カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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(2-5)キーラ・タドの戦果

冬が明け春になり、新しい班が編成された。今日はメンバーの初顔合わせである。

 

「三列四班の班長になるローレだ、この班は未熟な俺を心配してか俺がやりやすいようなメンバーを組まれているからよく知っていると思うが、これからこの班を率いていくことになる。よろしく。」

「副班長キーラ、ローレとは去年から同じ班だった。お前らのことも時々聞いていたぞ。頼りにしている。」

「俺はタンベム、ローレとリーザとは同期。訓練兵時代ローレには散々扱かれたからローレの指示の意図は汲めると思うぜ。」

「うちはリーザ、去年はホイム班にいて、後期は前衛を任されることが多かった。新しい班にもすぐに慣れるようにするし()()()使()()()。」

 

 

お互いのことをある程度知っているため自己紹介を軽く済ませ、ローレ班は陣形について話し合う。

 

「ローレと同期とはいえ2年目が二人か。陣形は決まったようなもんか。」

「俺とキーラを前衛と後衛に分けといた方がいいし、リーザは当面後衛に置いておきたいから、実質俺とキーラどっちが前衛になるかだけだな。」

 

問題なく班長ができるのは現状ローレとキーラだけ。同時に彼らがやられると班として体裁を保てなくなり全滅する恐れがある。

 

「なんでリーザを後衛に置いておきたいんだ?前衛を任されることが多かったっていってたのに。」

「ホイム班にいたってことはホイム班長のバックアップを受けて前衛で戦ってたってことだ。彼女の支援を前提とした立ち回りをされると困る。俺もローレも彼女ほどのサポートはできない。」

 

ホイム・ラース。5年目になるベテランで、後衛に抜群のセンスを見せる。実際討伐数はほどほどだが討伐補佐数は兵団トップクラスだ。

 

「すぐに慣れるようにするってそういうことだったのか。オッケーありがとう。それで結局ローレとキーラはどっちが前衛を?」

「正直指揮がある分負担が少ない後衛に回ってもらうのが丸いだろう。」

「うちも賛成。シガンシナの時も思ったけど、ローレは強い人を動かせる立場にいるべきだよ。本人も結構強いのがこう、なんとも言えないところはあるけどね。」

 

それから新兵を加えた時の編成、他の班に助っ人を送り出した時の編成など細かいところを話し合い、その日の顔合わせを終えた。

 

 

一月がたち、新兵がローレ班に加わる。この一年、もうすでに一周目とは大きく乖離している。救えた人は多いが、救えなかった人もいる。調査兵団は一周目とは違う。それでも運命の因果を感じないではいられない瞬間がある。

 

「わ、私はイルゼ・ラングナーです!ローレ班長の評判はこの1ヶ月でもよく耳にしております。2年目にして班長を任される傑物であると。評判に傷をつけないようがんばります!」

 

一周目、彼女と初めて会ったのはキーラ班にいるときだった。俺に班長や副班長といった肩書きはなく、一年だけ経験豊富な先輩として彼女の面倒を見ていた。

 

「先輩、今日こそあなたに勝ちますから!」

「どうですか、この前の休暇でおふくろの味ってのを学んできたんです。ローレ先輩の料理の評価を上回って見せます!」

「んなっ!どうして私より先輩になついているんです、いつも世話しているのは私ですけど!人の心、いえ馬の心はないんですか!」

「結局あれだけ勝負を挑んだのに、一回も勝て、いや勝負は預けておきます。別々の班になったら気安く勝負を仕掛けられませんが、勝ち逃げできると思わないことですね!」

「久々の合同訓練ですね。キーラ班で培った実力、見せてあげます!」

 

そうだ。その日彼女に初めて負けた。そして次の壁外調査でキーラ班は全滅した。理屈はないがわかるのだ。きっと今回も第34回壁外調査でキーラ班は全滅の窮地に追い込まれる。だが、状況は変える。今はキーラがすぐそばにいて、イルゼも班員になった。その窮地を乗り越えられるように、今度は失敗しないように。

 

 

「イルゼ、また立体機動訓練で記録を更新したらしいな。」

「は、はい!気づいていただいて光栄です!」

 

同じ班になって半年が過ぎようという頃、第34回壁外調査まであとちょうど一年にまできた。生き残るための術をこの一年で教えられるだけ教えたと思う。

 

