中学生活は充実した日々を過ごすことができ、あっという間に2年が経った。
そして2年の冬休みを利用し、今日は助教授として勤務している努さんの手伝いをする為、犬神大学の研究室に歩と一緒に訪ねている
「この資料のここの所、噂が流れた時期と家が建てられた時期が矛盾してません?」
「あ、本当だ。えっーと、確かその資料を作る時に参考にした本が・・・あれ?どこに置いたっけ??」
そう言いながら努さんがガザガザと音を立てながら目的の本を探していると俺の足元に何かが当たった。見てみると今努さんが探している本だった。
「もう、自分の部屋くらい綺麗に片付けてくださいよ・・・ほら、これですよね」
ホコリを払いながら拾い上げそ伝える
「あ、そうそう、それそれ!いやー、研究に没頭するとつい片付けにまで手が回らなくてね」
「もう、兄さんしっかりしてよ」
「あはは、ごめんごめん」
「自分の部屋も散らかってるクセによく言うぅぅぅ痛い痛い!ほっぺをつねるな!」
「ふん、余計なこと言うからだよ」
くっぅぅ、痛ってぇ〜〜、ヒリヒリする。強く引っ張りすぎだろ!
「あはは。それにしても、いよいよ歩も中学生だね。しかも僕や菊と同じ犬神中学校だなんて、なんだか感激だなぁ」
「まぁ、他の所に行ってもつまらなそうだし」
歩の制服姿かぁ、・・・悪くないかも
そんなことを考えていると部屋に来客がきた。
「あ、先輩、お疲れ様です」
「こんにちは、努さん」
「やぁ、健吾君、朋子さん」
「あ、柊木君!久しぶり!」
「健吾さん!お久しぶりですね!朋子さんも!」
「大きくなったねー、すっかり身長越されちゃったね。初めて会った時はこんなに小さかったのに。やっぱり男の子ね。歩ちゃんも元気だった?」
「・・・・ええ、まぁ」
相変わらず歩は朋子さんに対してちょっと敵対心があるなぁ
「ところで、健吾君。頼んで置いた物は?」
「あ!いけない!忘れてました!すいませんすぐ取ってきます」
「俺も手伝いましょうか?」
「ほんと?助かるよ」
「いえいえ。努さん、俺も行ってきますね」
「うん、頼んだよ」
努さんの研究室を出て健吾さんと一緒に頼まれた荷物を取りに向かう。荷物はそこそこの量で一緒に来て正解だった
荷物を研究室に運んでいる途中、トイレに行った健吾さんを待っていると近くの自販機がある休憩スペースから話し声が聞こえてきた
あれは・・・何回か努さんの講義で見たことあるな
「ああー、うぜぇなあのオカルトオタク」
「はは、みんなの前で間違いを指摘されたのがよっぽど気に食わなかったみたいだな?黒沢」
「うるせえぞ眉崎。ああ、イライラするわ。准教授のくせに偉そうにしやがって。オヤジに頼んで制裁してやろうか」
「ほっとけよ。それより今度の動画の件だけどさ、きのこから連絡があっていいネタがあるらしいぜ」
「へぇ、内容によっちゃ動画にしてやってもいいかもな」
そんな会話をしながら何処へと向かう2人の男の背中を見ていると健吾さんが戻ってきた。
「ごめんお待たせ。って、どうしたの?」
「ああ、いえ、別に・・・」
「そう?ならいいんだけど。よし、早いとこ先輩の所に戻ろうか」
「・・・ですね」
これは言うべきではないな・・・黙っておこう
やるせ無い気持ちを抱えて努さんに頼まれた荷物を研究室へと運び終えると健吾さんたちは用事があるからと帰って行き、歩もトイレに行って努さんと2人きり。
相変わらず研究を続ける努さんの方肩に手を回してあのことについて聞いてみることにした
「ちょっと菊、急にどうしたんだい?」
「いやー、最近朋子さんとはどうなのかなーって思いまして」
「え!?ど、どういうことだい?」
赤を真っ赤に染めちゃって、図星だな?
「誤魔化さないで下さい。好きなんですよね?朋子さんのこと」
「え、えっとー・・・・うん・・・」
「やっぱり!」
「ど、どうしてわかったんだい?」
「どうしてって・・・見てれば分かりますよ。朋子さんが来た時と帰った時のテンションが全然違いますし」
「そ、そんなにかい?ま、まいったな」
かなり動揺しているのか、眼鏡を取り外し一心不乱にメガネ拭きで拭いている
そ、そんなに動揺するなんて・・・でもこんな機会なかなかないぞ
さて、次は何を聞こうか考えていると歩がトイレから戻ってきた。
「・・・なにをしているの?」
「え?い、いや、なんでもないよ!ね!菊!」
「え!?えっーと・・・・」
絶対言うな!と目で訴える努さんを間近で見て察した。
歩に言ったら絶対にめんどくさい事になる!
