Linaria   作:ぷる²

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お待たせ…は別にしてないかもしれませんが間隔は開きました。
もっとさくっと、気軽に読める感じにしたいのに……。
取り敢えずやっぱ私にはこういう小難しい話は無理なんだと確信しました。
次回こそはそれこそ3分の1くらいの分量でギャグマシマシで書きたいです。


「マリーダさん、泣いてるの?」

 

 

連日続く燃え盛る様な日差しによりすっかり火照ってしまった街並み。

その街並みに天の神が施しを授けてくれたのか、ざーざー、と打ち付ける様な雨が降りしきっていた。

 

「…酷い雨だな」

「…でもまぁ、折角の約束の日なんだから。目一杯楽しもうよ」

 

あの日、指と指を絡めて交わした約束。

ジュドー・アーシタは慕っている青髪の先輩や、その約束を交わした傍らに居る彼女の助けもあって、今年度の中では一番の成績を修める事が出来た。

普段は叱られてばかりいる妹からは

 

『やればできるじゃない、お兄ちゃん!お兄ちゃんの大好きなハンバーグカレー、作ってあげる!』

 

と上機嫌になって好物をわざわざ腕を振るって作ってくれたりした。

一度きりのまぐれかもしれないのに、我が事のように喜びを滲ませ、褒美まで用意してくれる妹が何とまぁ愛おしく感じた事か。

 

その妹と同等に感情に訴えて来る存在が居る。

自身の抱えているこの感情が、一体何者であるのかは未だ理解できないが、兎に角傍で笑顔で居て欲しくて、ジュドー、と名を呼んで貰いたい存在。

その人と今、交わした約束を果たす為繁華街まで練り歩いてきたのであった。

 

「ジュドー、肩が濡れてしまってるぞ」

 

「だって、最近この傘小っちゃくてさぁ…成長期ってやつかなぁ?」

 

「ふふ、それじゃあ後で買いに行くか」

 

雨の日の嵩張るような服装も見事に着こなす女性。

4歳年上の高等部の先輩、マリーダ・クルスだ。

()()()()()()を介した関わりから、ひょんな出来事もあってか今こうして二人で歩んでいる。

今回の予定は、取り敢えず彼女が見たがっていた映画を見に行くことは決まっているが、後の事は未定であった。

彼女からの提案に、勿論一緒に見に行くよ!と伝えると

 

「…よかった。今回は嘘をつかなくていいんだな…」

 

と安堵の溜息を漏らしていたが、一体何があったのだろうか?

 

五分程他愛もない会話を重ねつつ歩くと、目的の映画館に辿り着いた。

勉強を教えてくれた礼も兼ねて今回は此方で払うよ、という意思を伝えれば案の定献身的な彼女と譲り合いになってしまう。

それでも、この間ぬいぐるみのお代も出してもらったしさ、と伝えれば今回は彼女が折れる結果となった。

 

各々ドリンクを購入し、いつも多くて食べきれないから、という彼女の意志もあってポップコーンは二人でシェアする事にした。

二人並んで席に座る。最近多くなってきた映画とは何ら関係ない地元企業のCMを眺めながら開演の時を待つ。

放映時の注意事項を知らせるCMが流れた辺りでまずは一口食べるか、とポップコーンに手を伸ばせば、彼女の色白く滑らかな手と触れ合ってしまった。

 

「あ」

 

「……」

 

薄暗い空間の中二人顔を見合わせる。

目と目が合った瞬間、これまた同時にくすくす、と周りの人に迷惑が掛からない程度に笑い合う。

そうこうしている間に漸く映画の本編が始まった。

 

映画の内容はこうだった。

 

年少の頃から戦地に赴かざるを得なかった主人公。

部隊の全滅や現地住民の虐殺を目の当たりにしたり、折角戦争が終結したとしても戦闘に纏わる物事しか教わっていなかった所以か、平穏な生活に馴染めず結局戦地へ赴いてしまう。

 

しかし、ある戦地で出会った自身を戦争の道具としてではなく、一人の人間として扱ってくれたとある上官。

武力を持って制してくる主人公らに対して臆することなく平和への願いを有りの儘に訴える、とある戦火で村を焼かれた現地の住民。

繰り返される惨劇に迷い悩み続けながらも、自国の掲げる信念の為に主人公らに立ちはだかってくる敵軍の士官。

そんな彼らとの邂逅を経て、ただ上からの命令に従事して敵兵を撃つのではなく、今自分の為すべき事、守るべき人の存在を自分の頭で理解する事の出来た主人公。

 

