カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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(1-5)捧げられる心臓

「よお、安息日だからってまだ寝てんのかい?」

 

壁外調査が終わってから初の安息日、兵舎のローレの自室にキーラ先輩が入ってきた。

 

「慰労会ってやつだ。買い出しに行くぞ。なんとトーア班長のおごりだ。食いたいもん買おうぜ!」

「いや、俺は……」

 

ミヤ先輩やライム副班長のことを思えば生き残れただけの新兵がそんなことしていいのだろうかと歯切れ良い返答ができない。

 

「ジオが負傷してから頑張ってくれただろ。帰還の時もミヤの代わりをちゃんとできてた。」

「それは――」

 

自分をかばってなくなったんだ。彼女以上の働きを示さないとスタート地点にも立てない。

 

「とにかく!これは先輩命令だ。さっさと支度しろ。外で待ってっから。」

 

そう言い残したキーラ先輩に圧倒されながら、ローレは外出の支度を始めた。

 

 

「それで、まずはなにを買いますか。」

「そりゃあまず肉だろ。あと卵なんかも普段はあまり食えないし……酒もあれば最高だが、そこまでは望まないさ。班長の財布がすっからかんになっちまうし、明日は安息日じゃないからな。」

 

市場に入っていくと、色とりどりの食材が目に入る。先輩は迷うことなく目当ての店までたどり着いた。

 

「ようおっちゃん、また久々に来たぜ!」

「おお、よく来たな。今の時期のおすすめはニンジンとジャガイモだ。少しは安くできるぞ。」

 

なじみの店主なのだろう。挨拶から流れるようにおすすめの食材の話になった。

 

「おすすめだけあってニンジンもじゃがいもも品質がいいですね。」

 

商品を手に取りながらローレが感心したように声を出した。

 

「お!にいやん分かるんかい?」

「ええ、にんじんは色鮮やかで先まで太く、じゃがいもは表皮がなめらかで芽も出ていなくてしかもずっしりしてる。」

「はっはっは!いい目利きの後輩ができたじゃねえか。キーラは全く良し悪しがわかんねえから張り合いがなかったんだ。」

「よーし、これからは買い出しのときはローレ参加決定だ!」

 

バシバシと明るく背中を叩くキーラ先輩のおかげで買い出し前のくらい気分はいくらか吹き飛んでいた。その後も商店街を歩いて食材を買っていく。

 

「肉はどんなのがいいんだ?」

「鮮やかな色で、ドリップが少ないものです。これなんかいいと思いますよ。脂も白く締まってます。」

「にんじんじゃがいも肉ときたら、やっぱりシチューだよな。あとは玉ねぎを買うか。」

「二つ前の店のやつが結構いい感じだったと思います。」

「そんなにハーブやスパイス買って扱い大変じゃないのか?」

「そうでもないですよ。使うタイミングさえ間違えなければ美味しくなります。」

「卵買ってなかった!」

「すっかり忘れてましたね。どっかいいとこあったかなあ。」

「さっきの肉屋行くぞ。親鳥売ってたから卵もある!」

 

二人で商店街を歩き回り、日が傾き始める頃には朝の陰鬱とした気分はどこかに行っていた。

 

 

「買い出しご苦労さん、座ってできる作業なら俺も手伝えるからビシバシ言ってくれ。」

 

帰ってくると、ジオ先輩が出迎えてくれた。壁外調査で怪我をして松葉杖をついていたが、何もしないのもなんだからと手伝いを申し出てくれた。これ幸いとボウルと泡立て器と卵を渡す。

 

「卵黄だけボウルに入れて油を混ぜながらかき混ぜてください。白っぽくなってきたらお酢を入れて味の調節をお願いします。」

「お、おう。」

 

キーラ先輩とジオ先輩を手足に指示を出し、料理に取り掛かった。

 

「そっちのハーブ入れ忘れてないか?」

「タイムは最後に入れないと香りが逃げるんです。あ、そのハーブ揉み込んでください。

香りが立ちます。」

「はいよ。」

「そろそろ腕が限界だ!」

「変わりますのでゆで卵つくっておいてください。」

 

ローレの指揮のもと、献立が完成していく。

 

「ローレってさ、買い出しの時も思ったが、結構育ちいいよな。」

「あー……まあ、もともとウォールシーナに住んでいたので。」

 

訓練兵時代はそれが理由で僻まれたが、死線をくぐった仲間だからか、素直に打ち明けられた。

 

「なるほどな。だからハーブの目利きができたり、卵なんて高級食材の調理法を知っていたりしたのか。」

「おかげでいつもよりうまい飯にありつけるんだから、育ちの良さに感謝だな!」

 

ジオ先輩とキーラ先輩が楽しそうに話した。

 

