カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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(1-6)捧げられない心臓

その日の壁外遠征は巨人とほとんど遭遇しなかった。おかげで犠牲者はほとんどいなかった。だというのに撤退指示が出てくる。

 

「消耗も少ないのにどうして撤退なんですかね。」

「さあ。エルヴィン団長の考えは俺には理解しきれないからな。」

 

ライブルと話しながら帰還のために陣形を整えなおす。戻っていくと巨人との遭遇が増え始める。叫び声が響く。長距離索敵陣形が壁内に近づくたびに圧縮されて行って、ほかの班がローレ達の目に見える範囲に入ることも増えてきた。

 

「レイ、リア、ライブル、陣形展開左手前方12m級!」

 

普段の帰還であれば巨人とは戦わず馬で引き離す。しかし今回はこちらの帰還を待ち構えていたのかというくらい巨人の数が多い。すべてを仕留めることはできないが、要所要所で撃破しなければならない巨人はいる。それが、10m級以上で動きが早い目の前にいる巨人だ。

 

「リアは右から回り込んで目を引け! レイは左側から足を狙え! ライブルは上からカバーだ!」

 

「了解です!」

「任せろ!」

「了解!」

 

四方から同時にアンカーの金属音が響く。リアが屋根を蹴って巨人の右側へ、レイが反対側へ回り込み、ライブルは一気に上空へと跳び上がる。

 

巨人がリアに気を取られ、右腕を振り回す。だがリアは逆旋回でかわし、巨人の視線を釘付けにする。

 

「今だ!」

 

レイが左足首に刃を叩き込み、腱を断ち切った。巨人の動きが一瞬鈍る。その隙に、ライブルが背中へ回り込み、両肩へアンカーを撃ち込んで引き寄せるように体勢を崩す。

 

「いいぞ、押さえ込め!」

 

ローレが最後に屋根を蹴り、一直線に巨人のうなじへ突っ込む。巨人は必死に振り返ろうとするが、肩を押さえるライブルと、左右から牽制し続けるリアとレイがそれを許さない。

 

「――終わりだ!」

 

ザシュッ――

 

刃が深くうなじを切り裂き、巨人がぐらりと前のめりに崩れ落ちた。蒸気が勢いよく吹き出し、白い霧の中で四人は呼吸を整える。

 

(よし)

 

周囲を見渡す。全員無事であることを確認し、馬を呼ぶ。ウォールローゼに近づくほど、ウォールマリア内にある町、つまり立体物が多くなり戦いやすくなる。巨人の数にしては犠牲者は少ない。だが、明らかに異常事態だ。壁内ですぐ休息が取れるとは限らないかもしれない。

 

 

外門近くに着いた時には、街全体が怒号と悲鳴で揺れていた。馬を飛び降りた瞬間、地面が揺れる。壁際の影――巨人の足音だ。

 

「本部からの指示だ!壁外帰還部隊はトロスト区外門に群がる巨人の掃討!トロスト区内で行われる外門の封鎖作戦成功率を少しでも上げるんだ!」

 

トロスト区外壁には町が広がっている。対巨人戦闘では絶好の状況。犠牲は最小限に巨人を狩る。ローレは即座に班員へ指示を飛ばす。

 

「まずは右の8m級からだ! 通りの幅を使って回り込むぞ!」

 

リアが先行し、屋根を駆け抜けながら巨人の顔面へアンカーを撃つ。巨人が顔をこちらへ向けた瞬間、ローレとレイが両足の腱を同時に断ち切る。

巨人が膝をついたところへ、ライブルが背後からうなじを一閃。蒸気が立ち込める中、四人はすぐに次の標的へ移る。

 

「左の路地から12m級が来る!」

「任せろ!」

 

ライブルが高所からアンカーを放ち、巨人の右腕を牽制。リアとレイは左右から建物を利用して死角に回り込む。

ローレは直線的に突っ込み、視界を奪うように目元へ刃を入れる。その一瞬でリアがうなじに到達し、深く切り裂いた。

 

「次、三体同時だ!」

通りの奥から4m級が二体と7m級が一体、ほぼ同時に迫ってくる。

 

