「人生には三度の大きな転機が訪れるとされている。今がその一つの転機になるだろう。その選択が正しいか間違っているかなんて今はわからない。だけれど、決して後悔するんじゃないよ。例え取り返しがつかないことが起ころうとも。」
気づいた時には自分はルキア司祭様の前にいた。何が起きているのか理解できなくて長い夢を見ているかのように惚けていることしかできなかった。
「ローレ……やはり」
「! すいません。司祭様、少し疲れていたようです。あ、いや説法が退屈だったというわけでは決して……あ!」
慌てて墓穴を掘り続けるローレの様子を見てルキア司祭が表情を緩めた。
「そんな軽口が叩けるなら大丈夫そうかな。明日からは厳しい生活が待っている。せめて今日だけでもゆっくりするといい。」
「はい、ありがとうございます。」
なんとかそういって自室に戻った。
*
自室に戻り、ある程度冷静になってしまうと思い出される最後の記憶。巨人の腕に切り裂かれ、叩き潰される仲間、呆然とし殺される姿、そして、胴を引き裂かれて命がこぼれる強烈な痛み
「……げぇっ……おえぇ……ッ!」
手近な桶を手に取り、胃の内容物を吐き出す。何が起こっているのか、理解できなかった。こんなことが起こるなんて信じられない。 胃が空になっても痙攣は止まらず、えずきが繰り返される。
「うっ、はあ……ふう……」
これ以上えずいても意味がないと体と頭がようやく理解したのか、えずきが終わる。良いのか悪いのか分からないが夢だと断じて眠ってしまおうかと考える。
(そうだ、忘れてしまえばいい。予知、逆行、どちらにしてもバカげてる。)
記憶が教えてくれるのはあと三年後にはシガンシナ区が襲撃を受けウォールマリアは陥落するという事実。これが本当に起こるのだとすればそれを黙っていることの罪深さは計り知れない。
(いや、俺の頭がおかしくなっただけだ、そうに決まってる。)
そもそもこの情報を誰に伝えればいい。十二歳の少年が急にそんなことを言い出したって相手にされるわけもない。せいぜい思春期特有の精神疾患を患ったと思われるのが関の山だ。そう結論付けて倒れるようにベットに入った。
*
次の日の出発前、ウォール教を示す証のロザリオが目に入る。いつもなら間違いなくつけて出発していただろうに、何となくロザリオを服の下に隠すことにした。
*
訓練兵団の入団式、知らないはずなのに、知っている景色、知っている教官、そして―
「貴様は何者だ!」
「オルオ・ボサド!」
「ペトラ・ラル!」
「リーザ・マーチ!」
「タンベム・ストーレ!」
―知っている、仲間。その日唯一自分だけ、キース教官からの通過儀礼が必要ないと判断された。