戦局は終盤になり、映画もクライマックスを迎える。

自身を変えてくれた上官や現地の住民を護る為、危険と分かっていながら出撃した主人公。

そこでこれまで何度も刃を交えてきた敵軍の士官と一騎打ちとなり、激しいバトルの末、戦死する。

戦後、平和を訴え続けていた現地住民と共に、主人公の上官や主人公を打ち取った敵軍の士官でさえも軍役を引退し、市井の市民として平和を訴え続ける。

これ以上、彼のような戦争の犠牲者を増やさない為にも。

 

二時間に渡る映画がようやく終わった。

正直な所、ジュドーには作品に込められたメッセージというよりも、激しいアクションや火薬の爆発が繰り広げられる戦闘シーンの方に夢中になっていたが、それでも何となく

 

『戦争って、悲しいことしか起きないんだな。やっちゃいけないことなんだな』

 

という事だけは理解できた。

ふと横を見る。

すると、彼女の美しく、指先で触れれば沈み込んでしまいそうな柔らかさも併せ持つ頬の上を、つー、と涙が伝っていた。

言ってしまえば、綺麗だ、と思ってしまった。然しそれ以上に、そんな顔はあんまり見たくないな、早く笑顔にしてあげたいな、と切に思った。

 

「……」

 

ハンカチを取り出し、意地らしく涙を拭った後、勢いよく席を立つ彼女。何時ぞやのアイスの一気食いの如く、残っていたポップコーンをかきこみ、慌てて彼女の後を追った。

 

 

 


 

 

 

映画館を出た後、二人揃ってすたすた、と歩き続ける。

行きは和気藹々とした雰囲気であった筈なのに、今二人の間を包むのは重苦しい雰囲気と沈黙であった。

降りやまない雨が、更にこの陰鬱な空気を満ち溢れさせていく。

こりゃあ何か話題を切り出さないと、と焦りさえ感じ始めた頃に、ゆっくりと、僅かに震わせた声で彼女が呟いた。

 

「…あいつ、幸せだったよな」

 

「…へ?」

 

「あいつは、しあわせだった。迷いながらも自分自身を見つける事が出来て、その道標となった”光”を護る為に死を厭わず戦った。その結果、あいつ自身は死んでしまったものの、”光”を護り抜く事が出来た」

 

「戦うだけの戦闘マシーンだったあいつが、光によって人として導かれ、そして光となってまた人を導いたんだ」

 

「…わたしも、ああいう人間になりたい。護りたい人を護り、為したいという事を為して、誰かしらの光となって、導けるような人でありたい」

 

「……例えその先に、どんな結末が待っていたとしても」

 

一つ一つ、噛みしめる様に独白する。

内容こそ、物語の主人公の生き様を褒め称え、肖りたいという意思そのものだったが、その声色は、羨望、というよりも悟り、敢えて言うなら諦観に近い様な。

そんな印象を覚えた。

 

途端に背中がぞわり、とする。

それは決して微妙に雨に濡れているからではなく、彼女自身、このまま放っておけば。何も言いださなければ、何れあの映画の主人公のような悲しい結末が待っているのではないか。

嫌な焦燥感に駆られてしまった。

 

「……でも、あの人死んじゃったじゃん」

 

「…」

 

「幾ら人として生まれ変われたとしても、やりたい事が出来て、あの人の死によって多くの人が良い方向に変われたとしても、あの人は、もうこの世にはいないんだ」

 

「あの人は最期、大切な人を護る為に武器を取って戦いに挑んだけど、その後はどうしたかったのかな。もうあの物語の世界の中では”哀れな戦争の犠牲者”というレッテルを貼られてしまったけど、きっと”これから”があった筈なんだ」

 

「”自分みたいな戦いしか知らない悲しい人間は、もう見たくない”、なんて台詞があったけど、ラストの他のメインキャラの様に、戦争に反対し続ける生き方を選ぶ事だって出来ただろうし、一切戦争に携わらない平穏な生き方を、今度こそ過ごす事だって出来たはずだよ。自分の頭で考える力を身に付けたわけだから」

 

