陰キャ、無口のコミュ障でもやる男です   作:イェスコマ

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17話くらいからセリフとか見やすいように修正しています。
そのあたりからより面白くなる予定なので、もうちょっと続き読んでください!



15話

ごとり——最後の一太刀が通ると、床に落ちた首の中で真紅が灯った。

 胸の奥で脈を打つみたいにどく、どく。それが“心臓”にも似た核だ。

 本体は遅れて黒い霧へほどけ、床に広がる影ごとすうっと薄れていく。

 

(——一つ、恐怖が薄まった)

 

 

顎傷が息を一つだけ吐き、刃を拭いながら言う。

「よし。次も“落とすまで”やるぞ。」

「了解!」と隣。盾がこんと短く鳴る。

 

(タフ……けど、段取りで“薄められる”。∥と面圧、支点外し。効く。

 ほな、白をもう一つ——)

 

 顎傷が核を布袋へ滑らせる。榛名さんは弓を下げたまま、短く命じた。

「待機。警戒——固定」

 盾が半歩前へ出て、魔術・神殿が後背の口を塞ぐ。声はない。合図だけがぴたりと揃う。

 

「想定よりタフだな」顎傷。

「再生、速い。∥(冷却帯)必須だ」榛名。

 奏子はいつもより二段落とした声で「了解じゃン」。杖の皮バンドに僕のミニ凡例が差さったままきゅと鳴る。

 

 廊下の角まで後退して小議。

 榛名が壁の図面へ指を走らせる。「巣は地下だ。だがこの速度で乱入されたら背を裂かれる。一階から八階まで掃く。徘徊型の一掃が先だ」

 前衛が頷く。「口を細くして落とす。見落としゼロで行こう」

 神殿の僧が補う。「掃討後、清めを置き、輪で後詰めします」

 工兵が符杭の束を掲げる。「通った道に杭、封材は薄張りで。後顧の憂いを潰す」

 奏子が指を二回トン。「複数湧きには面で熱を置くじゃン。合図は白→赤、黒は恥じゃない撤退——了解じゃン」

 

 榛名がまとめる。

「流れ再確認——先行(影)が白を立てる、前衛が口を細くして処理、魔術は複数で即フォロー、神殿が背中を冷やし、工兵が道を清めていく。一階から八階まで縦掃討、それから地下の巣に降りる。総力戦はそこでやる」

 全員の掌が、短く二叩きを返した。

 

(段取り、太い。……よっしゃ、影潜りの出番は山ほどある)

 

 僕は柱影から白札を一枚ぴと貼り、目地へ**∥を細くひと刷き。

「——先行、再開。階段室は×、エレベーターホール迂回。右回りで一階の残りを掃く」

 喉は静かに回る。隊は音の少ない足ですっと動く。

 

 次のテナント跡。

 僕が白を立てる。コト……コト——さっきより太い足音。二。

「複数」と指二本。

 前衛が口を作って押し込み、奏子が**∥の上に予熱を薄く敷く。神殿の加護が背でぴたりと貼り付き、工兵が通路端へ薄封**を置く。

 

 刃が面圧に変わるたび、シュワシュワの再生が鈍る。

 ごとり、じゅっ、黒い霧がまた一つ、また一つ。

(薄まる、薄まる。階ごとに“息”が軽なる)

 

 階段室の手前で榛名が片手を上げる。

「ここはあかん×。ホールは息が溜まる。迂回だ」

 僕は床目地に**×、壁際へ▶を小さく刻む。工兵が頷き、後詰めのために印を写す。

 

 一階の最後の一角。白。

 今度はぬめりが濃い。前衛が盾で口を絞ると、スリラーの腕がにゅーっと二本伸びた。

 奏子が小声で「じゃン」——合図だけ置き、熱を点で落とす。

 腕の根元がぱしっと焼け割れ、顎傷の斧が横面で面圧。

 ぶち、しゅう。赤い核、黒い霧。

(一階、掃き終わり)

 

 榛名が弦をきぃと鳴らす。「次、二階。パターンは同じだ。ビビらず進む」

 神殿が軽清めを置き、工兵が薄杭で通路端を固定していく。後顧の憂いが、一枚ずつ剝がれていく手触り。

 

 振り向けば、来た道には∥と白の欠片、そして薄い清めが綺麗に並ぶ。

(戻る時に安全——それだけで、前に強う出られる)

 

 僕は輪郭をもう一段落とし、二階へ続く風の曲がりへ身を滑らせた。

 指先で白札を一枚起こし、胸の内で数える。

 

「一階——クリア。次、二階。

 見つからんまま、見つけて、薄める。

 ——しっかり掃除したんぞスリラー共」

 

