陰キャ、無口のコミュ障でもやる男です   作:イェスコマ

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19話

朝。

 目が覚めた瞬間、体のどこにも“重石”がない。スッキリや。

 

「おはよう……僕、えらい。ちゃんと寝た」

 テントを出ると、工作班の鍋がちょうど蓋を開けるところ。湯気がもわっ。米と乾野菜、塩気の効いた鶏スープ。

 

「配給——一人一杯、塩を忘れるな」工兵の兄ちゃんが手旗で合図。

「はい、いただきます」

 スープをごくり。「うま。喉、回るわ。影、滑るやつやこれ」

 

 装備を整える。短剣の刃を紙一枚分だけ通る角へ、針を数本、麻糸は半巻き。凡例ミニカードを胸ポケットに差し替え、外套を肩に。

 榛名さんが短く、いつもの声で。

「四階から入る。一〜三階は神殿・工兵の清め済み。痕跡なしだ。安心して前に進め」

 

「了解」

 鎧塚さんが盾の布を締め直しながら、口の端を上げる。

「昨日の“線”、今日も太くしてけ。背中は出す」

 

「はい。紙、刺します」

 奏子は杖の皮バンドに僕のカードをきゅっと差し、小声でどや顔。

「音量二割運用、今日も継続じゃン。氷、昨日より冴えてる感じがするじゃン」

 

(ええ空気や。居心地、抜群。喉は凍ってへん。——よっしゃ、行こ)

 

 ビルへ。

 一階、二階、三階——清めの白が薄く残り、足音が吸われる。黒い霧の気配はゼロ。

(ここまで“安全”やと、前へ踏み出す勇気が勝手に補充されるんや)

 

 階段を上がる。コツ、コツ。踊り場で一呼吸。

「四階、索敵から」榛名。

「受ける。口は狭く、いつでも」鎧塚。

「射線、右半身空けるじゃン。了解じゃン」奏子。

 

「——先行、出る」

 僕は輪郭を一段落とし、踊り場の梁影から四階の天井へすっと移る。床のカーペットは波、壁は古紙のにおい、誘導灯の緑がかさと滲んでる。耳を澄ませ——

 

 

 

 ——コトコトコト/ピタ/コト。

(……小型だけ。しかも三体一組で走って止まってまた走る。奇襲が刺さりにくいやつや)

 

 廊下の“コの字”をなぞる。誘導灯の緑がかさっと滲んで、カーペットはところどころ膨れ。そこへちょこまかと三つの白い光点。

 動きは早い。三角形を組んで互いの盲角を潰し合う。一匹に触った瞬間、残り二匹が逆側から刺し返す配置。

(単発の奇襲は返り血コース。——やるなら口(ボトルネック)ごと止める段取りや)

 

 僕は白を胸に一枚立て、×(息の溜まり)を手の甲で切って戻る。

 踊り場。榛名さんがいつものように視線を外したまま手帳をトン、トン。薄板に走り書きして差し出す。

 

「四階、敵性は小型のみ。三体一組で徘徊。速い。三角で盲角を潰す。——奇襲、難」

 

 鎧塚が盾の縁を撫でて、低く。

「一体ずつ釣るのはやめだな。前へ引っ張って“口”で止める。狭口、厚めに作る」

 榛名が即座に要点だけ。

「膝下の面制圧を先に置く。矢は掃射(スイープ)で下段限定。——影、白を立てたら射線を開けて下がれ」

 

 奏子が小声どやの笑みを浮かべ、杖の皮バンドに差した僕のミニ凡例をきゅ。

「氷の幕(カーテン)で三角の足を一回ほどくじゃン。“霜縄”→“氷梳”の二枚重ねで路を貸さない。声は二割、熱量は全開じゃン」

「小声」と鎧塚。

「小声じゃン(限界)」

 

(作戦:狭口+氷二枚+下段掃射。僕は麻糸で目地を縫って足を一目浮かせる。——面で受ける段取りに切り替えや)

 

「順路は?」

 薄板に矢印〈中央ホールに“口”を作って迎え撃ち〉。

 榛名が弦をきぃ。

「よし。白を立てろ、影。口を細く、ビビらず進む」

 

「——先行、出る」

 僕は輪郭を一段落として、三角パトロールの背の辺へすっと回り込む。

 短剣の角度は紙一枚。狙いは“合図”だけ——ふっと顎の窪みに触れ、麻糸を目地にぱちと渡す。

 小型の一匹が半歩だけ足を取られてピタ。残り二匹がキュッと三角形を組み直す。

(……ええ“癖”や。まとまって来い。まとめて止める)

 

 僕は踊り場側の直線に出て、床の**∥(冷え帯)をひと刷き**、×の膨れはひらと避け印。▶は壁際の配線ダクト。

 白をぴと掲げ、人差し指で射線を示して後退。

「白——前方、三。速い」

「受ける! 口、作る!」鎧塚。

「下段掃射、準備」榛名。

「霜、一本目——敷くじゃン」奏子。

 

 コトコトコトが一気に詰む。

 角を曲がる三角形の先頭が、狭口の手前でぴたりと氷を踏む。

 

