カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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テイストが変わりますが、今後を考えると必要な展開かつある意味爆弾情報が解禁される話でもあります。


(3-1)秘密を知るもの

「人生には三度の大きな転機が訪れるとされている。今がその一つの転機になるだろう。その選択が正しいか間違っているかなんて今はわからない。だけれど、決して後悔するんじゃないよ。例え取り返しがつかないことが起ころうとも。」

 

司祭様の説教を受ける、二周目と同じスタート地点に戻ってきたらしい。そしてこれが死を起点とするループであろうことも確信した。

 

「……ローレ」

「し、さい様、俺は……」

 

女型の巨人に挑んで殺された。それだけならまだ良かった。仲間も生き延びらせることもできず、一周目と同じ末路どころか半端に警戒させてしまって、一周目よりも巨人を呼ばれた。どうして神様は俺のような凡人に奇跡を与えてしまったのだろう。この力がエルヴィン団長にあれば、リヴァイ兵士長にあれば、オルオにあれば、ペトラにあれば、エルド、グンタにあれば……タンベムやリーザにあれば、よかった。

 

「ローレ、ゆっくり休みなさい。今日だけのことじゃない。君には休息が必要だ。君は休んでいいんだよ。」

「でも、俺はまだ何も……」

 

何も為せてない。だからどうしたというのだろう。何も為せないと分かっているのにあがくことに意味はあるのか、考えるまでもない。

 

「君の苦悩を私は完全に理解することはできない。でもそんな風になっている者の苦悩を想像することの放棄を女神様はお認めにならないよ。」

 

その日俺はうずくまることしかできなくて、明日に控えた訓練兵団入隊は取り消され、俺はルキア司祭の後継者としてウォール教徒の助祭となった。

 

 

「ルキア司祭様、新しく司祭になられたニック司祭様が就任のご挨拶にお見えです。」

 

助祭としてルキア司祭に師事して一年がたとうかというころ、ローレはニックに出会う。助祭のころは何度か会ったが、ニックが司祭になってからは初めてだ。思えば一年間もルキア司祭に師事していたのに、ルキア司祭様以外の司祭様に会ったことはなかった。

 

「ニック助祭、いえ、ニック司祭殿、こちらに来るなら連絡くらいしてほしかったのですが。」

 

いつもならニックに限らず急に助祭や信徒などの訪問者が来ても歓迎してもてなしていたというのに、今日の司祭様はやけに難しい顔でニック司祭を拒絶している。

 

「突然の訪問になったことには謝罪を、近くを通りかかることになりましたのでご挨拶をと思ったまで。司祭になってからはこちらにも顔を出せていませんでしたし。」

「そうですな。こちらからお祝いに向かうべきでした。」

 

何か用があればお呼びつけくださいと告げて、退出する。しかし部屋から漏れ聞こえてくる会話に耳を離せなくなった。

 

「半年前にローレ助祭に会ったころから不思議だったのです。なぜ彼を司祭にしないのかと。思慮深く、助祭としての経験も十分、もう司祭としてやっていってもいいだけの実力がある。それもあの若さだ。」

「……彼は普通の司祭になればいいわけではない、私の後継者です。」

「詭弁です。あなたの後継者としての修練は司祭になってからでもできる。いえ、一刻も早く司祭にするべきでした。」

 

でした、とニック司祭様が言った。どういう意味だろうか。もうすべきではないと言っているように聞こえる。助祭と司祭では得られる情報に差があるというのは感じていることではあるが、それでニック司祭様は何かを知ってしまったのだろうか。

 

「……あなたも分かっているでしょう。」

「ええ。あなたがローレ助祭を司祭にしなかった理由も、頑なにほかの司祭様とローレを直接会わせなかった理由も、今日確信しましたよ。」

 

続く言葉に息を呑んで、その場を去った。仲間から逃げて、ルキア司祭に守ってもらってばかりで、今もまた俺は逃げることしかできない。

 

「彼は、未来を知ることができる。我々ウォール教が探し求めた、三柱の女神の母、ユミルの加護を受けた神の子。」

 

*次話

 

「彼は、未来を知ることができる。我々ウォール教が探し求めた、三柱の女神の母、ユミルの加護を受けた神の子。」

 

司祭という任が与えられたとき、それが単なる役職の名前ではないと、魂が理解した。

 

「就任おめでとう、君もこれから私たちウォール教の共犯者だ。」

 

司祭になってからの日々は目を白黒させるような情報に翻弄されるところからスタートすると、師事していた司祭から教わる。中央政府の重鎮たちに挨拶回りをし、壁の真実を知る。ウォール教という壁をあがめる教団でありながら、なぜ壁の真実が一部の者にしか共有されていないのか、壁の扱いに関してなぜ我々が議会で発言権を有しているのか、その日驚愕とともに知った。

 

だが、一番驚いたのはそれではない。

 

「司祭となった君には、私と同じ能力が備わっている。」

 

そういって語りだした内容は荒唐無稽で酒に酔った人間のホラ吹きだと思えるほどの内容だった。しかし、その話をする司祭様の表情は本物で何よりそれが真実だと、理屈を超越する何かで理解した。

 

 

