柊木side
受付を済ませてしばらくロビーで待っていると、社長秘書の清元さんがやって来て、最上階にある社長室に案内してくれた。
「社長、お見えになりなりました」
どうぞ、と清元さんに促され中に入ると、依頼者である黒沢さんがデスクから立ち上がり、こちらに向かって来た。
「どうも!お待ちしておりましたよ。株式会社ユーテックプライオリティ代表の黒沢と申します。」
「都市伝説解体センターの柊木と申します。こちらは、福来と止木です。この度はご依頼いただきありがとうございます」
互いに名刺を差し出し挨拶を済ませ早速本題へと入る。
「今回のご依頼の内容なんですが・・・盗まれた物を取り返してほしい、と」
「ええ、ですが、詳細は言えません」
「え?」
「しかし侵入者が居たのは間違いなく、それに気づいているのは私だけなんですよ」
「・・・それなら警察に届けて捜査してもらった方がいいのでは?」
「うちはお客さんから様々なデータを預かったりしているので大事にしたくないのですよ。信用に関わりますから。ですが、一昨日から奇妙な事が起きたのは確かなんです。それをプロの客観的な目で調べて貰いたくて依頼したんです」
奇妙な事か、それならにウチの専門と言えなくもないな。
「防犯カメラの映像は今は精査させてますがもう少し時間がかかりそうなのでまずはここの調査の方をお願いします」
「わ、分かりました」
あざみside
詳細は言えないけど侵入者が現れて、奇妙な事も起こったから調べて欲しい、それが今回の依頼だった。
うーん、詳しい事が分からないと調べようがないよね、どうしたらいいのかな?柊木さん達に聞いてみよう!
「柊木さん、ジャスミンさん。今回の調査なんですけど何から始めたら良いと思いますか?」
「とりあえず黒沢さんと清元さんに話を聞いて何が起こったのかの確認かな。あわよくば何が盗まれたのかまで分かればいいんだけど」
「ラギッチ、あざみー、気をつけた方がいいかも。詳細は話せない、警察には届ける気はない。なんか危険な香りがする」
「ああ。それと客観的に見てほしいってのがよく分からない。そんなことをさせて何がしたいんだか」
「まぁ、なんにせよまずは黒沢の言う奇妙な事がなんなのか把握しないと。頼んだよラギッチ、あざみー」
「ああ」 「はい!」
よし!黒沢さんは・・・電話中みたいだし、まずは清元さんに話を聞いてみようかな。
「すいません清元さん。お話しいいですか?」
「はい。社長からは嘘偽り無く話すよう言われてますので何でも聞いてください」
「では、一昨日に何があったのか聞かせてください」
「それが・・・何があったのか聞かれましても私にはなにがなんだか・・・」
「え?そうなんですか?・・・と、とにかく!一昨日の1日の事を教えてください」
「はぁ、かしこまりました」
清元さんは一昨日、取引先に向かった黒沢さんを見送った後、普段通り雑務をこなし、それからしばらくして戻って来た黒沢さんに挨拶をすると軽く会釈で返された、といったいつも通りの1日だったそう。
その後黒沢さんは小1時間程部屋に居たそう。
清元さんは奇妙な事について何も見ていないのかぁ。
なら黒沢さんに話を聞くしかないよね。今ちょうど柊木さんと話しているみたいだし、一度合流しよう!
「そうですか、分かりました」
柊木さんの元に向かうとちょうど話が終わったようで、黒沢さんはまた電話をし始めていた。
話を聞いたはずの柊木さんは何やら頭を悩ませている。
「柊木さん、どうしました?話を聞けたんじゃないんですか?」
「ああ、それなんだけどさぁ、話せるのは大事な物が盗まれた事しか言えず、その後の事は清元さんから聞いてくれってさ」
「え?でも清元さんも何も知らないそうですよ?」
「そうなの?」
「はい、どうしましょうか」
「これ以上深く聞くには情報が足りない。だからこの辺りの痕跡とかを調べようと思ってさ」
「それが良さそうですね!じゃあ眼鏡かけますね」
深呼吸をして眼鏡をかける、すると2つの影が姿を現した。けど・・・
「ひ、柊木さん。あの影達なんか変ですよ・・・」
「だね、奥の影は電話をしてる黒沢さんだろうけど、どちらもまるで俺達の事を見ているような・・・」
「怖いこと言わないでくださいよぉ!」
「ごめん。でも見てよこの影、机の引き出しを漁っているように見えるよね」
柊木さんが指刺した手前の影を見ると確かに黒沢さんのデスクの1番上の引き出しに手を掛けているように見えた。
中が気になるけどさすがに勝手に開けるわけにはいかないよね、どうしよう。
どう引き出しの中を見たのものかと考えていると柊木さんはこっそりと引き出しを開けた。
「ちょ、ちょっと柊木さん!マズいですよ」
「大丈夫大丈夫。開けて見るだけだから。あ、見てあざみ、ここだけ謎にスペースがある」
「本当ですね、じゃあ盗まれた物ってここにあった物なんでしょうか?」
「たぶんね、後で黒沢さんに確認してみようか」
「ですね、って、柊木さん!早く閉まってください!見つかっちゃいますよ!」
「分かってるって」
柊木さんが引き出しを閉め、バレなかった事に安心しているとデスクの上に目がいった。
何か手掛かりになりそうな物はないかな・・・あ!こ、これ!イルミナカード!どうしてここに!今回も予言されているってこと!?
