カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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(3-3)壁の王

「ローレ様、本日のご予定なのですが、先日伝えた通り王と謁見していただきます。」

 

大司祭になってから付き人ができた。この方も司祭の息のかかった人物なのだろうが、何かと役に立っている。

 

「中央区に行くのですよね。準備はできています。」

 

そしてローレは初めて壁の王に出会った。

 

「初めまして、ウォール教大司祭様。いえ、神の子ローレ様とお呼びしたほうがよろしいですか?」

「私など大したものではありません。私は凡人で、あなたは特別です。」

「そうでしょうか、未来を知ることができるとお聞きしています。そのような人物が大したものではないなどとは、とても言えない。」

 

得体のしれないのに圧倒されるほど絶対性を感じる。この人に逆らってはならないと本能が叫ぶ。深くは踏み込まず様子見をすべきだと、当たり障りのない世間話から会話を展開していった。

 

「未来が分かる神の子と呼ばれてはいてもやはり私の愛すべきユミルの子のようですね。非常に有益な時間でした。」

 

当たり障りのない会話をしていたはずなのに、気づいたら数十分もたっていた。

 

「もう少しあなたと話していたいところではありますが、あいにくそれを許すだけの時間がない。少し、お手を拝借しても?」

 

差し出された手を握った瞬間体に衝撃が走る。死に戻ってループした時のような記憶の奔流に一瞬呆然としてしまった。

 

「やはり耐性があるだけありますね。ではまた。」

 

部屋を去ったことを確認し、座り込む。

 

(記憶を植え付けた?)

 

壁の素材には巨人が使われていること、それをつくったのが彼の先祖であり、彼も同様の能力を有していること、壁の外にいる巨人は元人間であること。じゃあ、俺達は人を殺して回っていたのか。何のために俺たちは心臓を捧げ続けていたのか。

 

(いや、今更調査兵団のことを考えて何になる。逃げて逃げて、ここまできた。調査兵団のため、なんておこがましい。)

 

そもそもすべてが茶番だったんだろう。壁を作れる能力、巨人を自由に操れるものが壁内にいるというのに、人類のためなんてお題目で巨人の餌になってきた調査兵団はまさしく見せしめの笑いものだ。

 

趣味の悪い話だとは思う。でもそれを許容しなければならないだけの理由があるのだろう。それを自分には共有しなかったというだけ。完全な存在を前に人間はただ、祈り傅き、隷属するしかないのだから。

 

 

その日も、部屋の隅にこもりながら古い書物をめくっていた。ウォール教が保管してきた年代記、農業日誌、薬草の記録、飢饉の統計。ローレはそれらを漁りながら、ほんの少しだけ未来に役立ちそうな知識を覚えた。

 

「ローレ様、今年の葡萄の出来が悪くて……」

「ラーウ地方は雨が多かったから、根腐れしてるかもしれません。水はけのいい場所に移して、剪定を忘れずに……あと、日陰は避けてください。」

「かしこまりました!」

「それと!空いた土地には玉ねぎや大根なんかを植えておけと、神のお達しです。小麦を作れる人的余裕があればそちらを。」

「神からのお達しとあらば全力で取り組みますよ!」

 

少しでも実生活が楽になるのなら、と自分に言い聞かせるようにして知識を吐き出す。まるで壊れた本棚のように、誰かの都合に合わせて情報を差し出していく。

 

(ループして、未来を知って、それでやってるのがこれか……)

 

自嘲のように笑った。自分が持っている「力」は、この静かな世界ではただの便利な生活指南でしかない。

 

だが、それでいいとも思っていた。兵団のように死と隣り合わせでなく、貴族のように誰かと腹の探り合いをすることもない。ぬるい、けれど確かに存在する安寧。

 

(このまま、何も起こらなければいいのにな)

 

神託は今日も、生活の中の小さな問題をひとつずつ片付けていく。ローレがそれに意味を見い出せないまま、季節は静かに移ろっていった。シガンシナ襲撃の日も確実に迫ってきていた。




お前のような凡人がいるかとローレに突っ込むやつが現在作中時間軸にいない問題。

シアン・マクナ:あくましんかんより
冒頭に一セリフだけ言ってた人物です。今後も登場するので少し早いですが名前をここに書いておきます。
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