「本因坊」
「どうしたの倉田さん。珍しく考えこんでるね」
「ちょっとな……、進藤が我が儘を言ってるんだよ」
「あれでしょ? 高永夏と打たせろって言ってるんでしょ?」
やっぱわかるよな。なんて倉田は言うが、この流れはかつて自分が通った道だ。知らないわけがない。
「王との副将戦。序盤は緊張からか碁の形も悪かったけど、後半の追い上げや勝ちにこだわる姿勢は良かった。爆発力もあるから評価もしてる」
「まあ、だからと言って勝てると言えないな」
それがヨンハとヒカルの実力に対する評価。贔屓目に見たとしてもその差は大きい。倉田は俺の言葉に頷いてから、これは独り言だ。なんてわざわざ言葉をつけてポツポツと彼自身の考えを溢す。
「この北斗杯って、日中韓の若手棋士の交流っていう部分がメインってのは理解している。でも、面白いことやってるなら俺は絡みたい。面白そうなことは全部やりたい。そう思って俺は今回団長を引き受けた」
「うん」
「でも、これは遅れてしまっている日本棋界が中国と韓国に追い付けるチャンスなんだってことも理解してるんだよ。だから、あいつら三人が成長できるように見てやらないといけない。ただ、優勝候補は韓国だし、韓国でタイトル争いまでしてるような奴が大将として出てくる」
日本チームの大将である塔矢はタイトルリーグに所属できるほどの棋力は持っているが、それでもトップクラスの面子が集まるタイトルリーグの中では下位。挑戦者になれるほどの実力はまだ持っていない。
ヒカルもまだ成長段階。俺とは違いしっかりと手合いに出ていたこともあり二段に昇格してはいるが、まだまだ足りない部分が多くある。社は言わずもがなだ。
「進藤が中国・韓国の副将にまともにやりあえたらまだ分からないが、下馬評は3位だし、正直俺自身も3位じゃないかって思ってる」
塔矢はすでに日本のトップ棋士と対局しているし、今後国際棋戦にも出るだろう。それなら、勉強のためにも進藤をヨンハと対局させる意味はあるだろう。
「社とヨンハだと格が違い過ぎて文字通り捨て駒になる。それなら進藤の方が対局として成り立つし、ハメ手が決まる可能性だってある」
「博打すぎない?」
「てっきり、本因坊なら進藤を推すと思ってたんだけど?」
「別に、俺はあいつの父親でも兄貴でもないし師匠でもない。面倒見てるのは事実だけど、レールを作るのは俺の仕事じゃないし、あいつもそれは望まないよ」
ヒカルは自分で草むらをかき分けながら進み続けるしかないし、俺は道具は渡せど使い方なんか教えてはいない。佐為が消えた5月5日以降俺はヒカルが道を逸れないように注意程度のことはしたが、何かを止めるようなこともしていない。今日この日まで、あいつはあいつ自身が決めた道を選んでいる。
「団長は倉田さんなんだから倉田さんが自分で決めて。それでヒカルがヨンハと対局できなかったとしてもそれはヒカルの実力不足。碁と言葉で説得できなかったヒカルが悪いよ」
対局場所や解説会場近くでは灰皿が設置されておらずタバコが吸えないため、俺は係員に喫煙ができる場所を確認してそちらに向かう。日本対韓国の対局開始まではまだまだ時間がある。今は関係者同士が挨拶しているだろうから、そんな場所に行けばタバコを吸ったり自由なことはできない。
「ふぅ~。どうしたもんかね」
『おい……』
タバコを吸いながらここからの展開を思い出そうと頭を悩ませていると、最近聞いていなかった言語が降り注ぎ、目の前に影ができる。
『シンドウヒカル ホンインボウ だな』
『誰かと思ったけど、お前か。なんか用?』
『驚いたな。俺たちの言葉が分かるのか?』
『全部じゃないが、日常会話と碁を打つのに困らない程度には勉強したよ』
現れたのは韓国チームの大将。少し赤みがかった髪に整ったルックス。さらには高身長と恵まれた容姿の男が俺の向かいに座る。
『韓国チームの大将がこんなところに居て良いのか?』
『関係ないさ。今は大人たちの時間だからな。それより聞きたいことがある』
聞きたいこと? とシンプルに聞き返すと、ヨンハは手短に2つのことを尋ねた。
『あんたと秀策の碁は似すぎてる。棋風も打ちまわしも何もかも。お前は何者だ?』
