モンスターハンター トラという猫   作:ガノトトスの炭火焼き

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第2話 トラとクロトビ

 

 茶虎のアイルーのトラと新米ハンターのクロトビは滝から離れた場所に移り、焚火を囲っていた。

 

「改めてっスけど、俺ハンターのクロトビっていいます!助けてくれてありがとうございます!!」

 

 焚火に当たりながら、ずぶ濡れでガタガタと震える身体を温めながら黒髪の青年クロトビが感謝の言葉を伝える。

 

「ニャ、こっちも改めて…オイラはトラだニャ。クロトビさんがさっき言った通り…『釣り猫』って呼ばれてるニャ」

「やっぱり『釣り猫』…!ニャン次郎さんから聞いてたけどホントに渓流に来てたんですね!」

「ニャハハ…ニャン次郎から聞いてたんニャね…よっと…できたニャ、これでも食べるニャ」

 

 そう言ってクロトビに差し出されたのは、焚火でいい感じに焼いたサシミウオだった。表面の皮はパリパリとしていて、所々からはサシミウオ由来の魚の油がしたたり、芳醇で香ばしい香りが鼻腔と食欲をくすぐる。

 

「い、いいんスか…!?」

「ニャ、狩場で遠慮はナシニャ」

「いただきます!!」

 

 こんがりと焼かれたサシミウオをクロトビがほおばると、口の中に魚の旨味をけさないほどの優しさながらも存在を主張する塩味と共に魚の旨味の塊である油がジュワッとはじけとぶ。また、かぶりついた断面からは焼き魚特有の食欲をそそる香りが湯気と共に広がっていく。

 

「うンま!?なんスかこれ!?こんなこんがり魚食ったことないっスよ!」

「ニャァ、それは良かったニャ。さっき釣ったサシミウオの中で一番いいのを使ったからってのと…この彗星岩塩のおかげかニャ」

 

 トラがリュックの中から調味料を入れている箱を取り出し、開けてみるとそこには産地やいつ手に入れたかが記載してある塩やスパイスなどが入った瓶がいくつも入っていた。

 

「すごい数っスね…これ全部トラさんが?」

「いんニャ、自分で採ったりしたのもあるけど…例えばこのスパイスはポッケ村に行ったときに村の人が寒さ対策で愛用してるものを貰ったもの…をちょっとアレンジしたものニャ……かけてみるニャ?」

「お願いしますっス!」

 

 赤みがかったスパイスを振りかけると魚の油と合わさり、先ほどまでとは違った少し香辛料が強めの香りが広がり、これもまた食欲をそそる。

 一口噛めばスパイスの辛みが舌を刺激するが、魚の身と油がそれを和らげる。

 

「このスパイスはちょっと特殊ニャ…怪力の種を砕いたものなんかも入ってるのニャ」

「ほえー……そういやこれ食べてからなんだか力が湧いてくるかも…!」

「キッチンアイルーのお手伝いをしてたこともあったからニャ、アオアシラに挑む新米ハンターさんへのささやかな手助けニャ」

「あ…!そ、そうだアオアシラ…!俺、そろそろ行きますっス!ホント、助けてくれてありがとうございます!!焼き魚めっちゃ美味かったっス!!」

「ンニャ、お気を付けてニャー」

 

 装備を担いで駆けていクロトビを見送ったあと、焚火の始末をし、ゴミが落ちていないかを確認する。

 

「ニャ、大丈夫みたいだニャ…さて、3匹食べちゃって7匹になったけどサシミウオは今日はこれでいいかニャ、さて次はっと…」

 

 滝のあるエリアを川伝いに下り、次にやってきたのはススキが生えて地面が湿地帯のようになっていて、滝から流れた水が大きな湖と繋がる場所だった。

 

「このあたりでいいかニャ…キレアジは…5匹くらい釣るかニャ」

 

 トラが狙っているのは刃のように硬い背ビレを持つアジで、ハンターの間では砥石の代わりに使う者もいるという魚だ。が、その背びれを取り除いて作るキレアジのアジフライは知る人ぞ知る美味であるのだ。

 

「さてさて…エサは…ニャっと!」

 

 近くの石をひっくり返すともぞもぞと蠢くミミズが数匹。一般に釣りミミズと呼ばれるそれを素早くつかみ取り、釣り竿の先の針にプスリと刺した後、勢いよく竿を振り湖へとひょうっとミミズ付きの針を飛ばす。

 

「ん~…今度海釣りに行くかニャァ…このあたりだと…久々に孤島とか良いかもニャア」

 

 少し離れたところでケルビの群れが草芽を食み始めたころ、釣り竿の先がピクピクと動き出し、獲物がかかったことを知らせる。だが、しかし…

 

「ニャ…この感じ…キレアジとは違うニャァ…でもまぁせっかくだしニャ」

 

 ぐぐいっと釣り竿に込める力を強めて引き寄せたり、少し緩めてやったり。そうして針の先の獲物を弱らせた後、一気に引き上げると、そこにはキラキラと金色に輝く魚が針の先にかかっていた。

 

「黄金魚ニャァ!…納品せずこっそり食べようかニャ…餡掛けとかにするのもアリだニャ」

 

