ジャスミンside
グレートリセットが日本中で起こってからもう2ヶ月が経った。
あの事件の後アタシは警視監から長い特別休暇を貰って最近は自宅に引き篭もって酒に入り浸る毎日を過ごしている。
・・・・クソ、全然酔えねぇ
もともと酒の強さには自信があったが、ここまで飲んで酔えないのは初めてだった。
酔って早く忘れよう。そう思ってずっと飲んでいるというのに酔えない、忘れられないの負の連鎖で疲弊してしまっているのが自分でもわかる。
あれからアイツらにしょっちゅうメッセージや電話をしているが既読がつくことすらなかった。
ああクソ、もう空になりやがった。もう1本・・・って、これが最後かよ、チッ、しゃあねえ
今日はもう寝て明日また買いに行こう、そう思い今日のところは眠りについた。
次の日、目が覚めてスマホの時計を見るとすでに昼を回っていた。
今日はこのまま寝てしまおうと思い目を閉じるがスマホの通知がそれを許さない
その音に釣られて飛び上がってスマホを見ると1通のメッセージが送られてきた。
『全てが始まった場所で待つ。R』
メッセージを送ってきたアカウント名やアドレスに心当たりはなかったがメッセージに書かれた「R」には覚えがあった。
アイツだ、アイツしかいない。
アタシの考えが正しければこのメッセージに書かれた“全てが始まった場所"とは思うアイツらが初めて出会ったあの場所に違いない
聖ニコラオ教会、そこにアイツはいる。
そう確信し身支度を整えて指定された場所に急いで向かった。
教会に着く頃には雨が降っていた。
雨の中を進み教会の扉を開けると綺麗に装飾された祭壇が目に付いた。
周りをよく見てみると室内中の蝋燭に火が灯られている。
今入ってきた扉の近くの蝋燭の長さを見ると火が点けられてそんなに時間は経っていない事が分かる
蝋燭を調べ終えると祭壇の近くから人の気配がしたので近づいてみるとフードを被った人間が右側の先頭のチャペルチェアに座っていて、近づいてきたアタシに気づくと立ち上がってフードを取りながらこちらに振り向いてきた
「よっ!ジャスミン、久しぶりだな」
「・・・ラギッチ、やっぱりアンタだったか」
アタシを呼び出した奴の正体は予想通り2ヶ月姿を消した友人の1人・・・
その姿といつもと変わらない調子のコイツに今まで溜め込んできたモノが一気に込み上げてくる
気がつくとアタシはズカズカと近づき思いっきりぶん殴っていた。
「ぐっっ!っ痛ってー、殴られる覚悟はしてたけどいきなりとはね・・・」
「フン、今のはあざみーの分だ。あんなに泣かせやがって」
「・・・」
「・・・で?なんで呼び出した?」
「一言ジャスミンに謝りたかったんだ。俺のせいで死にかけただろ?」
「全くだ、お陰でまだ時々体が痛む」
「うっ、本当に申し訳なかった」
ゆっくりと深く頭を下げるラギッチを見て居た堪れなくなった。
「・・・はぁ、もういいよ、さっき殴った分で許してやる」
「・・・ありがとう」
「・・・ああ」
互いの罪悪感が重なりお互いに目線を逸らすとしばらく沈黙が続いた
痺れを切らしたアタシもう1人のことについて尋ねる
「ねぇ、あざみー・・・いや、如月歩は?」
「やっぱり気になる?」
「当然だろ」
「まあ、そうだよな。とりあえず座ってから話そうか、ほら、ここ」
そう言ってラギッチは先程まで座っていた場所に座り直すとアタシに隣に座るように椅子を叩いた
仲良く座る気はなかったので1人分程のスペースを空けて座った。
「それで、歩のことだったよな」
「ああ」
「歩は今俺たちが住んでいる家にいる。悪いけど家がどこにあるかは言えない」
「いつも送ってた所じゃないのか?」
「ああ、あれは俺が1人で住んでいた時の家だよ。こないだ引き払ったけど」
「ちっ、そうかよ」
あわよくばそこに突撃してやろうかと思ったが無駄なようだ
切り替えて次の質問をした。アタシがコイツの口から直接確認したかった事だ
「なあ、本当にセンター長とあざみーは如月歩が作り出した人格なのか?」
「・・・ああ、そうだ」
「そう・・・か」
何かの間違い、そう心のどこかで思っていた微かな希望も打ち砕かれた。
だが、不思議とそこまで残念ではなかった。多分ハッキリとした答えを聞きたかっただけなのだろうと自分に言い聞かせた。
そういえばあの子はどうしているのだろう?
「ねぇ、あざみーはどうしてんの?あの子は何も知らなかったんだよな?」
「あざみは確かにグレートリセットの計画のことは何も知らなかった。それは間違いない」
「そっか、よかった」
「でもこの間全部俺が話した」
「はぁ!?な、なんで!」
ラギッチはあざみーと再開した時のことを申し訳なさそうに話してくれた。
あざみーのことを利用するだけ利用して事が済んだら何も言わずにあざみーのとしての人格を消し去る、それが出来なかったと、ちゃんと謝りたかったとラギッチは言った。
全て話した後、あざみーがどんな決断をするかはラギッチにも如月歩にも廻屋渉にも分からなかったそうで、あざみーが出した結論を全員尊重すると決めたそう。
そしてあざみーが出した答えは許すこと、そしてこれからも一緒に歩んでいくことだったそうだ。
まったく、いつのまにか大きくなりやがって・・・
さてと、そろそろ全部話してもらおう
「なぁ、全部話してくれるんだろ?」
「ああ、もちろん。それも呼び出した理由の一つだからな」
そう言いながらラギッチは上を向き、目を閉じながら懐かしむように語り始めた
「あれからもう、20年近くになるのか・・・そう、全てはこの場所から始まったんだ」