今回登場してきたのは個人的に主人公同士の掛け合いが一番好みであるあの人。
ZZはTV版Zの完結編とも言うべき作品。TV版Zの最終回に納得いかなかった人はZZの二話からぜひ見てください。
一話は…私は、基礎的な知識である各サイドの位置とかすら知らなかったので、はぇー、と思いながら楽しんでみられました。
劇場版Zを最初に見たり、そっちの方が好みだという人は……劇場版ZZが製作される事を私と共に祈りましょう。俺達の祈りよ、富野監督に届け!
────まずい、これはまずい!非常にまずい!!
定期考査が数日前に差し掛かる中、夜半学習机の電灯に照らされながらジュドー・アーシタは一人頭を抱えていた。
まずもって、ほぼ全ての教科の理解度が芳しくない。教科書に小さく書かれている簡易な問題集ですら、手応えがまるでない。
そして、何故手応えがないのか、その理由が把握できない。応用力に欠けているのか、それとももっと多くの基礎的な公式や熟語の理解を深めなければいけないのか。
理解できるのはこのままでは数日後の結果が悲惨な事になる事だけだ。
「やっばいなぁ…まーたリィナにどやされちゃうよ…」
そうなると想定できるのは愛妹、リィナの般若の如く怒りに満ちた形相である。以前、実の兄に対してなんでそんなに怒れるんだ、と情けない反論もした事があったが、
『なんでって、お兄ちゃんの為を思って言ってるんでしょ!!』
と火に油を注いでしまったのは言うまでもなかった。
しかし、何も意地悪したいために言ってるのではなく、兄の事を思って敢えて心を鬼にしてくれていることくらい、学校成績が芳しくないジュドーでも理解できることだし、そんな妹を今後も養っていく為にも、ここで根を上げる訳に行かないのもまた事実であった。
「これは…
ジュドーが開いたのは教科書でも参考書でもなく、自分のスマートフォンの中にある連絡に用いるSNSであった。
そして素早く打ち込む。愛嬌の良いスタンプもきちんと添えて。
「カミーユさーん!たすけてくださーい!」
と。
「ジュドー、ここはそうじゃない。この公式を使うんだ…」
突然の泣きつきにも嫌な顔もせず応えてくれる一番頼りにしている先輩。
それが隣に居る青髪の少年、カミーユ・ビダンである。
成績優秀、容姿も優れた(これを口にすると機嫌を損ねるので言わない様にしているが)彼が、何故年齢も離れていて、素行も成績も良いとは言えない自身にこうも親身に接してくれるのか。
一度気に掛かって尋ねてみたものの、苦笑しながら
『俺は、逆にジュドーの方が羨ましく思えるよ』
と一言答えたきり、これと言った理由は答えてくれなかった。
高等部の中でも特段成績の優れたカミーユにとって、中等部の基礎的な問題を解く事など動作でもないのか、自分がどれだけ頭を捻っても正答出来なかった問題を即座に説き、更にそれを分かりやすく解説してくれる。
彼の解説を聞きながら問題に取り組んでみれば、なんであんなにも昨日の夜は苦しんでいたのか分からなくなってしまう程容易に回答できた。
「おぉ…!すごい、わかる、わかるよ!ありがとうカミーユさん!」
「まだ喜ぶには早いぞ。何しろ、まだこれだけ手が付けられてないからな。ここの学習スペースが閉まるまで、なるべく頑張るんだ」
学園付属の図書館に併設されたこの学習スペースが閉館してしまうまで、残り二時間と少々。
カミーユ・ビダンという強力な助っ人が傍に居てくれるのは頼もしいものの、手の付けられなかった問題の量に目を配ればはぁ、と溜息をついてしまう。
かといって逃れられる訳でもないので、諦めて取り組んでいくのであった。
残り時間が三十分となり、スペース内に居る人の数も数名程度に減ってきた頃、あれ程難攻不落の要塞の如く聳え立っていた解けずにいた問題の数々も、数える程度に減ってきていた。
余裕が出来たのか、ふとちらりと横を向く。
そこには、長い睫毛と、吸い込まれるような青い瞳が、横目ながらはっきりと視界に入った。
吸い込まれる様な瞳。
そう、カミーユの瞳は、まるでどこまでも無限に広がる宇宙に引き込まれるような、そんな不思議な力を携えている気がする。
その瞳にまんまと夢中になっていると、不意に向けて来る微笑み。
決して同性愛に嗜好がある訳ではないし、気に触れてしまうので口にはできないが、その湛えた微笑が、どんな芸術作品よりも、気を向けて来る女の子の誰よりも、美しいなぁ、と思えてしまうのであった。