「…そもそも、人が死ななきゃ平和にならない世界って、何なんだよ…人を傷付ければ、痛くて、苦しくて、更にもっと痛めつければ死んじゃうって、少し考えれば分かる筈だろ…!」

 

「人殺しを、国の大義とか信念とか、それっぽい理由付けで簡単に行えてしまう戦争が、世界がおかしいんだ!人類全体で、戦争を当然の手段としてしまっている世の中を見詰め直さなきゃいけないんだよ!!」

 

激しい雨音にも、車の駆ける音にも負けない通りの良い声が響く。

立ち止まり奇異の目で見詰める人もいれば、逆に触らぬ神に祟りなし、とばかりに足早に通り過ぎる人もいた。

やってしまった、と後悔するももう遅く、当の彼女も哀しい目をしたまま目線を落とすだけだ。

やんぬるかな。そう思いかけた瞬間背後から、

 

「なるほど、興味深い話をしている。少しお時間を頂いてもよろしいだろうか」

 

と、深みと共に何処か艶めかしさも入り混じる男性の声がした。

振り向けば、金髪のオールバックに、サングラスをかけた背の高いスーツの男と、その傍らにはピンク色のボブをした、厳つい表情をした女性が立っていた。

 

 


 

 

怪しい人には付いて行くな、ってリィナと朧げな記憶の中にいる母親から言われていたような気がするけど。

悪気はなくとも感じたままの所感をそのままぶつけてしまった年上の彼女曰く、あのオジサンは有名な議員さんらしい。

ともすれば隣の怖い顔したお姉さんはその秘書さんかな?

 

なんて事を思ってるとその議員さんの事務所と思われる所に案内される。

殺風景で落ち着いた内装ながら、壁には”必勝”の文字がずらりと並んでいたりして、それとない違和感も感じる。

 

ソファに腰掛けるよう促されれば、失礼します、と一言置きつつ座る。

成程流石有名な議員さんが用意するソファらしく、今まで座った事のあるどのソファよりも座り心地が最高だった。

 

「…で、何の用なのオッサン?そんな夢物語みたいな事言ってないでガキは早く帰って勉強してろって?」

 

「…ジュドー。申し訳ありません、シャア・アズナブル代議士」

 

傍らに居る彼女の気持ちに寄り添った気の良い事を言えなかった自分。

そしてそれを変なオジサンに聞かれたせいでこんな場所にまで連れていかれて折角の約束のお出掛けが台無しになってしまった。

 

さらに議員さんらしいオジサンの何処か上から目線な態度も気に食わない。確かにひとっぱちの学生と父が首相経験者でもある有名な国会議員様では、身分も立場も環境も何もかも違うのかもしれないが。

 

そしてそんな不躾な態度をとってしまった事を彼女から窘められる。

自分の代わりに頭を下げている先輩を見れば、自分に対する情けなさとそんな姿は見たくなかった、させたくなかった、という後悔で胸がいっぱいになる。

 

「いや、そう謝らなくていい。私は君の言った事を単なる”夢”で終わらせない為にこうして政治の道を歩んでいる」

 

「…」

 

「君…ジュドー君、と言ったか。君は人類全体で、戦争を当然の手段としてしまっている世の中を見詰め直さなきゃいけない、と言ったね?あれは私は、紛争根絶のために必要不可欠な真理だと思う」

 

「…え?」

 

まさかの自分の無我夢中で紡いだ言葉に賛同し始めるとは思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

秘書らしいピンク髪の鋭い眼光の人がシャアと呼ばれる議員さんには甚く丁寧に、自分ら二人にはやや粗雑に温かいお茶を出し終えると、眼前の優美な顔立ちをした議員は言葉を続ける。

 

「地球上の生命体は生命として存在が確立されたその瞬間から、ありとあらゆる地球上の種族と生存競争を行ってきた。人間はその生存競争に勝ち抜き、現状地球という惑星を代表する種族となっている」

 

「そして人間自身、同じ人類で生存競争を繰り返し、最後に勝ち残ったのは我々ホモサピエンスだということになる」

 

「…何がいいたいのさ?」

 

「要するに、これまで生存競争という名の争いを続けてきた人類が、今ここに至って唐突に争いを止めるという事は難しいものがあるというのを、これまでの経験をもって痛感したのだ。理性では良くない事だと理解できていても、国家、宗教、人種間の対立、差別…戦争の要因は様々存在するが、結局の所生存競争という生命の本能に刺激され、言い訳を重ねながら争いは起きる。人類の歴史など、それの繰り返しだ」