歩に気づかれないよう小さく頷き、歩になんでもないと説明した
「・・・本当?」
「ほんと、ほんと!ですよね!努さん!」
「そ、そうだよ!」
「・・・ふーん。まぁ、いいや」
・・・勘づかれている?まさかね
このままこの話を続けていると本当にバレそうなので話題を変える
「そ、そういえば教授から本を出してみないかって勧められたんですよね?」
「そ、そうなんだよ」
「どんな本にするか決まったんですか?」
「うん、色々悩んだけどやっぱり都市伝説に関する本にしようかと思うんだ」
「へぇ、努さんらしいですね。ねぇ、歩」
「そうだね。それで兄さん、どこまで進んだの?」
「そ、それが・・・」
あ、これ全然進んでないやつだ。
「都市伝説って言っても色々あるし、どれも好きだから迷っちゃってなかなか・・・ね」
うーん、確かに一つに絞るのは大変だよな・・・あ!そうだ!
「あの、どうせなら都市伝説そのものをテーマにすればいいんじゃないですか?」
「え?どういうことだい?」
「上手く言えないんですけど・・・都市伝説ってあまり馴染みがない人が多いと思うんです。ですからそんな人たちの為の参考書みたいな本にしたらどうでしょうか?都市伝説の大まかな種類とか扱い方とか」
「な、なるほど。確かに都市伝説はどうしても暗い、怖い、怪しいとかマイナスなイメージが多いし・・・そんな考えを払拭させる為にもいいかもしれない!ありがとう!菊!早速執筆に取り掛かってみるよ!」
「はい!っと、その前にこの散らかった部屋をなんとかしましょうね」
「あ・・・はい・・・」
「俺も手伝いますから。で、歩はどこに行くつもり?」
「・・・トイレ」
「嘘つけ!逃げる気だろ!手伝いなさい!帰ったら歩の部屋も掃除してやるから」
「・・・わかったよ」
まったくもう、兄妹揃って・・・しょうがないなぁ
それから数時間かけて3人で、というか殆ど俺が片付けてなんとか普通に使えるくらい綺麗になった。お陰で汗びっしょりだ。ちょっと休憩しよう。
「ふぅ、この部屋こんなに綺麗だったんだね」
「お疲れ様、兄さん」
「ああ、ありがとう」
首に巻いたタオルで汗を拭き一息付く努さんに歩がペットボトルのお茶を渡す。
「あれ?俺の分は?」
「え?無いよ?」
「え?」
「え?」
・・・・・・嘘、だろ・・・ひどくね??
肩を落とししばらく落ち込んでいるとほっぺたに冷たい何かが当たる。顔を上げて見てみると努さんが飲んでいるやつと同じペットボトルを歩が持っていた
「冷た!」
「ほら、お茶」
「あ、ありがとう」
両手で有り難く受け取り、ビールのCMのようにごくごくと一気に飲む
「くぅぅぅ!生き返る!!」
お茶ってこんなに美味かったんだな・・・
よし!片付けもあと一息だから一気に終わらせるぞ!!
残りのゴミを片付け終えると辺りはもうすっかり暗くなりかけていた
「あ、もうこんな時間か。2人ともそろそろ帰りなさい」
「兄さんは?」
「僕はまだ仕事が残ってるからね。歩のことお願いしてもいいかな?」
「もちろんです。任せてください!」
「うん、頼んだよ。それから寄り道したらダメだからね。門限もだけど昔から寄り道すると怪異に遭いやすいらしいし。僕としてはそれはそれでいいことだけど危険な目にはあってほしくないからね」
「わかってますよ。じゃあ行こうか、歩」
「・・・うん。じゃあ兄さん、また後でね」
「うん、仲良く帰るんだよ」
大学を後にして孤児院近くのバス停で降り、徒歩で帰っていると同級生たちとバッタリ遭遇した。
「お!柊木じゃん」
「よう、みんなしてどうした?」
「お前も来るか?今から駅前のカラオケ行くんだけど?」
「せっかくだけど今日はやめとくよ」
「えー、柊木君来ないの?」
「ごめん、帰ってやる事あるから」
「そっか、じゃあまた学校でね」
「ああ」
クラスメイト達を見送り孤児院の方角へ歩き出そうとするといつの間にか歩が急に早歩きで歩き始めた
「ちょ、ちょっと待ってよ歩」
急いで後を追いかけてとならに並ぶと歩の歩くスピードはさらに加速する
なんなんだ、急に・・・
これ以上早く歩かれると面倒なのでさらに追いかける。今度は逃げられないように腕を掴んでなんとか止めることができた
「いったいどうしたんだよ、歩。さっきからなんか変だぞ?」
「・・・・・別になんでもない」
そうは言いつつも目を合わせてくれないし、なんか変なオーラを纏っているし、逃げようとしているのか腕を掴んでいるのに前に進もうとしている。まったく進んでないけど
「もしかして怒ってる?」
「だからなんでもないって」
いや、怒ってるじゃん!とは言えない。でも間違いなく怒ってる。でもなんで?うーん・・・わからない・・・ん?