────いや、誰よりも、というのは違うかもしれない。ほんの少し前に、似たような心情に至った事があった。
少し前、共に
彼女の瞳は、吸い込まれるというより包み込まれる、といった印象であった。
何がどう違うのか具体的には説明できないものの、抽象的にでも敢えて言うなら、瞳の中の僅かな、しかし確かに存在する灯のような輝きが、此方の躰の芯まで照らし温めてくれるような…そんな覚えを抱いていた。
あれから、最早恒例の様に遊びに来たプルやプルツーとは会えていたものの、彼女とは顔を合わす事がなかった。
彼女の時折浮かべる笑み。
やや丸みを帯びながらも、普段は強張ってしまっている面持ちが、ふわりと柔らかく緩んでいくその瞬間瞬間が、スローモーションの様に脳裏に浮かぶ。
一番印象に残っているのは最後に見た車窓越しの彼女の笑顔。
あまり健康的とは言えなかった頬の色も、気恥ずかしさが勝ったのか朱が差していて、小首を微かに傾げつつ口角は上がり、そしてあの美しい瞳は確りと開かれていた。
その光景を脳裏に思い浮かべると今でもにへへ、と気味の悪い笑みを浮かべてしまう。
笑顔だけではない。ジュドー、と此方を呼ぶ声も耳に残っている。
戦神のような凛々しさと、聖母のような優しさ。
両極端に思える性質を、確かに兼ね備えているその声も、もう一度聞きたい。
『ジュドー』
そう、ジュドー。もっと、もっと呼んでよ。マリーダさん。
「ジュドー、ジュドー…おい、ジュドー!」
此処に至って此方を呼ぶ声の主が、彼女でない事に気が付く。
そう、今は勉学に勤しんでいる最中だったのだ。
怒りと、呆れと、そして心配も交えた、複雑な面持ちで此方を睨む頼れる先輩に対しては
「……ごめんなさい、カミーユさん!!」
と、室内に響き渡る大きな声で勢いよく頭を下げて詫びる事しかできなかった。すると、
「こら、そんな大きな声を出すんじゃない!」
と、再び怒られてしまった。
正直に言えば人の事を言えない声量であったが、非があるのは此方で、態々時間を割いてくれているのに、という申し訳なさの前では到底指摘などできなかった。
苦闘の末、どうにか閉館数分前に理解できない箇所について教えを乞う事が出来た。
閉館作業をする従業員さんに迷惑はかけられないな、と二人揃って駆け足で館を出ようする。
すると、慌てていた所為か出入り口付近に居た女性に危うく接触しそうになり、カミーユに寸での所で引き留められた。
先程から不注意にも程があるな、と内省しつつ
「ごめん!大丈夫だった?」
と声を掛ける。
すると、尋ねる様な、何処か不安気な声色ながらも、はっきりと耳から心の臓まですり抜け、胸奥を擽る様な
「ジュドー…?」
ゆっくりと顔を上げれば、瞳が、笑顔が、そしてその声が。
理由は未だ分からぬものの、兎に角全て素敵だと思えてしまった彼女が少し困ったような表情で見詰めていた。
「なるほどな、二人揃ってあそこで勉強していたのか」
「オレはカミーユさんに教えて貰っていただけだけどね」
もう既に陽は見えなくなり、僅かな残光が辛うじて辺りを照らす中、二人は途中までは同じである帰路を歩む。
もう一人の少年、カミーユも勿論誘ったが
『すまない、この後フォウに呼ばれているから』
と、申し訳なさそうに謝した後、マリーダにはお元気で、と挨拶を、ジュドーには頑張れよ、と激励を送りながら此方とは反対の道を駆けて行った。
ふと、この間ファさんと遊園地に行っていたり、その前にはロザミィさんとライブに出掛けていた事を思い出す。
こんな時間から、青髪の先輩はあのミステリアスな雰囲気を身に纏った麗しい先輩と二人で何をするのだろうか。
訝しく思うも、良く異性に言い寄られてしまう此方が言えた事ではないか、と思い込む事にした。
「ジュドー」
無理に思い込んだのとほぼ同時に、再びあの玲瓏たる声がすぐ傍から耳元から流れ込んでくる。
思わずびく、と背を震わせながら其方を見遣れば、暗がりの中にほのかに入り込んでくる光が、彼女の端正な顔を引き立たせていた。
「な、なに」
「それで、ちゃんと内容は理解できたのか」
「できたよ。これで一先ず最低限の点は確保できそう…勿論、テストまではまだちょっと時間あるから、ギリギリまで勉強するけど」
「…私でよければ、明日また教えてやろうか。都合も、空いているし」
「え?」
