カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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(1-3)シガンシナ区襲撃

人類最低の日は間違いなく今日だ。壁内人類にとってまさに青天の霹靂だった。

 

「何の冗談なんだ、これ。」

 

巨人との戦闘経験があり精鋭たる調査兵団は壁外調査に行っていていない。巨人とまともに戦える戦力のほぼすべては調査兵団なのにだ。

 

「シガンシナ区は三十分後に放棄する。しかし現状避難完了率は三割程度だ。少しでも割合を上げるために逃げ遅れた人を助けに行くぞ。」

 

三十分では少なくとも住民の半数以上は間に合わない。そんなことは訓練兵でも分かる。そして、今の兵力では三十分時間稼ぎをすることでさえギリギリであろうことも。

 

 

「俺が一人いればそれだけで一時間は守れるだろうぜ。何せ俺は人類最強、一個旅団を超える実力者だからな。」

「じゃあこの班における私たちの意味はなんなのよ。」

 

中衛の要に配置された十一班の面々は、99期訓練兵団の実力2TOPが編成されている。全体の統制を果たせるものが少ないなか、訓練兵の指導教官であり、かつての調査兵団団長、キース・シャーディスが訓練兵を迅速に編成した。

 

「そりゃあ、俺の輝かしい初陣を語り継ぐためだろ」

「あんたのフォローに回るためにいるのよ。」

「俺のフォローする余裕があるなら一人でも多く民間人を助けるんだな。」

 

不敵に告げて、彼らの初陣が始まった。結果は言うまでもない。彼らはまだ半人前の寄せ集めなのだから。

 

 

「前衛部、中衛部は壊滅、いやほぼ全滅。俺はこの場に心臓を捧げるのか。」

 

壁が破壊されたとき、即座に動けたのは駐屯兵団の中でも一割程度、すぐさまほかの仲間を叱咤し大砲を用意させて後衛に配置させた。訓練兵のほうが、士気が高いというのは皮肉なものである。問題は前衛だった。動けるものが前に出るしかないが、その数はこの戦場にまったく足りていなくて、できればもう二度と繰り返したくない手段でしり込みするやつをどうにかこうにか死地に追いやる。

 

「ハハッ」

 

乾いた笑いがこぼれた。繰り返したくない手段、そんな手段を講じる次なんてないのに。もうガスがほとんど残っていないし、そもそも刃はなまくらと化した二刀のみだ。まだ動ける奴の囮にでもなってやろうと巨人と戦っている集団に向けてガスをふかす。

 

「嫌だやめて待って、助け、るから……」

「離せ!俺はまだ、こんなところで、まだなにも……!」

 

信じられないものを見た。この期に及んで、まだ死なないでいる訓練兵。群を抜いて、ずば抜けて優秀だ。そんな未来あるものがここで使いつぶされることを、今ならまだ止められる。巨人は二体、内一体はうなじから煙が出ている。おそらく今捕まっている奴が仕留め損ねた個体に、もう一体は二人が戦っているのにおびき寄せられてきた新手。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ!たすっーー逃げろ、ペトラァ!」

 

その叫び声は間に合わない。救助者が二人に増える。思考は一瞬、どちらなら助けられるか。なまくらの刀と自分の命で、救える範囲は。

 

 

「ッ!?」

 

鈍い音とともに俺を捕まていた巨人が倒れる。救われた実感が追いついてくる前に、すぐにでもペトラを助けなくては。

 

「撤退だ新兵、ここは俺に!」

 

とっさに声をしたほうを向くと、折れた剣を抱える駐屯兵が一人。無理だ。彼がどれだけ優秀だろうと、折れた剣では巨人に勝てない。死ぬ気なんだ。俺を逃がして。

 

「今、助けてやる。」

 

訓練してきたことを思い出せばいいだけだ。俺の体力はまだ限界じゃない。俺の普段通りの動きができるなら、きっとペトラを救える。

 

「隙を作れ!」

 

叫ぶ。何事か口を開きかけ俺に逃げる意思がないと判断したのだろう。呆れた顔、いや最期の人助けが不発に終わることを予感した無気力な顔だろうか。それでも彼は折れた剣を巨人の顔に投げつけた。巨人の態勢が崩れる。

 

「おらあああ!」

 

うなじを斬るには十分ではない隙だったが、腕を削ぐ程度ならできる隙を彼はきっちり作ってくれた。ペトラをつかんでいた腕が力なく垂れて、手の力が抜ける。

 