曰く、この世界には三柱の女神の母、始祖ユミルの寵愛を受けた神の子が存在する。その子は死を起点として過去に戻ることができる特別な子、我々はその存在を見つけることが命題の一つであると。だが、その存在はいついかなる時代もいる、というわけではないらしい。どうやらその神の寵愛を受けし子は過去の歴史上一人しか存在を確認できなかったようだ。しかしこの時代には確実に居るという。

 

「会ったこともなく、人相も分からない神の子がこの時代に存在すると、どうして確信を持てるのでしょうか。」

 

その問いに彼は答えた、我々司祭は神の子が過去に巻き戻ったことを認識できると。

 

「一年前のことだ。当時の司祭だった者たち五人で集まり、神の子を何とか見つけようとしたが、それは叶わなかった。……ありえないことだ。」

 

司祭様たちも巻き戻ったという事実を知ることはできるが、それが何年間巻き戻ったのか、巻き戻る前の未来では何が起こったのかを認識することはできないらしい。

 

「伝承によれば神の子は必ず司祭の前に巻き戻るようだ。だからか、司祭は神の子を一目見ればそれが神の子だと魂が理解する。」

「でしたら神の子を見つけられないのはおかしいのでは。」

「そうだ。我々志を同じくするウォール教の最高位司祭の中に少なくとも一人裏切っているものがいる。それが誰なのか、私たちは見つけられなかった。」

 

だから君に託すと、司祭様は言った。ウォール教の教えに最も従順であり、二年前時点で助祭だったために確実にウォール教を裏切っておらず、これからも裏切らないと確信できる者、それが君だと。

 

「これからは私たち古い時代の司祭ではなく新しい時代の司祭がウォール教を導いていくだろう。」

 

 

「これはウォール教に対する裏切りです、あなたほどの人がなぜそんなことをしているのか、残念です。」

「彼を見たならわかるだろう。死を起点とするループ、今正気を保てているのが不思議なくらいなのだ。」

「だとしても、彼から得られる情報には垂涎の価値がある。それすらもウォール教に共有しないことの罪からは逃れられない。あなたの処遇も彼の扱いも今後は大きく変わります。」

「……それでも私は、ローレを人として扱いたかった。」

 

親代わりとしてローレを育ててきているということは知っている。ローレが助祭になってからその関係性に師弟という名前も加えられたのだろうが、以前ルキア司祭にとってローレ助祭は我が子のように思える存在なのだろう。

 

「司祭であるより一人の親になることを優先してしまったのですね。」

 

同じ司祭でありながら私とは対極にいる。

 

「歴史上一人しか確認できていない神の子。それが今、この時代にいる。ウォール教のために、そして人類の未来のためにも彼を野放しにすることは許されません。」

 

きっとこの時代に神の子が生まれたことには意味がある。ここで腐らせていていいわけがない、そう言い切って、席を立った。これ以上の話し合いは無意味だ。親であることを選んだルキア司祭と家族をないがしろにして捨てられた私、決して相容れることはない。

 

 

自分の特異性を認識している人の存在など考えたこともなかった。二周目でシガンシナが襲撃されたとき、ループしている可能性が一番高くなった。この力が何度も使えるかなど分からなかったが少なくとも知りえた情報は個人で運用せず、信頼できる仲間に共有して有効に活用すべきだという結論に至った。なのに、未来の情報はなぜか仲間の記憶に定着しなかった。

 

「ローレ、ここにいたのか。」

 

それが、まさか、こんな身近に自分の特異性を認識する人がいるなんて。

 

「ルキア司祭様、俺は……」

「言わなくていい、むしろ知っていたことを黙っていてすまなかった。」

 

そういって彼は頭を下げる。いつかはこんな日がくると分かっていながら匿っていたと告げられた。

 

「知らないふりをすることが間違っていると、ウォール教に対する裏切りであると知りながら、君を……すまない。そんな日々も今日が最後らしい。」

「どうして、俺を」

「ただ少しでも安らかな日々を送らせてあげたかった、私のわがままだ。あの日の君にこれ以上無理をさせたくないと思ってしまったんだ。」

 

生みの親の顔は記憶の遠くにある。今の俺にとって、ルキア司祭こそが師であり、何より親だった。だから甘えてしまったんだ。

 

「俺が弱いから、司祭様に迷惑をかけてしまった。」

 

二周目でも一周目でも、ルキア司祭が失脚したという話は聞いていない。彼に何かあれば俺のところまで情報が来ないはずがない。三周目では俺をかばったせいで彼はウォール教司祭という立場を追われるのだ。

 

「違う、君は悪くない。私が司祭であることより君の親であることを選んだ、その選択の結果だ。すまないな、中途半端に助けてしまって。」

 

俺はこんな風になるために、二周もして、誰かに迷惑かけ続けて、自分の親代わりでさえもまだ、迷惑をかけるのかと自問する。

 

「ごめんなさい。俺なんか生まれてこなければよかった。こんな力がなければよかった。だけど、俺が……選ばれた。」

「そうだな。こんな力、一人の手には余るよ。でもそれでいいんだ。大丈夫、私は君の味方だよ。」

 

全部捨てた。仲間も同期も見捨てて、シガンシナ区、マリアの人たちの大半も見殺しにする。それでも、まだ俺の手に残るものはなにか。

 

「あなたが俺を育ててくれたことは俺の人生で一番の幸運です。」

 

手に残るもののためにもこれ以上甘えてはいられない。

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