『何者って言っても、俺は俺だから答えようがない』
『フッ、誤魔化すか』
ヨンハは日本の碁をよく勉強している。秀策だけじゃない。道策や丈和なんかのこともしっかりと勉強し自分の糧にしている。
だからこそわざわざヒカルを煽るように「秀策は過去の存在」ということを強調した。
『まあ真面目に答えてはくれないと分かっていた。なら二つ目だ。……、お前と対局するにはどうすれば良い?』
『なんで俺?』
『トウヤ コウヨウが居ない今、日本で一番強いのはアンタだ。そんな奴と打ちたい棋士はたくさんいる。俺もその中の一人ってだけだ』
いたって真剣な表情でそういうヨンハ。高慢でありながら努力家である彼のことを知っているから、俺はヨンハが言った俺と打ちたい。という感情が嘘じゃないことを知っている。
『俺は安くない。打ちたかったらタイトルの一つでも取ってこい。俺は3つ。お前は0だ』
『ッチ! 上から目線か。不遜な奴だ』
『事実だ。確かに韓国は日本より上だが、それでもタイトル争いはしても保有はしていない奴と同じ土俵には降りれないな』
大人としての対応は崩さない。
別に意地悪をする必要はないが、それでもどちらが上かというのをはっきりさせる必要がある。
『なら、この北斗杯で優勝するのもタイトルになるな』
『そうだな。一応国際棋戦だからな。一回限りとはいえ』
『なら望み通り終わらせてやるよ。俺の勝利でな』
「できるならな」
席を離れたヨンハの背中を見て小さく溢す。
思い出すのは彼と打った半目差の一局。常に攻められ続け、猛攻を受け続ける中でもがき掴んだ結果は負けであり、かつてないほどの悔しさを味わった一局。
進藤ヒカルだった俺が世界に見つかり、そして俺という棋士に価値が付いた対局。
ヨンハと話す間灰皿に置いていたタバコは燃え尽きていた。
新しく取り出した一本に火をつける。
「ねえ……」
「どうした? そろそろ対局だろう?」
「その扇子、この対局だけ貸してくれない……ですか?」
右手に持つ白の舞扇子を見たヒカルが、俺に許可を求める。
そういえばあの時はすでに扇子を持っていた。
佐為が持っていた扇子と常に握る扇子を重ね、お守りのように心のよりどころにしていた。
「……。ふぅ……」
今のヒカルは扇子を持っていない。それは俺が持っているからなのかは知らないが、佐為と正しく別れることができた故に必要がなかったのかもしれない。
そんな中でこの扇子を求めたということはヒカルもこの扇子を佐為と重ねているのだろう。
通訳のミスによってではあるが、秀策を、つまりは佐為を馬鹿にされたことで、ヒカルはこれから一方的ではあるが敵愾心を持った相手と対局する。
「この扇子を持ってどうするつもりだ?」
「決まってる。本因坊が言ってくれてたからずっと決めてる。ヨンハがムカつくとか、ふざけんなとかいろいろ思うけど、その扇子はそんなことを思うためのものじゃないって知ってる」
「じゃあ、何のためだ?」
「
塔矢が大将としてヨンハと戦うはずだった。それをヒカルが我が儘を言って団長の倉田に直談判した結果、ヒカルと塔矢を入れ替えることとなった。
部外者として話を聞けば、進藤ヒカルというやつはなんと我が儘な奴なんだ! なんて自分のことを棚に上げて思ってしまうが、過去の自分と同じ流れなのは致し方ないこと。
唯一違うことは、ヒカル自身が囲碁を打つ意味を考えているということ。このころの俺は自分の碁の中にいる佐為を探すことに必死だったように思う。それが、新堂輝という存在と関わったことでこの対局後にヨンハから伝えられた言葉をもう知っている。
「この扇子を持つっていうことは、負けられないってことだぞ? 分かってるか?」
「覚悟はとっくの前に持ってる。本因坊のタイトル戦を見て再認識もした。俺は俺のために、あいつの為にも勝つよ。あいつに誇れる碁を打つ。そのためにも扇子を貸してほしい」
そこまで言われて貸さない選択肢など俺にはない。
だが、今回だけということを言い聞かせる。この扇子は俺のものであって進藤ヒカルのものじゃない。欲しいのであればヒカルが自分で購入し手に入れるべきだから。
「ありがとう。今回だけだから」
「一個だけアドバイス」
「何?」