「カミーユ程頭は良くないが…それでも、お前の力にはなれるんじゃないかと、思うが……」
こうして歩みを続けている最中にも闇は深くなっていき、この時の彼女の表情まで伺う事は出来なかったが。
段々と萎んでいき不安気な声色に聞こえて来る事から鑑みれば、あまりこうして誘う事は慣れていないのにも関わらず、勇気を出して気にかけてくれたのだということを悟れば、立ち止まり彼女の顔を覗き込みながら
「ありがとう、マリーダさん。それじゃ、お願いしてもいい?」
と告げてみる。案の定あの麗美な青灰色の瞳は覚束なく揺れていて、下唇を微かに噛みしめていた。しかし、その言葉を聞くや否や、覚束ない表情があのこの世に在るどんな人や物よりも魅力的に映って仕方のない笑みへと、ゆっくりと移り変わっていった。
「うん」
涼やかな声であぁ、とか、わかった、と了承するわけでもなく、うん、とあどけない声色で小さく首を縦に振る。
その様子が、プルやプルツーを思わせる様な───しかし、何処か異なる愛らしさを醸し出しているような───そんな気がして、とく、と心の臓が跳ねついた様な心地さえ覚えてしまった。
愈々互いの帰るべき場所への岐路に辿り着いてしまった。立ち止まった後、絶妙な間が二人を包む。
ついこの間までなら、軽快にバイバイ、とか、じゃあね、と言えた筈なのだが、どうにも口からそれらの別れを告げる言葉が出て来なかった。
────別れたく、ないのかな。また明日、会えるのに?
と、取り留めもない考えが過ぎると、又もや先に口を開いたのは彼女の方だった。
「ジュドー」
「…なに?」
「それじゃあ、また」
「あの!」
特に呼び止める理由なんかない筈なのに。
何故か彼女の言葉を遮ってしまい、自分でも驚くも、遮られた彼女の方は目を丸くして驚愕の表情を思い浮かべていた。
何を話せばいいのか、全く分からない。
しかし、衝動的にあるにせよ何かしらの事由が胸の内に確かに在った筈なのだ。
それは何か。
考えあぐねている最中思い出したのは、前回の電車内での彼女との別れであった。
「あの、また…また、どっか二人で遊びに行こうね!」
「…!」
突拍子もない発言に更に目を見開き、口を僅かに開いてしまう彼女。
自分でも瞬時には何を言っているのか理解できず、漸くその意味を理解できた頃には顔全体がかぁ、と熱を帯びてしまうのが理解できてしまった。
思わず目を閉ざしてしまう。普段から度胸だけは一丁前だと自負していた自分ですら、これからどうこの場を乗り切っていいのか分からなかった。それでも、このまま立ち尽くしている訳にも行かない。
ゆっくりと再び目を開く。すると、再び彼女の優しさも、慈しみも、愛おしさも、美しさも。全てが綯交ぜになった微笑みが浮かんでいて、仄かな灯りがそれをまた引きたてていた。
「うん。いこう」
「…いいの?」
「もちろん。お前と…ジュドーと、また行きたいと、思っていた」
今度は目を細めて含羞む彼女。
友達と連む時とも、妹と和やかな日々を過ごす時とも、また異なる心地良さを齎してくれる彼女と、また二人きりの時を歩む事が出来る。
その事実が、これ以上に嬉しいことはなくて。
「…やったぁ!約束、約束だからね!」
「うん。約束、だ。だから」
すると白妙なる細やかな小指を差し出し、
「指切りげんまん、しよう」
と囁く。
生真面目な彼女がかのような児戯じみた行為を提案してきた事に軽く呆然とするも、良く小さな姉達と行っていたりするのだろう。
そうなれば此方としてもする事は決まっている。そっと指を差し出し
「指切りげんまん!」
「嘘ついたら」
「針千本のーます!」
「「ゆびきった(!)」」
「…まぁさ、別に針千本飲ませたりなんかしないけどね」
「何を言ってるんだ、ジュドー。お前が約束を破れば、私は本気で飲ませてやるぞ」
「…ぇ、えぇ…?まいったなこりゃ…」
最早二人の表情には恥じらいも不安も微塵もありはしなかった。
温かな気持ちだけが湧き上がって身を包み、自然と頬さえも緩ませる。
また明日、会えるから。
また今度、二人でお出かけできるから。
「それじゃあ、またね」
「ああ、また明日」
悠然と別れを告げ、それぞれの帰路へと向かう。
漸く上り始めた月明かりが、二人をそっと見守るかのように優しく輝き出していた。
明日から仕事があるので、次回の投稿は恐らく早くても明後日以降かと。
待ってくれる人が居るのか分かりませんが、一週間以内には必ず。