 ほくほくとした顔で黄金魚をお手製の魚籠に入れて、湖の水に付けてまた釣りミミズを針につけて、またひょうっと湖へと針を飛ばす。

 

 さて、それから30分後。

 

「よっとっと…これくらいでいいかニャァ」

 

 ビチビチと針に食いつくキレアジの口からそっと針を取ってやり、魚籠の中で他の魚を傷つけないように背びれをアイアンネコソードで落としてやって湖に浸している魚籠に入れる。今釣り上げたのを含めて計5匹のキレアジも魚籠に収めたトラは「うんしょ」と荷物を纏め始め、帰り支度をする。

 

「サシミウオ7匹にキレアジ5匹…ナイショの黄金魚1匹で…13匹ニャ!大漁ニャァ」

 

 リュックや魚籠達を担いでハンターたちがベースキャンプとしている地点を目指して時々寄り道しながらゆっくり歩いていると、廃墟のある広い平原でギルドのモンスター回収班が荷台をアプトノスに引かせて進ませているところに遭遇する。その中で回収班の班長で左目に傷を持つ古株の男が道行くトラに気づいた。

 

「…む?おぉ!トラ殿ではないか!おおい!止めてくれ!!…トラ殿!いやはや久方ぶりだな!」

 

 ポポに引かせる荷台を止めて駆け寄った班長にトラは「これはこれは…」と、手を振ってみせる。

 

「ニャァ、班長さん!お久しぶりですニャァ!今から回収ですかニャ?」

「ハッハッハ、そうなのだ。新米のハンターがアオアシラの討伐に成功してなぁ…ようやくアイツも半人前の入り口ってとこだな」

「…もしやクロトビさんですかニャ?」

「おぉ、知っておるのか!…であれば、どうかね?奴は『見込み』はあるか?」

「…ンニャァ…そうだニャァ…今はまだ未知数じゃないかニャァ…というよりオイラに聞いてどうするんニャ」

 

 『見込み』、これが意味するのは『いい狩人』になれるかということである。さて、なぜそれをトラに聞いたのかというと…

 

「あぁいや…その…まぁなんだ…」

「…班長さん。オイラが『伝説のハンターのオトモ』だったから…なんて言わないよニャ?」

「うっ……うむ…すまん。軽率だった」

「…ニャ。過去の話ニャ…今のオイラは『釣り猫トラ』ニャ…もうオトモにはならないニャ」

「…そう、か…そうであったな…申し訳ない」

 

 深々と頭を下げる班長にトラは「頭を上げて欲しいニャ」と一言言った後に大きく息を吐いた。

 

「…ニャ、班長さんオイラも荷台に乗せてって欲しいニャ」

「へ…?トラ殿を?な、なぜだ?」

「ニャム。クロトビさんにおめでとうを言いたくなったのニャ…それにいい魚が釣れたからニャァ…お祝いでもしてあげようかと思ってニャ」

「…そうか。分かった!ではその背中の荷物は私が運ぼう…さ、こちらへ」

「ニャ、ありがとニャ」

 

 そうしてトラは荷台の上にちょこんと座り、揺られていく。

 

 

 森の中の大きな切り株の前で待機するクロトビの元に辿り着くころにはオレンジ色の夕陽が木々を照らしていた。

 

「ハラ…へったぁ……」

 

 一仕事終えたクロトビは巨大な切り株の上で大の字になって転がっていた。

 腹からはグルル…と空腹を知らせる音が鳴り響き、動く気を失わせていた…手元にあった携帯食料は戦っている際にどこかに落としてしまったらしいし、肉焼きセットや生肉も持ち合わせていなかったのである。

 

「はぁ…トラさんの魚…美味かったなぁ…もう一度食いたいなぁ…」

 

 ボソッと口からこぼれたのは、数時間前に味わった絶品の魚を欲する声。が、思い出せば思い出すほどに…

 

「うぐぅ…だめだぁ…余計にハラ減ったぁ…」

「それはいけないニャ、早く帰ってお祝いのご飯にするニャァ」

「そうッスね…………って、え!??」

 

 トラの声を聞いてクロトビがガバッと起き上がると、隣にちょこんとトラが座っており、討伐したアオアシラをギルドの回収班が荷台に乗せて回収しようとしていた。

 

「トラさん!?なんでここに…?」

「ニャ、アオアシラの討伐をおめでとうっていいに来たニャ…さ、帰ってお祝いのご飯を一緒に食べるニャァ」

「トラさん…!…おっといけねッス…よだれが…」

「ニャァ、よっぽどお腹すいてるニャねぇ…イビルジョーみたいニャ」

 

 クロトビが絶品の料理を想像してあふれるよだれを拭っていると、その様子を見ていた回収班の班長が「やれやれ」と笑う。

 

「おおーい!二人ともォ!アオアシラは積み終わったぞォ!撤収だ!!」

「ウッス!今行きます!」

「ニャ、帰るニャ帰るニャ」

 

 その日の晩、ユクモの村の一角では新米ハンターのアオアシラ討伐の功績を祝ってささやかながらも、美味なるアジフライや鮮度のいい刺し身、そして黄金魚の餡かけが振舞われたという。

 

 

 

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