「お前の立体機動術は既に一定のレベルにある。殺傷能力なら熟練の兵士にも劣らない。」

「班長のおかげです。まだ班長の足元にも届いていませんが。」

 

その言葉に宿る感情は敬意と感謝と、少しばかりの居心地の悪さだろうか。生き残ってほしいからとイルゼに心当たりのない因縁を押し付けて鍛えている。一周目の時のような気安い関係は存在しない。

 

「お前が俺と同じ期間生き残っていれば確実に俺より優れた兵士になるよ。」

「そんな、恐れ多いです。一年後、今の班長に追いついている自分は想像できません。」

 

二周目というアドバンテージを考えれば俺は兵団の中でも相当の古株だ。調査兵としての年季の差は一年ではない。倍では効かない年季の差があるのだ。先の言葉に嘘は含まれていない。

 

「ともかく! お前はもう少し戦術眼を磨け。陣形からはぐれたとき、すぐに味方と合流できれば生存率は跳ね上がる。そういう思考があれば、もう少し消耗を抑えた戦い方の重要性も理解できるだろう。」

「消耗が多いのも、戦術の重要性も理解しています。だからメモをとっているわけですし。」

 

手帳を取り出し、パラパラとめくる。戦術についてのことや立体機動のこと、馬術のことなどが書きなぐられている。

 

「得た知識をちゃんと使えるようにしまっておけよ。メモを見ている余裕は壁外ではないからな。」

「大丈夫です。壁外にも手帳は持っていくので!」

 

元気に返事するイルゼに分かってないじゃないかと突っ込みを入れようとして――

 

「そうだな。その手帳、まだ半分しか埋まってないもんな。完成までほど遠い。」

「いえ、これは既に2代目ですよ。班長のご指導のおかげです。それにしても本当に博識ですよね。どこから仕入れてくるのか分からない知識も多いです。」

 

未来は変わりだしてる。大丈夫。俺は、俺は未来を 変え ら れ る。

 

 

「それは流石に無謀が過ぎる。悪いがお前の期待に応えられる実力が俺にもイルゼにもない。」

 

ローレ班となって半年が過ぎるあたりから、ローレの指揮に陰りが生じ始めた。班員が死なないために細心の注意を払っての行動や指示が彼の根底にあったはずなのに、それがキーラとイルゼにだけは適応されない。

 

「問題ない。二人ならここでは死なない。」

「待てよ。13m級を二人で撃破するってのは、熟練の兵士二人でギリギリだ。副班長はともかく、イルゼには荷が重い。」

 

巨人は目の前の13m級と8m級の二体。五人で後退しつつ引き気味に相手すれば応援が間に合う。そして無理を通さなければならない局面でもない。その程度ローレが気づかないわけがない。

 

「応援は呼ばない。この局面はローレ班だけで突破する。」

「おい!」

 

タンベムが声を荒げるがキーラが制止する。

 

「分かった。お前の指示に従う。イルゼ、隙は俺が作るから逃すなよ。」

「は、はい!」

 

そういうことが何度か繰り返された。当たり前だが、無茶を振られ続ける二人が無事でいられるわけがない。

 

 

その日もローレの無理な指示をこなそうと二人はかける。

 

「イルゼ、右脚からいくぞ! 脚を止めれば勝てる!」

「はいっ!」

 

二人の声が重なり、アンカーが森の高みに走る。目の前にいるのは8m級。この距離、この木の密度なら回避は不可能ではない。

 

「そらっ!」

 

キーラが先行し、巨人の注意を引きつける。イルゼがその隙に右脚を斬るために回り込む。

 

「しまっ……!」

 

巨人が突如、体を捻った。薙ぎ払う腕が枝を折り、木屑が飛ぶ。キーラがとっさに姿勢を変えるが、風圧に煽られたイルゼの軌道が逸れた。

 

「っ!? アンカーが――!」

 

ワイヤーが木の幹に食い込みすぎ、角度を誤った。イルゼの体が空中で回転し、硬い地面に叩きつけられる。

 

「イルゼッ!」

 

キーラが絶叫する

 

「すぐに行くッ!」

 

13m級と戦っていたタンベムの声が響いた。すぐに援護へ向かおうとするが、13m級の拳が目前に迫り、ワイヤーを撃つ暇もない。

 

「タンベム、ここは任せて」

 

リーザが告げる。二人ともまるでこんな日が来ることが分かっていたかのような流麗な連携でタンベムを救援に向かわせる。

 

