孤児院で過ごし始めてから1年が経ち、他の子供達や職員人達とは普通に話せるようになった
最近では小学校に問題なく通えるように職員の人が手続きをしてくれているらしい。
今、僕に出来ることは遅れて編入しても問題ないように勉強をすることだった。
それはいいんだけど・・・
「ほら、また間違ってる。こんなのも分からないの?」
「そう言わないでよ!そもそもこんな問題を解くなんて聞いてないって!」
いつのまにか歩のスパルタ授業を受ける羽目になっていた。
「教える代わりに口答えしないって約束したよね?」
「うぅ、それはそうだけとさ・・・」
「ならさっさと解く」
「はぁーい」
・・・僕より2歳年下のはずなんだけどなぁ、やっぱり"アレ"は本当なんだ。
"アレ"とは歩の持つチカラのこと。それを知ったのはごく最近のことだった。
歩によれば、かかりつけの病院の診断で歩は生まれ時から"ギフテッド"と呼ばれる頭脳の持ち主であると診断されたそう。
それの影響か物心ついた時から人に重なって幽霊のようなものが視ていたらしく、そのせいで酷い頭痛に見舞われることも少なくなかったとか
さらには周りの大人達や同世代の子供達は視えることを信じてはくれず、いつの間にか孤立していったそう。
不幸中の幸い、とは言えないが直接虐められたりすることはなかったみたいだ
それからしばらく勉強をしていると努さんが学校から帰ってきた。
「ただいま、お!仲良く勉強しているね、関心関心!」
「兄さん!」「努さん!」
「どれどれ、今何の勉強をしているのかな・・・って、これ高校生の問題集じゃないか!」
よかった!努さんもそう思うよね!!
「私からすればこれくらい簡単だよ?兄さん」
「歩はそうかもしれないけど・・・だから菊がいつもより辛そうにしてたのか」
「い、いや、僕は別に・・・」
本当はキツイが自分から教えてくれと言った手前、弱音を吐くわけにはいかなかった
そんな心境を察してきれたのか努さんはお菓子があるから休憩しようと提案してくれた
歩もそれには渋々承諾し、結果的に今日の勉強会は終了した
数日後、歩から呼び出されてたので部屋を訪ねるとなんと努さんが犬神大学に合格したと報告を受けた。
「おめでとうございます!努さん!」
「菊・・・うぅぅ、ありがとうぅぅぅ」
腕で目を隠しながら号泣している努さんに歩は呆れている。
「もう、兄さんなら楽勝だったんでしょ?」
そうは言いつつも嬉しそうだ
いつまでも泣いている努さんをなだめていると孤児院の人が部屋にやってきた。どうやら合格記念に花束を用意しており外で写真を取ろうと提案してきた。
写真を撮るために外に出て横に3人で並ぶとまた努さんが泣き始めた
「うっおおおお!みんなありがとうぅぅ」
「ちょっと、努さんってば流石に泣きすぎですよ」
「だって、だってぇぇぇ」
ど、どうしよう・・・これじゃ写真を撮るどころじゃないよ
どうしたもんかと考えていると痺れを切らした職員の人がもうそのままでいいから撮ってしまおうと言ったので努さんを真ん中にして3人で横に並んだ
「はい、じゃあ撮りますよー」
この時に撮った写真は孤児院の壁や3人の机に飾られることになった。
冬が終わり孤児院の庭に桜が咲き始めたある日のこと
努さんに上野にある公園に3人で遊びにいかないかと誘われた
断る理由などなかったので二つ返事で承諾するとパァッと笑いながら不思議な事を口にした
「良かった!歩も喜んでくれるよ!」
「は、はぁ・・・」
どうしてそこで歩がででくるんだろう、そう思ったがなんとなく聞くのをやめた
「それじゃあお昼ご飯を食べたら僕の部屋においで。皆んな揃い次第電車で向かおうか」
「分かりました」
「うん、またあとでね」
お昼ご飯を済ませ、予定通り努さんたちと合流して努さんの車で上野の公園に向かった