 隊の足が揃う。

 恐怖は消えない。けれど、今たしかに薄くなった。

 この調子で八階まで——

 

 二階。

 踊り場の空気は一階より冷たい。風が曲がって、埃の粒が逆流する。

 照明は死んで久しい。廊下の端に残った緊急誘導の緑だけがかすかに息をしていた。

 

(——入る。目地だけ踏む。段鼻は外す。音、ゼロ)

 

 “影潜り”。輪郭を一段落として、旧テナントの並びに溶ける。

 かつての看板は外され、ガラスは抜け、机の脚だけが骨みたいに立っている。

 その間をコト……コト。

 足音。二つ。

 

 見えた。

 人型のスリラー、二体。

 一体はさっきと同じくらいの厚み。もう一体は——太い。肩の張りが一段違う。皮膜の層が二重に見え、首の根本が幾重にも巻かれた帯みたいに膨らんでいる。

 顔の奥で、白い光点が二つぶんにじんだ気がした。

 

(タフさ、上がっとる。面圧と冷やし、厚めに要るやつや)

 僕は柱影の縁で指を二本立て、複数の合図。

 床の目地に**∥をひと撫で、前衛が踏むべき線を短く示す。

 榛名さんの手帳がトン、トン——了解。

 顎傷の前衛は、盾の角度を半枚寝かせて“口を細くする”構え。

 

(奇襲、いける。まず薄いほうを“落とす”。太いのは面圧二回。……静かに、静かに)

 

 僕は盲角へと回り込む。

 机の脚の影から影へ、すっ。

 短剣の角度は紙一枚。針は顎下の“窪み”めがけ、触れるだけに置くつもりで。

 麻糸を足元に低く張り、後ろ足を一目だけ浮かせる仕掛けも用意。

 呼吸は浅く。喉は静か。

 世界が収縮していく。音が、一個ずつ消えていく。

 

 静寂が、降りた。

 廊下の空気が張る。

 心臓の音すら、邪魔に思えるほど。

 

(……ええ。これが“入口”の音や。僕はここで薄くなる。あとは——)

 

 背後で、杖の皮バンドがきゅと鳴った。

 音在 奏子。横目も向けず、いつもの“合図だけ”を置いたのが分かる。

 ——はずだった。

 

 静かすぎる、という気配が、彼女の肩に乗る。

 音がゼロの廊下で、彼女の喉がうずいた。

 

「……………………静かすぎじゃン」

 ひそ声。許容範囲。ここまでは、まだ大丈夫。

 

 沈黙。

 スリラーの足音がコト……と一つ分、長くなる。

 白の光点がぴくと震え——

 

 耐え切れなかった。

 

「うぉーー限界じゃン!!前詰め準備オーケーじゃン! 合図来たらいけるじゃン!」

 

 廊下が、割れた。

 空気の張りが破れ、静寂が崩れる。

 

 同時に、二体の白い光点がぱっと開く。

 太いほうの首の帯がぶるりと震え、腕がにゅーっと四指ぶん長く伸びる。

 もう一体がコト、コト、ズ——こちらへ。

 

(——奇襲、失敗)

 

 僕は麻糸をはじいて足元の罠だけ残し、短剣を反転。

 前衛が盾をどんと鳴らして口を立て直す。

 榛名さんの弦がきぃ。

 奏子の息が一瞬だけ詰まり、次の瞬間、火へ落ちる気配を帯びた。

 

 静寂は壊れた。

 ——ここからは、正面だ。

 

 

 

「ごめんじゃン!!」

 

 奏子の声が、静寂を一撃でぶち抜いた。

 音に吊られて、二体の白い光点が同時にぱちっと開く。足音——コト、コト、ズ。こちらへ一直線。

 

「織り込み済みだ! 魔法の準備、頼む! 壁作るぞ、口を細く!」

 顎傷の戦士が盾をがんと合わせ、もう一枚が肩で噛ませて狭口(せまぐち)を築く。

 榛名班の弦がきぃ、矢がぱしゅっと放たれ、腱を狙い撃つ。

 細いほうのスリラーががくんと膝を折る。でかいほうは——ものともせん。矢が刺さったまま、コト、コトと質量の暴力で迫る。

 

(来る。押し潰される前に、面を取る!)

 

 接敵の刹那。

 奏子が一歩、前へ。杖の皮バンドに差した僕の凡例ミニカードがきゅ——と鳴る。

 

「鳶流・土走(とびいろ・どばしり)——汚名返上じゃン!」

 

 鳶色の土石流が、低く唸って突き出た。

 床目地からざざざっと立ち上がる砂と砕石の帯が、狭口から一気に薙ぎ払う。

 粉塵が噛み、石片が噛み、流れの面圧が二体の胸をどごっと押し倒す。

 細いほうが背から転がり、でかいほうは半歩よろめく。

 奏子はにかっと笑い、親指グッ。「どや顔返上じゃン!」

 

(今や!)

