気がついたらUAが5000を突破していた作者です。ありがとうございます。
雨。
それは恵み。それは悲しみ。それは傷。それは秘匿者。
しかし、頬を伝う泥を雨は隠してくれないし。悲しみから流れ出た泥は、いつまでも苦しみを覆い隠す傷となる。
「……氷翠。あなたは戦わなくても良い。戦いは私のやるべきことなんだ。なにも無理に戦わなくても良い」
私は知っている。私の目の前で亡骸となった子供たちを。私は知っている。その子を切った者が、その子の親であることを。私は知っている。その者は、私の造った刀を振るっていたことを。
──私は知っている。姉さんが戦いに出ようとしていることを。
「……
出雲は生存競争に勝った。
しかし、その代償に出雲は破滅の道を辿っている。
「神の体で刀を作った刀鍛冶が悪鬼を生むというのなら。それは、姉上が片付けるものではない」
私はただの墓守りであり、ただの刀鍛冶。
亡者の生きた証を示すために刀を鍛え、今生きる者に託す。亡者が黄泉の行き道で誤らぬように、刀を手向けて行き道を示す。
それが、私。
「刀鍛冶の犯した罪が悪鬼を生むなら、
私は太刀を手に取った。悪鬼の刀を束ねて鍛えた太刀。
血に飢え、血を啜り、血を刀身に纏わせる妖刀。太刀、銘は『
刀が悪鬼を生むならば、造り手である刀鍛冶が悪鬼を狩らねばならない。
同胞達を供養するためにも。忘墓守の私が、悪鬼を狩らねばならない。
「姉上。
「! 氷翠、待て。氷翠!」
私は姉さんと二人きりの家を去り、悪鬼を狩り続けました。
いずれ自分も悪鬼になると知りながら。私はがむしゃらに悪鬼を狩り、同胞を狩り、亡者を狩り、果てには悪鬼と成り果て。姉さんに
目を開けると見慣れた天井。
どうやら、昔の夢を見ていたようです。
布団から体を起こしてスマートフォンで時間を……ああ、かなり寝ていたようですね。もうお昼時ですか。みなさんの朝食を作り損ねましたね。
とりあえず昼食の準備をしましょう。自室から出て、食材の確認を、
「泉下、珍しく寝坊したみたいね」
「……カフカですか。おはようございます」
「ええ、おはよう。これから呼びに行こうと考えてたの。でも、自分から出て来てくれたから、手間が省けたわ」
「左様ですか」
起こしに来てくれようとしていたようですね。いつもは私が誰かを起こしにいく側ですから、珍しいこともあったものです。
「朝食はちゃんと食べましたか?」
「ええ、今朝は刃ちゃんが造ってくれたから、みんな食べたわよ」
今朝は代わりに刃が造ってくれたみたいですね。後でお礼をしないと。
「あと、みんな私を置いて出かけちゃったわ。ご飯を食べに行くんですって」
「……寝ていた手前何も言えませんが、あまり無駄遣いは控えて欲しいですね」
「大丈夫よ。多分だけど、全部刃ちゃんが出すでしょうし。私のカードも渡してあるから、そこから出てくでしょ」
そして、後で私に請求が来るんですね? わかりますよ。こら、涼しい顔して顔を逸らさないでください。
「はぁ。まあ良いですよ。……さて、じゃあ何か作りますか。リクエストはありますか?」
「あら、作ってくれるの? ならそうね。泉下の作る生姜焼きが食べたいわ」
生姜焼きですか。……そうですね。私の記憶が確かなら。刃が使いきっていないのであれば材料はある。調味料関係は無ければ近所の人に借りに行けば良いですし。
「わかりました。少々時間がかかりますのでゆっくりしていてください」
「そう。なら、映画でも見て待っているわね」
そうしてください。お米も炊かないとないですし。カフカは、一昨日から昨日までの間。少し長めの脚本を刃と二人でこなしていたみたいですからお疲れでしょう。
まだお昼時ですが、お酒を差し入れても良いかもしれませんね。お酒には強いみたいですし、多少飲ませても大丈夫でしょう。
──────────────────────────────────―
食べ終わった食事を片付け、食器を洗っている最中。カフカは映画の続きを見ているようで、私の出したワインの入ったグラスを傾けながら映画を見ている。
『私はアナタを愛しているの!』
『僕だってそうだ! キミを愛している。しかし、立場が許してくれないんだ! 嗚呼、愛しのエリナ。何でキミは────』
