陰キャ、無口のコミュ障でもやる男です   作:イェスコマ

17 / 35
17話

倉庫前のシャッターの隙間で、でかい影がコト、コト。

(起こすんは一体だけ。——ほな、こっち来い)

 

 短剣の平で“のび根”をコツと叩き、踵で目地をトン。

 白い光点がぴくっと反応する。

「み……つけ——」

(見つけたんは方向や。僕はもう影の中)

 

 狭口の位置へ誘導。

 前衛が盾をがちんと合わせ、肩で口を細くする。

 背後——杖の皮バンドに僕の凡例ミニカードを差した奏子が、にかっと歯を見せた。

 

「あたしたちの出番——来たじゃン! 氷、通すじゃン!」

 

 (射線——右半身。避ける)

 僕は壁際へ半歩スライド、魔法の射線を開ける。

 榛名が短く、「射線、開け」。鎧塚が「受ける! 口、細く!」

 

「——鳶流・氷梳(ひょうす)。膝下から借りるじゃン!」

 

 奏子の杖先がとん。

 床目地から白霜がすうっと走り、でかい足元に冷気の帯が噛みつく。

 ギチ、ギチ、ギチ——氷の梳(くし)が逆撫でするみたいに足首→脛→膝へと駆け上がり、胴の半ばまで凍り留める。

 

「止まった。——首、刈る!」鎧塚。

「右から押さえる、左返し!」副衛。

 

 斧が面で喉を押し、剣が返しで継ぎ目を裂く。

 でかいのがのけぞり、白い光点がじゅっと鈍る。

 のび腕がもがく前に、僕は“のび根”へコツと一打——反撃の芽をあっさり摘む。

 

「今!」

 鎧塚の斧がためから落ち、隣の剣が十字にかちっと噛み合う。

 ざくり/ぶちり。

 

「——首、飛んだ!」前衛の報告。

 氷がぱきんと割れ、赤い核がどくと一度脈動する。黒い霧がすうっと剥がれていった。

 

「汚名返上、完了じゃン!名誉挽回、完璧じゃン!!」奏子が小声ドヤ。杖の皮バンドをペシ。

「射線綺麗じゃン。影、ライン読み、最高じゃン」

 

 (線、太なった。僕の細い誘導、皆の面で仕上がる。……これや、これが隊や)

 

 榛名が弦をきぃと鳴らす。

「大型ダウン。次、順路どおり——西の小型。影、白を」

「了解」喉は凍ってへん。

 僕は短剣を納め、柱影から白札をぴと貼る。

 

「——先行、出る。

 見つからんまま、見せ場作っていこ。

 首刈りの時間、まだ残っとるで」

 

 

 西の小会議室。

 椅子の脚が散らばって迷路みたい。コト、コト、ピタ——小型の足音、軽い。白い光点はつんと尖ってる。

 

(まずは釣りや。軽めに人当てして——こっち来い、のやつ)

 

 机の影からすっと出て、肩口に短剣の平をコツ。

 ——届かん。

(低っ! 一四〇ってこうか! 当てにくっ!)

 

 小型がぱっと振り向く。『みつけ——』って言う前に、僕は考え直し。

(せや、高さの問題は“狙い”で解決するんや)

 

 首。

 

 “のび”は短い。なら、初動で済ませる。

 短剣を逆手、顎下の“窪み”へふっと触れ——針を一、迷わせる。

 足元に麻糸をぱちと低く張って、一目だけ浮かせる。

 重心ががくり。

 同時に面で押す。引かん。

 ざくり。

 

 『……っ』

 再生のシュワが起きる前に、∥(冷え)の上へ擦り付けるように角度を合わせ、もう半目。

 ぶちり。

 

 ごとり。

 赤い核、どく。黒い霧、すう。——終了。

 

「……ありゃ。これは雑魚や」

 思わず苦笑いが漏れた。

(俊足は脅威やけど、薄いぶん通る。背ぇ低いから当てが外れただけやな)

 

 白札をぴと貼り、薄板に一行。〈小型・俊足(1)ダウン/首→即冷やし→面圧〉

 踊り場へ戻る足は軽い。榛名の手帳がトン、トン——了解。鎧塚が顎で「早ぇな」と笑う。

 奏子は小声ドヤで、「首までが早足じゃン」なんて言いながら、杖の皮バンドをペシ。

 

「三階・手前はクリア。——奥は気配、厚い。たぶん総力戦になる」

 僕が息で報告すると、榛名が弦をきぃ。

「想定通りだ。整えて入る。影、白を立てたらすぐ下がれ。面は俺たちで作る」

「了解。——ほな、舞台袖から始めますわ」

(影潜り、本番や。手前は軽快に、奥はド派手に。線、太うしていこ)