「困ったら一回息を全部吐け。いつも言ってることだ」
目をぱちくりとしたヒカルではあったが、係員に案内され、他の日韓の棋士たちと共に対局室へと向かう。
誰しも大将の席に塔矢が座ると思っていた中でその位置にヒカルが向かう。スヨンはなぜ!? といった表情をしているし、日本棋院の職員や棋士たちもそのことに衝撃を受けたような顔をしている。
「足掻けよ。俺とお前は違うんだから」
タバコを吸い終えた俺も他の棋士たちが集まる関係者室へ向かった。
「おお、新堂本因坊」
「やあ皆」
「さすがの本因坊も気になりますか? ヨンハは」
「まあ、気にはなるな。そんなに遠くなく俺の前にも座るだろうし」
正当な評価ではあれど、自国の新星が褒められればうれしくなるもので、韓国チームの団長は顔を綻ばせる。
「打ち始めは問題ないな」
「本因坊はどう見ますか?」
「攻めのヨンハに対して守りのヒカルにはなると思うけど、ヒカルの棋風はもともと俺と一緒で受ける形が多いから相性的に悪くない。展開的にも難しい部分は多くあると思うけど、別に勝てない相手じゃないよ」
『それはヨンハを低く見過ぎですよシンドウ ホンインボウ。ヨンハはすぐにタイトルを取れる存在。申し訳ないが、日本の大将の実力じゃ止められない』
俺の言葉を楊海が韓国語で訳して安太善に伝え、彼の返答が再び楊海を通して返される。
もちろん普通で考えれば彼が言う言葉は正しいし、ヒカルがヨンハに勝てる要素はかなり少ない。
現に序盤ではあるがヨンハが打った一手により盤上は白が形勢有利になる。右にも左にも形が良く、どちらかに対処をすれば残った方を足掛かりに中央を攻める布石になる。
「やはり進藤は厳しいんじゃないか?」
「そうでもないよ。白を叩く形はあるし、今中央の利を取りに行くくらいなら一旦辺に無理やり押さえつけた方が劣勢の中でも余裕をもって中央で戦える」
ポケットに入れていたタバコは残り5本程度。カバンの中に新しい箱がまだ数個入っていたため俺は新しいのを一つ机の上に置く。灰皿もマッチも置かれているから禁煙ではないだろう。日本の棋士たちは俺がヘビースモーカーであることは知っているので、全く気にすることなく火をつける。
俺、一生タバコ吸ってるな。
「ヒカルは別に弱くないよ。読みの深さはタイトルリーグにいる人たちと比べても引けを取らない。経験は確かに少ないし、どうしても受けが多い棋風のせいで真正面から取っ組み合う力の部分が弱点にはなってるが、それでも棋力は十分育ってる」
「新堂君。タバコの吸い過ぎは体に良くない。いくら桑原先生の門下とはいえ、そんなところまで勉強してはいけないよ」
「あ、塔矢先生。来たんですね」
突如現れた塔矢行洋の存在によって話題がヒカル VS. ヨンハから、副将戦の中身に変わっていく。
俺は一人テレビを見つめ、ヒカルの進む先を見守る。
序盤戦ももう終わりを迎え中盤戦に差し掛かっている。
形勢は五分程度に持って行けたものの、それでもわずかの差でヨンハの方が有利だし、少しずつ抗う手を見せてはいるが、明確に形勢を逆転できるような一手は打てていない。
冷静でいなければならないが、攻め急ぐ必要がある。
『白を切りに来ましたか』
『悪い手じゃない。それは事実だが、この形を活かすところまでシンドウが持っていけるか?』
「今の飛び込みは悪くない。中央に厚みが出た」
塔矢先生がヨンハの出方を示す中、白の勢いがわずかに抑えられる。
「成長したな。彼は」
「形を整え、可能な限り隙になる部分を作らないよう立ち回りながら明確な弱点をしっかり突く。本因坊の碁に似てる」
「彼の面倒を君が見ているのだろう?」
塔矢先生にそんなことを言われたら、ええ。としか言い様がない。
白が妥協させられる形で勢いが少しずつ削られ、黒の形が良くなる。だが韓国棋界の若きエースの実力はこの程度で盤上の支配権を明け渡すようなヘマは犯さない。
そんなとき、ヒカルが席から立ちあがった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「失礼……」
盤上、苦しい。
かなりヨンハに好きにされてしまった。粘り続ける状況にはなれているが、それでもわずかの差で勝ちと負けが転がる展開は打っていて辛い。