どうするべきか少しの間考えていると、周りからの視線を感じ辺りを見渡す
「あらあら兄弟喧嘩かしら?」
「ふふ、微笑ましいわぁ」
「お母さん、あのお兄ちゃん達どうしたの?」
「しっ!邪魔ちゃだめよ」
どうやら通行人に見られていたようでそれに気づくと急に恥ずかしくなってくる
「・・・・か、帰ろうか」
「う、うん」
どうやら歩も同じ気持ちらしく2人して小走りでその場から離れ、しばらくすると孤児院までもうすぐというところまで来た。相変わらず歩は俺の前を小走りで歩いている。
けっきょく怒っている理由は分からなかったなぁ
モヤモヤしながら下を向いて歩いていると前を歩いていたはずの歩の靴が視界に入った。顔を上げると顔を斜めに背けた歩がこちらを向いて立っていた
「ど、どうした?」
「・・・・よかったの?」
「・・・え?」
「・・・さっきの、行かなくてよかったの?」
「さっきの?・・ああ、カラオケ?」
「・・・うん」
「行くも何も歩を送らないといけなかったし」
なんでそんな事聞くのか分からなかったが正直に答える。すると歩はまた背を向ける。
「・・・やっぱり私のせいなんだね」
「・・・はぁ?」
「とぼけないで。私が居るから行けなかったんでしょ?そうだよね?私なんかと帰るよりあっちの方が楽しそうだもんね。可愛い女の子も居たし、私はもういいから今からでも行ってきたら?ほら、早く。さっさと行けばいいじゃん」
とんでもない早口で喋る歩。どうやら何か勘違いをしているようだ。説得するためゆっくりと近づく
「歩、俺がなんでカラオケに行くの断ったか分かってる?」
「だから、私が居たからでしょ?」
「そう、歩が居たからだ」
「はぁ?バカにしてんの?」
「違う、そういう意味じゃないんだ。歩が居たからこそ行きたくなかった。せっかく2人で帰っているのにそんな状況でカラオケなんて行きたい訳ない」
・・・あれ?言ってから気づいたけどコレってほぼ告白じゃね?・・・どうしよう。今更やっぱ無しって訳にもいかないし・・・
「・・・・それってどういうこと?」
あれ?もしかして分かってない?・・・そうか!いくらギフテッドとは言っても色恋にはまだ疎いんだ!うん、きっとそうに違いない。と、とにかくそれっぽく言っておくか
「つ、つまり・・・歩と一緒に帰るのは楽しいし、嬉しいってこと」
「・・・そっか」
お!なんか機嫌良くなった?よかったよかった。あ、そうだ!
「ねえ、歩」
「うん、なに?」
「今からさ、近所のカフェにでも行かない?」
カフェ、その単語を聞いた歩はさっきまでとは別人なくらいに食い付いてきた
「え!ほんとに?」
「うん、奢るよ?」
「・・・・・いや、でも兄さんには真っ直ぐ帰れって」
「なんだこんなことか、サッと食べて帰ればバレないバレない」
「そ、そうだね・・・それじゃあ!・・・あ」
「ほら、努さんが帰ってこないうちに早く行こう」
どうしたんだ?さっきまで乗る気だったのに急に黙りこくって
「どうした?早く行こう歩」
「どこに行くんだい?」
・・・・こ、この、声は・・・・
恐る恐る後ろを振り返るとそこには笑顔の努さんが居た
あ、なんかデジャヴ・・・
「つ、努さん、お帰りなさい」
「ただいま。で、どこに行くんだい」
怖い怖い、ずっと笑顔なのが余計に怖い
「いや、えっとー、歩に勉強を教えてもらおうかと」
「そうかい、本当かい?歩」
「・・・いや、一緒にカフェに行こうって言ってた。私はやめといた方がいいって言ってけど兄さんが帰ってくる前に帰ってくればバレないからって」
あ、歩さん!?
「だってよ?さ、ちょっと僕の部屋でお話ししようか。さぁ、おいで」
「え!いや、ほんと、すいませんでした。お願いですから引っ張らないで下さい・・・
「ぎゃあーーーー」
努さんの言う通り、寄り道は危険だ・・・・気をつけよう