公園に向かう途中の車内では努さんによる授業が開講されている。
授業内容は上野に蔓延る都市伝説「異界」に関してでそれはもう熱心に解説している
「つまりだね、異界は上野にだけではなく世界中に存在すると僕は思うんだ。それを立証している論文があるんだけど・・・」
「ちょっ、努さん!前!前!赤信号!!」
「え?うわっ!」
力説しすぎて前をよく見ていなかったのか車は停止線を少しはみ出して停止した
「ふぅ、危なかった・・・2人とも大丈夫?」
「私は大丈夫、でも菊が・・・」
「え!き、菊!大丈夫かい!?」
「いてて、な、なんとか・・・」
シートベルトをしていなかったのが災いして前の席に頭をぶつけてしまったが幸いにもケガはなかった
「もう、兄さんってば、都市伝説の話をしてくれるのはいいけど前をちゃんと見てよ」
「はい、気をつけます・・・。菊もごめんね」
「い、いえ、大丈夫ですからもっと聞かせて下さい!」
「え?いいのかい?」
「はい!努さんから都市伝説の話を聞くの大好きですから、ね、歩?」
「う、うん・・・まあ、そうだけど」
もっと話を聞きたい、2人からそう言われた努さんはさっきよりも興奮して話し始めた
「な、ならとっておきの話があってね」
いったいどんな話が飛び出すのだろう、ワクワクしているとタイミング悪く信号が青になってしまった
「ほら、青になったよ、兄さん。ちゃんと前を見て」
「・・・はい、分かりました・・・」
妹に頭が上がらない努さんを見て2人に気づかれないようにこっそり微笑んだ
上野にある公園、不忍池に到着してまず向かった先はとある雑居ビル。その出入りには2人の男女が立っていた
「やぁ、2人とも、お待たせ」
「あ、先輩!お疲れ様です!」
「こ、こんにちは、努さん」
どうやら2人は努さんと知り合いなようだ
歩は一度会ったことがあるようで2人から挨拶をされると、どうも、と軽い会釈を交えながら答えていた
「努さん、この人たちは?」
「ああ、菊は会うの初めてだったよね。2人は僕の後輩なんだ」
努さんがそう言うとそれぞれかが自己紹介をしてくれた
「こんにちは、初めまして。野村健吾って言います。よろしくね、柊木くん」
「初めまして、妹の朋子です。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
お互いに自己紹介を終えると努さんがここに来た目的を話始める
どうやらこの雑居ビルには例の"異界"に繋がる入り口があるとか
情報源はSNSに掲載されていた記事で正直信憑性は低い
その記事によれば上野のどこかのビルのエレベーターのボタンを特殊な手順で押すと異界に行けるとか
「よし、行くよ!」
ネクタイを締め直し、気合い十分の努さんの後を追って雑居ビルの中に入りエレベーターに乗り込む
全員乗り込んだのを確認して努さんが特殊な手順、この雑居ビルが建てられた年代を押すとエレベーターはゆっくりと地下と降りていく
目的の階に止まりエレベーターの扉が開くと薄暗い空間が広がっていた
「ここが、異界・・・」
初めて見る光景に驚いていると隣にいた歩が耳元で囁いてきた
「多分、違うよこれ、みて、あそこの壁」
歩の目線の先には壁に大きく文字が書かれていた
「陸軍第6号坑道?」
「そう、多分戦時中に使われていたんだと思う」
「ってことはここは異界って言うよりただ封鎖された場所になるのかな?
「うん、残念だけど」
そっか、努さんがっかりしているだろうなぁ
そう思い努さんを見てみると顔を下に向けて両手握りプルプルと震えている
その姿に居た堪れなくなり声を掛けた
「あ、あの努さん、あまり気を落とさないよう・・・」
「す、凄い!!上野にこんな場所があったなんて!!大発見だ!」
・・・え?
