モンスターハンター トラという猫 作:ガノトトスの炭火焼き
ユクモ村近くの渓流にて―――
「ニャッ、かかったニャ!」
大滝の前で1匹の若い茶虎柄のアイルーが釣り竿を引き上げる。釣り糸の先には1匹のサシミウオがかかっていた。
「ニャ、これで10匹目ニャ」
釣ったサシミウオを竹とモンスターの素材で作ったお手製の魚籠に入れて立ち上がり、フライパンの釣り下がったリュックと傷だらけのアイアンネコソード、そして相棒でもあるユクモの木で作られた釣り竿を担いで次のポイントへと向かう。
「ニャァ…ホントはもうちょっとここで釣ってたかったニャ…でも……」
ちょっと肩をがっくりとしたアイルーだったが、ある足音と息遣いに耳をピクリとさせる。
「!ニャニャ!来たニャ!!」
慌てて岩陰に隠れると、ズシリズシリと青い熊のモンスターが木を掻き分けて先ほどまでアイルーがいた釣り場にやってくる。
「《青熊獣》アオアシラニャ…戦えないわけじゃニャいけどギルドへの報告が面倒なんだよニャァ…別の釣りポイントもあるし、ここは今日はいいかニャ」
アオアシラは今度はバシャリバシャリと大きな音を立てて先ほどまでアイルーが釣っていた場所を大きく手で払い、サシミウオを岸へと叩きあげて手に入れる。
「ニャムゥ…ナンセンスニャ…せっかくのサシミウオに傷が付いてるニャ…」
叩き上げられたサシミウオの腹にはアオアシラのツメによる傷が付いており、それによってサシミウオは力なく息を絶えさせている。
一方茶虎のアイルーが釣ったサシミウオは魚籠の中でビチビチと未だに元気に跳ねている。
「とりあえず次のポイントに行くかニャ…ンニャ?」
茶虎のアイルーが立ち去ろうとしたその時、「うおぉぉぉ!」という声と共に草むらの影からユクモノ太刀を振りかざした青年のハンターがアオアシラに迫る。
声に気づいたアオアシラは食事を止めて、せっかくの馳走の邪魔をされた怒りをそのハンターへと向ける。
「あちゃー…あれは新米のハンターさんかニャァ…そりゃ『うおぉぉぉ!』なんて言ったら気づいちゃうニャよ…あ、吹っ飛ばされた」
アオアシラの突進を受けたハンターは川の岩場に叩きつけられ、バシャリと川の水を被る。そこに追撃を仕掛けようとするアオアシラを見て茶虎のアイルーは「仕方ないニャ…」と手製の魚籠を川の水に浸け、流されないように魚籠の紐を近場の木に括り付け、背負っていたリュックを降ろし、その中から閃光玉を取り出して咥え、アイアンネコソードとユクモの木の釣り竿を担いで新米ハンターの元へと走る。
◆◆◆
新米ハンター、クロトビSide
俺はユクモの里の新米ハンターのクロトビ!この間やっとハンターとして認められてジャギィの討伐や特産キノコの納品なんかをやっていたけど初めてアオアシラの討伐依頼を受けることが出来た!
やっとハンターらしいことが出来る…と思っていたんだけど…
…………
……
…
《渓流》
いつものユクモノシリーズを身に纏い、太刀の切れ味を確認する。今はまだこの装備だけど…きっといつか子供の頃憧れたあのハンターみたいに立派な鎧を着て見せる!
