柊木side
さすがIT企業の社長と言わんばかりの立派な家のインターフォンを鳴らすと女性の大きな声が外にまで響いてきた。
「ちょっと優弥!まだ話してる途中なんだけど!」
・・・タイミング悪い時に来ちゃったかもな
「なんだぁ?黒沢のやつ、女と喧嘩中か?」
「ちょ、ちょっとジャスミンさん!しーですよ!しー」
「2人とも依頼主の前では絶対言うなよ」
緊張感のない状況にため息を吐いていると玄関の扉が開き、黒沢さんが中に入れてくれた。
「黒沢さん、大丈夫ですか?出たんですよね?ドッペルゲンガー」
「あぁ、出たんだ。恐ろしい見た目をしていたが確かにあれは私だった。襲われることはなかったが気が付くといなくなっていたんだ」
「なるほど。警察には?」
「え?ああ、それなんだけどさ、ドッペルゲンガーが出たなんて話、警察に言えるわけないだろ?冷たい目で見られるだけさ。と、とにかく!アレがこの家で何をしていたのか調べてくれないか?もちろん料金は別に払う。それから・・・」
黒沢さんが何か言おうとすると奥の方から1人の女の人が声を荒げながら出てきた。
「優弥!いつまで待たせんの!って、誰コイツら」
「彼らとは仕事の話をしているんだ。だから少し静かにしててくれ」
「仕事!?アタシよりそっち優先するっての!?」
黒沢さんはそんな彼女の両肩を抑え、部屋の奥へと連れて行った。
しばらくすると黒沢さんだけが戻ってきた。
「すまない、実は彼女にも話を聞いてほしくてここに呼んでいたんだ」
「と、言いますと?」
「実は彼女の携帯に昨日私から連絡があったらしいんだ」
「らしい?ですか?」
「ああ、それが私には身に覚えがなくてね。どんな連絡だったのか聞いてみたんだか、どうやら私の部屋の事を色々と聞かれたそうなんだ」
「つまり、その身に覚えのない事についても調べてほしい、と」
「そう、それとうちには家政婦がいるから彼女にも話を聞くといい。昨日もいたから何か見ているかもしれない」
「分かりました」
「よろしく頼むよ」
仕事部屋に戻る黒沢さんを見送るとジャスミン達が玄関近くの壁に数多く飾られたトロフィーを眺めていた。
「おーい、調査始めるぞー、って、何見てんの?」
「ん、これ見てよこれBooTubeの銀と金の盾!アタシ初めて見たよ」
「ああ、俺もだよ」
「ファイブソサエティ様、だって。久しぶりに聞いたわ。そういえば黒沢はメンバーの1人だったっけ、っと、ごめんごめん。そろそろ調査しないといけないよね。頼んだぞ、ラギッチ」
「ああ、任せてといてくれ」
・・・さて、始めるとしますかね。
あざみside
黒沢さんから依頼の内容を確認した後、まずは家政婦の本田さんから話を聞くことにした。
まずは昨日の事について
「昨日は夜の8時頃・・・だったと思いますが、旦那様が帰ってこられてそのまま奥の部屋に入られました。それからしばらくするとまた玄関の扉が開くと旦那様が立っておられたんです」
「え?黒沢さんはもう帰ってきてるはずでは?」
「私もそう思ったので、先程帰ってきたのでは?、と言ったと思います」
「なるほど、それからどうしたんですか?」
「旦那様は自室に向かわれたのですが、部屋に入ってすぐ叫び声が聞こえまして、その直後に旦那様は部屋から出てこられました」
「は、はぁ・・・」
「その後すぐにもう1人の旦那様が出てこられて、その時には先程出てこられた旦那様の方はいなくなっていました。本当に驚きましたよ、旦那様がまさか2人いらっしゃるなんて」
「そ、そうですよね・・・」
やっぱりドッペルゲンガーはここに来ていたんだ!!
ドッペルゲンガーが出た時の部屋の中の様子についても聞いてみた・・・けど、家政婦である本田さんは黒沢さんのから部屋に絶対入るなと言われているので中を見ていないとのことだった。
あ!そういえば本田さんはドッペルゲンガーと何か話したのかな?聞いてみよう!
