そのあたりからより面白くなる予定なので、もうちょっと続き読んでください!
核を袋に落とすかさという音が消えるのを待って、奏子が杖を胸に当て、ぺこりと頭だけ下げた。
「ほんとごめんじゃン。静かすぎると、胸がざわざわして……やらかしたじゃン」
顎傷の戦士——鎧塚が肩を竦める。
「さっきも言ったが、織り込み済みだ」
現場リーダーの榛名も頷く。弓を下げたまま、掲示板でも眺めているような声の高さで。
「前衛と魔術の距離を一枚空ける。前は狭口を保ち、魔術は小声で喋ってていい。声は“合図”になる。——ただし小さいままだ」
「了解じゃン。常時小さいじゃン(努力するじゃン)」
奏子は杖の皮バンドをとんと叩き、僕のミニ凡例カードの位置を少し下げる。
(沈黙が彼女の敵。距離と小声で、薄める。——段取りで恐怖を薄めるんは、僕ら全員おんなじや)
榛名が短くまとめる。
「二階、続行。複数群れはいない想定で、一体ずつ確実に落とす。影——白を立てろ。前衛、口を細く。魔術、点で熱。神殿、背中を冷やせ。工兵、通った道を清めていけ」
足並みがすっと揃う。
僕は輪郭を落として先行に戻る。床の目地、柱影、段鼻。
——白。通路の奥、単独で徘徊する人型。
手信号で一本、前衛が狭口を作る。奏子の小声が、耳の後ろに薄く乗る。
「右足、薄いじゃン……はい、**∥**の上、お願いじゃン」
鎧塚が半足ずらす。面圧→冷やし。
ざくり/しゅわ/ぶちり。
赤い核。黒い霧。息一つで片が付く。
——白。
今度は、のび腕が長いタイプ。
僕は根元帯をコツと外し、麻糸で足元を一目浮かせる。
榛名の弦がきぃ。矢が腱を射抜き、鎧塚の斧が横面で押し潰す。
奏子は小声だけで、「汚名返上の余熱、ちょっとだけ置くじゃン」。
再生の泡が鈍る。ごとり。
——白。
狭い事務室跡。×(息の溜まり)を避け、▶(鍵穴)を壁際へ。
神殿の僧が加護を背に貼り、工兵が薄封を端に走らせる。
前衛の剣が面で首筋を押し、僕は顎下の窪みに針をふっと置くだけ。
白い光点が迷う。ぶちり。
(群れなし。単独ばっかり。ええ。一体ずつ、確実に。喉は凍ってへん。足はまだ軽い)
踊り場手前、榛名が手を上げる。
「二階——クリア。」
神殿が短い清めを置き、工兵が符杭で通った道を固定する。
鎧塚が盾の縁を布で拭い、奏子が小さい声で「やったじゃン」と笑う。
僕は柱影から白札を一枚、ぴと貼って、胸の内でつぶやいた。
(恐怖は消えへん。けど、薄められる。
二階、薄まった。次、三階。——行こか)
榛名の弦がきぃと一本、上へ向けて線を引く。
「ビビらず進むぞ」
全員の息がひとつ揃い、僕らはまた、静かに階段の風の曲がりへと滑り込んだ。
階段の踊り場で一呼吸。
壁の塗装が粉を吹いてて、手すりは冷たく湿ってる。上の階から降りてくる空気が、鉄と古紙の匂いを混ぜて鼻の奥をちくっと刺した。
(——三階、入る。目地だけ踏む。段鼻は外す。音、ゼロや)
“影潜り”。輪郭を一段落として、踊り場から天井の梁影へすっと移る。
廊下は細長いコの字。誘導灯の緑がかさと滲んで、埃の粒が逆光で流れとる。床のカーペットはところどころ波打って、踏み抜けば音が出る“罠”みたいに膨らんでる。
耳を澄ます。
——コト……コト。
ひとつ。ふたつ。みっつ。
(近いわけやない。けど、離れすぎてもない。半径二十歩内に三つの息)
角をひとつ舐めて、旧オフィスのガラス枠——もうガラスは抜け——の縁から中を覗く。
白い光点がぽわっと一つ、奥の柱の影で呼吸しとる。
身長——目算一七〇。人の“標準”の厚み。肩は少し張っとる。歩幅は均等。
(普通型。さっきの一階と二階で落としてきた“あれ”に似とる。面圧+冷やしで通る)
そこから四つ柱分、廊下を滑る。
倉庫跡のシャッターが半分だけ落ちてて、その隙間からでかい影がコト、コトと出入りしとる。
白い光点がふた重に滲んで、胸板が一段前にせり出し、首元は帯を幾重にも巻いたみたいに厚い。
目算二一〇。
(でかい。圧、強い。腕の“のび根”を先に断つ。∥厚め、面圧×二で首)
さらに反対側の小会議室。
椅子の脚が散らばる中、軽い足音がコト、コト、コトと小刻みに走って止まる。
白い光点は小さく鋭い。
目算一四〇。肩の厚みは薄いけど、反応が速い。