「――!」

「リーザ、右上に避けろ!」

 

ローレの指示が飛び、リーザが13m級巨人からの攻撃を避けて、距離をとる。リーザとローレで引き気味に戦い、時間を稼ぐ。

 

 

「キーラ、援護する!」

 

8m級巨人にタンベムが飛び込んだ。片腕を広げ、巨人の肉を削ぎながら滑るように巨人の間合いから抜け出す。巨人の手が彼の肩を掠め、血が飛んだ。

 

「ぐっ……!」

「復帰します!」

「タンベムが立て直すまで引きで戦え!焦らず迅速に仕留めるぞ!」

 

イルゼが復帰し、タンベムが態勢を立て直すのを確認しキーラと三人で8m級巨人と対峙する。

 

 

「死角をついて注意を引け!キーラたちのもとにこいつを行かせるな!」

 

ハンドサインで陣形の指示を受け、リーザは立体機動装置を動かす。13m巨人を二人で相手しなければならない現状、余裕などあるはずもないが、ローレの指示にはよどみない。

 

(こっちの戦闘はあらゆる可能性を検討しているのね。)

 

キーラとイルゼがやられる可能性は考えていなかったくせに、こちら三人の誰かがやられることは想定していたのだろう。だからここにきてもローレの指示は素早く的確だ。

 

 

「来るぞ。イルゼ、右。タンベムは左。俺が正面で注意を引く!」

 

 三人はほぼ同時にアンカーを放った。キーラが真正面へ飛び込み、巨人の目線を引きつける。巨人の腕が振るわれ、木々の枝が粉々に弾ける。

 

「――ッ速い!」

 

イルゼがわずかに体勢を崩す。

 

「下がるな! イルゼ、距離を保て!」

「は、はいっ!」

 

キーラは巨人の右腕を掠めるように滑り込み、さらにワイヤーで高度を取る。その瞬間、巨人の注意がわずかに彼へと集まった。

 

「タンベム、今だ!」

「おらよっ!」

 

タンベムが巨人の右足首へ斜め下から入り込み、刃を切り込む。肉が裂け、蒸気が吹き上がる。巨人がバランスを崩し足をつく。

 

「副班長!」

 

高度を利用して流れるように態勢を崩した巨人のうなじをキーラの刃が一閃する。巨人が崩れ落ちた。

 

「気を抜くな、ローレとリーザの援護に向かう!」

 

 

「8m級を撃破した、援護に入る!」

 

じりじりと引き気味に巨人の相手をしていると、キーラの声が響く。

 

「被害は軽微、三人参戦できる!」

 

ローレは息をついたように小さく頷いた。

 

「リーザ、左腕を切り落とす隙を作る!」

 

リーザが返事代わりにワイヤーを放ち、巨人の頭上を跳び越す。キーラは巨人の正面に飛び込み、注意を引きつける。

 

「こっちだ! デカブツ!!」

 

13m級の視線が揺らぎ、キーラへ向いた。その瞬間――

 

「イルゼ、上へ!」

「はいっ!」

 

イルゼが高所から降下し、巨人の左腕の付け根を深く斬り裂く。蒸気が上がり、巨人が雄叫びを上げた。

 

「タンベム、脚を止めろ!」

「了解!!」

 

タンベムが根元から滑り込むように脚の腱を断ち、巨人が膝を折る。

 

「ローレ、今だ!」

「リーザ、合わせろッ!!」

 

ローレとリーザが左右から同時に駆け込み13m級の首元へ刃が走る。

 

――ザシュッ!!

 

巨人のうなじが裂けた。巨体が揺れ、倒れる。戦闘は終わった。

 

「全員――」 

 

無事かと声をかけようとして言葉を失う。タンベムは地面に膝をつき、血で濡れた肩を押さえていた。イルゼは痛みに顔を歪めながら、なんとか息をしている。キーラが荒い息を整え、振り返った。

 

「……無事だよ。全員生きている。」

 

静かな声だった。ただ事実を突きつける声。

 

「だがタンベムの独断がなければ取り返しのつかないことになっていたのは事実だ。」

 

ローレは何も言えなかった。一周目の記憶があるからこの二人はここでは死なないと思い込んでいた。その時までは死なないと。その時を覆そうともがいているくせに。

 

「分かってるだろうけどタンベムの行動はうちも共犯だから。命令違反の処罰ならうちも受ける。」 

 

