柊木side
グレートリセットを達成した数週間後、俺は取り壊され更地と化したセンターの前に立っていた。
あれから警察の動きをマークしていたが俺達を捕まえようとする動きは見られなかった。
おそらくクローゼット行きとなったのだろう
警察の秘密の一つであるクローゼットを利用されたと世間に知られるのを恐れたからだろう。予想通りすぎて思わず笑ってしまう。
そんなことより今日ここに来たのはある人物と話をするためだ。
覚悟を決めたはずなのにまだ緊張する
激しく鼓動する胸を押さえて深く深呼吸をしていると彼女は現れた。
「柊木さん・・・・」
「・・・あざみ、来てくれたんだ」
「・・・はい。センター、無くなっちゃったんですね」
取り壊されたセンターを見ながら悲しそうにあざみは言った。
「うん、もう俺たちには必要ないからね」
「俺たちっていうのは柊木さんとセンター長さんのことですよね?これからどうするんですか?」
「一度日本を離れようと思ってる」
「え!?」
「でもその前にあざみに話しておきたいことがあったんだ、だから今日ここに呼び出した」
「話したい事ですか?」
「うん、でもその為にはある場所に向かう必要がある。話はそこについてからしたい。いいかな?」
「・・・分かりました」
あざみを乗せて車を走らせ、ある場所に向かった。
道中はお互いに話す事なく過ごしていたせいか目的地までの道のりが遠く感じた。
目的地の駐車場に着くと車を降りてトランクから荷物を取って徒歩で移動し始める。
「ここって・・・墓地?どうしてこんなところに」
「すぐ分かるよ・・・」
落ち葉が舞う道を少し歩くと目的の場所に辿り着いた。
「こ、このお墓ってもしかして・・・」
目の前にはお墓があり、"如月家"と記されている。
「努さんとそのご両親が眠ってる」
「ど、どうして私をここに?」
「その前にお墓を掃除するの手伝ってよ」
先程トランクから取り出した道具をあざみに渡して2人でお墓の掃除をした。
「よし!こんなもんかな、手伝ってくれてありがとう。努さんも喜んでいるよ」
「いえ、・・・あの、そろそろ聞かせてくれますか?なんでここに来たのか、伝えたい事ってなんですか?」
「分かってる。今日ここに連れて来たのはあざみに全てを話す為だ」
「全て・・・ですか?」
全て、その単語を聞いてあざみは身構えた。これから俺から何を聞かさせるのかなんとなく分かってるのかもしれない。
「うん、俺は何者なのか、どうしてグレートリセットを引き起こしたのか、そして・・・」
「福来あざみという存在について」
あざみside
柊木さんは悲しげな顔でゆっくりと話してくれた。
柊木さん自身の事、如月努さんとの関係、なぜグレートリセットをしなければいけなかったのか、センター長さんや私の事、そして如月歩さんの事。
・・・どうやら私は私ではないらしい。
でも不思議と受け入れている自分がいる。
きっと心のと何処かでは気づいていたのかもしれない。
私が黙っているあいだ、柊木さんは顔を下に向けていた。
この話をするべきか直前まで迷ったらしい。
この話をする事で私から罵声を浴びさせられる事も覚悟していたそう。
正直、柊木さんから呼び出された時、会って文句の1つでも言ってやろうかと思っていた。
急に消えたくせに今度は会えないかと急に連絡をしてきて、勝手すぎない?そう思った。
センターに向かう途中はずっとなんて言ってやろうかと考えていた。でも、いざ本人を前にすると何も言えなくなってしまった。
もう会えないと思っていた人と会う事が出来た嬉しさの方が大きかったから
だって、私は柊木さんの事が・・・
「あ、あざみ?」
柊木さんの震えた声が私の思考を中断させた
「あ!す、すいません。いろいろ考えちゃって」
「い、いや、いいんだ。急にこんな話をされたんだから当然だよ・・・ごめん」
もう何度目か分からない柊木さんの謝罪。相当苦しんでいるのが分かる。
なら、私は・・・・
「顔を上げて下さい、柊木さん」
そういう言うと柊木さんはゆっくりと顔を上げた。
「柊木さん、全部正直に話してくれてありがとうございます。私、嬉しかったですよ、柊木さんがずっと私の事を考えていてくれたこと」
「あざみ・・・」
