陰キャ、無口のコミュ障でもやる男です   作:イェスコマ

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20話

五階の風は重い。

(……また“でかい”。てか、ここ大型しかおらん気ぃする)

 

 倉庫の隙間から白い光点が二重で滲むのを確認して、短剣の平で“のび根”をコツ、目地をトン。

 ——おいでやす。

 狭口に向けて白札を掲げ、半身で射線を空ける。

 

「白——でか一、連れ!」

「受ける! 口、細く!」鎧塚。

「下段、掃射維持」榛名がきぃ。

「氷、一本敷くじゃン!」奏子、杖先とん——冷気が床を走る。

 

 狭口の前で、ぎち。でかいのの膝が冷えを噛む。

 そこへ、鎧塚班の二番手——太い腕の古強者が、気合いをすぅと吸い込んだ。

 

「——見せ場、もらうぞ。戦士技《膨腕(ぼうわん)》」

 ぶわっ。

 両腕が二倍に見えるほどパンプする。血管がどくっと浮き、筋が鳴る。

「からの——《断頭衝(だんとうしょう)》!!」

 

 どごん。

 踏み込み一歩。肩から肘、肘から手首まで一本の杭みたいに面で繋がって、

 斧の刃が押すのでも斬るのでもない——叩き辟(ひら)く一撃。

 でかいのの首帯がばきっと割れ、白い光点がぶるっと震えた一拍後——

 

 ぶちり。ごとり。

 

「どうだ! 見たか!」

 オジサン、満面。……小声で、

「いてて……明日は筋肉痛だな」

 

「オジサン達、かっこいいじゃン!!」奏子が小声全開で跳ねる。

「小声」榛名。

「小声じゃン(限界)」

 鎧塚が肩を竦めて苦笑い。

「若いヤツにいいとこ見せようって、張り切りすぎだ」

 

 二番手のオジサンは腕をぷらぷらさせながら、どや顔(小声)。

「一撃必倒、たまにはな」

 

(エグい……! パンプ→面で叩き辟く。力の化け物やん。戦士職、やっぱ“地味”ちゃう、渋い派手や)

 

 僕は次の白を立てに走る。——やっぱり大型。

 狭口、∥、下段掃射、氷。

 さっきの二番手は今度は補助に回り、鎧塚の《踏鳴》《剛壁》で地を固め、僕が“のび根”を裂いて、榛名が腱を縫い、奏子が霜を重ね、

 ——ぶちり/ごとり。

 盤石。崩れへん。

 

「五階——大型のみ、制圧」榛名が弦をきぃと締める。

 神殿が軽清めを置き、工兵が通路端へ薄杭を打つ。

 二番手のオジサンは腕をさすりながら、小声で「マジで明日くる」とぼやき、奏子は「じゃ、氷でアイシングするじゃン」と杖をとん(冷やしはほどほど)。

 

 鎧塚が振り返り、僕に顎をしゃくる。

「影、線が速ぇ。次は六階だ。同じ段取りでいける」

 

「了解。——見つからんまま、見せ場もう一丁、取りに行きますわ」

(恐怖は消えへん。けど、薄められる。

 “おじさんの技”も、“僕の影”も、“奏子の氷”も、全部足して太い線にする。

 ——五階、盤石。次、上や)

 

 隊は息を合わせ、軽快に、でも確かに、六階へ続く風の曲がりへ滑り込んだ。

---

 

 6階。

 廊下の片面が一面ガラス。反対もガラス壁の会議室。

 僕の輪郭が、十も二十も映って視線の雨みたいにぶつかってくる。

 

(うわ、最悪や!視線の嵐やん……! 設計者、出てこいアホ!)

