倉庫前のシャッターの隙間で、でかい影がコト、コト。
(起こすんは一体だけ。——ほな、こっち来い)
短剣の平で“のび根”をコツと叩き、踵で目地をトン。
白い光点がぴくっと反応する。
「み……つけ——」
(見つけたんは方向や。僕はもう影の中)
狭口の位置へ誘導。
前衛が盾をがちんと合わせ、肩で口を細くする。
背後——杖の皮バンドに僕の凡例ミニカードを差した奏子が、にかっと歯を見せた。
「あたしたちの出番——来たじゃン! 氷、通すじゃン!」
(射線——右半身。避ける)
僕は壁際へ半歩スライド、魔法の射線を開ける。
榛名が短く、「射線、開け」。鎧塚が「受ける! 口、細く!」
「——鳶流・氷梳(ひょうす)。膝下から借りるじゃン!」
奏子の杖先がとん。
床目地から白霜がすうっと走り、でかい足元に冷気の帯が噛みつく。
ギチ、ギチ、ギチ——氷の梳(くし)が逆撫でするみたいに足首→脛→膝へと駆け上がり、胴の半ばまで凍り留める。
「止まった。——首、刈る!」鎧塚。
「右から押さえる、左返し!」副衛。
斧が面で喉を押し、剣が返しで継ぎ目を裂く。
でかいのがのけぞり、白い光点がじゅっと鈍る。
のび腕がもがく前に、僕は“のび根”へコツと一打——反撃の芽をあっさり摘む。
「今!」
鎧塚の斧がためから落ち、隣の剣が十字にかちっと噛み合う。
ざくり/ぶちり。
「——首、飛んだ!」前衛の報告。
氷がぱきんと割れ、赤い核がどくと一度脈動する。黒い霧がすうっと剥がれていった。
「汚名返上、完了じゃン!名誉挽回、完璧じゃン!!」奏子が小声ドヤ。杖の皮バンドをペシ。
「射線綺麗じゃン。影、ライン読み、最高じゃン」
(線、太なった。僕の細い誘導、皆の面で仕上がる。……これや、これが隊や)
榛名が弦をきぃと鳴らす。
「大型ダウン。次、順路どおり——西の小型。影、白を」
「了解」喉は凍ってへん。
僕は短剣を納め、柱影から白札をぴと貼る。
「——先行、出る。
見つからんまま、見せ場作っていこ。
首刈りの時間、まだ残っとるで」
西の小会議室。
椅子の脚が散らばって迷路みたい。コト、コト、ピタ——小型の足音、軽い。白い光点はつんと尖ってる。
(まずは釣りや。軽めに人当てして——こっち来い、のやつ)
机の影からすっと出て、肩口に短剣の平をコツ。
——届かん。
(低っ! 一四〇ってこうか! 当てにくっ!)
小型がぱっと振り向く。『みつけ——』って言う前に、僕は考え直し。
(せや、高さの問題は“狙い”で解決するんや)
首。
“のび”は短い。なら、初動で済ませる。
短剣を逆手、顎下の“窪み”へふっと触れ——針を一、迷わせる。
足元に麻糸をぱちと低く張って、一目だけ浮かせる。
重心ががくり。
同時に面で押す。引かん。
ざくり。
『……っ』
再生のシュワが起きる前に、∥(冷え)の上へ擦り付けるように角度を合わせ、もう半目。
ぶちり。
ごとり。
赤い核、どく。黒い霧、すう。——終了。
「……ありゃ。これは雑魚や」
思わず苦笑いが漏れた。
(俊足は脅威やけど、薄いぶん通る。背ぇ低いから当てが外れただけやな)
白札をぴと貼り、薄板に一行。〈小型・俊足(1)ダウン/首→即冷やし→面圧〉
踊り場へ戻る足は軽い。榛名の手帳がトン、トン——了解。鎧塚が顎で「早ぇな」と笑う。
奏子は小声ドヤで、「首までが早足じゃン」なんて言いながら、杖の皮バンドをペシ。
「三階・手前はクリア。——奥は気配、厚い。たぶん総力戦になる」
僕が息で報告すると、榛名が弦をきぃ。
「想定通りだ。整えて入る。影、白を立てたらすぐ下がれ。面は俺たちで作る」
「了解。——ほな、舞台袖から始めますわ」
(影潜り、本番や。手前は軽快に、奥はド派手に。線、太うしていこ)