「でも、ジャスミンさんに怪我させたのは許せません!ちゃんと会って謝って下さい!」
「うっ、分かってる。ジャスミンにもちゃんと話すつもりだからその時に謝るよ」
「それなら私から言うことはもうありません!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだあざみから何も文句を言われてない!そんな簡単に済ませていいわけが・・・」
「簡単じゃありませんよ、これが私の出した答えです。柊木さんは全部話した、私はそれを許した。それでいいじゃないですか。なのでこの話はもう終わりです!」
「あ、あざみ・・・・ううっっ」
目が涙で溢れる柊木さん、そんな彼を私は胸で受け止めた。
柊木さんが泣き止むと私達は一度車に戻った
私がシートベルトを着けようとしていると柊木さんは顔を赤くしているのが見えた。
「あざみ、さっきの事だけどさ、ジャスミンには内緒にしといてくれない?」
どうしよう。話す気満々だっんだけど・・・
「嫌です!私達に隠し事していた罰ですよ!柊木さん!」
「マジか、参ったなぁ」
「えへへ、覚悟しておいて下さいね!」
そんな私を見て柊木さんは外の景色を見た。
外の方を向いた時に柔かに笑ったのを私は見逃さなかった。
久しぶりに見る柊木さんの笑顔。それを見て私は胸の高鳴りを感じた。
あの時言えなかった事を今、言うべきなのかもしれない。
でも、その前に話したい人達がいる。
「柊木さん、センター長さんや歩さんと話がしたいんですけど、どうしたらいいでしょうか?」
「え?渉と歩に?そうだなぁ、2人と話がしたいと強く念じれば出来るかも。実際それで渉と歩は会話していたそうだし」
「なるほど!やってみます」
言われた通り、強く念じる。すると私の意識は段々と薄くなっていて気づけば真っ白な空間が広がっていた。
歩side
「こんにちは、如月歩さん。福来あざみと言います。って、自己紹介は必要ないですよね」
気恥ずかしそうに彼女は私の前に現れた。
福来あざみ、私が生み出した人格の1人。
こうして話すのは私も初めてのことだった。
「いらっしゃい、あざみ。よく来たね」
「はい!来ちゃいました!」
満々の笑みで答えるあざみ。自分で言うのもなんだが、自ら生み出したとは思えないほど明るい。どこか兄さんの面影を感じる。
「それで?私達に話があって来たんでしょ?」
「はい!これまでのことでお礼を言いたくて」
お礼をしたいと言われて私は困惑した。あざみからお礼を言われる事なんて心当たりが一切無かったから。
「いったい何に対してのお礼かな?私はあなたを利用したんだよ?」
そう卑下する私の手を握り、あざみは嬉しそうに答えた
「だって、歩さんが居たから私は柊木さんやジャスミンさんと出会えたんです!とっても楽しい思い出が沢山出来たんですよ?」
どこまでも明るい彼女を見て私は言葉を失ってしまった。なんて返そうかと思考を巡らせているともう1人の人格が現れた。
「やれやれ、賞賛や感謝は素直に受け取るのが1番ですよ、歩さん」
「あ!センター長さん!」
現れたのは私が作り出したもう1人の人格である廻屋渉。都市伝説解体センターの長としての人格だ。
「アンタがそんな事を言うなんてね、いったい誰の影響かな?」
「それはもちろん、私のかけがえのない親友の影響でしょうね」
親友、その言葉にあざみが反応する
「親友?もしかして柊木さんの事ですか?」
「ええ、先日2人きりで話をした時にセンターが無くなった後、どのような関係でいるべきか悩む私に彼は親友でいる道を示してくれたんです」
「そうだったんですね!なんか柊木さんらしいですね」
「ええ、ほんとうですね。さて、話を戻しましょうか歩さん?あざみさんに言うことがありますよね」
渉に言われ、あざみの顔を見る。
見れば見る程私とは似ても似つかない、純粋無垢で可愛らしい顔立ち。
やはり彼の側に居るべきなのはあざみなのかもしれない。
「あざみ、まずは謝らせてほしい。あなたを利用してきてごめん。そして、私達と彼の側にいてくれてありがとう」
「はい!」
ぎごちない私の言葉でもあざみは笑顔で受け取ってくれた。
そんなあざみを見て私はあの事を伝えようと決心する。
それを感じたのか渉は私とあざみが2人きりになるようにしてくれた。
