こうでもしないと、家族が助けられないです。
「母ちゃん、お話があります!」
炭治郎を待たせて、母ちゃんに話し掛ける。
「今から皆で街に行くべきだと思うの!」
「…え?何を、言ってるの?禰豆子」
流石に私からの突然の申し出に、戸惑う母ちゃん。根回しするべきだったかも知れないけど、急な変更にしないと何処で鬼が聞いているか分からないし。
いきなり、無惨が此処に来たって考えもあるかと思うけど、念の為前もって偵察がある可能性は捨てきれなかった。
…頭無惨に、そこまでの考えがあるとは思えんが。
「お金なら、ここに貯めておきました!私以外の皆なら、旅籠屋に一泊するくらいあります!」
私は懐からお金を取り出す。
山で猪やら熊やら狩り取って、バラしてから肉や毛皮を売ったのだ。
日の呼吸常中と格ゲー必殺技があれば、容易い仕事です。
「お…おい、禰豆子、何を言ってるんだ!?」
「本当!お姉ちゃん!」
炭治郎は驚き、花子は喜んでいた。
炭治郎はまあ、臭いで私が本気で真剣に言ってる事は分かるだろうしね。
他の兄弟もびっくりしてこっちを見てる。
ちなみに、私の言葉使いが女の子っぽいのは、母ちゃんの強力な淑女教育の賜物である。
「…禰豆子、理由を話して貰える?どうして今頃、そんな話をしたの?それに今の話だと、あなただけ残るみたいだけど…」
「うん、私だけ残るよ。この家を守るため!」
落ち着いた母ちゃんが、理由を聞いてくるけど。実際、言えないよね。無惨が来襲するなんて。なんの根拠もない。
「理由は言えない。だけど今日の、日の明るい今しか言えなかったの。お願い母ちゃん!私を信じて、皆を連れて街に行って下さい!」
ザッとその場で土下座する。
おんぶした六太が背中でウニャウニャ言ってるけど、ここが正念場、何としても皆を救いたい!
「おい、禰豆子!母ちゃん困っているだろう!そんな我儘は許しません!」
「…待って、炭治郎…」
母ちゃんはいきり立つ炭治郎を抑え、私の頭を上げさせた。
「…禰豆子、何か危険な事があるの?それなら、母さんも残るわ」
「ううん!私一人なら何とかする自信あるけど、母ちゃんや炭治郎、花子達がいると危ないの…」
「それなら、禰豆子も一緒に…」
「駄目なの。誰かが此処に居ないと、花子達が危ないの」
じっと母ちゃんと目を合わせる。花子達はハラハラこっちを見守っているし、炭治郎は戸惑いながら母ちゃんを見ていた。
ふうっとため息を一つ付くと、母ちゃんは私の頬を両手で包んだ。
「母さん、禰豆子が武道の訓練をしているのは知ってます。父さんからも生前、禰豆子が熊を撃退したって聞いているわ…。
きっと、そういう禰豆子が危ないと言うのなら、本当に危ないのでしょうね」
「母ちゃん…」
「分かりました。今日は皆で街に行きます」
「母ちゃん…ありがとう」
「ただし!」
母ちゃんは私の頬をぷにっと押して、タコ唇にする。
「必ず無事でいなさい。逃げても構いません。この家も、壊れても良いのです。禰豆子、あなたが居なくなる方が、母さん何倍も辛いのよ」
母ちゃんは、こんな荒唐無稽な話を信じてくれた。炭治郎も、母ちゃんが言うならと信じてくれた。
そして、私を除く家族は街へと降りて行った。
向こうが狙われる可能性も考えたが、耳飾りをした炭治郎が街で難を逃れていると思えば、恐らく大丈夫だ。
私はさっきまで母ちゃんが包んでくれた両頬を、バチンと叩いた。
「いよっし!後顧に憂いなしよ!気合い充分だわ!」
ここを超えても困難はあるが、先ずはこの難局を乗り切るぞ!