深夜、皆が寝静まっているころ、眠れないとベットから起き上がる。立ち上がった瞬間、ローレの足から力が抜けた。音を立てないように、という理性すら働かず、再びベットに倒れ込む。
一周目と二周目において自分が命を落とした日は明日だ。絶対の守護者たる壁の王はもういない。きっとこれが使命だったのだろう。壁の王を守ること、人類存続よりも優先される事柄、それを失敗した。そしてだからこそ確信がある。自分はまた死んでやり直すことになると。
「……あと四時間後、調査兵団が出発する。」
どうしても考えてしまう。一周目で女型に敗れ次々と地に伏せ死を待つ仲間、胴体を両断された脳を焼く痛み。
二周目で仲間を握りつぶされ、叩き潰され、決死の一撃をあざ笑うかのように硬質化に防がれたトラウマ。
「もし死ぬなら、それは明日なのか……?」
小さく呟く。あの日から二週間、まともに眠れなかった、とても眠ってなんていられなかった。それでも神の子としてのふるまいをしている間は考えなくてよかったから。信徒とともに祈りを捧げ、神託と称してお告げをし、神の子として役割を果たしていった。現実から目をそらし続けて、そして現実がどこに目をそらしても視界に入ってきてしまうほど目の前に近づいている。
扉が、静かにノックされた。
「ローレ様……?」
シアンの声だった。なぜ、こんな真夜中に、疑問が頭を埋め尽くす。それでもベットから起き上がり返事をしようとして、膝が折れた。床に座り込む。
「……失礼します」
扉が開く音。駆け寄る気配。
「ローレ様……どうされたのですか」
ローレは顔を上げなかった。
「真夜中に、返事も聞かずに部屋に上がり込んでくるのは……」
言葉が途切れる。
「普段であれば決してしませんとも。しかし明日はローレ様の神の子としての任期が切れる日です。」
「不安そうなそぶりは気取られないようにしていたはずですが。」
「ええ、間近で七年間お世話してなければ気づけないかったでしょう。」
力を失う不安と勘違いしているようだが、どうあれごまかせてはいなかったようだ。
「……当たり前にあったものが失われるというのは怖いものです。だからあなたが望むなら寄り添ってあげたい。」
その声は、深い慈しみが込められていると確信を持てるほど、丁寧だった。
「……寵愛に預かれなくなるとしても、ローレ様は依然神の子です。そう仰っていたではありませんか。」
「……」
「大丈夫ですよ。あなたの力で救われた人は大勢いますし、あなたに価値がなくなるなんてことはありません。」
優しい言葉。正しい言葉。
だが――違う。
(怖いのは、そこじゃない……)
どうなるのか分からない未来ではない。導かれるように襲ってくるかもしれない死の運命がどうしようもなく怖いのだ。
「……もし、何も起きなかったら」
ローレが、かすれた声で言う。
「……どれだけよかっただろうか」
シアンは、少し困ったように微笑んだ。
「そうしたらまた我々信徒を導いてください。今までよりかは羽を伸ばせるよう私も全力を尽くしますから。」
「……」
シアンの言葉はローレの不安に対してなんの保証にもならない。それでも、何はなくともただ、そばにいてくれる人の存在にローレはゆっくりと息を吐いた。
「ありがとう、シアン。もう大丈夫だ。」
「強がりを言えるくらいには回復してくれたようで何よりです。せっかくですから、お茶でもいかがですか。こんな暗がりだから気が滅入るんですよ。あったかい飲み物を飲んでそれでゆっくりお休みください。」
そういって暗闇の中からいつの間にか用意されたティーセットを見て、ローレは少し脱力して、椅子に腰かけた。