 

 僕らは息をそろえ、三階の奥——空気の重さが変わる“舞台”へ、静かに歩を進めた。

 

 三階の奥区画へ向けて、隊は一本の矢みたいに細く伸びた。

 床のカーペットは波を打ち、壁の掲示は色を流し、誘導灯の緑がかさと滲んでいる。空気は一枚、厚い。

 

「——ふふ、舞台に上がる前のこの感じ、最高じゃン。膝から下がそわそわして、魔力がぎゅいんって上がるやつ、わかるじゃン?」

 杖の皮バンドに僕のミニ凡例を差した音在 奏子が、スキップ半歩ぶんの浮力でしゃべる、しゃべる。周りの班員も苦笑いだ。

「今日は氷が冴えてるじゃン。鳶色の土流は昨日でたくさんじゃン。冷気で薄めるのが“恐怖”には効く日! ——ね、榛名さん?」

 

「前からしか来ない。射線だけ空けてろ」

 榛名 弦一は視線を外したまま、弦をきぃと細く鳴らす。

「騒いでていい。ただし足は止めるな」

 

「へいへい、了解じゃン。鎧塚さん、盾は二枚目寝かしで狭口(せまぐち)作るやつ?」

 

「おう。お前の氷路に口合わせる。前しか来ねぇなら、でけぇ声でもいい」

 顎傷の戦士——鎧塚が、肩で盾の角度を合わせてがちん。

 神殿が短く加護を一枚、工兵が符杭の束をぐっと握る。

(……居心地ええな。喉が凍らん。奏子さんが喋る、榛名さんが許す、鎧塚さんが受ける。隊で空気の層が揃ってる)

 

 僕は踊り場の風を吸い込む。

 鉄と古紙の匂い。その裏で、湿った冷気が一段、濃くなる。

(来る。団体や。音、コト、コト、ズ……の束。五? 六? ——いや、七)

 梁影を伝って半歩前へ出る。床目地に∥(冷却帯)をひと刷き、×(息の溜まり)を手の甲でひらと切る。

 

「白、前方——多数」

 息だけで報せる。榛名が二叩き。鎧塚が低く「受ける」。

 奏子は——にかっと笑った。

「景気づけ、いくじゃン。——凪(かげ)、射線、右半身空けるじゃン!」

 

「了解」

 僕は壁際に半身。影の切れ目で輪郭をさらに落とし、魔法の通り道を一本まっすぐ開ける。

 前衛は盾を二枚、肩で噛ませて狭口を築く。

 神殿の僧が掌を前衛の背に一瞬だけ置き、工兵は通路端へ薄封の準備。

 

 廊下の向こうで、白い光点がいくつも、ぱちぱちと灯る。

 のび腕の影が重なり、太い胸板の輪郭、小さめの足が混ざる。

(普通、大型、小型が混成。押し波や。ここで勢いを削る)

 

 奏子が杖をとんと床に触れた。

「——鳶流・霜簾(そうれん)。道、ぜんぶ借りるじゃン!」

 

 すぅぅぅ……っ。

 

 床目地から白い霜の簾が連続で立ち上がり、狭口の前に段々畑みたいな冷気の段を作る。

 空気がぎちと鳴る。呼吸が浅くなるほどの冷。

 霜の梳(くし)が前へ前へと逆撫で、膝→脛→股関節へ、氷の櫛歯が噛みつく。

 先頭のスリラーの足首がぱきん。続くやつの膝がぎち、ぎち。

 白い光点がいっせいに鈍る。

 

「いい路だ。——押せ!」榛名。

「口、細く! 面で削る!」鎧塚。

「氷、第二波——重ねるじゃン!」奏子。杖先がきゅ。白霜がさらに厚みを増す。

 

(効いとる。再生のシュワが凍って膨らまへん。今、面で圧かけたら——)

 

 僕は影の縁で白札を一枚ぴと。

 団体のお出迎えは上等や。

 ——こっちは段取りで返す。

 

「前列、合わせろ!」

 榛名の弦がきぃ。矢が腱を射抜き、鎧塚の斧が面で喉元を押す。

 氷の段がきしみ、霜の簾がしゃらりと音を立てて揺れた。

 

 冷気はさらに濃く。

 奏子が小さく舌を鳴らし、笑う。

「さぁ——冷やして、薄めるじゃン!」

 

 次の瞬間、氷の奔流が狭口を一気に塗り替え、前衛の刃が面圧で重なり、廊下いっぱいに白い息が広がった——。

 

 

 ぎち、ぎち——

 狭口の前で氷の段が噛み合い、先頭のスリラーの膝がぱきんと止まる。

 

