出雲出身の墓守。ハンター生活雑記   作:空白零無

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過去は過ぎ去ったもの。未来へとお進みください。

 

 

 ──数年前。

 

 

 炎に包まれた星。壊滅の星神のばら撒いた星核が埋め込まれた星。

 今はもう、星核の引き起こした災害に呑まれ。人々は苦しみ悶え、その身を壊滅の炎に焼かれて死んでいく。

 

「……手遅れ、ですね」

「これは、何が起きてるの?」

 

 燃える星。何度かサムが星を炎の海に変えた光景を目にしたことがあるけど、それとは違う。根本から焼き尽くされる星の姿を見るのは少し心が痛む。

 

「星核の影響。とだけ今は言っておきます。星核と言うのは、万物の癌とも呼ばれる未知の物質です。何処からか飛来し、星やその星に住まう生命体を汚染する物ではありますが。壊滅の星神、ナヌークが意図的にばら撒いているようですね」

 

 この星にある星核がナヌークの物なのか。何処から飛来してきた物なのかは不明ですが、この星が滅びを迎えていることは確かです。

 

「私とは初仕事ですが、大丈夫ですか?」

「うん。カフカから、アンタの指示に従っていればいいって言われたし、脚本にもそう書いてあった」

「……左様ですか」

 

 エリオが最近連れてきた少女。基本的にカフカと共に居ることが多く、食事時にはよく食べる子だ。表情はあまり動かないけど、感情豊かで素直な子。

 食べ盛りなのかかなり食べるので、食費は増えましたが。食べてくれるならよかった。料理人冥利に尽きる。と言うやつですかね。私は料理人ではありませんが。

 

「脚本の内容を伺っても?」

「『泉下に従い、星を見よ。そうして、慈悲を知る』って、書いてあったよ。アンタの脚本は?」

「私は『自らの運命に従え』の一言だけ」

 

 今回は、星核ハンターではなく、円環の使令として動いてもいい。と言うことでしょう。エリオとしては、今回の目的は少女、ベクター(容れ物)の教育のようですし。どちらでも、一つの経験、知識として少女の為になる。と言うことでしょうか。

 

(せい)。仕事を始めましょう。本来であれば、現地調査からやりますが。残念なことに、この星は壊滅の炎で焼かれ、いずれ焦土となるでしょう。このままだと、私達も焼かれてしまいます」

「私は焼かれても美味しくないし、泉下もあまり肉がないから美味しくなさそうだね」

「人肉はあまり美味しくないですからね」

 

 ぼやっとした記憶にある人肉の味。硬くて、筋張っていてとても食べられた物ではない……いえ、あの方々は皆悪鬼になった方々の肉なので一般的な人肉よりも硬くて臭かったんですかね。確かめる気はありませんけど。

 

「え、食べたことあるの?」

「似たような物なら食べたことありますよ。美味しくないので、おすすめはしません」

「えー、じゃあ、私がここで焼かれたら泉下に食べられちゃう」

「食べませんよ」

 

 別にお腹も空いていませんし、食べる必要もありませんからね。

 

「星核に関して詳しく知りたい場合。カフカに聞いてください。星核に関しては未だ不明な点が多くありますが。少なくとも、カフカなら私よりも知識はあるでしょう」

「泉下はよくわかってないんだね」

「はい。私の場合、事故を引き起こすような扱い方さえわかっていれば、星核を理解する必要は特にありませんから」

 

 最悪の場合。星核を星の一部とし、そのまま円環の内に加えて星を再編すれば良い。全てが作り変わってしまい、それまでの生命体の痕跡や発展は全てリセットされてしまうが、星核の脅威もリセットされ、汚染も緩和される。

 

「とりあえず、星核を抑制しましょう」

 

 円環の力を引き出して太刀に纏わせる。凍てつく炎。冷気を放つ円環の浄化の火。

 

 ──生命は死に、黄泉の渡川へと辿り着く。

 しかし、死とは終わりではない。万物は死に絶え、円環の下に生まれ変わる。

 

「──告げる。汝の命は、ここに生まれ変わる」

 

 太刀を引き抜いて上段に構え──

 

「円環に抱かれ眠るがいい。小さき者たち」

 

 太刀を振り下ろした。

 

 浄化の火、浄炎が壊滅の火を飲み込み、全てを凍てつかせる。苦しみ悶える人々も、呑まれまいとする星核も、全てを凍結させる。

 

 浄炎は隠り世で魂を浄化するためのもの。死者やミーム系の非実態存在にはかなりの能力を発揮するけど、生者には本来の力は発揮されない。しかし、冷気を放つ炎は、熱を奪って燃え上がる。

