カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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(3-2)神の子

決意を固めた翌朝、教団本部から使者がやってくる。

 

「ローレ様、ルキア司祭……司祭会議からの招集です。」

 

いよいよ、ローレ・サマルブルクが“神の子”として教団の中心に引きずり出される時が来た。

 

「ローレ……」

「大丈夫です、ルキア司祭様、俺が俺の意思で選んだことですから。」

 

 

「こちらの招集に応じてくれたということは、こちらに協力してくれるということでいいのかな。」

 

招集場所はウォールマリア北区、ウォール教の総本山がある場所の地下。ここにこんな大空洞があるとは思わなかった。それぞれの司祭の後ろに護衛が数名控えている。警戒されているのだろう。

 

「ええ、ルキア司祭様の進退について私に一任することが条件ですが。」

「……いいだろう。彼の進退は一任する。だが、これからの態度次第ではそれも叶わない。」

「ローレ、私のことなど気にしなくてよいのだ。」

「ルキア司祭様、もう決めたことです。」

 

まだ言い募ろうとしているルキア司祭様をほかの司祭たちがとどめた。余計なことを言うなというように。そしてそれと同時に俺は拘束された。

 

「未来の情報を私たちが認識できるのであれば、また違ったやり方もあるのでしょうがね。」

「司祭となっ――」

「試しもせずにですか。」

 

相槌を打とうとしたほかの司祭に割り込んでローレが口をはさむ。

 

「試してなかったのだな。だったら試してみるといい。」

 

未来の情報を普通に話してもその記憶は定着しない。だが、この人たちは俺がループできると知っている。それならば伝え方も工夫できるのではないか。

 

「これは神託なんですけど、二年以内にシガンシナ区は放棄したほうがいいですよ。」

 

一瞬、司祭たちの顔がこわばる。

 

「シガンシナ区に何人が住んでいると思っている。それも二年以内と。そう簡単に実現できん。それを押し通すだけの理由があるということかな。」

「理由抜きに信じてください。あなたたちはこれが神託だと知っているのですから。」

「……そうだな、中央政府にある伝手を頼ってみよう。無茶を通さなければならなそうだが。」

 

今すぐ動き出さねばならぬと詳細を話し合おうと席に座りかけ、そして。

 

「司祭となって認識できるのはやり直しが起こったという事実だけ、あなたが何度目かも、何を知ったのかも、いつから戻ってきたのかも分からない。」

 

時計の針は動いているのに、俺の周りだけ時間が巻き戻ったかのように動き始めた。

 

「俺の処遇はこれからどうなるのですか。」

 

諦めて話の続きを促す。

 

「君は巨人が捕虜にされたとき、どういう扱いを受けるか知っているかね?」

「泣きわめいて糞尿垂れ流しながら許しを乞うて欲しいのですね。」

「……はい?」

 

人間の中でもとびっきりの変態が目をキラキラさせながら拷問まがいの調査をするのだ。変態がつらそうにしているが勘弁してほしい。あの瞬間だけは巨人に唯一同情できた。

 

「どんな醜態をさらしても、守らなければならない尊厳があります。」

「……そうか、悪かった。脅すつもりはなかったんだ。ただ、常に監視される生活という意味で引き合いに出しただけなんだ。解剖なんかはしない。巻き戻っては意味がないどころか反感を買うのはリスクだ。」

「想像以上理性的ですね。目的が見えません。」

 

目的が見えない、そういったローレに司祭たちは呆れたように言った。

 

「それはこちらのセリフでもある。ローレ、君の能力が覚醒したのは理由がある。やり直して達成しなければならない使命があるはずだ。それを完遂させたとき君の能力は失われる。」

「その使命に近づく行動なら未来の情報も我々に定着するんだ。だから探せ。少しでも長く生き残り、情報を得て、ユミル様が何のために君にやり直しの力を与えたのかをな。」

「俺は人類の存続のための情報をあなたたちに共有しようとしましたけど、定着しませんでした。人類の存続より大事な使命があるんですかね。」

「ある。」

 

司祭たちは迷いもせず断言した。その言葉には確信が乗っている。

 

「先代の神の子は自分の同胞のほとんどを失っている。彼に課せられた使命はユミル様を人の身から神に至らせること。そのために彼は周囲の仲間を何千と使いつぶして使命を全うされた。」

「俺はそんな大層なことはできません。ただの凡人なんです。」

 

反射的に反論するが、その言葉は彼らには届かない。

 

「君は神の子だ、人のスケールで使命を量るな。」

「どうせ調査兵団になんてなっていたんではろくに長生きもできていないだろう。君はウォールシーナのストへス区で隔離生活を送る。手足には我々ウォール教徒がなる。いろいろ試してみるといい。」

「献身に見合うものは約束できません。」

「我々のすべてはウォール教のためだ。無茶を強いる気はないよ。」

 

言葉はきれいだが、その裏に隠しきれない意図に溜息をつきながらローレは彼らの思惑に乗った。結局自分も彼らと同じなんだろう。それから彼はウォール教の神の子として信者から祭り上げられながら過ごしていった。

 

 

神の子として祭り上げられ、ローレは静かに、そして無為に日々を過ごしていた。

 

「ローレ様、来年の雨量について、いかが思われますか?」

「……例年通り、むしろ小麦など穀物を作るには最適になるでしょう。リスクをとって大量に用意してください。」

「ありがたきお導き……! 穀物類の耕作地を広げます。」

 

司祭たちは「神託の時間」として彼に信者の生活に関わる相談事を持ちかける。だが、それは世界の命運とは無関係な、たとえば畑の作付けや井戸の掘削、養蜂に使う花の選定といった地味なものばかり。しかし曲がりなりにも未来の知識があることで全く役に立てないという件は少なかった。

 

「ローレ様、貯蔵庫の小麦が発酵してしまう件について、お導きをいただけますか?」

「……たぶん……湿気が原因でしょう。通気孔を作ったら、少しはマシになります。」

「はっ!ありがたき神託!」

 

まるで奇跡でも授かったかのような熱狂に見送られながら、ローレは再び寝椅子に体を沈めた。

 

(小麦が膨らむ理由ぐらい……訓練兵団の衛生講習で聞いた。マリアやローゼに住んでいる人なら当たり前に知っている知識だろうけど。)

 

裕福な暮らしができるウォールシーナ内の住民には食料を貯蔵するという習慣がない。そんなことする必要がないからだ。だが、ローレは人類の生存権が三分の一削られることを知っている。だから、備えさせた。せめてウォール教徒だけでもと。シガンシナ襲撃について共有できないが、このような地味なところで襲撃後の食糧難を含む困難をわずかでも軽減するような助言ならできた。誰も疑わなず、誰も訂正もしない。神聖な意義を見出してくれる神託を与える立場は大局的には無意味でも局所的には確かに意味がある。

 

(……楽な仕事、なのかもしれない)

 

けれど、それは充足感を与えてくれなかった。

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