「はい、完成です!卵サラダはパンにはさんで食べると美味しいですよ。パンはシチューにもつけて食べたいですけどね。」

 

班長呼んできますと言って部屋を出る。

 

「そういえばあいつロザリオつけてたな。ウォール教の教徒ってことか。」

「じゃあまじのお貴族様ってことじゃねえか!無礼とかなかった……いや、俺、買い出しの時バシバシ背中叩いちまった!」

 

班長を連れて帰ってきても二人で明るく騒いでいる声が聞こえてきた。

 

「お貴族様なのか?」

「違います。両親が亡くなったとき、偶然両親と縁があった高貴な方に育ててもらえた本来身寄りのない子供です。だから――」

 

部屋に入り込んで

 

「無礼とかないですから!一緒に死線をくぐった仲間で、尊敬する先輩方だと思ってます!」

 

そう言い切った。

 

 

「昨日はずいぶんお楽しみだったみたいじゃないか!なあ!」

「うげ、おいやめろ!オルオ!」

 

次の日訓練場であったオルオにヘッドロックを極められる。肩を二回たたくと、ようやく解放してくれる。

 

「お前、お貴族様だったもんなあ、調査兵にとってはたまの贅沢も兵士になる前は日常だろう?俺たちの班の慰労会でもその腕ふるまえよ。」

 

耳元に口を寄せて話しかけてくる。なんで俺がと言いかけた瞬間オルオが告げる。

 

「ただとは言わねえよ。一人前くらいならわけてやるから。」

「新兵の分際でそんな裁量あるのかよ。」

「問題ない、キーラ先輩がお前がいかにうまいシチューを作ったかを自慢して回ってるからな。」

「あの先輩は全く……」

 

班によって休息日は違う。訓練が終わった後、兵舎に戻って料理を作ることを約束した。そして、一人に応じれば次々と。訓練後に料理人になる一週間だった。

 

「お前はいい匂いだな。」

「え、とありがとうございます?多分ハーブのにおいですけど。」

「フ。」

 

オルオのところで謎にミケさんに笑われ、

 

「だいぶ本格的だねえ。私も小さいころ母と一緒に作ったよ。」

「ああ、それは……」

「大丈夫大丈夫、今入れると香りがとんじゃう、だろう。この辺の事情は何となく入ってるから。」

「意外、でもないですね。手馴れてますし。」

「そう?でも確かに偉くなる前は班で料理するときは担当だったなあ。今でもたまにやる。」

 

グンタのところでハンジさんと一緒に料理をし、

 

「わりいな。よく知らねえ上官と一緒に飯なんて気が休まらねえだろう。」

「エルドの頼みですから。それに少なくとも一時間後はちょっとは知った上官と一緒の少し以上に楽しい夕飯に変わります。」

「……そうだな。おまえ、紅茶は好きか?後で茶葉をやる。まあウォールシーナ出身だったら大丈夫かもしれんが淹れ方は分からなかったら聞きに来い。」

「いいんですか! ごちそうさまです!」

 

エルドのところでリヴァイ兵長の意外な趣味にこっそり驚いた。

 

「イルゼ、また立体機動訓練で記録を更新したらしいな。」

「巨人と戦うならば立体機動訓練はし過ぎるといったことはないですから。」

 

ローレより一年遅れて入隊した兵士。ローレの班の班員となることが多く、そこでその立体機動について話し合うことも多かった。

 

「お前の立体機動術は既に一定のレベルにある。殺傷能力なら熟練の兵士にも劣らない。」

 

刃やガスの消費が激しいのが玉に瑕だがそれを差し引いてもイルゼの対巨人戦闘能力は調査兵団でも上から数えたほうが早い。一年分長く訓練して修羅場をくぐっている俺よりも戦闘能力は高い。

 

「だから、お前はもう少し戦術眼を磨け。陣形からはぐれたとき、すぐに味方と合流できれば生存率は跳ね上がる。そういう思考があれば、もう少し消耗を抑えた戦い方の重要性も理解できるだろう。」

「消耗が多いのは理解してますし、戦術の重要性も理解していますよ。だからメモをとっているわけですし。」

 

手帳を取り出し、パラパラとめくる。戦術についてのことや立体機動のこと、馬術のことなどが書きなぐられている。

 

「得た知識をちゃんと使えるようにしまっておけよ。メモを見ている余裕は壁外ではないからな。」

「大丈夫です。壁外にも手帳は持っていくので!」

 

元気に返事するイルゼに分かってないじゃないかと突っ込みを入れた。そんな、かけがえのない日常の一幕。こんな会話をイルゼとできるのはこれが最後となった。

 

 

「第二旅団最左翼、キーラ班がおりません!」

 

壁外遠征の帰還時、班員が全滅することは珍しくもなんともない。仲間が死ぬなんてありふれた不幸だ。ありふれた、不幸なんだ。

 