 

「それの繰り返しだって…」

 

「無論、そうならぬよう今の立場から最大限努めるさ。が…」

 

思う所があるのか、愁いを帯びた目で虚空を見上げる。

それはまるで叶わぬ夢を追い求め続け疲れ果てた、しかし、まだ一筋の希望は捨てきれていない、人類が未だ踏み入れた事の無い、永遠なる桃源郷を一目見んと当てのない旅を続ける旅人の様であった。

 

「……もし、人類が…ホモサピエンス、とはまた異なる新たな種──仮に、その名を、”ニュータイプ”としよう──へと進化したとしたら…身体能力や知能の向上などではなく、争いを運命付けられた本能を克服し、他人の気持ちを推し量り、労わる事の出来る…洞察力と、優しさを兼ね備えてる存在になれば良い、と思っている」

 

「もし、全人類がそのようになれば…他人に危害を加え、剰え命を奪ってしまうという行為が、どれだけ苦痛や恐怖を齎す残忍な行為であるのか、直感的に悟る事が出来るはずだ。建前や言い訳を重ねた所で到底認められるものではないのだとも理解できるはず。そうなれば暴力も殺人も戦争も、忽ち消えてなくなるだろう」

 

「君たちもあの映画を見たんだろう?あの主人公に携わってきた人々がほんの少しでも洞察力に満ちた優しさを投げ掛けていたら…彼は戦争に生き、戦争に死す必要はなかった!彼の犠牲がなくとも、争いが無くなっていく世界になっていった筈なのだ!」

 

「そもそも、今の人類にも、人の気持ちを理解し労わる事はできるはず…野蛮な本質を抑えるだけの理性も、少なからず存在するはずなのに…何故、本能に身を委ねてしまうのだ…!これまで人類が積み重ねてきた悲劇を、何故鑑みない…!」

 

最後の方はやや雄弁になりつつも語り終え、温くなり始めたコーヒーをぐい、と飲み干す彼。

如何にも見栄えの良い優等生、といったイメージの眼前の男が理想を熱く語る異様な光景を、二人揃って唖然としながらも見詰める。

やや冷静を取り戻したのか、漸く雨の上がった窓の外を見詰めつつ、寂しい笑みを浮かべて

 

「…時間を取らせて申し訳なかった。仮にも市井の意志を聞き、それを代弁する事を使命としている私が、こんな愚痴めいた事を市井の、しかも未成年の君たちに呟いてしまうとは」

 

すっ、と立つと長身で均整の取れた全身を改めて目の当たりにする。

ゆったりと歩き出すとくせ毛で茶髪気味の少年の前に身を屈め、威厳を保ちつつも、何処か理想を追い求める探究者の如く一縷の望みを込めた眼差しを向けた。

 

「…だが、君の様に、”人殺しや戦争を当然にしている世の中はおかしい”、と声を大にして言える若者が、まだこうして確かにいた。しかも、私の地盤となるこの地でだ。それが無性にも嬉しかった。まだこの国の未来も捨てたものでもない、もうひと働きしようと思えたんだ」

 

ふと投げ掛けて来る微笑みに、自分よりも一回り以上年上の筈なのに、何処か幼気さも感じる。

シャア・アズナブルという人間の浮かべる面立ちは、聡明さや秀麗さは勿論、為すべきと感じた事柄に対する燃え盛るような意志が見えたと思えば、反対にこれまで直面してきた現実に打ちひしがれ、達観したような虚ろな眼差しを浮かべたりもする。

 

気付けば初めのうちに抱いていた抵抗感は吹き飛んでしまっていた。

 

「願わくばこれからもその心意義を忘れず、広く世界を旅して見聞を広めるといい。君たちはまだ、これからなんだからな」

 

「…まだまだこれからなのはシャアさんもでしょ?頑張ってね、オレ、投票できるような年になったら絶対アンタに投票するから!」

 

「そう安易に決めつけることのない様に、多くの物事を見て聞いて感じるべきだと言っているのだがね。まぁ、気持ちだけは受け取っておくとしよう。そうだ、君たちさえよければ是非これからもこうして顔を合わせられたら嬉しいのだが…」