「あの、確認なんですけど、本田さんは最初に帰ってきた黒沢さんと何か話しました?」
「え?そうですねぇ、いつも通りの対応をしたつもりですよ。お疲れ様です。おかえりなさいませ、と。旦那様は軽い会釈をされて部屋に向かわれました」
「なるほど分かりました!」
本田さんはドッペルゲンガーと会話はしなかったみたい!つまり、1人黒沢さんがドッペルゲンガーで、2人目の黒沢さんが本物ってことでいいのかな?だとしてもドッペルゲンガーの目的がわからないよ・・・ん?
ドッペルゲンガーの目的は何なのかを考えていると柊木さんがさっき黒沢に怒鳴っていた女の人に詰め寄られているのが見えた。
気になったので近づいて話しかけたみた。
「柊木さん、どうしたんですか?」
「ああ、あざみ。いや、今アイカさんに話を聞こうとしていたんだけど・・・」
「ねぇ、いいじゃん。連絡先教えてよ!アタシの友達に紹介すっからさ!」
「ですから困りますって」
「ちっ、・・・まぁいいや。ってかその女誰?」
「わ、私ですかぁ!?あ、あの、福来あざみと言いまひゅ」
「ふーん、ざみちん、ね」
ざ、ざみちん???
「で?話ってなに?」
「あ、はい!それなんですが、黒沢さんから送られたDMなんですがそれはドッペルゲンガーの仕業の可能性があるんです」
「え?じゃあ優弥の言っていたこと本当なんだ」
「はい。ちなみにどんな内容だったんですか?」
「それが訳わからんくてぇ、なんか"HDD"が何処にあるか知らないか、とかなんとか。自分の部屋のことなんだからアタシが知る訳ないっての! そんなに入ったことないし」
「そ、そうですよね・・・。あの、確認なんですけどそのDMを送ってきた黒沢さんと電話とかで会話したりしましたか?」
「いや?してないし。いつも電話で連絡くるからおかしいとは思ったんだけどさ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
やっぱりドッペルゲンガーは会話出来ないと見間違いないみたい!
あとできればもう少しHDDについて聞いておいた方がよさそう!
「あの、アイカさん。HDDの事なんですけど」
「だから知らないって!」
「そ、その、どんな形の物か特徴を知りたくて。PCにケーブルに繋がっているお弁当箱かくらいのなんですけど・・・」
「あー。もしかして"5''って赤いステッカー貼ってあった黒い箱?」
「そ、そうです!ありがとうございます!」
アイカさんから聞いた事を手帳にまとめていると、柊木さんがまたアイカさんに迫られていた。
「ねえ、いいっしょ?。友達紹介してあげるから連絡先教えてよ!」
大変だ!なんとかしないと!!
焦った私は柊木さんの手を引っ張った。
「ひ、柊木さん!黒沢さんの部屋の調査がまだですから早く行きましょう!」
「わ、わかった!そういうことですのでアイカさん、また今度ってことで」
「なーんだ、アンタらそうだったんだ。早く言えよなー」
うぅ、なんか誤解されてるけど今はそれどころじゃないよね!
柊木side
アイカさんに連絡先をしつこく聞かれて困っていると、あざみが俺を黒沢さんの部屋の方に引っ張ってくれたおかげでその場を抜け出すことができた。
「ありがとうあざみ。助かったよ」
「いえいえ!お役に立ててよかったです!」
「よし!じゃあ早速調べようか。まずは黒沢さんに話を聞こう!」
「はい!」
家の奥にある黒沢さんの部屋に入れてもらい黒沢さんから昨日の事について話を聞くことにした
「黒沢さん、ドッペルゲンガーに遭遇してから何か変わったことはありますか?体調が悪いとか」
「いえ今のところはないですよ」
「そうですか、良かったです」
「しかしそれとは別に気になることが」
「なんでしょう」
「実はうちの労務から連絡があったんですが私の秘書が今日無断欠勤していて音信不通だそうなんです。まあ、すぐ見つかるでしょう」
「だといいんですけど・・・」
一応手帳にも書いておこう。・・・よし、次はDMの件について確認しよう。
「あの、アイカさんに送られてきたDMなんですけどあれは黒沢さんは送っていないってことで間違いないですよね?」
「違うに決まっているじゃないですか。あれはアカウントの乗っ取りってやつですね。今はちゃんと対処済みです」
「つまり、黒沢さんのアカウントをドッペルゲンガーが乗っ取ったってことですね」
「ええ、IT企業のCEOとしてお恥ずかし限りですよ」
