ただの作者の妄想です。異論は認める。
小気味よく鳴る包丁がまな板に当たる音に、鉄鍋を叩く音。
機嫌が良いので鼻唄混じりでいつものように全員分の食事を作る。
出来た食事の味見をして、皿によそう。
盛り付けは……別に凝らなくても良いか。
「銀狼。食事ができましたので、そろそろゲームを終わらせてくれますか?」
「はーい。この盤面クリアしたら終わるね」
「わかりました。カフカ、刃、ホタル。食事はよそってあるので、先に食べていてください」
星核ハンターの隠れ家。
いつものように鍋を振い、家事をし、自分の仕事を行う場所。仲間達の休憩所であるこの場所で、
「
「はい。少し急用ができたので……まあ、よくある使いっ走りですよ。明日の朝までには戻りますが、夕食は作り置きがあるので、そちらを食べてください」
「わかったよ。気をつけてね」
「はい。ああ、あと。カフカ、買ってきて欲しい物があれば連絡ください。あれば買ってきますから。では、いってきます」
刀を少し引き出して門を開く。……さて、先ずは
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刀を突き立てる。
墓標を作ってやる気力もなければ、墓標のように名を刻む体力も残っちゃいない。
死した悪鬼の刀を墓標のように丘に突き立てる。
いつしか、その丘は墓標代わりに刀を突き立ててきたせいで刀で埋め尽くされた。
いくつも弔われた自ら打った刀も、悪鬼の刀を素材に打った刀も、全て墓標のように突き立てていく。
いつしか、刀を
ただ死んでいく同胞を弔う。悪鬼に成り果てた同胞を弔う。そのために
「……氷翠。だから言ったんだ。あなたは、優しすぎる。悪鬼になっても、私を斬れないほど斬るものを定められない」
「……ああ、
「……ああそうだ。氷翠、あなたは悪鬼と成り果てても、私と共に戦ったんだ。だから、疲れただろう。もう眠るといい」
流れ出る血液が体を冷やしていく。姉上の体温が微かにわかる。
「おやすみなさい。姉さん」
「……おやすみ。氷翠」
姉さんの胸に抱かれて、私は一生を終えた。
ハズだった。
「──何故! 何故我々の邪魔をする!」
「──我々は宇宙の存護のためにこの星の資源を発掘するだけだ! 彷徨い人のお前に邪魔される謂れはないはずだ!」
「……何故、か」
あの日、確かに私は姉さんに斬られ、悪鬼になった私は死んだ。
しかし、私は今ここで生きている。
「何故かなど、汝らであればわかるだろう。──ここは円環が新たな命を見出した星。先住の民がいる星を断りもなく資源を奪うなど、ただの盗掘。強盗と変わらない」
円環が私を拾い上げ、抱いたその日から。一度死んだ私はもう一度生きる機会を与えられた。
命を拾われたのだ。使いっ走りぐらい、自称母のお使いぐらい必要であれば引き受けるさ。
腰に佩いている太刀に手をかける。争いは苦手だ。出来れば血など見たくない。しかし、欲にくらんだならず者を野放しにはしない。
「失せろ。いくら
「ちっ、使令を相手にしなきゃいけないなんて聞いてないぞ!!」
「……争いは好まん。退け、そして、2度とこの星に近づくな」
私は、この星に芽吹く命のための物を守らなければならないのだから。
「チッ! 退けるわけがないだろ! 俺たちの昇進がかかってるんだ!!」
「……存護など忘れ、欲に溺れるか」
存護の意思などないらしい。友人の所属する場所に対して危害を加えたくはないんだが仕方がない。
「──ならば、円環の抱擁で眠れ。万物は輪回する」
今ここで死に絶え、虚無へ帰るか、それとも円環に抱かれ、生まれ変わるか。
「パワードスーツ部隊! 前を固めろ! ヒラは隙が見え次第、傍から──」
……哀れな者達だ。しかし、彼らも知的生命体。意思を持つ存在であれば、円環は歓迎し、新たな生命として産み落とすだろう。
「──
道を間違え、欲に溺れて死せる者よ。次なる生は、違えることなく生きるためにこの世界に帰ってくることを願っている。
太刀を振るえば円環の冷気が星を覆い、全てを凍てつかせる。
吐いた白い息が少しだけ暖かい。首に巻いてある布で口元を隠す。
円環の冷気は冷たく、出雲の隠り世を思わせる。……ここは寒いだろう。太刀を鞘に収めれば氷は砕け散り、生命体だった物は氷の粒となって消えた。
提灯を灯し、葬った人数分氷の刀を作り、亡骸は無いので全て墓標のように突き立てる。案内をするとはいえ、守刀ぐらいあった方がいいだろう。
「……さて、送り届けて家に帰りましょうかね」
私はただの刀鍛冶、ただの墓守。黄泉の行き道を案内する案内人。
「さあ、此方ですよ。ここより隠り世、死んだ者が行き着く場所です。しばらく、ここでお休みください。疲れているでしょうから」
黄泉の門を開いて亡き者達を連れていく。
思い残しがあっても、ここなら多少の自由はあるし、魂が漂白されればまた新たな生を歩むことができるだろう。
隠り世を歩いて渡る。隠り世はどこにでもある。何処にでもつながっている。ただ、何処も同じ景色だから、歩き方を知らないと迷子になり、そのまま存在が漂白化してそのまま生まれ変わってしまうけど。
隠れ家まで帰り、隠り世から出て現世に戻る。
「スコア負けた! チート使ってる。絶対チート使ってる!!」
「……銀狼? ……ああ、銀狼の部屋ですね。座標を間違えましたね」
座標を間違えたらしい。しかし……おかしいな。今は夜中のはずなんだけど。
「あ、おかえりー」
「はい、いま帰りました。しかし、夜遅くまでゲームですか? あまり遅くならないよう、気をつけてくださいね」
「はーい」
銀狼の部屋から出て、台所に戻る。まだ夜明けは遠いけど、朝食の仕込みをしよう。
それが、ここでの楽しみだから。
──拝啓、所在不明の姉さん。
姉さんは生きていますか?
私はなんだかんだ元気に生きています。
いつか、くる再会の日にあなたに感謝を伝えたいです。私は、いつかの日を思いながら。新たな仲間と生きています。
姉さん、あなたは今どこで何をしているんでしょうか。まだ出雲に居ますか。それとも、もう虚無に飲まれてしまいましたか。
エリオは、生きて姉さんと再会できると言っていました。
私は、その日が待ち遠しいです。
出会えたらまた、私の食事を美味しいと言ってくれますか?
『行き知らず 遠くに見える 彼方星
あなたの面影 導きとして』
会える日を願っています。
あなたの弟、氷翠より。敬具
多分続きます。多分