「これが何を意味するのか分かっているな?」
「ええ。ですが自分にとっては別の意味を持つものです。」
教官室に入り、退団届を提出する。訓練兵団を辞める意味、それは開拓地に送られることを意味する。それはウォール教の力を使えばいくらでもかき消せるものだ。
「お前が開拓地送りになるなどありえん。だが、これがここに一枚しかない意味がわかるかと聞いている。」
「ええ。当然です。キース教官、やっぱり優しいですね。」
シアンを置いてシガンシナを去る意味がわからないかと聞かれているのだ。
「退団届受理した以上、もう教官ではない。直ぐに支度して去るといい、部外者は不要だ。」
*
荷物をまとめ、訓練所を後にする。出口にはシアンと、ウォールシーナから迎えにきた教団関係者がいる。
「後のことはお任せください。あなたの期待に応えられるよう全力を尽くします。」
「無理はしないで結構です。伝えた連絡手段だけは滞りなく使えるように。それ以上は望みません。だから…いえ、なんでもありません。」
死なないでくださいという言葉を飲み込んだ。そんな資格がないのだから。
*
ウォールシーナについて数日のうちに話はまとまり、俺は始祖の巨人の随伴兼護衛として、王家の区画に常駐することになった。
*
扉が開いた。静かな部屋の中央に、女性が立っていた。年若くはあるが、幼さはない。背筋は伸び、こちらを見る目に迷いはなかった。なにより、瞳を見ればその圧倒的な存在感に気圧される。
――始祖の巨人。
その肩書きが、彼女に相応しい輝きが瞳に煌めく。
「ローレですね」
先に声をかけてきたのは彼女の方だった。
「聞いています。護衛として、ここに置かれると」
置かれる。その言い方が、すでに状況を理解している証拠だ。だからこそ不可解にも思うだろう。
「ウォール教大司祭、神の子ローレ、本日よりあなたの身を守る任を得ました。私の力など微々たるものではありますが。」
「神より信託を賜り未来を見通す神の子よ、私の身に危険が及ぶと?」
始祖は無敵、そう聞いて育ってきたはずだ。無敵の自分に害を為すものが存在するはずもない。なのに新しく護衛が置かれる。それも未来を知れるとのたまう人物から。
「あなたは無敵ではない。ですが最強です。その気になったあなたには誰も勝てない。だから万が一が起こった時力を発揮するための時間を私が稼ぎます。私がいればあなたは無敵です。」
柔らかく始祖、フリーダは笑った。
「私は無敵ではない、ですか。」
「気分を害したのであれば謝罪します。」
「いいえ、あなたがいれば無敵なのでしょう?」
「ええ。」
即答した。疑う余地はない。俺がいれば始祖は無敵だ。他の巨人を操ることができる時点で疑う余地などなかっただろうに。どうして彼女は無敵ではないという言葉に嬉しそうに笑ったのか、この時は意味がわからなかった。
*
「改善のための未来予知、この光景を俺に見せたこと必ず後悔させてやる……!」
後になって思う。彼女は不戦の契りによって雁字搦めになっていて、決して最強ではなかったし、当然無敵でもない。でも周囲の始祖は無敵だという信仰に晒されてきた。だから無敵ではないという言葉が彼女の耳をそれは心地よく震わしたのだろう。その後の最強という信仰に目を瞑りたくなるほどに。
ウォールマリアが破壊されてない状態で開拓地送りになるのかには一考の余地がありますがまあいっか!