「今! 口を細く維持!」鎧塚。

「腱、もらう」榛名。きぃ——ぱしゅ。矢が足首の芯を穿つ。

「第二波、重ねるじゃン!」奏子。杖先とん、霜がしゃらりと厚みを増す。

 

(——完璧。冷やし+面圧+支点外し、揃った。ほな、影潜りの一手)

 

 僕は射線を割らんよう壁際へ半身、影の切れ目からすっと前へ。

 短剣は逆手、顎下の“窪み”へふっと触れる。白い光点が一拍迷う。

「右、面で押す!」

 鎧塚の斧が面で喉をぐっと押し込み、奏子の冷気**∥の上で再生の泡が鈍る**。

 僕は“のび根”へコツと一打——支点が外れる。

「返し、入る!」副衛の剣が十字にかちっと噛み合う。

 ざくり/ぶちり。 ごとり。

 赤い核がどく。

 

 後列から飛び出す小型が、氷段を跳び越え狙いを狂わせて突っ込む。

「速いやつ、左!」榛名。きぃ——矢が頸側帯を刺し止め。

「借りるじゃン!」奏子が点の冷気を置いて足元一目浮かせ、

「ちょい失礼」僕が麻糸をぱちと張ってがくりと重心を落とす。

「首、面で——」鎧塚の斧が面圧で撫で斬り、ぶちり。

 

 でかいのが雄叫びの途中で冷気に喉を噛まれ、のび腕を無理に振り上げる。

「のび根、切る」僕は盾と盾の隙間の影から跳ね、短剣の平を根元帯へ叩き置く。

 ぱん——ポーンと腕が飛ぶ。

「押せ! 面で潰す!」

 前衛二枚が肩で壁を作り、剣と斧が交差。奏子は息だけで「もう一段、冷やすじゃン」、霜がぎちと歌う。

 再生のシュワが凍り、榛名の矢がすっと頸へ楔。

「今だ、首!」

 ざくり/ぶちり。ごとり。

 

「前列クリア! 次の波・右二!」榛名。

「受ける! 狭口維持!」鎧塚。

「凪(かげ)、右半身——射線空けるじゃン!」奏子。

「了解」僕は白札をぴと貼り直し、影の輪郭を一段落。

 榛名の矢がぱしゅ、腱を射抜き、奏子の氷梳がしゃらり。

 前衛の面圧が重なり、僕の針の“ふっ”で光点が迷い、ぶちり。

 

 流れが乗った。

 隊の息がひとつになって、テンポが勝手に上がる。

「左寄せ! 冷やし厚め!」

「取れる、面で!」

「了解じゃン! 霜、三枚重ね——」

「二叩き、よし」

 ざくり/しゅわ/ぎち/ぶちり。

 核がかさと袋に落ち、黒い霧がすうっと剥がれる。

(危なげなし。線が綺麗や。僕の“薄い誘導”が、皆の“太い仕上げ”に繋がっとる)

 

 最後の一体が氷段をずりと滑り、鎧塚の斧で面圧、榛名の矢で押さえ、僕の短剣で“のび根”コツ、奏子の点冷で泡を鈍らせ、

 ——ごとり。

 

 静寂、回復。

 息が一つ、二つ、そろって抜ける。氷の白気がゆっくり薄れていく。

 

「三階——クリア」榛名が弦をきぃと締めた。

 神殿が軽清めを置き、工兵が通路端へ薄杭を入れて固定する。

 鎧塚が盾の縁を布で拭きながら、振り返る。

「上出来だ。影、線が速ぇ」

「……おおきに。皆のおかげで太なってます」

「どや顔、半分だけ許可じゃン」奏子が小声ドヤで親指を立てる。

 

 誘導灯の緑がかすと揺れた。外の光はもう傾き始めてる。

 榛名が全体へ短く告げる。

「今日はここまで。ビル前でキャンプを張る。一日では終わらん。明朝、四階から再開だ。

 ——命は仕切り直せない。手順は仕切り直せる。無理はしない」

 

「了解!」

「了解じゃン!」

 工兵が荷を前へ回し、神殿が携行灯火を配る。

 僕は最後に廊下を見渡し、白札を一枚ぴと貼って、影の中で二叩き。

 

(恐怖は消えへん。けど、今日もちゃんと薄めた。

 明日もやる。見つからんまま、見つけて、見せて、残して、封じる。

 ——影潜り、まだまだ走れるで)

 

 夕風がビルの口を撫で、氷の気配を連れ去っていく。

 僕らは廃ビルを背にして、夜営の火を準備しに歩き出した。

 

 

 

 





作者のモチベーションに大きな影響を与えます。
評価お願いします!
読んでくれてありがとうございます。
感想とか読みづらい箇所があれば教えてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。