(小型・俊足。のびは短い代わりに初動が鋭いやつ。**針の“ふっ”**で“迷い”を作って、足元一目浮かせ。前衛の口が細ければ、いける)
廊下の一番奥——空気の重さが一段変わる一帯がある。
誘導灯の緑が歪む。目地の埃がわずかに逆流して、壁の角が呼吸しとるみたいに見える。
(……まだおる。奥の事務区画に複数——徘徊の入れ替わりか、息の溜まり。いずれにせよ、奥は厚い)
——交戦はしない。
僕は短剣を納め、情報だけを胸ポケットの薄板に落とす。
鉛筆の芯を寝かせて、音が出ん角度で走り書き。
・三階/東コリドー:普通型(1)/目算一七〇/歩幅均等/単独
・中央倉庫:大型(1)/目算二一〇/首帯厚/“のび根”強
・西会議室:小型・俊足(1)/目算一四〇/初動鋭
・奥区画:気配厚(複数可能)/息の溜まり気味
・∥候補:東廊下目地/倉庫前石床冷え濃
・×:踊り場直後のカーペ波打ち/中央プリンター跡付近
・▶:会議室手前・壁際配線ダクト
(線は引ける。まず散ってる三つを順繰りに“薄める”。奥は後詰め厚めで)
踊り場へ戻る。
足音は置かない。梁影から柱影へ、すっと落ちる。
榛名さんが視線を外したまま、手帳の端をトン、トン。
僕は薄板を差し出す。指先で二叩き——了解の返礼。
「三——三体、散在。普通・大型・小型、別々。……奥、厚い」
声は息。必要な音だけ。
鎧塚が盾の縁を撫でながら、低く。
「順は?」
薄板の端に矢印を引く。
〈東の普通型→中央の大型→西の小型〉
口の調整が楽で、背が裂かれにくい順。
奏子が小声で「了解じゃン」。杖の皮バンドに差したミニ凡例がきゅと鳴る。
神殿が祈りの一拍、工兵が符杭を一本抜いて構える。
(廊下の匂い、鉄と古紙。空気の層が二枚重なってる。
普通は面で、大型は“のび根”から、小型は足元一目。
奥は、最後に“太い線”で——)
榛名が弦をきぃと一本。
「白を立てろ、影。口を細く、順に削る。ビビらず進むぞ」
「——先行、出る」
僕はまた、輪郭を薄く。
踊り場から三階の風の曲がりへ滑り出し、最初の白へ向けて、無音で駆けた。
東コリドーの柱影から、普通型の背へすっと滑る。
(連動は絶対NG。大型も小型も“起こさへん”。“一人ずつ、おいでやす”作戦や)
短剣は逆手、角度は紙一枚。
顎下の窪みへ“刺す”んやなくて、触れる。——ふっ。
白い光点が一拍だけ迷う。その“間”に、踵で床の目地をコツと叩く(合図)。
こっちや。
軽くアキレス帯へ“置き”を一つ——歩幅が半歩だけ崩れる。音は出してへん、でも狙いの方向だけは渡せる。
廊下の空気が細く伸びる。
背後で、スリラーがかすれ声を出した。
『みぃつけ、た』
(——見つけてへん。僕はもう影や。残してるのは薄い足跡(ベクトル)だけや)
“狭口”の位置へ誘導。
僕は柱影から梁影へ、無音で距離を空けつつ、白札をぴと。
前衛がすでに口を細くして待っとる。盾の角度が半枚寝かされ、斧は面圧のために“置き”の角度。
普通型がコトと踏み込んだ瞬間——
「いらっしゃい」鎧塚が低く笑う。
ざくり。
ぶちり。
再生の泡、起きる前に面圧を重ね、冷え(∥)の上へ首筋を擦り付けるみたいに落とす。
ごとり。赤い核、黒い霧。一息で終わった。
「影潜り、やるじゃねぇか!」
鎧塚が盾の内から声を寄越す。
胸の中でぱんっと火が点く。
(役に立っとる! この細い線が、ちゃんと太なってる)
「やる気、出るわ。——大型、連れてきます」
喉は凍ってへん。言葉が出る。
榛名さんが視線を外したまま二叩き。奏子が小声で「了解じゃン」と添える。
(もういっちょ同じようにっと。大型は腕の根元から伸びる、せやか冷却厚め、で2人がかりで首かる。小型は最後に一目浮かせてからや)
僕は踵を返し、影の切れ目へ身を溶かす。
倉庫前の石床は冷えが濃い。目地の∥をひと刻み。
シャッターの隙間でコト、コトと呼吸するでかい影へ、無音のベクトルを置きに行く。
(——第二幕。僕らの見せ場は、まだまだこれからや)
作者のモチベーションに大きな影響を与えます。
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読んでくれてありがとうございます。
感想とか読みづらい箇所があれば教えてください。