「——今」

 奏子の杖がとん。

「鳶流・霜縄(しもなわ)、足首から借りるじゃン!」

 白い霜の縄が床目地からすうっと走って足首に絡み、脛へぴしゃっと巻き上がる。

 榛名の矢がぱしゅっと掃射、膝下のみを面で撫でる弾道。

「下段、抜いた」

「口、細く! 面で押す!」鎧塚が盾をがちん。肩で狭口がさらに狭い口へ。

 

 小型の二匹が跳ねて越えようとする瞬間、僕は壁際の影から半身。

 麻糸を低く——ぱち。

 一目だけ、浮く。がくり。

(今は刺さへん。面で止めるための一目や)

 

「二枚目——氷梳(ひょうす)、重ねるじゃン!」

 霜の櫛がぎちぎちと逆撫でし、三体の膝→脛を同期で止める。

 榛名が「下段、維持」。矢がすっと低い線を描き続ける。

 鎧塚が「面で潰す! 右から!」

 ——コトが止まる。三角の呼吸がずれる。

 

(奇襲は難。せやけど、段取りの奇襲は刺さる。——今や)

 

「影、下がれ。首は面で取る」榛名。

「了解」

 僕は射線を空けて半歩退く。短剣は支点外しに徹し、面は前衛へ預ける。

 奏子が小声ドヤで笑う。

「三角、ばらけたじゃン。——はい、“首刈りタイム”に入るじゃン!」

 

 狭口は完成。

 前衛の斧と剣が面圧で重なり、膝下掃射+二枚氷+麻糸一目が、速い三体の足をまとめて奪う。

 

 四階は三階の焼き増しやない。

 速さに、面で速度制御をかけるフロアや。

 僕は喉を落ち着かせ、白を胸にもう一枚。

(**見つからんまま、見せる。**奇襲が難しいなら、段取りで奇襲したらええ。——薄める準備は整った)

 

 

 ぎち、ぎち——氷の簾が三体の小型を足元から噛み止めた、その瞬間。

 榛名さんが弦にそっと指を置き、こちらを見ないままふっと笑った。

 

「せっかくだ、後輩。職業(ジョブ)の芸当をひとつ見せてやる」

 

 弓をすっと引き絞る。

 空気が細く鳴り、一本の矢が——

 

「——《弓師技:千羽落(せんばおと)し》」

 

 ぱしゅっ。

 たった一矢が、空中で弾けた。

 一本、二本、五本、十……いやそれ以上。

 光の尾を引く分裂矢が扇のように開き、狭口の前に並んだ小型スリラーへ雨のように降り注ぐ。

 

 ぱしっ/ぱしゅっ/ぱしゅぱしゅ!

 膝下を縫い、頸の側帯を撫で, のび腕の根元を釘にする角度で——すべて下段限定、致命限定。

 奏子の霜縄+氷梳で足を奪われた三体が、逃げ場なく矢の面に押し潰される。

 

「——落ちた」榛名。声は平熱。

 ごとり/ごとり/ごとり。

 白い光点が一つ、また一つと消え、赤い核がどく、黒い霧がすうっと剥がれていった。

 

「……っっかっこええ……!」

 思わず出た僕の声に、榛名さんは弓を下ろして、口の端だけにひる。

 

「日に何度もは使えん。弦(リソース)の消耗がでかい。だが——職業に就くと、こういうこともできる」

 矢筒を軽くとんと叩き、続ける。

「影潜りが何になるかは知らん。だが、職業は鍛え上げれば核持ち以上に強い。核+職業なら——なおさらだ」

 

「オジサン、すっごいじゃン!!」

 奏子が小声最大全開で跳ねる。杖の皮バンドがきゅと鳴り、目は星。

「今の、矢の雨だよ!? 分裂じゃン!? えぐじゃン!!」

 

「小声」鎧塚が苦笑。

「小声じゃン(限界)!」

 

 僕は胸の中がどくどく鳴ってるのを感じた。

(一本が——群れになった。面を作るって、こういうことも含むんや。

 紙で“線”を引く僕。矢で“面”を描く榛名さん。氷で“路”を敷く奏子。

 これ、強い。これが職業の地力……!)

 

 榛名さんは弦をきぃと一度だけ鳴らし、いつもの低さで締める。

「四階・小型三、クリア。次は五階へ。影は白を立て、下がれ。面は俺たちが太くする」

 

「了解」

 鎧塚が盾を寄せ、工兵が後方で薄杭と清めの準備。奏子は胸の前で小さくガッツポーズ。

「よーし、“職業”でも“核”でも、恐怖は薄められるじゃン! 次も冷やしていくじゃン!」

 

 僕は白札を胸に一枚。

(——やったる。見つからんまま、見せて、残して、封じる。

 職業の線も、核の線も、太くしていこ)

 

 階段の風が、次のフロアの匂いを連れてくる。

 隊は軽やかに、けれど確かに、上へ進んだ。

 

 

 四階を片づけて階段に足をかけたところで、奏子が小声上限のテンションで鎧塚さんの肩をこつ。

 