彼の中で、何かが軋む音がした。

 

(俺が、間違えた。)

 

その言葉が喉まで上がる。だが、声にはならなかった。ただ、蒸気の匂いの中で、ローレは目を伏せた。幸いにも今回の遠征でこれ以上の戦闘はなかった。

 

 

「よお、安息日だってのに訓練の計画を練るとは勤勉なことだな。」

 

ローレがやらかした壁外調査が終わってから初の安息日、兵舎のローレの自室にキーラが入ってきた。

 

「慰労会の買い出しに行くぞ。安息日なんだから任務のことは頭から出せ。気が滅入るぞ」

「いや、俺は……そもそも、買い出しはイルゼの担当だろう。」

「お前も行くと俺がイルゼに伝えておいた。ロビーで待ってるだろうからさっさと行け。」

「キーラ、おまっ!俺が寝てたらどうするつもりで……!」

「それなら任務で頭がいっぱいでないってことだからな。俺がイルゼについていくさ。」

 

飄々と言い放つキーラに恨めしい目線を送るもどこ吹く風で、口笛を吹く。これ以上の追及は無駄だろうとローレはペンを置いて計画書を引き出しにしまい財布を手に取った。

 

 

「いや~結構いいもの買えましたね。班長のおかげです。」

 

買い出しを終え帰路につくとイルゼがそう切り出した。

 

「あんまり口出ししないほうが、とも思ったんだけどな。悪かった、上官と二人で買い出しなんて気まずいだけだっただろう。」

 

支払いはすべて俺がするのだ。変に気を使って遠慮してしまわないようにと口出ししたが、イルゼにとっては気の休まらない休日になったことだろう。

 

「もう半年も一緒に死線をくぐったのに、気まずいとかあるわけないですよ。いつもお世話になって、本当に尊敬してます。」

「そんな、俺はそんなすごいやつじゃ……」

「ストップです。」

 

口調は丁寧なのに有無を言わさぬ迫力があった。

 

「班長は凄いです。だからこそ、失敗から立ち直るのは下手ですね。人を立ち直らせるのは得意なのに」

 

失敗してこなかったんだろうなあと少し羨ましそうに続けるイルゼにローレは言葉を継げない。

 

「完璧である必要はないんですよ。班長が見えているものがどんな景色なのかはわからないですけど、一人でやる必要あります?私たちはあなたの駒の一つです。使えばいいじゃないですか。私は微妙ですけど、副班長もタンベム先輩もリーザ先輩も班長にできないことができますよ。」

「……そういえば上手く使えってリーザにも言われたな。」

 

上手く使えなかったから今があるのだろうが。

 

「リーザ先輩のいう上手く使えって危険に晒すなって意味じゃないですよ、きっと。」

「……そうかな。」

「そうです。」

 

迷いなく即答された。即答できるくらいには確信があるらしい。気づけば宿舎の前までついていた。

 

「ローレを励ますの、イルゼに丸投げでよかったのか?」

「仕方ないだろう。お前やリーザはローレに反抗した側だ。フォローするのは変だろう。」

「だから、なぜ副班長がなにもしてないのかって聞きたいのだけど?」

「それはほら、野郎に励まされるよりかわいい後輩に励まされたほうがいいだろ。」

「奮起する理由に違いはあれど優劣はないぜ。」

 

調理場の前まで行くと班員が話しているのが聞こえる。買い出しが順調に進んだから、まだ帰ってくるとは思ってなかったのだろう。盗み聞きみたいになってしまったなと視線をイルゼに送ると彼女は肩を震わせてうつむいていた。

 

「キーラさん、私にしか頼めないって信頼の証だと思ってたのにセクハラまがいの理由で大役を押し付けたんですね!余計に拗らせだらどうするつもりだったんですか!」

「おっ意外と早かったな。まあローレがいたんだから当然か。」

 

調理場にずかずかと入り込んでキーラに詰め寄ったが当の本人はどこ吹く風だ。

 

「いい気分転換になっただろ、ローレ。」

「おかげさまで。ついでに落ち込んでるのが一番まずいってことも分かったよ。迷惑かけて悪かった。俺に足りてなかったものが分かったよ。」

 

当たり前のように命を懸ける兵士の覚悟を記憶のアドバンテージで踏みにじっていた。今も救えるなら救いたい。でも俺は神じゃないから、全部は救えない。だからちゃんと捧げられる心臓の結末を見届けられるように、繋ぎ、託していけるように

