陰キャ、無口のコミュ障でもやる男です   作:イェスコマ

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17話くらいからセリフとか見やすいように修正しています。
そのあたりからより面白くなる予定なので、もうちょっと続き読んでください!


16話

 核を袋に落とすかさという音が消えるのを待って、奏子が杖を胸に当て、ぺこりと頭だけ下げた。

「ほんとごめんじゃン。静かすぎると、胸がざわざわして……やらかしたじゃン」

 

 顎傷の戦士——鎧塚が肩を竦める。

「さっきも言ったが、織り込み済みだ」

 現場リーダーの榛名も頷く。弓を下げたまま、掲示板でも眺めているような声の高さで。

「前衛と魔術の距離を一枚空ける。前は狭口を保ち、魔術は小声で喋ってていい。声は“合図”になる。——ただし小さいままだ」

 

「了解じゃン。常時小さいじゃン(努力するじゃン)」

 奏子は杖の皮バンドをとんと叩き、僕のミニ凡例カードの位置を少し下げる。

(沈黙が彼女の敵。距離と小声で、薄める。——段取りで恐怖を薄めるんは、僕ら全員おんなじや)

 

 榛名が短くまとめる。

「二階、続行。複数群れはいない想定で、一体ずつ確実に落とす。影——白を立てろ。前衛、口を細く。魔術、点で熱。神殿、背中を冷やせ。工兵、通った道を清めていけ」

 

 足並みがすっと揃う。

 僕は輪郭を落として先行に戻る。床の目地、柱影、段鼻。

 ——白。通路の奥、単独で徘徊する人型。

 手信号で一本、前衛が狭口を作る。奏子の小声が、耳の後ろに薄く乗る。

「右足、薄いじゃン……はい、**∥**の上、お願いじゃン」

 鎧塚が半足ずらす。面圧→冷やし。

 ざくり/しゅわ/ぶちり。

 赤い核。黒い霧。息一つで片が付く。

 

 ——白。

 今度は、のび腕が長いタイプ。

 僕は根元帯をコツと外し、麻糸で足元を一目浮かせる。

 榛名の弦がきぃ。矢が腱を射抜き、鎧塚の斧が横面で押し潰す。

 奏子は小声だけで、「汚名返上の余熱、ちょっとだけ置くじゃン」。

 再生の泡が鈍る。ごとり。

 

 ——白。

 狭い事務室跡。×(息の溜まり)を避け、▶(鍵穴)を壁際へ。

 神殿の僧が加護を背に貼り、工兵が薄封を端に走らせる。

 前衛の剣が面で首筋を押し、僕は顎下の窪みに針をふっと置くだけ。

 白い光点が迷う。ぶちり。

 

(群れなし。単独ばっかり。ええ。一体ずつ、確実に。喉は凍ってへん。足はまだ軽い)

 

 踊り場手前、榛名が手を上げる。

「二階——クリア。」

 神殿が短い清めを置き、工兵が符杭で通った道を固定する。

 鎧塚が盾の縁を布で拭い、奏子が小さい声で「やったじゃン」と笑う。

 僕は柱影から白札を一枚、ぴと貼って、胸の内でつぶやいた。

 

(恐怖は消えへん。けど、薄められる。

 二階、薄まった。次、三階。——行こか)

 

 榛名の弦がきぃと一本、上へ向けて線を引く。

「ビビらず進むぞ」

 全員の息がひとつ揃い、僕らはまた、静かに階段の風の曲がりへと滑り込んだ。

 

 階段の踊り場で一呼吸。

 壁の塗装が粉を吹いてて、手すりは冷たく湿ってる。上の階から降りてくる空気が、鉄と古紙の匂いを混ぜて鼻の奥をちくっと刺した。

 

(——三階、入る。目地だけ踏む。段鼻は外す。音、ゼロや)

 

 “影潜り”。輪郭を一段落として、踊り場から天井の梁影へすっと移る。

 廊下は細長いコの字。誘導灯の緑がかさと滲んで、埃の粒が逆光で流れとる。床のカーペットはところどころ波打って、踏み抜けば音が出る“罠”みたいに膨らんでる。

 

 耳を澄ます。

 ——コト……コト。

 ひとつ。ふたつ。みっつ。

(近いわけやない。けど、離れすぎてもない。半径二十歩内に三つの息)

 

 角をひとつ舐めて、旧オフィスのガラス枠——もうガラスは抜け——の縁から中を覗く。

 白い光点がぽわっと一つ、奥の柱の影で呼吸しとる。

 身長——目算一七〇。人の“標準”の厚み。肩は少し張っとる。歩幅は均等。

(普通型。さっきの一階と二階で落としてきた“あれ”に似とる。面圧+冷やしで通る)

 

 そこから四つ柱分、廊下を滑る。

 倉庫跡のシャッターが半分だけ落ちてて、その隙間からでかい影がコト、コトと出入りしとる。

 白い光点がふた重に滲んで、胸板が一段前にせり出し、首元は帯を幾重にも巻いたみたいに厚い。

 目算二一〇。

(でかい。圧、強い。腕の“のび根”を先に断つ。∥厚め、面圧×二で首)

 