「7m級は後方ラーグ班に、4m級左を俺とライブルで、右をレイとリアだ!」

 

ライブルとローレは4m級の足元へ滑り込み、交差しながら両足を切り払う。崩れ落ちる瞬間、ローレが跳躍してうなじを削ぎ落とす。その間にリアとレイも、連携して4m級を仕留めていた。

 

「よし、ここは片付いた! 外門正面に移動するぞ!」

 

外門近くの広場に出ると、最後の強敵――15m級が孤立していた。

 

「全員で一気に畳みかける! ライブルは肩、リアは正面から注意を引け! レイは膝、俺が仕留める!」

 

四方向から一斉に立体機動が展開する。リアが正面で巨人を挑発、ライブルが肩にアンカーを撃ち込み動きを止める。レイが膝を斬り、巨体が崩れ落ちた瞬間――

 

「終わりだッ!」

 

ローレがうなじを断ち切り、巨人は蒸気とともに沈黙した。

 

「全員無事だな!?」

「「「はい!」」」

 

ローレは短く頷き、外門へ視線を向けた。戦闘が始まってから完全に防げたわけではないが、6m級以上の巨人は調査兵団がトロスト区に入る前に処理できたはずだ。外門の封鎖作戦、何を用いてあの大穴をふさぐのか疑問だったが、凄まじい轟音とともにとりあえず答えが与えられる。大岩だ。

 

「作戦終了だ!馬は一時的に放棄し、壁上に集合せよ!」

 

煙弾と号令が響き、ローレ班は壁上に上った。自然と視線はトロスト区外門、どうやってあの大岩を動かしたのか自分も含めて多少なりとも思考に割く余力があれば興味がわいてくる。

 

(まずい、三体の巨人に兵士四人が今にも襲われそうになっている!)

 

壁をふさいだのだからすぐさま壁上に逃げればよいものを、何かそうできない都合があったのだろう。せっかく作戦が成功したというのに、今から死ぬのはやるせなさすぎる。巨人は三体、内一体は撃破されたのか座り込んでいる。兵士は四人、捕食する時間を考えても今飛び出せば最低一人、うまくすれば二人は救えるとトロスト区に飛び込もうとして――オルオに止められた。

 

「心配すんな。すぐさまリヴァイ兵長が飛び降りたよ。兵長なら巨人の二体や三体なんてことない」

 

その言葉通りに兵長は兵士四人を欠けることなく守り切った。

 

「オルオ、伝令だ。これから壁上砲台による巨人の掃討が行われる。何門か壁外側にも設置し、馬の回収を支援してくれるそうだ。明朝馬の回収を行い、その後トロスト区内で打ち漏らした巨人を始末する。」

 

リヴァイ班に選ばれなかった自分は作戦行動中リヴァイ兵長の動きを見ることはあまりないが、リヴァイ班に選ばれた同期たちは違うのだろう。あの動きを驚きもなく受け入れている。

 

「おお、ローレもいたのか。とりあえずは無事でよかったよ。明日からまた忙しくなるが、山場は超えた。もうひと踏ん張り頑張ろうぜ。」

 

俺は彼ら同期の安否を心配しなかった。兵長がいるから。それほど、兵長は強い。強すぎる。その力が俺に、あれば、リーザを、仲間をもっと……

 

「ローレ? 大丈夫?」

「ごめん大丈夫だ。」

「こんなことになって状況の整理がつかないのも分かるが、ボーっとしてる余裕はないぜ、さあ、明日までのわずかな時間、休息に当てないとな。」

「ああ」

 

そういって、ローレは壁上、トロスト区を後にした。

 

 

次の日、馬を回収し、塞いでしまったトロスト区からではなくカラネス区から壁内に入るため移動する。幸いにも馬の回収率は思ったより高く、7割の馬を回収することができた。ローレ班は移動しているとリアが昨日の壁上での光景を振り返る。

 

