そろそろ逆転の足がかりがないと佐為もキツイ」

 

「言いますが本因坊、ここで黒を攻める有効な手があるとは思えません。お父さんの方がわずかにではありますがやはり優勢ですよ」

 

 確かに名人は強い。

 現役のプロ棋士の中でまともに戦えるのは俺くらいだろう。戦績もどっこいどっこい。俺が進藤ヒカルだった頃は緒方さんが名人から十段を奪ってはいたから、次点で緒方さん。座間さんや畑中さんも戦えはするが評価としては一段落ちるだろうから緒方さんと同じレベル。

 

 そんな日本囲碁界のトップにいる名人を上回るのが佐為。

 過去の棋士の中で最も強いと称される本因坊秀策の正体。それがsaiとして戦い、また俺とヒカルの指導碁をみたりと現代の打ち方を勉強している以上鬼に金棒の状態だ。

 

 名人を相手に勝ったり負けたりとぶれはあるだろうが、10回対局すれば7回は勝てるだろう実力だ。

 

 それを俺は知っている。

 

「俺が佐為なら……」

 

 パソコンの前から移動し白石を取る。

 打つ場所はわかってる。どこに打つか、どうすればこの一手を超えられるかも考えたことがある。

 佐為のこの一手以上に有効な手はないと俺の中では結論が出ている。完璧な一手はこれしかない。

 

「ここ」

 

 二人の横からパチっと良い音を立てて二人に見せる。

 

  っ!?」

 

「これは!」

 

 モニターを見てみれば、saiが打った一手は予想通りのもの。

 取れず、黒地を抑え、薄くする、これしかないと言う一手。

 

 二人は返す手を考えているのだろう。途端に黙り込み盤上を見つめる中、佐為が置いた一手、つまりは先程の一手の位置を伝える。

 

「新堂、お前は見えるのか?」

 

「見えるって?」

 

「この後だ……」

 

 火を揉み消した吸い殻を灰皿に置いた俺は、再びデスクチェアに体を預ける。

 

「まあね」

 

 見えると言うよりも知っていると言うのが正しいが、それでもこの後の展開はわかる。大ヨセを進めるものの、名人の手はどれも佐為を超えない。

 

「悪手じゃない。名人の手はどれも悪くない……、が」

 

「僕には互角に見えますが……」

 

「名人の方が、わずかに悪い」

 

 ここからの細かい手順を読みきれば、複雑で間違えやすい小ヨセの結果は名人の半目負け。名人も、佐為も、緒方もそこに気づいている。

 佐為ならこの小ヨセを間違えない。一本道の結末を間違える程度の実力ではないことを、対局を通して名人は気づいている。

 

「絶対に名人に巻き返す場所はあったはず」

 

「でも緒方さん、お父さんの手はどれも……」

 

 名人の長考の間盤面を食い入るように見る2人だが、名人が投了をしたことで対局が終わる。

 

「名人が……、負けた?」

 

「お父さんが、saiに……」

 

 今頃ヒカルが逆転の一手を佐為に伝えているだろう。

 そして、佐為の止まった時が動き始める。あの逆転の一手がきっと神の一手に近しいものなのだろう。

 

「驚いてるところ悪いけど、名人が逆転する一手はあったよ」

 

「なんだと!?」

 

「あるよ。確実に。まあ、十段は説明しなくても気づくか!」

 

「テメェ……」

 

 青筋を立てる緒方だが、どこかあきらめたように新しいタバコに火を着けた。

 

「本当にあるんだな? 名人が逆転する手が」

 

「あるよ。きっと今頃佐為も気づいてる。たぶん打ってたら気づかないくらいから、対局が終わって、勝った余韻から目が覚めたころに気づく」

 

「なら……、ならまた考えるさ。それに俺が気づけるようになれば名人にもお前にも俺は勝てる。十段戦の時みたく」

 

「何でもいいよ。強い相手と対局できるなら碁打ちとしてはありがたいからな。それより、saiの話ってのは? 検討は俺1人でしたいからやらないよ?」

 

「良くはないが、まあ良い。正直この対局に関しても色々思うことはあるが、お前が言う逆転の一手も気になるが、一度置いておこう」

 

 アキラはまだ父である名人が負けたことが信じられないのか俺たちの話を聞ける状態ではない。だからこそか気にしていないのか、緒方は口を開く。

 

「新堂。お前と進藤ヒカルとsaiは繋がっているな? 知り合いとか友人のような簡単なものじゃなく、師匠と弟子のような関係性だろう」

 