渉が居なくなったのを確認してあざみに話があると言ってその場で並んで座り込んだ
「話ってなんですか?」
「うん、実はね、グレートリセットを達成出来たら私はこっそりと消えて、この体をあざみに譲ろうかと思ってたんだ」
「え!?」
「あざみという人格で過ごしているうちに彼に必要なのは歩としての私ではなくて、あざみとしての私なんじゃないかと考えるようになったんだ」
「だから黙って消えようとしたんですね」
「でもね、出来なかった。いざ消えようとすると彼の顔が思い浮かんだんだ」
「・・・柊木さん」
「うん、彼とは長い月日を共に過ごして来た。楽しかった時も死にたくなるくらい辛い時も」
「・・・歩さん」
「私はね、彼が、菊の事が大好き。ずっと一緒に居たい、そう改めて思ったんだ・・・情けないよね」
そう言って体育座りで顔を伏せる私にあざみは立ち上がり力強く語りかける
「情けなくなんて無いです!好きな人の側に居たいって気持ちはとっても素晴らしいことですよ!私だって同じです!」
「あざみ・・・」
「私だって柊木さんの事が大好きです!側に居たいです!もちろん、歩さんやセンター長さんの側にも。そして歩さんやセンター調査さん、柊木さん、みんなに私の側にずっと居て欲しいです!」
泣き目になりながら懸命に語るあざみに私の心は揺れ動く
みんなに側に居て欲しい・・・か
「それに、歩さんに消えてもらっては私も困ります!」
「どうして?」
「だって、歩さんは私の恋のライバルですから!今は柊木さんは歩さんの事が好きなんでしょうけど、いつかあざみの方が良いって言わせちゃいますからね!」
恋のライバル、そんな単語が私が生み出した人格から出てくるとは思わず、つい笑ってしまった
「フフ、アハハ!恋のライバル・・・か、そんな関係もアリかもね」
「そうです!負けませんよ!」
「いいのかな?私は菊とはあんな事やこんな事は経験済みだよ?あざみに出来るの?」
「ひょえ!そ、それはちょっとずつ段階を踏んでですね・・・」
顔を真っ赤にしてあたふたするあざみを見て思わず笑みが溢れる。
「盛り上がっているところ恐縮ですが、そろそろ戻った方が良いのでは?柊木さんが待ってますよ」
「あ!そうですね!あの・・・誰か行きます?」
「あざみさんがよいかと」
「歩さんはどう思いますか?」
「行ってあげて、伝えたい事があるんでしょ?」
「歩さん・・・このまま行ったら消えちゃたりしないですよね?」
「・・・安心して、もう消えようとは思ってないから。あなた達と、そして菊とずっと側にいるって決めたから。停止した世界を抜け出して未来の世界へ歩んで行こうって」
「歩さん!嬉しいです!きっと柊木さんも喜びますよ!じゃあ、行って来ます!」
そう言うとあざみは現実に戻っていき、私と渉だけが残った
「よろしかったのですか?」
「うん、一度くらい恋のライバルに花を持たせるのも悪く無いと思ってね」
「そうですか、あなたにしては気が利きますね」
「うるさい」
頑張りなよ、あざみ。
あざみside
「おかえり、あざみ」
「ふにゃ、あ!柊木さん!ただいまです!」
「その顔を見るに、よく話せたみたいだね」
「はい!歩さんとっても良い人でしたよ!」
「・・・そっか」
そう言った柊木さんの顔はとても嬉しそうだった。
その顔を見て、私は嬉しい反面、少し苦しくなった。
柊木さんはたぶん知らない、歩さんが柊木さんに黙って消えようとしていたことを。
このことは言うべきではない。私の心に留めておくべきだと思っていると柊木さんは聞きづらそうに口を開いた。
「ねぇ、あざみ。もしかして歩はさ、俺に黙って消えようとしていたんじゃない?」
「え!き、気づいていたんです・・・は!」
とっさに口を手で塞ぐも手遅れだった。
それを見た柊木さんは深くため息をついた。
「やっぱり、そんな事だろうも思った。大方自分は消えて、あざみに体を譲ろうとしていたんだろうな」
そこまで気づいていたんだ・・・・
「柊木さんは歩さんに消えてほしく無いですよね?」
「当然だろ?何年側にいると思ってんだよ。消えてほしいわけないだろ!ずっと側にいてほしいよ」
・・・やっぱり柊木さんは歩さんのことが好きなんだ。なら、伝えないと!