「大岩で壁の穴をふさぐっていうのは案としてはあったと聞いたけどまだ掘り起こせていなかったはずだよねまさかこの短期間で掘り起こし運び込むところまでやったってことかどうやってそんな技術があるならとっくに掘り起こしているはずだし昨日の今日で開発されたそんな都合のいい話があるわけないよねむしろその技術を中央政府が隠してたほうがまだ納得できる」

「リアがトリップした。おいレイ、出番だぞ。このまましゃべらすと余計なこと言いそうだ。」

「たまにはライブルが相手してやってもいいんすけど。……おーい、リア、戻ってこーい」

 

レイがリアの肩を叩く。

 

「わひゃっ!すいませんすいません、つい考えこんじゃって。」

「リアの洞察力は俺達の班には不可欠だけど、とりあえず後回しだ。まだ完全には終わってなさそうだしね。トロスト区内にはまだ巨人がたくさんいる。砲台の取りこぼしを掃討する役目があるんだからな。」

 

壁上での支援もあり、巨人と戦闘することはなくカラネス区までたどり着き、その後巨人の掃討作戦においても、死者はゼロで乗り切ることができた。

 

 

翌日、エルヴィン団長やリヴァイ兵長、ハンジ分隊長などの上層部がエレンの扱いについて奔走するようだが、ただの兵士であるところのローレ達にはいつも通りの朝がやってきた。とはいえ、巨人化できる人間の存在、兵舎は微妙な空気間に包まれている。

 

「おいローレ。まだ生きてやがったな。」

 

兵舎で班ごとの点呼が終わった直後、食堂に向かいながら同じように点呼を終わらせたリヴァイ班と合流した。

 

「昨日の掃討作戦では死者ゼロって言ってたろうが。」

 

ローレが肩を軽く小突くと、オルオも負けじと肘で押し返す。

 

「まったく……朝から元気ね、二人とも。」

 

ペトラが呆れたように笑う。その表情に、緊張感の漂う朝の空気が少し和らいだ。

 

後輩三人はその様子を目にし、思わず視線を交わす。

 

「……特別作戦班、エリート中のエリートに選ばれた人たち、ローレ班長と同期とは聞いていたけど、こんなに仲が良かったんだ。」

「俺はローレ班長が見栄はってるって思ってたんすけどね。」

「しっ!班長に聞こえるぞ。」

「聞こえてるぞ、リア、レイ。ライブルももう少し早く止められれば良かったんだけどな。」

「あ、いやえっと……」

 

三人が誰と手を組み誰を生贄にするか考える。

 

「ハハハ!ローレ、ちゃんと班長やってんだな!」

「お前らが一足飛びに出世したんで班長の苦労を分かち合えなくて残念だよ、グンタ」

「俺は分かちあえるぞ、駐屯兵団所属の時は班長やってた。しかもリヴァイ兵長がいない場合は俺が班長代理だ。」

 

からかってくるグンタと先輩面を崩さないエルドに溜息をついて、午前中の作業に取り掛かり始めた。

 

 

朝食を終え兵舎に戻り、それぞれ立体機動装置の整備を始める。オルオは器用にガスボンベを抱え、手際よく調整を進めていた。

 

「ああ、くそっ、また噴出口が傷んでやがる!俺の立体機動に装置が追いつかないとは、強すぎるのも困ったものだな。」

 

得意げな口ぶりに、ペトラが即座に切り返す。

 

「兵長はあなた以上の立体機動をあなた以下の損耗率でこなしているけどね。」

「……そ、それは兵長は特別だからな。だが見てろよ、いずれ俺もあの領域にたどり着いてやる!」

「俺らが生きている間に拝めるといいがな」

 

ローレも片手で金具を磨きながら突っ込みを入れると笑いが起こった。

 

「あの、リヴァイ班の皆さんから見てもリヴァイ兵長ってそんなに別格なんですか?」

 

少し離れたところで軽口をたたきあうローレ達三人を横目にライブルがグンタに聞く。

 

「まあそうだな。リヴァイ班の中の兵長以外の四人でようやく兵長の半分くらいの成果が出せるくらいだ。」

 

それがどの程度なのかいまいちピンと来ていないライブルとレイの頭に疑問符が生まれるが、リアだけは劇的だった。

 