環境、苦しい。
普段では感じない見られている感覚が思考を鈍らせる。昨日の中国戦である程度慣れたと思っていたが、まだ感じる。
落胆、苦しい。
本来ここに座るはずだった塔矢を見たかったという圧が、ヨンハに俺は勝てないという評価が気力を少しずつ奪う。
左手に握り続ける本因坊の扇子を見つめる。
佐為が持っていた扇子に似たこれ。ただの扇子であるはずなのに、とても重く感じる。
この扇子を持って対局に挑むということは、佐為の弟子として誇れる碁を打たなければならないし、佐為が囲碁を教えたという足跡を残さなくてはならない。だからこそ本因坊は「負けられない」と言っていた。
だから、本因坊のアドバイスを実践する。
席を立ち、頭からこの一局を切り離す。
肺に残っていた空気を全て吐き出し、ほんの少しもないくらい息を吐き切ったら、ゆっくりと吸い込む。
酸素が身体中を巡り、頭の中が入れ替わったかのように軽く感じる。
思考は冷静だ。盤上をしっかりと眺めることもできている。
考えろ。
考えろ、考えろ。
まだやれることはある。この一局は終わってない。
もう一度息を吐き、息を吸う。
本因坊が言ったとおり、息を吐くことは大事だと再認識させられる。
体の中の無駄なものが削ぎ落とされていく感覚と、それと入れ替わり新しいエネルギーが体に入ってくるような感覚。
「コホン」
関係者の方から聞こえた咳払いで、席に着く。
盤面は立っている間に俯瞰して見た。ある程度この先を読むこともできた。この形勢を一気に覆すのような一手は思いつかなかったが、悪くない手や流れは2、3思いついた。
石を一つ取り、置く。
『震えてるぞ?』
ヨンハが何か呟いたが、多分俺の手が震えていたからだろう。
ここからの流れがどうなるかというワクワク感と、始まってしまったという気持ちが、石を持つ手に出てしまった。
塔矢は絶対に勝つ。どんな碁をしているかはわからないが、きっと塔矢らしい野性味溢れる力碁で戦っているだろう。
なら俺も、俺らしい碁で突き進む。
「行くぜ」
ヨンハが打った一手は予想していたもので、間を空けずにノータイムで打ち返す。今攻勢に出るのは愚策。なら、ヨンハが嫌がる形で受け続けるしかないが、それは佐為が得意なこと。佐為から俺が教わったもの。
『ッチ 』
ヨンハの顔が歪む。
今の受けはヨンハが打てる手を限定し上辺に押し込む流れを作る。分断し繋がりが切れれば上辺は孤立し、そこを取れれば……。
「良くて一目半」
しかし、他に戦える場所もない以上ヨンハも乗らざるを得ない。
先ほどまでとは違い、思い通りの形にはさせない。
手を緩めることなく一手ごとにヨンハを苦しめる。
塔矢が席を立った。ということは副将戦は塔矢の勝ちだ。チラリと見れば塔矢は俺の目を見つめ返し、社の方へと向かう。
「ははっ」
塔矢が俺のことを見なくても良いと思えるくらい、俺は強くなってる。塔矢が俺のことを認めている。信頼している。そう思うと、本因坊から貰った言葉やこの扇子と変わらないくらい大きな力を感じる。
大ヨセももうすぐ終わる。
ずっとギリギリの戦いでどっちが優っているかはわからない。届かないという感覚はないが、上回っているという確信もない。
小ヨセを進めて行けば形がはっきりと見えてくる。そして、終局し整地する。
気がつけば社はスヨンに負けて俺たちの対局を見にきていた。塔矢も、韓国の副将たちも、この整地された盤面を見つめていた。
「あぁ……」
緊張状態の体から力が抜け背もたれに体を預ける。天を見上げても天井しか見えないが、やり切ったという気持ちが溢れてくる。
「大将戦、コミを含めまして半目差で日本・進藤ヒカル二段の勝利。2対1の結果により、日本チームの勝利となります」
『ここ。この時点でこの形は見えていたのか?』
「し、進藤! ヨンハが、この一手の時に終局は見えていたのか聞いてる」
「いや、見えてなかったよ。ただ、上辺に誘導しないと中央と絡められたら逆転なんかできないから。あとはそうだな。秀策が教えてくれたよ」
「進藤、ヨンハのアレは誤解だって!」