予想外の物を見つけ思わずイルミナカードを手に取ると黒沢さんに見つかってしまった
「君、それは貴重な物なんだ。勝手に触らないでくれるかな?」
「す、すいません!あ、あの!このカードなんですけど!」
「それは今関係ある事なのかな?なければ元の場所に戻して調査を再開してくれないか?」
「わ、分かりました。すいません」
「そこの君も、部下か後輩か知らないけどちゃんと指導しておいてよ」
「・・・はい、すいません」
あ、私のせいで柊木さんまで・・・
「では、関係ありそうな事を聞いてもいいですか?」
「ええ、なんでしょうか?」
「そこのデスクの1番上の引き出しから何か盗まれてないですか?」
柊木さんがそう聞くと、黒沢さんは少し驚いた様子で答えた。
気のせいかな?一瞬、黒沢さん笑ったような・・・
「どうしてデスクの引き出しから物が無くなっていると?私は何も話してないですよね?」
その問いに答えにくそうに柊木さんはサイコメトリーや私の念視で見た結果、そう思ったと黒沢さんに教えた。
簡単には信じてもらえないかと思ったが案外すんなり信じてくれて面白いとまで言った。
この柔軟性が大企業としてやっていく上で必要なのかもしれない。
そう感心していると無くなった物について清元さんに確認してくれと言って来た。
なぜかと尋ねると、そもそも黒沢さんは一昨日、取引先に向かってから一度もこの部屋に戻ってきていないと言った。取引先の人が証人だそう。当然、引き出しから何かを持ち出した覚えもないそう。
黒沢さんが言っていた奇妙な事とはこのことだそう。そして黒沢さんはこの現象が清元さんのせいで起こったと思っているらしい。
清元さんか、嘘を吐く人とは思えないけど話を聞いた方が良さそうだよね。
黒沢さんの元を後にして清元さんの方に柊木さんと向かう。
「清元さん、すいませんまたお話しよろしいですか?」
「ええ、もちろんです!」
あれ?なんか清元さんさっきより元気なような?気のせい、かな。
「一昨日の事なんですけど、黒沢社長は何か持ち出したり、おかしな事はありせんでしたか?」
「そういえば、赤いカード状の何かを持ち出していました」
「赤いカード状の何かですか、セキリュティカードではないんですよね?」
「ええ、セキリュティカードは一部の部屋を除いて社員全員が持っているんですが、見た目が全然違いますから見間違える事はありません。それにこの部屋は社長の留守中は私も立ち入り厳禁なんです。それが何かは分かりませんが社長は大事そうにされているようです」
「なるほど。では一昨日、黒沢社長におかしな所はありませんでしたか?」
「さっき思い出したのですが、戻られて1時間ほど経った時、奇妙な事に赤い何かを取り出すと突然姿を消したんです」
「突然ですか。目を離しているうちにってわけではないのですよね?」
「ええ、そうです」
おかしいなぁ、黒沢さんは一昨日はここには戻ってないって言ってるのに、かと言って清元さんも嘘をついているとは思えない。なんでこんなに情報が食い違うのかな?柊木さんなら何か分かるかも
「柊木さん、黒沢さんと清元さん、2人の話に食い違いが起きてますよね?どういうことなんでしょうか」
「うーん、物が無くなっている以上、侵入者が居たのは間違いない、でも2人の話が食い違っている。でも見てよこれ」
柊木さんが見せてきたのは先程黒沢さんから話があった防犯カメラの画像だった。そこには間違いなく黒沢さん本人が映っていた。
「ど、どういうことなんですか?黒沢さんですよね、これ」
「うん、でも黒沢さんは戻ってきて居ないっと言っている」
「はい、でも2人とも嘘をついているようには見えません。清元さんは"戻ってきた"、黒沢さんは"戻ってきていない"と言っています」
「例えば・・・侵入者は黒沢さんに変装していたとか?」
「あ!それあると思います!でもこの防犯カメラの画像、変装というよりほぼ本人です」
「ほぼ本人・・・ねぇ、なるほど。今回の都市伝説が分かったかも」