「グンタさんそれ本当なんですか!? 先輩方四人の討伐数は記憶していますが、合計すれば70体です、それで兵長の半分!? いくら人類最強と言えど、そんなのもうファンタジーか何かです! ていうかそんなに実力あるのに、どうして兵長の討伐数は記録されてないんですか!」

「「は?」」

 

リアの衝撃な情報にライブルとレイが言葉を失う。今の言葉を信じるならリヴァイ兵長はひとりで巨人140体を討伐してきたことになる。

 

「まあ驚くのも無理はないが、そもそも討伐数や討伐補佐数を数えるのはそれが兵士としての成果を測るため、言ってしまえば給料に直結するからだが兵長の場合は突出し過ぎて討伐数を数えてしまうと少し面倒なことになるからな。公式には記録されてない」

「俺も駐屯兵だったころは兵長の評判には尾ひれがついていると思っていたくらいだからな。実態はその評判でさえまだ生ぬるかったわけだが」

 

グンタとエルドが誇らしげに語る。

 

「人類最強パねえっす……」

「当然だろう!俺たちの兵長なんだからな!」

 

いつから聞いていたのか、誰よりも誇らしげにオルオが言った。

 

 

兵長の武勇伝、聞いてみたいっす!というレイの言葉により昼食を一緒にすることになった。

 

「そこで兵長が巨人を倒して言ったのさ。俺の部下を危険にさらすんじゃねえよってな。もう一生ついていくって決めたぜ。」

「しかも兵長、すごく気遣ってくれて優しいの。語気が強くて一見気づきにくいんだけどね。」

「一人でなんでもできますって顔して、孤高の存在かと思いきや、俺達のことよく見てるからな。」

「でもちょっと不器用なところがあってな、それがまたいいんだよ。ありゃあ男であっても惚れちまう。」

 

オルオとグンタがエルドの言葉に深く頷いた。

 

「なるほど!じゃあ女の子であるところのペトラさんはもう兵長にメロメロってことですね!」

「おい、リア、もう少し言葉を……!」

「い、いや確かに兵長には全て捧げてもいいと思っているけど、私には釣り合わないっていうか、別に私の兵長に対する思いはそういう俗物的なものじゃなくてもっと、そう!高次元なものなの!」

「そもそもお前と兵長じゃあ釣り合わねえよ。」

 

キッ!と効果音がなるかのようにオルオをにらみつける。

 

「リヴァイ班の皆さんは仲が良いですね。」

「兵長が意識したのか知らないが、同期でまとめられてるからな。なぜか俺だけ省かれたが。省くならグンタだろ。」

「おいまて、それはどういう意味だ!」

 

鋭い突っ込みで笑いが起こる。

 

「訂正します。ローレ班長たちは仲が良いですね。」

「でも確かにローレ班長だけリヴァイ班に選ばれなかった理由は気になるっすね。」

「お前ら兵士になって二年目、もうすぐ三年目だったよな。じゃあ新兵じゃなくなって戦闘に積極的に駆り出されるようになってからはローレ班が最初か。」

「そうですね。ほかの班は班員の補充や入れ替えが結構起こりますが、幸運にもローレ班はほとんど犠牲を出していません。ここ半年ローレ班の犠牲者はゼロで乗り切りました。」

「それだよそれ、ローレは統率力が抜きんでてる。リヴァイ班に入ると当然兵長が指揮するからな。指揮しないローレなんて火のつかないライターみたいなもんだ。」

「おいまて、それはどういう意味だ!」

「……やっぱり仲良いですね。」

 

楽しそうに軽口をたたきあう五人を見て後輩たちは顔を見合わせた。

 

 

午後は模擬巨人を相手にした合同演習だった。先頭を切るのはローレ。

 

「レイは三時方向! リアは支援に回れ! ライブルは後衛を固めろ!」

 

即座に後輩たちが反応する。その動きを見たエルドが鋭く評価した。

 

「連携がいいな。」

 

グンタは無言で頷き、陣形を構える。

 

リヴァイ班も加わり、複雑な陣形が組まれていく。オルオは鮮やかに模擬巨人のうなじを斬り裂く。

 