一年後、壁外調査でイルゼの手帳が見つかった。

 

 

何度も壁外調査を繰り返し、それでも人類はウォールマリア奪還に向けて進んできた。それが、亀のごとき進みだとしても、確実に。そのたびに大切な仲間を失いながら。

 

「リーザ!」

「うるさい、心臓を捧げるときがきた、それだけの話でしょ。」

「まだだ、手当をすれば、まだ……!」

 

怪我の具合は致命的ではない。意識ははっきりしているし、片腕をやられただけだ。今すぐ止血をして、そして本部に届ければまだ助かる。

 

「戦場のど真ん中で私の手当をしてから本部に届けるまでライブルにひとりでたたかわせるの?」

 

精鋭たる調査兵といえども巨人と一人で戦うことになれば死ぬ可能性は決して低くない。むしろ死ぬ可能性のほうが高い。

 

「なら俺が戦う!」

「そうだね。あんたならうまくいく可能性のほうが高いかもね。」

 

事実として、この数年間調査兵として巨人と戦ってきた経験はローレの立体機動の能力を押し上げている。今の俺なら一人でも巨人と戦える。

 

「ローレ先輩!新手ですッ!」

「こんな時に限って!」

 

視線を新手に向ける。13m級はあろうかという巨人。デカさは強さだ。4m級程度なら一人でも相手どれる。8m級であっても今の俺なら相手どってリーザを救うと決意していたのに、無理だ。8m級と13m級、一人では相手どれない。ライブルと二人でも、時間稼ぎが精一杯だ。

 

「ああ、くそっ!」

 

俺にも心臓を捧げる日が来たというだけでしかないと、覚悟を決めるその一瞬、リーザが13m級に突っ込んでいった。

 

時間作ってあげる。そんな声が聞こえるようだった。巨人にリーザが食われる。人を咀嚼している巨人は新兵だったころの自分でも倒せるほど隙があると、知っている。

 

「最速で13m級のうなじを削げ!8m級は俺が足止めする!」

 

結局、ローレは8m級と数十秒とは言え一対一を強いられる。それも全員で生き残るためにではなく、二人で生き残るために。

 

ローレは咄嗟にアンカーを撃ち込み、8m級巨人の周囲を旋回した。奴は鈍重で動きは遅いが、悠長に構えていればレイが13m級を倒すまでの時間は稼げない。

 

「こっちだ、化け物ッ!」

 

巨人の注意を引きつけるように大声を張り上げ、左肩を掠めるように刃を入れる。巨人の視線がローレに向き、目を見開いたその瞬間、巨体が重々しくこちらへ手を振り上げる。

 

「くっ……!」

 

ローレは立体機動装置を噴かし、ぎりぎりのタイミングで巨人の攻撃を回避した。空気を裂くような風圧が背中をかすめる。地面を蹴ってさらに旋回、巨人の膝に鋭く一撃を入れる。

 

「足でも崩せれば……!」

 

刃は肉を切り裂いたが、足を止めるには至らない。むしろ怒りを煽ったようで、巨人が吠え声を上げた。

 

だが――

 

「援護に入りますッ!」

 

その声に振り向くと、ライブルが13m級の蒸発するうなじから滑り出るようにこちらへ飛んできた。ローレは即座に合図を送り、再び前方を取って巨人を引きつけた。

 

「今だ、いけッ!」

「了解っ!」

 

ライブルが低空で左膝に、ローレが高空から右肩に、それぞれアンカーを打ち込む。巨人のバランスが崩れた一瞬の隙に、ローレがうなじへと急接近する。

 

「これで終わりだッ!」

 

――ザシュッ!

 

刃が深くうなじを切り裂いた。巨人が咆哮も上げずにぐらりと前のめりに倒れ、土煙を上げる。

 

「……リーザ」

 

ローレが大きく息を吐くと、隣でライブルもぐったりと地面に腰を下ろしていた。

 

「リーザ先輩のこと……間に合わなくて、ごめんなさい」

「いや……あれは、彼女の選択だよ、それにリーザは謝罪よりも感謝を求めてるさ。」

 

目を伏せて、ローレはその場に座り込む巨人の亡骸を見つめた。あの一瞬、誰よりも早く判断を下し、最期まで戦った兵士――それがリーザだった。

 

「さあ、隊列に戻ろう。」

 

親しい仲間がいなくなる、それは調査兵団の日常だ。それでも彼らは進み続ける。進み続けて、四年の月日が流れていた。




ライブル後輩 バブルスライムより

リヴァイ兵長はすごく優しくてでもちょっとだけずれてる感じで書いてます。そのちょっとしたずれすら兵長の底抜けのやさしさから生まれるイメージ。
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