 

 僕は影を蹴る。輪郭をさらに一段落として、転がった細いほうの“のび腕”の根元をコツと叩き外す。

 短剣を逆手。アキレス帯へすっと置き、膝をがくりと落とさせる。

 顎下の“窪み”へ針をふっと触れ——白い光点が迷う。

 その“間”に、僕は横へ抜けて首筋へ。

 

「——通す」

 

 刃は引かない。面で押す。

 さっき学んだ“面圧+冷やし”の角度。奏子の土流が残した冷えの帯(∥)に首根を擦りつけるように、短剣を平で叩き込む。

 

 ざくり。

 

 再生のシュワが、鈍る。

 顎傷の斧が追撃、十字にかち合って——

 

 ぶちり。ごとり。

 

 細いほうの首が落ちた。

 赤い核がどくと二回、黒い霧がすうっと薄れる。

 

「細い一、ダウン!」

 盾の内側から短い報告。榛名の弦がきぃ、次の矢がでかいほうの足首にぐっと刺さる——止まらん。

 やつは胸板を反らせ、白い光点を二重に滲ませ、声を千切りながら吐く。

 「みつけ——……」

 のび腕が二本、にゅーっと長く伸び、盾の縁をぎゅっと掴む。

 

(化け物。でも、割れ目はある)

 

 奏子が息だけで笑う。

「でかブツ上等じゃン。第二波、積むじゃン」

 杖先がとんと床を叩き、土流の余熱が再起動する。

 僕はでかいほうの足元に、麻糸を低くぱちと張り、顎傷と目で二叩き。

 盾が半足ずれ、狭口がさらに細く締まる。

 榛名が短く、「首は面で」とだけ。弦がきぃ。

 

(——残りはでかいやつや一)

 

 細い核が袋に落ちるかさという音を背で聞きながら、僕はでかい白へ、影の切れ目から音なく近づいた。

 

 

 

 がん。

 盾の縁が鈍くへこむ音が廊下に響いた。でかいスリラーの“のび腕”が、質量で叩きつける。

 前衛が足をずらし、肩で受け、口を崩さない。けど衝撃は重い。もう一撃、くる。

 

 白い光点が二重に滲み、でかいのが腕を振り上げる。

(——今や)

 

 盾とスリラーの“隙間”の影から、僕はスッと浮いた。

 短剣は逆手。狙いは“のび”の根元帯——関節が重なる柔い層。

 力で引かない。面で置く。

 冷えの帯(∥)に角度を合わせ、平で叩き込む。

 

 ぱん。

 布を裂くみたいな軽音のあと、

 ポーンと、のび腕が飛んだ。

 

 灰色の皮膜がしゅわと泡立つ。けど、芯ごと抜けた断面は、さすがに一からは生えへん。

(片腕、落ちた。再生の泡、遅い。——通る)

 

「影、よくやった!」

 盾の内から短い称賛。

 顎傷の男がすかさず踏み込み、刃を鋭く返す。

 ざん。

 もう片方の腕の支点を断ち、ぶんと遠くへ飛ばす。

 でかいのがのけぞり、白い光点がちらつく。

 

「押せ! 口を細く!」

 前衛の両脇が肩で嵩を作り、残りの面子が盾で圧をかける。

 でかいのの喉元が持ち上がる。

(首、面で——落とす)

 

 斧と剣が交差で入る。

 面圧を重ね、再生の泡を潰し、冷えで速度を奪い、

 ——ざくり。

 もう一手の返し。

 ——ぶちり。

 

 ごとり。

 

 白い光点がふっと消え、黒い霧がすうっとほどけていく。

 床に真紅の核が残り、どく、どくと二度脈打ってから静かになった。

 

 誰も声を上げない。

 息だけがひとつ、ふたつ、揃って吐かれる。

 盾の内で顎傷が刃を拭く。榛名さんは弦をきぃと鳴らして、周囲に目を走らせる。

 奏子は杖を胸にとんと当て、音量を落とした小声で「了解……じゃン」。

 神殿が短く印を切り、工兵が通路の端に薄杭を置く。

 

(一本ずつ、薄めた。喉は凍ってへん。まだ走れる)

 

 僕は核の回収を見届け、柱の影から白札を一枚——ぴと。

 視線は前。呼吸は浅く。

(二階・残り。掃く。……巣は、まだ遠いな)

 

 緊張は切らない。だけど、隊の空気は一段下りた。

 息が合ってる。

 次の“白”を立てに、僕はふたたび影へ薄く潜った。

 

 

 




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