「いやいや。俺がヒカルのことを初めて知ったのはあいつが若獅子戦に出る前くらいだぞ? 同じ名前のよしみで何度かは指導碁を打ったりはしたけど別に俺が師匠ってわけでもないし、桑原門下の弟弟子ってわけでもない。たまたまあの子も秀策流に似た手を打つけど、俺よりも秀策に近い打ち方をしてるくらいだし」

 

「だが、名人の見舞いに進藤ヒカルが来ていた。そしてその後の今日。saiは再び現れ名人と対局をしている」

 

 どこか確信めいた言い方をしてはいるが、俺に言わないでほしい。 

 進藤ヒカルとネット棋士saiに繋がりがあると踏んでいるなら進藤ヒカルに直接話を聞くべきだ。俺にわざわざ聞く必要はない。

 

「お前は桑原門下ではあるが、他の門下の人たちから聞くに最初から強かったと聞いている。桑原先生と出会ったのは小学校の頃なのに。そして進藤ヒカルも初めてアキラと対局したときから強い」

 

「だからって俺と同じって? 昔とは言えアキラに勝つような子供が急に弱くなって院生になるか? それならさっさとプロ入りするだろ?」

 

「だが、本当の実力を常に出せない事情があればどうだ?」

 

「それは無理があるよ。条件とか事情とかで全力を出せないとか普通じゃない」

 

「saiも普通じゃないさ」

 

「saiの……。saiの打ち筋を見て、初めて進藤と打ったあの指導碁を思い出すんです。洗練された綱渡りのようにギリギリの攻防を行う白石の中に、石の持ち方も知らずに親指と人差し指で黒石を持っていた進藤が浮かぶんです……」

 

 アキラの奴、この時にはある程度予見はできていたのか。だからあの対局の時に俺の中にsaiがいるって言ったのか。

 

「さあ。俺はその指導碁のことは知らないし、名人にヒカルが見舞いに行ったとかも知らないからわからない。俺から言えることはないよ。ネット碁でsaiと対局したくて何時間もログインしていたこともあるけど、一回も打てたことないし」

 

 その代わり資料室で何回か打ってるけど、記録に残る場所で対局はしていない。

 

「ネット棋士saiと俺は繋がりなんかない。ヒカルとは指導碁を打つ間柄ではあれどそれ以上でも以下でもない。資料室に来るから息抜きに相手する程度の関係だよ」

 

 俺の言葉を信じてはいないだろう。

 アキラは俺のことを見てはいないが、俺の目を見る緒方の目は疑うような眼をしている。

 真実を探そうと必死になった眼をしている。

 

「聞きたいのはそれだけ? ならそれの検討したいから帰ってくれる?」

 

 つまらん問答に時間を割けるほど俺に余裕はない。

 俺の時と同じ流れでこの対局が組まれていたのなら名人は引退する。ともなれば名人位は空位になるし、挑戦者決定戦がそのままタイトル決定戦になる。

 ここ数年塔矢名人が持ち続けていたタイトル。欲しい棋士は多い。座間さん、一柳さん、畑中さん。気にしないといけない棋士は多い。それに、本因坊戦で向かい側に座るのは倉田さんになりそう。

 

「今日は帰ってやる。それに進藤を問いただすが、それでもお前ともsaiは繋がりがあるはずだ。これで終わりだと思うなよ」

 

「そこまでして誰がsaiなのか知りたいの?」

 

「ああ。なぜこれほどまでに強いのか。なぜそこまでの強さを持ちながら表舞台に出てこないのか。興味は尽きないさ。奴が碁を打ち続ける限りな」

 

 全く。これだからストーカーは嫌なんだ。

 

「なんでもかんでも緒方さんのために動いてると思わない方が良いよ。世界はそれぞれがそれぞれの事情・思惑で回ってるんだから。その感情は崇高なもんじゃない。ただの強欲だ」

 

「強欲にもなるさ。俺はお前と違い凡人だからな。強くなれる可能性があればなんでもかんでも自分のものにする。アキラ。帰るぞ。こいつはもう何も話さん」

 

「緒方さん……。突然押しかけてすみませんでした。失礼します本因坊」

 

 緒方さんとは違って一礼してから家を出ようとするアキラに一言声をかける。

 

「ヒカルのことを知りたかったら、あいつのことを信じてやるしかないぞ」

 

 緒方さんはすでにドアの向こう側。だからこそアキラに伝えた。

 

「お邪魔しました」

 

 言葉を噛み砕いたのかもう一度繰り返したアキラは、再度頭を下げて部屋から出ていった。

 

「あとはどんな別れ方をヒカルがするかだな」

 

 叶うなら、悔いのないサヨナラを。

 あの対局が完成することを願う。

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