「ねぇねぇ、オジサンもかっこいい技あるじゃン? 見たいじゃン?」

 

「小声」榛名。

「小声じゃン(これ以上は無理)」

 

 戦士班の何人かが振り向いて、苦笑いを分け合う。

 

「戦士の技は地味だからなぁ」

「パッシブ多めだしよ。刃こぼれ軽減とか踏ん張りとか、見てて派手じゃねぇ」

「でも勝つのはだいたい地味な積み重ねなんだよな」

 

 鎧塚さんは盾のベルトをぎゅと締め直し、にやり。

 

「五階で見せてやるよ。この中じゃ俺が一番、戦士職(ウォリア)を修めてるからな」

「やったじゃン! BGMは私が心の中で鳴らすじゃン」

「鳴らすな。……影」鎧塚さんが、俺を見るふりをせず空に話す調子で。

「でかいのがいたら、引っ張ってこい。狭口にハメる。“技”は重いやつ相手が映える」

 

「了解。白立てて戻る。射線は右でええ?」

「おう。右半身空け。榛名、下段の掃射は合わせられるか?」

「できる。足を残して首へ導く。……凪、白を立てたら下がれ。面は俺たちで太くする」

「了解。——行ってきます」

 

(“戦士の技”。地味どころか、観たいやん。面圧をもっと太らせるやつやろ。……でかいの、一本ください。舞台、整えたる)

 

 五階へ。踊り場の梁影からすっと滑り出て、空気を味見する。

 古紙と鉄の匂い。誘導灯の緑がかさっと滲み、カーペットの膨れが**×**。

 耳——コト……コト、ズ。重い足。……おる。

 

(でかい。二十歩の外……一五まで寄ったら白を立てて、口へ誘導。麻糸一目で歩幅崩す。氷と掃射が刺さる角度で)

 

 倉庫跡のシャッターの隙間。白い光点が二重に揺れ、太い胸板がぼこん。

 僕は短剣の平で“のび根”をコツ。踵で目地をトン(方向合図)。

 でかいのがぴくと向きを変え、「み……」と声を千切って追ってくる。

 

(いい子や。こっち来い。狭口まで——あと十歩、七、五)

 

 直線に出た瞬間、床の目地へ**∥をひと刷き**。壁際の配線ダクトに**▶、膨れは×で避け印。

 僕は白札をぴと掲げ、半身で射線を開け、そのまま後退**。

「白——でか一、連れ」

「受ける! 口、細く!」鎧塚。

「下段、掃射」榛名が弦をきぃ。

「氷、一本敷くじゃン!」奏子、杖先とん。

 

 狭口の前で、氷の薄路がすうっと伸びる。

 でかいのがぎちと膝を鳴らした瞬間——鎧塚さんが、低く呟いた。

 

「——見とけ。戦士技《踏鳴(ふみなり)》」

 

 どん。

 鎧塚さんの一歩が地を鳴らす。盾の底が石杭みたいに食い込み、狭口の地面に衝撃の輪が走った。

 でかいのの足首の芯が一拍痺れる。面圧を乗せるための、足だけ止める音。

 

「もう一つ——《剛壁(ごうへき)》」

 盾の角度が半枚寝かされ、面が壁に化ける。押しても動かん。

「そして——《返し顎》だ」

 斧が面で喉を押し上げ、顎を返す角度に導く。首の継ぎ目が開く。

 

「下段、固定」榛名の矢が腱を縫う。

「氷、二枚目——重ねるじゃン!」奏子の霜がぎちぎち。

 僕は“のび根”へコツと支点外し。

 でかいのの白い光点が鈍り、首元の帯が緩む。

 

「——首、もらう」

 鎧塚の斧がためから面でぐい、副衛の剣が十字にかちっと噛み合う。

 ざくり/ぶちり。ごとり。

 

「うひゃ〜! オジサン、すっごいじゃン!!」奏子が小声跳ね。

 榛名が淡々と矢を納める。「地味だが、効く」

「地味どころか、土台ごと動いたやん……!」

 僕は素直に感動してた。胸の奥がどくどく言う。

(踏鳴→剛壁→返し顎。面圧のための場作り、これが戦士職……!)

 

 鎧塚さんは盾をとんと叩き、口の端で笑う。

「舞台は整った。……影、もう一丁引っ張って来れるか?」

「任せて。——次の白、立ててくる」

「射線、右半身。小声」榛名。

「小声じゃン(維持)/氷、温存一枚」奏子。

 

(戦士の技、最高。段取りが暴力に変わる瞬間や。

 ほな、次も——見つからんまま、見せるで)

 

 僕は輪郭を落として、五階の風の曲がりへ無音で滑り込んだ。

 

 

 

 

 

 




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読んでくれてありがとうございます。
感想とか読みづらい箇所があれば教えてください。

評価頂けてるおかげでルーキーの部門ですがランキング内に作品が入るようになりました。ありがとうございます。
ランキング前後の作品のPV数桁違いで場違いじゃないですか?
大丈夫そ?
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