「圧倒されるな、次が来るぞ!」

 

後輩三人に劇を飛ばし息を合わせ、八人が連動する。最後の一体が倒れた時、全員が同時に着地した。

 

「まあ、お前らもなかなか頑張ってるな。ローレにおんぶにだっこってわけでもなさそうだ。もちろん俺たちのほうがずっとすごいが。」

 

オルオが胸を張る。

 

「に、二年後を楽しみにしておくっすよ……!」

「二年後には俺たちは六年目の兵士だぜ。なんなら俺は兵長にだって迫る兵士になってる。」

「そりゃ無理よ。あなたと兵長が釣りあうわけないじゃない」

「おいおい、俺が兵長とお前が釣り合わないっていったのを根に持ってんのか?嫉妬は見苦しいぜ。」

「オーケー、その喧嘩買ってあげるわ。」

「犬も食わないからやめとけ。」

「んなっ!」

 

訓練が終わり騒ぎ始める四人を少し離れたところでライブルたちが話す。

 

「このメンツをまとめ上げてる兵長ってやっぱりすごいですね。」

「まあそうだな。……今日はいい刺激になっただろ?」

「ええ、普段見れないローレ班長以外の精鋭の動きは勉強になりました。」

 

トロスト区奪還作戦を経てエレンという特異な力の存在に、何とも言えない緊張感は今日一日で晴れていた。

 

 

トロスト区襲撃から一週間後、エレンはリヴァイ班預かりとなり、そして入団式も終えた。二十名ほどが調査兵となり彼らは伝達班に配属される。そのため伝達班として一年生き延びた二年目の兵士がローレ班にも入ってくる。

 

「五人での陣形の時の感覚も思い出さないといけないですね。」

「前と同じ配置にお前らを置くことはできない。メンバーも違うからな。だから慣れるというよりは新しく身に着けることになる。」

 

半年前ローレ班で殉職した兵士、リーザは立体機動は抜きん出ているわけではなかったが、ローレが最もやりやすいように動ける兵士だった。ローレがタッグで巨人に挑むのであれば間違いなくリーザを指名するだろうと、ローレ班の面々は誰も疑わなかった。彼女と同じ精度の連携をライブルはいまだに実現できずにいる。自分どころかレイやリアもだ。

 

「どういう風に組むのがいいですかね。今までは班長の指示が不足なく伝わるよう、三角陣や輪陣で巨人を囲う形が主でしたが、それだとどうしても乱戦には不向きです。挟撃陣や分散陣も取り入れれば、不測の相手にも対応可能。問題はその陣形だと班長の思惑を読み切れる班員が必要なわけですが……」

「一番リーザ先輩に近いのは今ならライブルっすね。」

「前の陣形にこだわんなくていいんだっての。新星ローレ班にはそれに適したやり方がある。それを探ろうって話、ですよね班長。」

「そうだな。来週合流する予定だからその後の訓練で本格的に試そう。」

 

その言葉に三人がうなずいた。

 

 

数日後。伝達班から一人の兵士がローレ班に正式に配属された。

 

「本日からローレ班所属となります、ミオです! よろしくお願いします!」

 

声は張りがあり、姿勢は真っ直ぐ。茶色の短髪をきりりとまとめた彼女は、まだぎこちないながらも自信を持とうとする意志がにじみ出ていた。

 

「班長から聞いてるっすよ。ミオ、よろしく~」

「女の子仲間が増えたー!」

 

リアがいきなり握手を求め、ミオは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑って応じた。

 

「これから同じ班で動くことになる。俺が班長のローレだ。あまり固くならなくていい。すぐ慣れるさ。」

「はいっ!」

 

ローレは短く答え、後輩三人に目をやる。

 

「さて……前も言ったが四人陣から五人陣になる。だが、半年前の陣形をそのまま当てはめるのは無理だから新しい陣形を模索する。今日はまず、ミオがどれだけ立体機動を使えるかを見せてもらおう。」

 

 

調査兵団本部の訓練場。模擬巨人の木製標的を使い、五人は順に演習を行った。

 