僕らは息をそろえ、三階の奥——空気の重さが変わる“舞台”へ、静かに歩を進めた。
三階の奥区画へ向けて、隊は一本の矢みたいに細く伸びた。
床のカーペットは波を打ち、壁の掲示は色を流し、誘導灯の緑がかさと滲んでいる。空気は一枚、厚い。
「——ふふ、舞台に上がる前のこの感じ、最高じゃン。膝から下がそわそわして、魔力がぎゅいんって上がるやつ、わかるじゃン?」
杖の皮バンドに僕のミニ凡例を差した音在 奏子が、スキップ半歩ぶんの浮力でしゃべる、しゃべる。周りの班員も苦笑いだ。
「今日は氷が冴えてるじゃン。鳶色の土流は昨日でたくさんじゃン。冷気で薄めるのが“恐怖”には効く日! ——ね、榛名さん?」
「前からしか来ない。射線だけ空けてろ」
榛名 弦一は視線を外したまま、弦をきぃと細く鳴らす。
「騒いでていい。ただし足は止めるな」
「へいへい、了解じゃン。鎧塚さん、盾は二枚目寝かしで狭口(せまぐち)作るやつ?」
「おう。お前の氷路に口合わせる。前しか来ねぇなら、でけぇ声でもいい」
顎傷の戦士——鎧塚が、肩で盾の角度を合わせてがちん。
神殿が短く加護を一枚、工兵が符杭の束をぐっと握る。
(……居心地ええな。喉が凍らん。奏子さんが喋る、榛名さんが許す、鎧塚さんが受ける。隊で空気の層が揃ってる)
僕は踊り場の風を吸い込む。
鉄と古紙の匂い。その裏で、湿った冷気が一段、濃くなる。
(来る。団体や。音、コト、コト、ズ……の束。五? 六? ——いや、七)
梁影を伝って半歩前へ出る。床目地に∥(冷却帯)をひと刷き、×(息の溜まり)を手の甲でひらと切る。
「白、前方——多数」
息だけで報せる。榛名が二叩き。鎧塚が低く「受ける」。
奏子は——にかっと笑った。
「景気づけ、いくじゃン。——凪(かげ)、射線、右半身空けるじゃン!」
「了解」
僕は壁際に半身。影の切れ目で輪郭をさらに落とし、魔法の通り道を一本まっすぐ開ける。
前衛は盾を二枚、肩で噛ませて狭口を築く。
神殿の僧が掌を前衛の背に一瞬だけ置き、工兵は通路端へ薄封の準備。
廊下の向こうで、白い光点がいくつも、ぱちぱちと灯る。
のび腕の影が重なり、太い胸板の輪郭、小さめの足が混ざる。
(普通、大型、小型が混成。押し波や。ここで勢いを削る)
奏子が杖をとんと床に触れた。
「——鳶流・霜簾(そうれん)。道、ぜんぶ借りるじゃン!」
すぅぅぅ……っ。
床目地から白い霜の簾が連続で立ち上がり、狭口の前に段々畑みたいな冷気の段を作る。
空気がぎちと鳴る。呼吸が浅くなるほどの冷。
霜の梳(くし)が前へ前へと逆撫で、膝→脛→股関節へ、氷の櫛歯が噛みつく。
先頭のスリラーの足首がぱきん。続くやつの膝がぎち、ぎち。
白い光点がいっせいに鈍る。
「いい路だ。——押せ!」榛名。
「口、細く! 面で削る!」鎧塚。
「氷、第二波——重ねるじゃン!」奏子。杖先がきゅ。白霜がさらに厚みを増す。
(効いとる。再生のシュワが凍って膨らまへん。今、面で圧かけたら——)
僕は影の縁で白札を一枚ぴと。
団体のお出迎えは上等や。
——こっちは段取りで返す。
「前列、合わせろ!」
榛名の弦がきぃ。矢が腱を射抜き、鎧塚の斧が面で喉元を押す。
氷の段がきしみ、霜の簾がしゃらりと音を立てて揺れた。
冷気はさらに濃く。
奏子が小さく舌を鳴らし、笑う。
「さぁ——冷やして、薄めるじゃン!」
次の瞬間、氷の奔流が狭口を一気に塗り替え、前衛の刃が面圧で重なり、廊下いっぱいに白い息が広がった——。
ぎち、ぎち——
狭口の前で氷の段が噛み合い、先頭のスリラーの膝がぱきんと止まる。
「今! 口を細く維持!」鎧塚。
「腱、もらう」榛名。きぃ——ぱしゅ。矢が足首の芯を穿つ。
「第二波、重ねるじゃン!」奏子。杖先とん、霜がしゃらりと厚みを増す。