「柊木さん、確かに歩さんは黙って消えようととしてました。でも消えなかった。なぜかだか分かりますか?」
「・・・」
「歩さん、言ってました。柊木さんとずっと一緒に居たいって、過去だけじゃなくて未来を一緒に見ていきたいって」
「未来・・・か、歩がそんなことを言うなんてな。なら、俺もこのままじゃいられない」
何かを決心した顔つきで柊木さんは胸ポケットからある物を取り出した。
「柊木さん!それって!」
「ああ、7枚目のイルミナカード、停止した世界。俺が持つ最後の・・・いや、始まりのカード」
「ど、どうしてここに」
「あざみが手に入れた後、歩から受け取っていたんだ」
教会で対峙した時、柊木さんは言った。
努さん達と過ごした幸せな日々を忘れられずにいまだその時に囚われていて、未来に希望なんて無いと。未来なんかよりあの時の世界で過ごしていたかったと。
それを表しているのが7枚目のカード、それが今、柊木さんの手にある。
「それをどうするつもりですか?」
「歩は前を、未来を歩んでいくと決めた。俺と、俺達とこれからも一緒に居たいと言った。なら、俺もこのままじゃダメだ」
そして柊木さんは手に取ったイルミナカードを2つに破った。
「決めたよ。立ち止まるのはもう辞めだ。前を、未来を歩んでいくよ、皆の側でね」
「柊木さん!!」
そんな柊木さんを見て私は凄く嬉しくなった。教会で対峙した時は届かなかった思いがやっと届いたのだから。
同時にあの時伝える事が出来なかった私の気持ちを伝えようと決心した
「柊木さん」
「ん?」
「私が柊木さんに1番伝えたい事、聞いてくれますか?」
「うん、もちろん」
深く、深く深呼吸をして柊木さんの顔を真っ直ぐ見つめる。
「柊木さん、私、柊木さんの事が大好きです。初めて会った時からずっと」
「あざみ・・・でも、俺は」
「分かってます。柊木さんは歩さんが好きだってこと。でも、これからは歩さんとセンター長さんの側にいるって決めたんです。ということは柊木さんの側にもいるってことになりますよね?なのでそれを利用してそのうち私の方が良いってなるようにします!」
「歩はそれを許したの?」
「はい!私が歩さんは恋のライバルですって言ったら、そんな関係も悪くないねって言ってました!」
恋のライバル、それを聞いて柊木さんはキョトンとしている。
「アハハ!歩がそんな事を!?あざみはよっぽど気に入られているみたいだね」
「はい!柊木さん、これから大変ですよ?歩さんと私の両方から言い寄られるんですから!覚悟しておいてくださいね?あと歩さんが話があるそうです。変わりますね」
「え、ちょ、ちょっと!?」
さあ、かましちゃって下さい!歩さん!
「・・・浮気したら許さないから」
「は、はい・・・」
「フフ、もういいよあざみ、変わってくれてありがとう」
「ですって!柊木さん!」
「・・あざみのこと初めて怖いって思ったよ」
「な、なんでそうなるんですかぁ!!」
その後も私と歩さん、センター長さんと変わり代わり柊木さんと話をした。
みんな途中で楽しくなってしまい、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
「じゃ、そろそろ帰ろうか」
「え?どこにですか?」
「決まってるでしょ?俺たちの家にだよ」
「俺・・・たち?」
「あれ?聞いてない?俺と歩は同棲しているんだよ。だから自動的にあざみと渉は一緒に住むことになるんだけど?」
「え!?ええええええ〜!!」
「あー、歩のやつ、わざと黙ってたな」
「歩さん!聞いてないですよー!」
「フフ、そんな事で動揺していたら私のライバルは名乗れないね?」
「むむむむ!そんな事ありません!全然平気です!」
「そう?まあ、頑張ってよ」
負けてられない!!
「柊木さん!帰りましょう!私たちの家に!!」
「顔真っ赤にしてよく言うよ。・・・帰りに芋けんぴ買って帰ろうか」
「はい!高級なやつをお願いします!」
「わかったわかった。じゃあ、帰ろうか」
「はい!」
その夜は緊張し過ぎて一睡も出来なかったけど、私はとても幸せだった。