「行きます!」

 

ミオがアンカーを放ち、標的の側面を素早く旋回する。滑らかさではリアに及ばないが、姿勢の安定感は悪くない。刃を振り抜き、首元の木材をしっかりと削ぎ落とす。

 

「速度はまだ足りねえけど、制御は上手いっすね。」

「それに、無茶はしない動きだ。堅実だな。」

 

レイとライブルの評価にローレもうなずいた。

 

「なら、次は連携だ。三人組で巨人を相手取る。ミオ、俺と組め。」

「は、はい!」

 

 

模擬戦開始。三体の標的に班が散開する。ローレとミオは並走し、8m級に見立てた標的を挟撃した。

 

「ミオ、左膝を狙え!」

「了解です!」

 

ミオが刃を叩き込み、わずかに標的がぐらつく。ローレがその隙に旋回して、うなじを断ち切った。

 

「よしっ、まずは一体っ」

「気を抜くな、次々行くぞ!」

 

それから一時間ほど訓練を続けた。

 

「……よし、悪くない。技術的には半歩ライブルたちには届いてないが十分だ。」

「す、すみません!」

「ほめてるんだよ。一年分彼らは修羅場を通ってる。恥じることは何もない。」

 

少し顔を赤らめたミオの横で、リアが楽しげに叫ぶ。

 

「なんだ、意外と相性いいんじゃないですかー?ローレ班長!」

「茶化すな。」

 

だがローレ自身も、手ごたえを感じていた。ミオは訓練の序盤と終盤で動きにほぼ差がない。ミオは常に指示を正確に実行できる人材だ。リーザとはタイプが違うが間違いなく力になる。

 

 

その日の訓練を終えたあと、五人は円陣を組んで座った。

 

「感覚としては……三角陣の一角をミオに任せられそうだな。リアやライブルほど攻め手は強くないが、防御の要としては悪くない。」

「なら、四方陣よりも輪陣を発展させた形にしたほうがいいかもしれないっすね。」

「私とミオで交互に囮を引き受ける形とかどうです?巨人の注意を分散させやすいと思うんですけど。」

 

リアが提案し、ミオは少し驚いたように目を丸くした。

 

「わ、私も囮役をやっていいんですか?」

「いいんだよ。防御役は援護や囮が主。班長の目利きは相当正確っす。」

 

レイの屈託のない笑顔に、ミオの表情が和らいだ。

 

ローレは頷き、結論を口にした。

 

「よし。ミオは補佐兼囮役として陣形に組み込もう。俺の指示を最優先に動いてくれ。」

「了解です!」

 

その声に、三人の後輩たちも力強く頷いた。訓練の成果を見せるのは次回の壁外調査、新しい班の初陣に期待が高まっていた。

 

 

朝焼けの光が森を赤く染める。ローレ班は右翼後方索敵班として進軍中だった。

 

「右手に巨人群! 数は……10体以上!」

 

レイの声が緊張で震える。森の木々の間に、巨人たちの影が揺れた。

 

「リア、黒い煙弾を放て!」

「黒ですか!?」

 

巨人を発見した時は赤い煙弾を放つ決まりだ。だが――

 

「10体以上が同時にこちらに向かってくる状況、はっきり言って異常だ!そもそも巨人は群れない!」

 

そのようなことリアならわかっている。それでも黒かと確認を入れた。その意味するところをリアも、ライブルも、レイも理解する。長距離索敵陣形において奇行種は積極的に仕留めなければならない。

 

「ミオ、事態を内側、四列二班のラーグ班に伝えろ。その後ラーグ班に合流し、情報を司令部と三列六班、五列二班に伝えて戦線を組め。合流するまでに黄色の煙弾も頼むぞ。時間は俺たちが稼ぐが、あまり期待するなよ。」

「待ってください! いくら何でもこんな無茶、死ぬ気ですか!」

「俺の言うことを最優先に動けと言っただろう!?早くしろ!こんな事態も調査兵なら覚悟はできてる!」

「……ラーグ班と合流します」

 