「え!本当ですか!教えて下さい!」
「そう焦るなって、俺がたどり着いたって事はそろそろ来るよ」
そう柊木さんが言った側から私のスマホが鳴った。思った通り、センター長さんからだった。
「もしもし、福来です!」
「どうも、お疲れ様です」
いつものやり取り。そう思えたけどなんだセンター長さんの声がいつもより嬉しそうだった。
「あのセンター長さん、なんか嬉しそうですね」
「ええ、5枚目のイルミナカードが見つかったうえに、柊木さんが私よりも先に特定し、今回の怪異の正体に辿り着いた。上司として嬉しいのは当然です。あさみさんも見習ってくださいね」
「は、はい!もちろんです!」
「よろしい、それでは始めましょうか」
柊木さんが黒沢さん達を呼んだのを千里眼で確認したセンター長さんが黒沢さん達に自己紹介をしてから特定を開始した。
「さて、まずは今回の事を整理しましょうか。黒沢さんは奇妙な事が起こった事を秘書の清元さんに確認してほしいとの事でしたね」
「はい、それで一昨日の事を清元さんから聞かせてもらいました」
「では、あざみさん。清元さんから聞いた奇妙な話とはどのようなものでしたか?」
これはさっき、柊木さんと確認した事だよね
「いないはずの黒沢さんがいたことです」
「great!侵入者は本人であるかのように社長室に侵入した。それを目撃したのは清元さんだけでしたね。そして彼女の証言にはこの存在にとって大事な特徴が含まれてました。では、あざみさん。偽黒沢と清元さんとの接触はどのようなものだったでしょうか?」
黒沢さんが取引先から戻ってきたと思われていた時のことだよね
「挨拶したけど軽い会釈で返してきたと、普段もそんな感じで特に何も思わなかったそうです」
「excellent!つまり清元さんは偽黒沢と"会話はしなかった"いえ、出来なかったのでしょう」
「え?」
「さらに清元さんは小1時間程同じ部屋に居たにも関わらず偽物だと気づかなかった。しかしその時本物の黒沢さんはそこにはおらず、それは取引先の人が証明できる。ではあざみさん」
「はい!」
「社長室に現れた怪異"偽黒沢"はどんな存在だ思いますか?」
防犯カメラの画像を見るに変装や他人の空似でもない。となると・・・
「黒沢さんとほぼ同一の存在。クローン?とかそんな存在ではないかと」
「brilliant!そう、まるで本人がもう1人いるかのようですね。この状況から考えられる都市伝説はあれしかありません。それはー」
ー特定ー
「ドッペルゲンガーです」
柊木side
特定により今回の都市伝説が予想通り、ドッペルゲンガーだと判明。
しかしドッペルゲンガーねぇ、また厄介な。黒沢さんには偽黒沢に合わないよう気をつけてもらわないとな。
十分注意するように、そう黒沢さんに説明し終えるとあざみが不安そうに話しかけてきた
「あの、柊木さん。センター長さんしばらく連絡がつかなくなるそうです」
「え?なんで?」
「なんでも黒沢さんから受けた新しい依頼をこなす為だそうです。どうしましょうか」
「どうしましょうって言ってもさ、普段通りにしてればいいよ。俺とジャスミンがついてるしさ」
「そうですね!えへへ!2人がいてくれて本当に心強いです!」
「さて、今日はもう上がろうか。黒沢さんに帰りの挨拶をしてくるから待ってて」
「はい!」
〜その日の夜 センター内〜
「センター長、あれはどういうことですか?」
「あれとは?」
「とぼけないで下さい。今回のあざみの念視の件です。あれはいつもとは明らかに違いました」
「・・・柊木さんはどう思いました?」
「聞いてるのは俺なんですけど・・・まぁ、そうですね、サイコメトリーで視る限り、工作的な何かを感じます。わざと残しているようなそんな何かを・・・ああ、なるほど、そういうことですか」
「そう、これは必要な事なんですよ。計画の為にね」
「大丈夫なんですか?負担がさらに掛からなければいいんですけど」
「その為に貴方が居るんです。頼みましたよ」
「・・・ですね。分かりました」