「ここは多分戦時中に使われていた坑道に違いない!それに地面に敷かれたレール!これはきっと石炭なんかを運ぶトロッコを走らせる為に設置されたんだ!他には何かないか?くぅぅ〜これ以上奥に行けないのが悔しい!」
・・・あ、あれ?むしろ元気になった?
訳がわからず立ち尽くしていると後ろから野村さんたちが笑いながら横に立った
「はは、相変わらずだな先輩」
「うん、本当に好きなんだね努さんは」
この2人にとってはいつもの事なようではしゃぐ努さんを微笑ましく眺めている
そんな2人を見て尋ねたくなった
「あの、努さんはなんで目的の異界がなかったのにあんなにはしゃいでいるんです?」
「ん?ああ、それはね新しい都市伝説の可能性見つけたからだよ」
「新しい?ここは戦時中に使われたってだけの坑道ですよ?」
「いいかい、都市伝説というのはなにも噂を元に生まれるだけじゃないんだ。その都市伝説がある土地の風習や歴史も都市伝説の一部なんだ。つまり」
「つまりこの場所の歴史を調べられることが嬉しくてあんな風になっているんですね」
「そういうこと!」
「なるほど、でもこの先は鍵が掛かってて進めないみたいですね」
「だね、どうやらここを管理している人たちの仕業かな。しょうがない、一度引き上げようか」
「そうですね」
地上に戻り野村さんたちと別れた後、公園のベンチで休憩をすることに
アイスを奢ってもらい夢中で食べる。
あっという間に食べ終えて隣を見ると歩がいなくなっていた
「つ、努さん!歩がいません!」
「え!いったいどこに行ったんだ・・・」
「ぼ、僕探してきます!」
「あ!ちょっと!1人じゃ危ないよ!」
努さんの静止を無視して駆け出してまずは大きな池がある広場に向かった
池の周りをぐるっと回るとスワンボートが停めてある場所に辿り着き、歩を発見
「いたいた、歩、探したよ。って、何見てるの?」
「ん、別に、何も」
そう言いながら歩が目線を逸らすと後ろから努さんが追いかけてきた
「はぁはぁ、やっと追いついた。2人ともダメじゃないか勝手に行動したら」
「ごめんなさい、努さん」
「ごめん、兄さん」
「まったく、気をつけてよ。で、ここでいったい何をしてたのかな?」
「それを今僕も歩に聞こうとしてたんですけど・・・」
そう伝えると、努さんは顎に手を置いてニコニコ仕出した。
「ふむ、なるほどね〜、乗りたかったのか、スワンボート」
頭を撫でられながらそう指摘されると歩の顔が段々赤くなっていた
「・・・だって、乗ったことないし」
恥ずかしいそうに答える歩を見て努さんは高らかに笑っている
「あっははは!乗りたいならそう言ってくれればいいのに、よし!みんなで乗ろう!ほら、菊もおいでよ」
「は、はい!」
努さんに呼ばれて一緒にボートに乗り込む。操縦席には歩が座っている
「・・・・フフ」
ボートの舵を握る歩はさっきまで恥ずかしがっていた時とは裏腹に今まで見たことがないくらいの笑顔をしていた
いつのまにかその笑顔から目が離せなくなっていて歩のことをじっと見つめていた
それと同時に胸も今まで感じたことがないくらいドキドキしている
・・・いったいどうしたのかな?
ふと、努さんの方を見ると何やらニヤニヤしていた
「努さん?ニヤニヤしてどうしたんです?」
「ん?いやいや!なんでもないよ!スワンボート楽しいね!」
「え?そ、そうですね・・・」
いったいなんだったんだ?
おかしいとは思ったがそれ以上は何も言わずにボートを楽しんだ
この時、胸がドキドキした意味を理解したのはもう少し後のことだった