ミオが動いたのを確認し、思考をめぐらす。この数の巨人の襲撃がローレ班だけに来たとは限らない。ここ以外から煙弾が出ていないことがまだ救いか。思考もそこそこに陣形を指示する。

 

「平地での戦闘は圧倒的に不利だ、ここならギリギリ巨大樹の森を利用できる。立体機動に移るぞ!」

 

ローレが声を張る。だが、一歩誤れば分読みの全滅が秒読みになる。リスクを度外視した綱渡りの攻勢をしかける。

 

「右手に3体、左手に2体!リア、そっちを抑えてくれ!」

「了解!森の間を縫って注意を引く!」

 

視界に入る巨人のうち、2体ほどは俺たちに気づいているはずなのに、無関心な様子で別の方向へ歩き始めていた。何かに突き動かされているのかこちらを見向きもせず、森の外へ。逃がせばミオと戦闘になる──絶対に阻止しなければならない。

 

「くそっ、そっち行かせるな!ライブル、左から挟め!」

「わかった!」

 

ライブルが高く飛び上がり、アンカーを撃って巨人の肩に絡みつくように旋回する。巨人が初めて俺たちに興味を示し、体を振るう。森の木々が軋む音と、巨人の低い唸り声が混ざる。俺は前方の巨人2体に視線を向け、同時に右腕を振り上げて刃を切り下ろす。

 

「もう一体は私が!」

 

リアが枝を蹴りながら、巨人の腕を掴むように斬りかかる。巨人が咆哮を上げ、うなじを晒す瞬間、俺は全速で近づき刃を叩き込む。

 

一方で、興味を示さなかった巨人2体はまだ森の外へ。背後を警戒しつつも、片手で木を蹴り、枝に飛び移りながらライブルが巨人を挟む。

 

「ライブル、こっち来い!逃がすな!」

「了解!」

 

ライブルの叫びに、森の空気が震える。巨人の鈍重な足音が枝を揺らす。俺はもう一度跳躍して、アンカーを打ち込みながら、うなじへの攻撃に集中する。

 

残りの巨人もこちらを見据え、森の枝や根を避けながら接近してくる。レイが冷静に左手前方から斬り込み、膝の腱を断つ。巨人が崩れかける間に俺とライブルが背後からうなじを狙い、リアは正面から牽制する。

 

「いけるっ!」

「少しでも減らすっ」

 

森の陰で巨人が身を翻し、枝を振り回す。10体のうち、無関心だった2体もライブルの機転で完全に戦闘態勢に引き戻された。彼らがうなじを晒す瞬間、俺たちは同時に突撃する。

 

ザシュッ――ザシュッ――

 

連携した刃が巨人を貫き、蒸気が立ち上る。森の空気が一瞬だけ静まり返り、残りの巨人たちもこちらに目を向ける。俺は深呼吸し、次の巨人を視界に捉えながら仲間たちの動きを確認する。

 

「よし、まだ行ける……!」

 

枝を蹴り、アンカーを打ち込み、斬撃を繰り返す。突然──

 

「キアアアアアッ!!」

 

耳を引き裂くような絶叫が森全体を揺るがせる。声の主に視線が吸い寄せられる。15m級はあろうかという巨人。

 

その瞬間、戦っていた巨人たちの動きが一変した。俺たちに襲いかかっていたはずの10体の巨人は、視線を叫びの巨人に吸い取られたかのように、一斉に森の外へと進み出す。枝や幹に絡まりながらも、叫びの巨人の方向に走る巨人たち──。

 

「くそっ、待て!そっちに行かれると平地で戦うことになる!森の中の有利な立体機動が使えなくなる!」

「うわっ、全員同時!?」

 

リアの声が焦って響く。俺たちは森の中での連携を瞬時に切り替える。森の枝を蹴り、地面を蹴り、叫びの巨人の後を追う巨人たちを遅らせるため、数体を狙って足を狙い斬撃を入れる。だが巨人たちは足を引きずりながらも、すぐに修復し森を抜けるために進み続ける。

 

「平地まで出られたら……正面からぶつかるしかない。数的にも不利だ!」

 