「別になんでも良いよ。俺が勝手に怒って、目の敵にして、叩きのめそうとしたのは事実だから。でも、おかげで良い碁を打てたよ」
北斗杯の結果として俺は1勝1敗。チームとしては韓国が中国相手に全勝したこともあり2位。中国戦での緊張、韓国戦での読み合い。結果はどうであれ、まだまだ足りない部分が多いなと感じる大会だった。
「そろそろ閉会式を始めます。選手の皆様はお集まりください」
「進藤。その扇子、本因坊のだろう?」
「ああ。今回だけ借りた。返さないとな」
倉田や楊海ら団長たちはすでに対局室へと来ているが、本因坊の姿だけは見えない。
今回の大会とは無関係なために来ていないのかもしれないが、検討室にはいるだろう。
「ヒカル......」
「ああ、本因坊」
「泣いてた?」
「......まあな。思うところがあって」
本因坊の言葉で気づいた。
きっと本因坊が進藤ヒカルだったとき、この対局は負けたのだろう。佐為と打掛で止まったままになった一局と同じように、心に残っていた一局なのだろう。俺と同じようにヨンハに怒り、立ち向かった上で負けたとなれば、俺がこれまで感じたことのないくらい悔しい一局だったんだろうことは、想像に難くない。
本因坊は涙の跡が残っていた目元を拭うと、片手を差し出す。
「あいつにも、本因坊にも誇れる碁だったでしょ?」
「ああ。俺もこんな一局を打ちたかったよ。悔しい。悔しいけど、ちゃんとお前が俺を超えていけるってわかったのは嬉しいよ」
難しいな。
なんてつぶやいた本因坊に俺も頷く。俺でありながら俺じゃない。でも、佐為が俺の成長を見て喜んでいたように、本因坊も本因坊で俺の成長が嬉しいんだろう。でも、実際には俺じゃないから何もできないもどかしさ。
俺には分からない、新堂輝が故の苦悩だろう。
「倉田さん。打ち上げどこ行く?」
「何? おごってくれんの?」
「2位だから割り勘だよ。でも、せっかくだし行こうぜ」
「し、新堂本因坊、時間の都合もあるのでここらへんで......」
係の人たちに案内され会場の端へと移ると、閉会式が執り行われる。
1回限りの開催という話だったが、来年の開催が宣言された。
ヨンハと来年もう一度対局できる。そのころには今以上に強くなったヨンハと対局ができる。
「今回、結果的に2位となりましたが、日本の棋士が着実に育っていることを認識していただけたと思っています。今後僕たちは日本の棋界を引っ張り、そして先を行く中国・韓国に挑み続けていきます。昨日今日と見せた対局が僕たちやこの大会を見てくれた他の棋士たちに繋がり、大きな波になれるよう、今後とも精進してまいります」
大将というか、日本チームのリーダーとして挨拶をした塔矢に拍手が起こる。3位に終わった中国の大将が最後に挨拶を行い、完全に閉会。
「新堂本因坊! 中国チームも日本チームと一緒にご飯はダメですか?」
「来ても良いけどお金は出してもらうよ?」
『スヨン。なんて言ってる』
『どうやら中国チームは日本チームと一緒にご飯を食べに行くらしいです』
『なんだって? 俺たちもだ! スヨン、言ってこい』
テソンに無理やり言わされたスヨンにも、テソンが金を出すのであれば良いと本因坊が同じことを返すと、結果的に関係者の多くが集まってご飯に行くことが決まった。
『スヨン。シンドウに伝えろ。飯の後に打つぞって』
『ちょっとずるいよ! 俺だって進藤と打ちたいのに』
『スヨンとは俺が打つよ。ヨンハはヒカルと打てば良い』
韓国語がわからない俺は、本因坊が何を言ったかわからないが、それでも対局をしようと言っていることだけはわかった。ヨンハもヨンハでなにかスヨンと言い争っているところを見ると、無駄に怒っていた自分がおかしくなる。
「本因坊! あんまり長居してもダメだから離れるぞ」
「おっけー倉田さん!」
「なぁ進藤。本因坊っていっつもあんな感じか?」
「今日はテンション高いよ。良いことがあったみたい」
「お前が勝ったからか?」
「さあ?」
話として考えてるのはあと一話分だけ。
以降は本当に思いついたら書きます。
というわけで本格的に終わりが近づいたので、
今までしてなかったコメント返しもちょっとずつしていきますね。
一応ちゃんと全部読んでますので。