 触れた物を凍らせ、浄炎の周囲の気温は急激に下がる。

 

「星が、凍ってる」

「……そう言う物ですからね」

 

 星核は無理やりではありますが抑制しました。さっさと回収して帰りましょう。

 

 ……でも、その前に。

 

「星。近くにカフカと銀狼が待機していると思いますので、先に合流して帰ってもらえますか」

「? どうして」

「私は、まだやることがありますから」

 

 私は、まだ死者を隠り世に導いていない。弔いもしていない。

 

「ここの星の人たちのお墓でも作るの?」

「バレていましたか」

「うん。カフカが言ってたから」

 

 カフカから教わっていたのですね。一応個人情報ではあるのですがね……。まあ、知られたからと言ってどうと言うことはないんですけど。

 

「でも、アンタはここの星の住民と何の関係もないでしょ。なんでお墓を作るの?」

「なぜお墓を作るのか。ですか……。何故でしょうか。私にもわかりません」

 

 なぜ、と聞かれても。私にそれに応える解はない。

 なぜ墓を作るのか。なぜ弔うのか。そう聞かれても、私にもわからない。

 この星の住民たちに思い入れがあるわけではないし、私は初めてこの星の存在を知ったばかりだ。思い入れなんてあるわけもない。けれど。

 

「でも、誰にも弔われず、誰にも死んだことを知られないのは、とても寂しいことだと思うから。ですかね」

「寂しい?」

「はい。とても寂しいことですよ」

 

 私は一度、死んだことがある。

 私はその時、姉さんに看取られた。

 自分が世界から消えていく感覚がある中で、ただ姉さんの暖かさが。存在が近くにいると言うことが。それが嬉しかったのをはっきりと覚えている。

 

 だから、みんなで死んで。誰にも知られることなく。認知されることなく死ぬのは、とても寂しいんじゃないかと思った。

 だから、彼らの死を知り、円環に返せる私は彼らを弔いたい。

 

 心残りを胸に残していては、前に進む(次の生を受ける)障害のとなってしまう。だから、できる限りの障害は取り払いたい。

 

「なら、私も手伝うよ。何をすればいいの」

「いえ、手伝いなど……。いえ、何でもありません」

 

 純粋な子だ。表情が動かないから、どんな感情を抱えているのかはわかりにくいけど。根は優しい子なんでしょう。

 

「では、体が冷えるといけないので、私の羽織をきてください。そして、私が墓標を作り終えるまで見ていてもらえますか?」

「わかった。羽織、ちょうだい」

「どうぞ」

 

 私の羽織っている羽織を(せい)に渡し、墓標代わりに氷剣を作り出して凍ってしまった大地に突き立てて行く。

 

「……不思議な匂いがする」

「そうですか。こまめに洗濯はしていますが、臭くはありませんか?」

「臭くないよ。でも、……不思議な匂いがする。少し甘くて、フローラルな匂いがする」

「ああ、それは隠り世の匂いですね」

 

 どうやら、隠り世の匂いが羽織に染み付いていたらしい。帰ったら洗濯しないと。

 

「私はこの匂い好きだよ。この羽織ちょうだい」

「羽織を譲渡するのは構いませんが、洗濯はしてください」

「えー。匂い落ちちゃうじゃん」

 

 不思議な物が好きな子だ。

 

 

 

 

 そんなことを話しながら、弔いを済ませ、カフカと銀狼の待つ宇宙船へと向かった。

 

「泉下」

「何ですか?」

「今日は芋羊羹が食べたい気分。あと、今晩は焼き鮭が食べたい」

「わかりました。では、後でみんなで買い出しに行きましょう」

「やった」

 

 本当に、良い子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──現在。

 

 

「じゃあ、星を送ってくるわね」

「はい。わかりました」

 

 エリオの脚本通り。星は宇宙ステーション『ヘルタ』へと送られることとなる。

 

 星の姿は見えません。別れの言葉を伝えることは出来ません。

 

「いってらっしゃい。カフカ、無事。送り届けられることを願っています」

 

 星。あなたはよく食べ、よく学び、よく育ちました。

 あなたの歩むことになる運命がどれだけの苦難があろうとも、どれだけ過酷であろうとも。

 

 好奇心が強く。頭の良いあなたなら、生きていけると。私は確信しています。

 なので、この星海を旅して。さらに多くを知ってきてください。

 

 私は、あなたの親の一人として。遠くの星から、あなたを見守り。あなたの旅を応援しています。








意外と見られていることに驚いている作者でございます。何かご意見、ご要望があれば感想の方へお願いします。
不定期にはなると思いますが、好評のようなので続けて行く予定です。
作者でした。


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