「死ぬ気で抜けろ!」

「これ以上は無理だ!」

 

俺と駐屯兵がこれ以上お前を逃がすチャンスは作れないとペトラに叫ぶ

 

「う、うらあ!」

 

懐の剣で巨人の手を切りさき、ペトラが脱出した。

 

「急いで撤退しろ!まだあいつは生きてる。」

「おい!?あんたは!」

 

ガスが切れたことが伝わる。だからさっきあんな顔だったのかと、納得と同時に怒りがわいてくる。こんな状態の彼に救われた自分の無力さに。

 

「担いでやる。生き残れたら貸し借りはチャラだからな。」

「そんな状態とこの状況で俺をおぶって撤退できんだろ。置いてけ。」

「黙れ。お前の意見は聞いてない。俺を助けに来たせいでお前が死ぬなんて許されると思うなよ。」

 

ペトラに声をかけると、即座に彼女はーエルドと名乗ったー駐屯兵の立体起動装置にあったワイヤーをうまく使って俺とエルドを固定した。

 

「ペトラの技術を疑ってはいないが、急場しのぎの固定だから外れたら全力でしがみつけよ。」

 

全ての絶望を追いやって撤退し、その日彼らは生き残った。

 

 

「リーザ、そいつは……」

 

陣形は早々に崩壊し、同じ班の仲間は散り散りになった。もう巨人に食い殺されているだろうか。巨人との戦力差、己がどれほど無力なのかを巨人との接敵して数秒で分からされ、一人でも多く民間人を助けられるように気を引き付ける餌、それが今の訓練兵だ。逃げ回っている道端で別々の班になっていたリーザと最悪の出会いをする。

 

「ローレ!助けてよ。今ならまだタンベムを救える。」

 

片腕がなくなっている。出血も止まらない。意識ももうない。まだ生きているが、これからまともな医療ができる現場までタンベムが持ちこたえることはないと、ローレは冷静に判断できてしまう。

 

「リーザ、タンベムを置いて撤退するぞ。この場に巨人が集まってくる。囲まれたら俺たちも同じ末路をたどる。」

「でも!」

 

もうすぐシガンシナ区放棄のタイムリミットだ。人ひとり担いで間に合うとは思えない。この極限状態に訓練兵である俺たちは未熟すぎる。

 

「お前まで死んでほしくないよ。せっかく兵士になれたんだから。」

 

その言葉にリーザは納得してくれた。それから、自分の助けられる最大限を目指して、民間人の生存者数を一人増やした。

 

「こんな地獄だと分かってれば、ウチは兵士にならなかったよ。」

 

それでも彼女がこの騒動が終わった後に吐き捨てるように言った言葉は俺の魂にこびりついて離れなかった。

 

 

「なあ、なんでローレはそんなにしてられるんだ?」

 

ウォールマリアは陥落して、ウォールローゼにまで人類の生存権が後退して一月が過ぎた。自分たちにあった自信は粉々に打ち砕かれた。俺たちがウォールマリア陥落の時に生き残れたのは運が良かっただけで、巨人と戦えば当たり前のように死ねる。同じ釜の飯を食った訓練兵の同期は先の戦いで半数が死んだ。死体すら持って帰れなかった。

 

「俺はさ、選ばれた人間だと思ってたよ。本当に。」

「でも違ったんだ。俺は特別でも何でもなくて、だから、仲間をたくさん死なせてしまった。」

 

自分以外の班員が全滅するなんて先の戦いではありふれてる。班員が半壊せずに残った班などない。それでもオルオは、いや生き残ってしまった兵士はみんなその死に意味を求める。

 

「そのせいで、そのせいで俺はッ!」

 

 

 

「逃げられなく、なっちまった。」

 

絞り出すように言った。

 

 

「俺は巨人を駆逐する。ささげた心臓が何のために費やされるのか、知らないと納得できない。きっとみんなそうなんだ。」

「仲間の誰かが、心臓の行く末を見届けるために、心臓を捧げ続ける。何百人もそうやってきて、気づいたころには逃げられない。これは誓いだ。俺が、見届ける。俺が見届けて、仲間のささげた心臓に価値があったと証明する。そうでなきゃおれは自分を許せないから。だからなローレ。」

 

「俺も調査兵団に入る。」

 

その日は配属兵科を決める前日の夜だった。




エルドがオルオ達より先輩であるというのは原作描写から読み取れますが、もともと駐屯兵団にいたという設定は独自設定です。
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