ラブストーリーの王道と言うべき展開でしょうか。
なんでも、この映画には元となった物語があるらしく、その物語では敵対国同士の王族の恋模様だったのだとか。
「面白いですか?」
「ええ、よくある展開でオチが見えている。安心して見られるわ」
「そうですか」
確かにそうだけど、私としては少し物足りない。
「泉下は、恋をしたことがある?」
「何ですか突然」
「ただ気になっただけよ。それで、どうなの?」
そう言うカフカはどうなんでしょうか。私は……どうなんでしょうか。
「恋ですか。……恋ですか……。多分、ないですね」
出雲に居た時も、今も。私は恋というものをしたことがないし、したいとも思わない。そして、これからすることもないでしょう。
「ですが、愛なら知っています」
「そうね。私も愛は知っているわ」
愛しているから側に居たい。愛しているから一緒になりたい。それはわかる。でも、理解できているかと言われれば微妙ですが。
「たまに疑問に思うの。大切だから愛するのか。愛しているから大切なのか。あなたはどちらだと思う?」
難しい質問ですね。
「どちらかと問われれば。私は、愛しているから大切なんだと思いますよ」
愛しているから大切にしようとする。愛しているから守ろうとする。
愛とは、行動するに値する理由になる。
私は姉さんを愛していた。同胞たちを、出雲の人々も悪鬼も愛していた。だから私は刀を手に取り、贖罪と弔いの為に戦った。
「そう言うカフカはどうなんですか?」
「ふふ。私は、ヒミツよ」
「左様ですか」
「あら。気にならないの?」
気にならないわけではない。でも、気にする必要もない。
「聞いて欲しいんですか?」
「どうかしらね。まあ、実際どちらでも良いもの。愛していることに違いはないんだから」
愛しているから大切でも、大切だから愛していても。愛していることに代わりわない。
きっと、劇中の二人も愛し合っているんでしょう。だから一つになりたい。でも、お互いの立場が一つになることを許してくれない。
だからでしょうか。
『次は、次の生で。一つになろう』
『ええ、一緒なる為に。共に逝きましょう』
共に命を断つのでしょう。悲しく、切ないお話。
一つ慈悲のない話をすると。
「悲しいお話ですね」
「泉下はそう思う? 死が二人を分たず、死が二人を引き合わせる。とてもロマンティックだと思うわ」
そうでしょうか。私にはわかりません。
「……生きながら愛し合う方法もあったでしょうに」
「でも、一つの物語とするなら。この方が感情を揺さぶられるでしょ?」
「かもしれませんね」
実際。私は悲しいものとして感じましたし。
──ただいまー。かえってきたよ。
おや。銀狼たちが帰ってきたようですね。
「おかえりなさい。銀狼、刃、サム。久しぶりの外食は如何でしたか?」
「おいしかったよ。でも、いつもぐらいの量を食べようと思ったら高かったから、刃の奢りでよかった」
どうやら刃がお金を出したらしい。あとで領収書なりもらって、支払った分は私から出しておきましょう。
「……カフカ。昼間から酒か?」
「ええ。少し飲んでたの。刃ちゃんも飲む?」
「そうだな。泉下、ツマミはあるか」
「ええ、ありますよ。それとも、何か作りますか?」
ああ、良いですね。この場所は。
『調理をすると言うなら、私も手伝いましょう』
「ありがとうございます。サム」
愛する仲間たちがいて、それぞれ生活している。
目的も、望む物もみんな違う。それでも、こうして一つ屋根の下に集まって生活している。
愛したいから愛する。愛していたいから愛する。愛する者が何者であろうと構わない。
だって、私が彼らを愛していたいから。
「おつまみ何が良いですか?」
「……干し魚はあるか?」
「ありますよ。お酒はどうしますか?」
「前に買ったやつが余っているだろう。それを持って来い」
「わかりました」
仙舟同盟の朱明から取り寄せたやつですかね。確かこの辺に……ありました。
「酒壺ごと持っていきますか?」
「……ああ」
「銀狼も何か飲みますか?」
「うーん。今はいらない」
「わかりました」
……私も久しぶりに飲みましょうかね。
確か、漬けていた梅酒がまだありますし。飲みましょうかね。