「よし…!行くか!」
ベースキャンプで支給品をボックスから取り出していると後から「おやダンナ、ついに狩猟依頼ですかニャ?」と、笠と合羽を身にまとい、眼帯を付け、口には葉っぱの付いた茎を咥えているメラルーが声を掛けてくる。
な
「お、ニャン次郎さん!」
転がしニャン次郎、タル配便で家まで素材なんかを送ってくれるありがたいメラルーで採集クエストやアイテムポーチに余裕がない時に彼に預ければ1つの依頼につき1回配送してくれるからよくお世話になっている。
「ほーう、ついにダンナも大型モンスターの狩猟が解禁ですかニャ!そいつぁめでたいですニャ!」
「あはは…やっと、なんスけどね…相手はアオアシラっス」
「ふむ…奴を倒せればダンナも駆け出しハンターの仲間入りですニャ…そうニャ、記念にいいことを教えやしょう」
「いいこと?」
「ふふん」と加えた茎を新しいものに変えながらニャン次郎は樽に座る。
「今この渓流には『釣り猫』が来てるニャ」
「釣り、猫…?」
「そうニャ。『釣り猫』は色んな所を釣りをしながら旅する茶虎のアイルーニャ…その『釣り猫』が釣った『ある魚』を食べればハンターとして高みに…!」
「おぉ!!」
「いける…かもしれないニャ」
「えぇ…?」
いける『かも』しれない。まぁそれはそうだよな…そんなうまい話はあるわけがない…
「ま、何はともあれ会えたら話してみると言いニャよ。困っていたら助けてくれるかもしれないしニャ」
「ははは…まぁ出会えたら話をしてみるっスよ…それじゃ!」
「ご武運をニャ!」
ニャン次郎に手を振りながら湧き水のせせらぎが足元に流れる木立を抜けて岩山の脇を通り、滝が流れる川の近くまでやってきた…すると
「…!いた!」
今まさにアオアシラが川に手を叩きつけて魚を獲っている…!ここは隠れて油断したところを攻撃しよう…!
すぐに太刀が抜けるように手を掛けながら様子を見る…うん、ジャギィの時は今の距離よりも短い距離だったし…今回はこの距離くらいからなら何かあっても対応できるだろう。
「………今だ!!」
獲った獲物のサシミウオを座って食べようとするアオアシラに「うおぉぉぉ!」と自分を奮い立たせて抜刀しながら迫る!!けど
「グオォォォォォ!!」
「ぐぅ!?」
座っていたはずのアオアシラが前に倒れるようにして勢いを付けながら突進する。す、座ってたから大丈夫なんじゃないの!?
そのまま川の岩場に叩きつけられ、浅い川に顔を突っ込んで溺れそうになり慌てて身を起こすとアオアシラが再び迫っていた!手に持っていたはずの太刀はさっきの突進で岩と岩の間に挟まってしまって抜くことが出来なくなっていた。
「そんな…!?や、やられる…!!」
そう腰が引けたその時だった。
「そこのハンターさん!ギュッと目を閉じるニャ!!」
「ッ!?」
次の瞬間、俺の視界は眩い光に包まれた。
◆◆◆
閃光玉を投げてアオアシラを(なお間に合わなかった新米ハンターも含む)怯ませた茶虎のアイルーは左手で釣り竿を振るって釣り糸を飛ばし、アオアシラの手甲に針をかけると釣り竿についているボタンを押す。するとギュイン!という音と共に糸が巻き取られ、体重の軽いアイルーはアオアシラを目掛けて飛んでいく。
「釣技!『逆釣り』ニャ!!」
飛んでいく勢いのまま今度は右手にアイアンネコソードを振りかざし、アオアシラの鼻に軽い切り傷を負わせる。大した傷ではないのだが、大きく怯ませ後退させるにはこれでも十分であるし、そもそもこのアオアシラは新米ハンターの獲物。あまり手を貸しすぎるのも良くないと思ったからである。
新米ハンターが閃光玉によって奪われた視界が戻るころ、目の前には一本の剣と一本の釣り竿を持った茶虎柄のアイルーの背中があった。
「あ、あれ…?アオアシラは…?」
「ンニャ、一度引かせたニャ…ハンターさん大丈夫かニャ?」
「あぁ…大丈夫っス…って!茶虎のアイルー!?も、もしかして『釣り猫』!?」
『釣り猫』という言葉を聞いて「ニャハハ…」と苦笑いした後、ハンターに向き直る。
「そうニャ、ボクが『釣り猫』トラだニャ」
茶虎の『釣り猫』は恥ずかしそうにそう答えた。