(——完璧。冷やし+面圧+支点外し、揃った。ほな、影潜りの一手)
僕は射線を割らんよう壁際へ半身、影の切れ目からすっと前へ。
短剣は逆手、顎下の“窪み”へふっと触れる。白い光点が一拍迷う。
「右、面で押す!」
鎧塚の斧が面で喉をぐっと押し込み、奏子の冷気**∥の上で再生の泡が鈍る**。
僕は“のび根”へコツと一打——支点が外れる。
「返し、入る!」副衛の剣が十字にかちっと噛み合う。
ざくり/ぶちり。 ごとり。
赤い核がどく。
後列から飛び出す小型が、氷段を跳び越え狙いを狂わせて突っ込む。
「速いやつ、左!」榛名。きぃ——矢が頸側帯を刺し止め。
「借りるじゃン!」奏子が点の冷気を置いて足元一目浮かせ、
「ちょい失礼」僕が麻糸をぱちと張ってがくりと重心を落とす。
「首、面で——」鎧塚の斧が面圧で撫で斬り、ぶちり。
でかいのが雄叫びの途中で冷気に喉を噛まれ、のび腕を無理に振り上げる。
「のび根、切る」僕は盾と盾の隙間の影から跳ね、短剣の平を根元帯へ叩き置く。
ぱん——ポーンと腕が飛ぶ。
「押せ! 面で潰す!」
前衛二枚が肩で壁を作り、剣と斧が交差。奏子は息だけで「もう一段、冷やすじゃン」、霜がぎちと歌う。
再生のシュワが凍り、榛名の矢がすっと頸へ楔。
「今だ、首!」
ざくり/ぶちり。ごとり。
「前列クリア! 次の波・右二!」榛名。
「受ける! 狭口維持!」鎧塚。
「凪(かげ)、右半身——射線空けるじゃン!」奏子。
「了解」僕は白札をぴと貼り直し、影の輪郭を一段落。
榛名の矢がぱしゅ、腱を射抜き、奏子の氷梳がしゃらり。
前衛の面圧が重なり、僕の針の“ふっ”で光点が迷い、ぶちり。
流れが乗った。
隊の息がひとつになって、テンポが勝手に上がる。
「左寄せ! 冷やし厚め!」
「取れる、面で!」
「了解じゃン! 霜、三枚重ね——」
「二叩き、よし」
ざくり/しゅわ/ぎち/ぶちり。
核がかさと袋に落ち、黒い霧がすうっと剥がれる。
(危なげなし。線が綺麗や。僕の“薄い誘導”が、皆の“太い仕上げ”に繋がっとる)
最後の一体が氷段をずりと滑り、鎧塚の斧で面圧、榛名の矢で押さえ、僕の短剣で“のび根”コツ、奏子の点冷で泡を鈍らせ、
——ごとり。
静寂、回復。
息が一つ、二つ、そろって抜ける。氷の白気がゆっくり薄れていく。
「三階——クリア」榛名が弦をきぃと締めた。
神殿が軽清めを置き、工兵が通路端へ薄杭を入れて固定する。
鎧塚が盾の縁を布で拭きながら、振り返る。
「上出来だ。影、線が速ぇ」
「……おおきに。皆のおかげで太なってます」
「どや顔、半分だけ許可じゃン」奏子が小声ドヤで親指を立てる。
誘導灯の緑がかすと揺れた。外の光はもう傾き始めてる。
榛名が全体へ短く告げる。
「今日はここまで。ビル前でキャンプを張る。一日では終わらん。明朝、四階から再開だ。
——命は仕切り直せない。手順は仕切り直せる。無理はしない」
「了解!」
「了解じゃン!」
工兵が荷を前へ回し、神殿が携行灯火を配る。
僕は最後に廊下を見渡し、白札を一枚ぴと貼って、影の中で二叩き。
(恐怖は消えへん。けど、今日もちゃんと薄めた。
明日もやる。見つからんまま、見つけて、見せて、残して、封じる。
——影潜り、まだまだ走れるで)
夕風がビルの口を撫で、氷の気配を連れ去っていく。
僕らは廃ビルを背にして、夜営の火を準備しに歩き出した。
作者のモチベーションに大きな影響を与えます。
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読んでくれてありがとうございます。
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