 

「俺は俺に恵まれたすべてを()()()使()()よ。」

 

その言葉に満足そうにうなずくタンベムとリーザとそしてキーラにここまで含めて今回の作戦だったんだろうなとローレは感じた。

 

 

 

第三十回壁外調査、副班長としては最後の壁外調査になるだろう。今のメンバーで壁外調査をするのも最後になる。この一年ローレ班は誰もかけることなく生き残り、ローレの優秀さは誰も疑いようがなくなった。

 

「13m級一体と8m級一体が接近してきています!」

「13m級は俺とリーザとタンベムで行く、二人は8m級をやれ!」

 

会った瞬間からローレは突出していた。班長を任されるほどの実力もそうだが、ローレはとにかく勘が良かった。先を見据えてそれに対処してきた。このおよそ二年間、ローレの周囲での殉職はほぼゼロ。そんな奴の先輩として兵団に入ってから最も近くに入れたのは幸運だったと言えるだろう。

 

「「了解!」」

 

8m級の巨人は本来なら三人で討伐にあたる巨人のサイズだが、二人でも任せて大丈夫だと思われる程度には強くなった。破格の成長速度。だというのにローレは俺やイルゼの実力に満足していないらしい。ローレはずっと焦っている。その焦りからローレはまるで俺たちが死なないと確信があるように、俺とイルゼに無茶な指示を出すこともあった。不思議なものだ。死なないために鍛えていると言っていたローレがそれに反する命令を出してきたのだから。取り返しのつくうちにローレの暴走を止められてよかった。俺が一年早く調査兵になったのはこの日のためだと確信するほどに。

 

「討伐完了!」

「援護します!」

 

8m級を先んじて倒し、三人の援護に加わり、13m級を撃破する。よくやったという賞賛の裏にある、焦りの感情。きっと当事者でかつ付き合いが長い俺以外には気づけないほどわずかなもの。だがこれ以上強くなるのは無理だっただろう。仮にもう一度やり直すことができたとしても、今の水準を目標にするはずだ。改善すべき点がないとは言わないが、ローレが求める水準には届かない。そもそもどうしてそれほどの実力を求めるのかも分からない。ローレに何が見えているのか、分かってあげたかったのに。

 

 

「キーラ()()

「何だローレか、珍しいな。先輩の俺に相談事か?」

 

頼れる先輩としてキーラに接してきた1年目。部下として右腕として接してきた2年目、そし班が別れて対等になった3年目、普段は対等な仲間として呼ぶキーラをローレは今先輩扱いして呼ぶ。

 

「相談事ではないんですが、次の壁外調査について。」

「お前は勘がいいからな。できるだけ判断には従うつもりだが。」

 

一周目のイルゼの手帳によればキーラ班は十体近くの巨人に襲われ全滅したらしい。なぜ撤退ではなく迎撃の選択をとったのか、察することはたやすい。それが最適の判断だったからだ。だが、今回最適の判断はローレにとって受け入れられるものではない。

 

「俺の班はキーラ班の近くにいます。何かあったら俺を巻き込んでほしいんです。」

「悪いがそのお願いは聞けないな。お前が想像する何かが起こった時、俺達はお前を巻き込まない。」

「何かが分からないうちから断言するなんてそんな風に教えた覚えはありません。」

「ハッ!笑わせる。ローレ班を巻き込めと言っていれば断言はしなかったぜ。」

「ッ!」

 

正直、今まで救ってきた人は個人レベルで救える人だった。今回はそうじゃない。しかし、ローレ班を巻き込めば新たな犠牲者が出る可能性もある。そうだ、記憶があってもどうしようもないことがある。その時が来ただけ。

 

「巨人との戦闘はできるだけ避ける。生き残ることを最優先、お前に教わったことだ。大丈夫。ちゃんと守るよ。」

 

違うんだ。俺はあなたに生き残ってほしい。でも調査兵団という組織が生き残ることを最優先にキーラは動く。キーラ班を犠牲に第34回壁外調査を完遂させる。俺はそれを、認めたくないのに。

 

「お前は俺には見えない景色が見ているんだろう。能力が高いから取りこぼしを許せない。お前にも諦めるときが来たってだけだろ。俺が先輩面できるところがついになくなったな。」

 

そういってニカッと笑う彼に俺は少しだけ救われた。

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