 

そう言いかけた所でちら、と彼らの掛け合いを冷めた目で見詰めていた傍らの女性に視線を移し。

 

「そうだな…ハマーン、キミが彼等との連絡を取り次いでくれないだろうか」

 

突然の上司からの物言いに、さしものその鉄仮面のような表情も崩れ驚きを示し、やや上擦った声で答える。

 

「…は?な、なぜ私が…」

 

「ふむ…これでも一代議士としての私が特定の市民と、しかも未成年者と直接的な関わりを持ち始めた事が仮にマスコミにでも露見すれば面倒な事になりそうだしな。それに…」

 

こつこつ、と足音を鳴らしながら彼女に近づき、ぽん、と軽く肩に手を置いた上でそっと二人には聞こえない程度の声で囁いた。

 

「…未来がある彼等と接触する事は、未だ悩んでいる君の”これから”を決める上で大いに役立つだろう。ほぼ初対面の者と連絡先を交換するのは嫌かもしれないが、私を信じてくれないだろうか」

 

少なからず年上で麗しい金髪の彼に思う所があるのか、二、三歩後退りしながら、すっかり赤面した顔で何とか答えて

 

「わ、わ、わかりました…!わたしは、あなたを心より信頼しておりますから…お、おい!そこの少年!ついでにその恋人もだ!早く私の所に来い!」

 

今は崩れてしまっているが、まあ何とも怖そうな顔してるな、と思っていたところ、古風めいた貫禄のある口ぶりまでしてくるとは。

とは言え言われるままに連絡先の交換を済ませる。

すると耳打ちされ、

 

「絶対に貴様の方からなぞ話しかけて来るなよ。私もシャアも、忙しくて本当は貴様達の相手をするのも時間が惜しかったんだからな…!」

 

と凄まれる。

しかし、恫喝されている怖さというよりも、無性に彼女からは気苦労や思い悩みを感じ、不意に

 

「わ、わかってるよ…。…ハマーン?さんも、無茶しないで頑張ってね。逆に呼びたくなったら何時でも呼んでよ!」

 

努めて明るい声色で返す。

すると拍子抜けしたのか、それとも何か直感的に感じたのか、未だ先程差した朱色が抜けきらぬ顔のまま

 

「お、お前に言われなくても…それにっ、誰が呼ぶものか!」

 

とつんけんな態度を取られてしまった。

一連の対応に二人して顔を見合わせる。相変わらず綺麗な顔だなぁ、と心の声が漏れそうになる。

映画を共に観賞したこの美しき面持ちの彼女も表情は硬い方だが、不意に見せるあどけない微笑みや雨に濡れればより魅力的に映る端正な御顔をも思い返せば、今狼狽えている秘書の女性よりも彼女の方に軍配が上がる。

 

そういえばハマーンさん、マリーダさんの事を”恋人”、なんて言ってたけど…オレの、って事だよね…。オレ達、傍から見たらそう思われてたのかな…?

 

「ははは…こら、ハマーン。あまり不躾な態度を取るのは良くない。重ね重ねになるが、時間を取らせて申し訳なかったな。良かったら、彼女に家まで送らせようか?」

 

「いや、大丈夫。…ちょっと帰り道、二人で話したいこともあるし。…こちらこそ、最初悪く言ったりしてごめんなさい!それじゃあ、また会おうね!」

 

「あぁ、また会える日を楽しみにしているよ」

 

こうして別れを告げ、漸く外へ出る。すると雨は止んでいて、大分西側に傾いては居るものの陽が煌々と輝き、出来ていた水たまりが反射してキラキラ、と輝いていた。

じわじわとくる蒸し暑さに内心嘆息を付きつつも、玄関先まで見送ってくれた彼等二人に手を振りながら帰路へと着いた。互いに待つ、姉と妹の為に。

 

 


 

 

暫く無言のまま歩き続ければ、あっという間に二人が利用する中央駅がもう間近の所まで迫っていた。

初めは映画を見に行くことしか取り決めていなかったものの、今日もある種濃密な体験をしたなぁ、と内心感じた。

 

それと同時に、そうだ、元々彼女と交わした約束を果たす為にこうして此処まで来たんだ。

それなのに自身の意見を思いの丈のままぶつけてしまい、出会ったかの秀才達との交わり合いによってあまり二人きりで何か出来た訳でもなかった、と内省した。

くるり、と彼女の側へ体を向け、自嘲したような笑みを浮かべながら

 