ライブルが焦った声で叫ぶ。俺も同じ危機感を覚える。森の枝や幹に囲まれていたときは巨人の動きを制御できたが、平地では動きが制限され、相手に隙を与えてしまう。俺は即座に陣形を再編する。

 

「リア、左。レイは右、ライブルは後方をカバー。俺が正面からあの叫びの巨人に対応する!」

 

森を抜けた瞬間、10体の巨人が視界いっぱいに広がる平地。足場は平坦で、回避や奇襲が難しい。10体の巨人は叫びの巨人を無視して陣形のより深いところに向けて走り出していった。叫びの巨人は、呼び寄せた巨人が全員森を抜けたことを確認すると踵を返して走り始めた。

 

「おい、まてそっちは!」

「まだ奇行種と叫び型はアンカー射出範囲だ!叫び型の脅威は未知数ここに少しでも長く留める!」

 

全員が息を合わせ、立体機動装置を最大出力で噴射する。枝や障害物がない分、アンカーの射出箇所さえなんとかできれば空中での動きは自由度が増すが、反面、狙われる範囲も広くなる。俺たちは森での優位を失い、平地での高速立体機動戦を強いられることになった。

 

「叫び型の注意を引け!」

 

俺の心臓が高鳴る。森を抜けた瞬間の視界の広がりが、緊張感をさらに加速させる──叫び型と、森を抜けた巨人たち、そして俺たち四人。戦場は一気に拡大し、逃げ場のない平地での決戦へと突入した。

 

「右から回り込む!」

 

ライブルが叫び、空中に跳躍する。俺は叫び型の左側に突進。レイとリアも左右に広がり、挟撃陣を組もうとする。だが叫び型の動きは鋭く、俺たちの連携はすぐに崩れかけた。

 

「くっ……早すぎる!」

 

叫び型の手が素早く振り下ろされ、ライブルがかわす間もなく腕を潰される。痛みと共にアンカーが空を切る。

 

「ライブル!」

 

俺が叫ぶが、彼はバランスを崩して地面に落下した。即座に助けに行こうとしたその瞬間、叫び型の脚が俺の肩を打つ。吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「リア!」

 

彼女が刃を構え、叫び型の膝に飛びかかるが、叫び型は軽く体を捻り、リアの攻撃は無効化される。背後に回り込もうとしたレイも、腕を切り払われて宙を舞う。

 

「嘘、レイ、そんな……」

「くそ……!」

 

全員が次々と攻撃を受け、まともに反撃できない。叫び型は一切の躊躇なく攻撃を繰り出してくる。平地での自由な機動は、今や仇となり、叫び型の速度と力が圧倒的だ。

 

「……刺し違えてでも!」

 

俺は息を整え、最後の力を振り絞って叫び型のうなじを狙う。だが、距離を詰めた瞬間、彼女は鋭くこちらを振り返り、俺の胴を薙ぎ払った。痛みが全身に走り、目の前が歪む。

 

「班長……!」

 

ライブルの声が遠くで聞こえる。俺は地面に倒れ込み、視界が暗くなっていく中で、叫び型の冷たい瞳が迫る。仲間たちも次々に地面に倒れ、動けなくなっている。

 

「……こんな巨人が、いるなんて……」

 

平地の広がりに捕らわれ、森で培った連携も力も、叫び型の前では無力だった。立ち上がろうとする体を押さえつけるのは、圧倒的な力。最後の瞬間、俺は仲間たちの顔を思い浮かべ、意識を失った。

 

こうしてローレ・サマルブルクの心臓がささげられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人生には三度の大きな転機が訪れるとされている。今がその一つの転機になるだろう。その選択が正しいか間違っているかなんて今はわからない。だけれど、決して後悔するんじゃないよ。例え取り返しがつかないことが起ころうとも。」

 

気づいた時には自分はルキア司祭様の前にいる。何が起きているのか理解できなくて長い夢を見ているかのように惚けていることしかできなかった。




レイ後輩 ゆうれいより
リア後輩 ぐんたいありより
ラーグ班 (ラーグ班長)キングコブラより
ミオ・ズーミ後輩 おおねずみより

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