 さらに反対側の小会議室。

 椅子の脚が散らばる中、軽い足音がコト、コト、コトと小刻みに走って止まる。

 白い光点は小さく鋭い。

 目算一四〇。肩の厚みは薄いけど、反応が速い。

(小型・俊足。のびは短い代わりに初動が鋭いやつ。**針の“ふっ”**で“迷い”を作って、足元一目浮かせ。前衛の口が細ければ、いける)

 

 廊下の一番奥——空気の重さが一段変わる一帯がある。

 誘導灯の緑が歪む。目地の埃がわずかに逆流して、壁の角が呼吸しとるみたいに見える。

(……まだおる。奥の事務区画に複数——徘徊の入れ替わりか、息の溜まり。いずれにせよ、奥は厚い)

 

 ——交戦はしない。

 僕は短剣を納め、情報だけを胸ポケットの薄板に落とす。

 鉛筆の芯を寝かせて、音が出ん角度で走り書き。

 

 ・三階/東コリドー:普通型(1)/目算一七〇/歩幅均等/単独

 ・中央倉庫:大型(1)/目算二一〇/首帯厚/“のび根”強

・西会議室:小型・俊足(1)/目算一四〇/初動鋭

・奥区画:気配厚(複数可能)/息の溜まり気味

・∥候補:東廊下目地/倉庫前石床冷え濃

・×:踊り場直後のカーペ波打ち/中央プリンター跡付近

・▶:会議室手前・壁際配線ダクト

 

(線は引ける。まず散ってる三つを順繰りに“薄める”。奥は後詰め厚めで)

 

 踊り場へ戻る。

 足音は置かない。梁影から柱影へ、すっと落ちる。

 榛名さんが視線を外したまま、手帳の端をトン、トン。

 僕は薄板を差し出す。指先で二叩き——了解の返礼。

 

「三——三体、散在。普通・大型・小型、別々。……奥、厚い」

 声は息。必要な音だけ。

 

 鎧塚が盾の縁を撫でながら、低く。

「順は?」

 薄板の端に矢印を引く。

 〈東の普通型→中央の大型→西の小型〉

 口の調整が楽で、背が裂かれにくい順。

 奏子が小声で「了解じゃン」。杖の皮バンドに差したミニ凡例がきゅと鳴る。

 神殿が祈りの一拍、工兵が符杭を一本抜いて構える。

 

(廊下の匂い、鉄と古紙。空気の層が二枚重なってる。

 普通は面で、大型は“のび根”から、小型は足元一目。

 奥は、最後に“太い線”で——)

 

 榛名が弦をきぃと一本。

「白を立てろ、影。口を細く、順に削る。ビビらず進むぞ」

 

「——先行、出る」

 僕はまた、輪郭を薄く。

 踊り場から三階の風の曲がりへ滑り出し、最初の白へ向けて、無音で駆けた。

 

 

 東コリドーの柱影から、普通型の背へすっと滑る。

(連動は絶対NG。大型も小型も“起こさへん”。“一人ずつ、おいでやす”作戦や)

 

 短剣は逆手、角度は紙一枚。

 顎下の窪みへ“刺す”んやなくて、触れる。——ふっ。

 白い光点が一拍だけ迷う。その“間”に、踵で床の目地をコツと叩く(合図)。

 こっちや。

 軽くアキレス帯へ“置き”を一つ——歩幅が半歩だけ崩れる。音は出してへん、でも狙いの方向だけは渡せる。

 

 廊下の空気が細く伸びる。

 背後で、スリラーがかすれ声を出した。

 『みぃつけ、た』

(——見つけてへん。僕はもう影や。残してるのは薄い足跡(ベクトル)だけや)

 

 “狭口”の位置へ誘導。

 僕は柱影から梁影へ、無音で距離を空けつつ、白札をぴと。

 前衛がすでに口を細くして待っとる。盾の角度が半枚寝かされ、斧は面圧のために“置き”の角度。

 普通型がコトと踏み込んだ瞬間——

 

「いらっしゃい」鎧塚が低く笑う。

 ざくり。

 ぶちり。

 再生の泡、起きる前に面圧を重ね、冷え(∥)の上へ首筋を擦り付けるみたいに落とす。

 ごとり。赤い核、黒い霧。一息で終わった。

 

「影潜り、やるじゃねぇか!」

 鎧塚が盾の内から声を寄越す。

 胸の中でぱんっと火が点く。

(役に立っとる! この細い線が、ちゃんと太なってる)

 

「やる気、出るわ。——大型、連れてきます」

 喉は凍ってへん。言葉が出る。

 榛名さんが視線を外したまま二叩き。奏子が小声で「了解じゃン」と添える。

 

(もういっちょ同じようにっと。大型は腕の根元から伸びる、せやか冷却厚め、で2人がかりで首かる。小型は最後に一目浮かせてからや)

 

 僕は踵を返し、影の切れ目へ身を溶かす。

 倉庫前の石床は冷えが濃い。目地の∥をひと刻み。

 シャッターの隙間でコト、コトと呼吸するでかい影へ、無音のベクトルを置きに行く。

 

(——第二幕。僕らの見せ場は、まだまだこれからや)

 

 

 




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