「…マリーダさん。今日はごめんね。…オレ、やっぱガキだなって。映画を見終わった時だって、マリーダさんに合わせた気の良い事を言えたら良かったし、シャアさんと会って話をした時もなんていうか、失礼な態度取っちゃって…。」

 

「本当に、ごめんなさい」

 

このような慰めてもらえることが前提のような謝罪をされても、決して良い思いはしないだろうに、結局の所彼女に甘え縋ってこの様な物言いになってしまう。

もう、次からはこうして出掛ける事もないかもな、と半ば諦めていると、向こうからかけられたのは慰めでもなければ、拒絶でもなく。

 

「…え?」

 

ぎゅ、と抱き締められる。

 

妹を抱き締めたり、もう一人の妹からは抱き付かれることもあったが。自分の体よりやや大きめの柔らかく、温もりに満ちた体に包み込まれてしまうのは初めてで。

鼻腔を甘く芳しい香りが刺激し、意図せず胸がどくん、どくん、と高鳴ってしまう。

 

それは彼女も同じようで、押し当てられた胸の辺りから鼓動が直接耳朶へと伝わってくる。

所で、この直ぐ傍にある沈み込む様な感触の果実の様な膨らみって…。

 

思考する猶予もなく、背を撫でられながら耳元で言葉を囁かれる。

 

「……それを言うなら、私の方がもっと子供だ。人を選ぶような映画に誘っておきながら、感じたままの所感をおまえにぶつけてしまって。それに…」

 

「それに…?」

 

視線を上げる。

すると、今にも泣き出してしまいそうな面持ちで、声も震わせながら彼女が続ける。

 

「…あの映画を見て、もしお前がいなくなったら、なんて事を思ってしまった。かくありたい、と願う一方、ある意味お前の言う通りで、肉体が滅んでしまえばこうして抱き寄せる事も出来ない」

 

「…もし、お前に危害が及ぶなら、わたしが必ず護ってみせる。だから…」

 

抱き締める腕の力が強くなる。案じてくれるのは、嬉しく思えるけど。

それよりも、今は何とか彼女を宥めたかった。柔らかく微笑んだ後、何時ぞやのお返しとばかりに頭をわしゃわしゃ、と撫でてみた。

 

「…その台詞は、オレが言うべき台詞でしょ。オレも、それでマリーダさんが居なくなってしまうのは、例えどんなに良い結果が待っていたとしても…絶対嫌だ」

 

「こんなオレだけど…これからもマリーダさんの傍に居させて、ね」

 

今にも決壊しそうだった涙腺が愈々堰を切り、つー、と再び涙を溢す。

きれいだけど、やっぱり見たくはないな、と止めどなく溢れてしまう涙を優しく拭ってやりながら、今度は此方から抱き締めた。

 

もう泣かないで。あなたを探し求めている人が、ここに居るから。

 

互いの溢れんばかりの情感を慰撫しつつ、離れ難い大切な人の温もりを、何時までも共感し合うのであった。

 




はい。
御見苦しい稚拙な話だったと思います。若き政治家で理想と現実の大きな隔たりに思い悩んでいたシャアがジュドーに触発されて、史実のような凶行に走らずまだまだ頑張り続けよう、と再び奮起する話が書きたかっただけなのに…。

ちなみにここに出て来るキャラクターは原則、時系列順に最後に登場した(映像化されている)作品時点での年齢となっています。

ジュドーは14歳(ZZ)、マリーダは18歳(UC)、シャアは33歳(CCA)、ハマーンは22歳(ZZ)

といった感じで。(間違っていたら申し訳ありません)

作中でジュドーに指摘されてる通り、33歳の国会議員なんてまだペーペーもいい所ですが…史実ではその年で国の総帥に就任していたり、その5,6年前にも地球連邦を二分する組織の代表に思いもよらぬ形でさせられ、そもそも生まれからして為政者としての道を歩まざるを得ず、そしてほぼ確実に狂わざるを得ない程の残酷な運命が待ち受けていたのです。

この世界でくらい、青臭くも夢を忘れず悪い事は悪いと声を大にして言える少年に希望の光を見出しても良いでしょう。

次回は短めにして明日には投稿できれば。
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