「しょうがないですよ。あ、そうだ!聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なんでしょう?」
「実はこの部屋に入れてもらった際にあそこのゴミ箱の中が見えてしまって、赤いシャツを着ている黒沢さんと如月努が写っている写真があったんですけどお二人はお知り合いなんですか?」
「え!?そうなんですか?柊木さん!」
「うん、ちょっと気になっちゃって。どうなんですか?黒沢さん」
「それさ、今回と関係ないとおもうんだけどね。まぁ、いいや。学生の頃に所属していた部活の顧問が彼だったんだよ。まさかゴミ箱に残っているなんてね、全部処分したつもりなんだったんだけど」
「え?処分ですか?」
「ええ。ここだけの話、私は彼の事が嫌いだったんです。いち教授のくせに偉そうに色んな話を聞かされましたよ。お陰で恥を掻いたこともありましたね。全く、私が誰の息子かわかっていたのやら・・・と、すいません、つい」
「・・・いえ、気にしないでください」
話がそれたな、本題に戻ろう。次は盗まれた物がないか確かめよう。
「黒沢さん、何か盗まれた物はありませんか?机のPCからUSBケーブルがぶら下がっているみたいですけど」
「それよりキミにお願いがあるのですが」
「え?・・・なんでしょう」
「あそこの金庫の中を調べてもらえませんか?番号は"5666"です。中は書類や時計が入っているはずですから」
「え?・・・ああ、はい」
なんで俺が?自分で確かめればいいのに。
金庫の番号を入力するためにしゃがみ込む。嫌な予感したのでハンカチ越しにボタンに手をかけた。
5.6.6.6.っと、開いた!えーと、中身は書類と時計か、なにも盗まれてはいないみたいだな
「黒沢さん、なにも盗まれていないみたいですよ」
「それはよかったです」
なんだったんだ?まぁでもドッペルゲンガーの目的はこの金庫の中ではないってことだよな。やっぱりアイカさんが言ってたHDDが目的なんだろう。一応黒沢さんに報告しておこう
「黒沢さん、ドッペルゲンガーの目的なんですけどどうやらHDDが目的みたいですね」
「HDD!?」
「ええ、5の赤いステッカーが貼ってある」
「!!そ、それってセンターの方で取り返してもらうことってできる?」
「え?すいません今は約束できないです」
「最悪破壊してもらっても構わない。とにかくアレが世間に出回らないようにしてもらいたいんだ」
「・・・・すいません。それもちょっと」
「とにかく!アレはドッペルゲンガーのことより重要だってことを分かってもらいたい!」
「は、はぁ・・・」
めんどくさくなりそうなので適当に返事をしてから一度ジャスミンの元に戻った。
「お疲れ、どうだった?」
「ああ、それなんだけどさぁ」
俺は今回判明したことをジャスミンに説明した。
「なるほどねぇ。行方不明の清元さんにHDDか、そうなるとHDDのが中身が気になるな、破壊しても構わないって絶対ヤバいデータじゃん」
「俺もそう思う。でも今日の調査はこれでおしまいかな」
「分かった。車回してくるから待ってて」
「ラギッチお疲れ!」
「柊木さんお疲れ様でした!!」
「ああ、お疲れ!次の調査は黒沢さんの連絡待ちだからよろしく」
黒沢さんの家の調査を終えた後、用事があったのでいつもとは違う場所にジャスミンに降ろしてもらった。
にしてもこの辺暗いな。
街灯がところどころ切れかかっている道を歩いていると1つ奥の街灯の光に蹲っている人が見えた。
どうやら泣いているようだ。
「どうして、どうしてこんなことになったの?・・・がなんで。私を1人にしないで」
「大丈夫、俺が一緒だ。だから顔を上げてくれ、な?・・み」
俺は声を掛けてながらいつの間にか手を伸ばしていた。
するとその人が振り返った。
その顔を見て俺は絶句した。
目は限界まで見開いていて真っ赤に染まった俺が居たのだ。
ソイツは顔だけを機械のようにギギギと不気味に動かし、いきなり襲いかかってきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわ!びっくりしたぁ!」
「はぁ、はぁはぁ、こ、ここは?」
「センターの車の中。今黒沢から連絡を貰ってアイツの会社に向かっているところ」
「はぁはぁ、そ、そうか、夢・・・か」
「だ、大丈夫ですか?柊木さん」
「珍しく助手席で寝てると思いきやいきなり大声出して、どうしたん?」
「い、いや、凄い悪い夢を見たみたいでさ、びっくりさせてごめん」
「いや別にいいけど・・・って、ラギッチ?なんで泣いてんの?」
「え?」