 

「すんません! ここ僕は無理です」

「俺らが先頭だ、口を細くして進めばいい」盾を構える鎧塚さん。

「射線は通す。焦るな、慎重に行け。凪はこの階は下がってろ」榛名さんは僕に配慮する。

「働きすぎじゃン! 私らに任せるじゃン!」奏子はニカッと笑う。声は二割……のつもり。

 

 ガラスの中の“僕”から目を外し、影に潜る。誰の視線も届かない場所に隠れて、ようやく震えが止まった。呼吸が戻る。……情けない。でも、仲間に任せられるのは心強い。

 

 その隙に小型のスリラーがガラスの反射に惑って立ち止まる。

 そこへ奏子の霜が床を走り、榛名さんの矢が足首を射抜き、鎧塚さんが盾で押し止める。

 ——連携で一気に潰した。

 

「な? 休憩になったじゃン?」奏子が小声で茶化す。

「……ありがと」僕は苦笑して頷く。

 六階、クリア。

 

 

---

 

 7階。

 マネキンがずらり。落ちた棚やハンガーラックで迷路みたいなフロア。

 小型や普通型のスリラーが三体一組で、棚の影や足元、マネキンの裏から次々突っ込んでくる。

 

「通路、作る。——鳶流《霜路》!」

 奏子が白い氷の路を敷く。

「路の上だけで押せ!」鎧塚さんが叫ぶ。

「下段は任せろ」榛名さんが矢を放つ。

 僕も短剣で一閃。

 ——ぎち/ぱしゅ/ざくり。ごとり。

 倒れたマネキンがガタンと音を立て、奏子が「びっくりするじゃン!」とクソデカボイス。

「騒音」榛名。

「小声じゃン!(反射で大声)」奏子。

 

 奥のフードコート跡では大型が五体。だが氷の通路を二本敷いて動きを制限し、矢と盾で波を削っていく。

 盤石の流れで、ここも制圧。七階、クリア。

 

 

---

 

 8階。

 役員フロア。分厚いカーペット、重いドア。……音が死んでる。

 スリラーは——いない。代わりに、机の奥から出てきたのは古い配線図や建築図。

 榛名さんが指でなぞる。

 

「地下駐車場……この配電ピットが怪しい。巣に化けてる可能性が高いな」

 神殿班が清めの札を置き、ビルの上層を安全地帯に変えていく。

 

「三階までの清めは生きてる。四〜八階も今日でクリーンになった。明日が本番だな」鎧塚さんが言う。

「巣を突き止めて削りきり、封鎖する」榛名さんが静かに続ける。

「任せるじゃン! 巣もスリラーもカチコチにしてやるじゃン! 大声で殲滅じゃン!」奏子はいつも通り元気だ。

 

 僕は窓際に立ち、遠くの街の灯りを見下ろす。

(……ここが安全になったら、あの子らも安心して暮らせるやろ)

 

 戻りがけ、榛名さんが二度机を叩く。

「神殿班の清めが終わり次第、今日はここまで。工兵、休息の準備だ。……明日に備えて、食って寝ろ」

「了解!」「了解じゃン!」

 

---

 

 工兵班が張った仮設テントは、広い駐車場を半分塞ぐほどの規模だった。

 白布が波のように風に揺れ、ランタンの灯りが中を温かく染めている。

 

「よっしゃ、配給開始だぞー!」

「煮込みだってよ、今日は肉多めだ!」

 

 鍋から立ち上る匂いに、自然と笑みがこぼれる。

 僕は配られた木椀を受け取り、少し冷ましたスープを口に含む。塩気と肉の旨味が喉に落ちた瞬間、胸の奥まで温まる。

 

「ふぅ……生き返るわ」

 小声でこぼしたら、隣の奏子がどや顔。

「美味しいじゃン! 氷で冷やせば即食べれるじゃン!」

「お前、何でも氷で解決すんな」鎧塚さんが笑い混じりに突っ込む。

「まぁええやろ。明日は大仕事や。元気なのはありがたい」榛名さんは淡々としてるけど、どこか表情は柔らかかった。

 

 食べて、笑って、テントの隅で横になる。

 僕は天井布を見上げながら思った。

(……ここで笑えるんや。明日、ちゃんと終わらせなあかん。ここで暮らす人らを、僕みたいに怯えさせへんために)

 

 * * *

 

 翌朝。

 まだ太陽が昇りきらないうちに、全員が装備を整えて立っていた。

 空気は冷たく、空腹より緊張の方が強い。

 

 僕らはビルの奥、地下へ続く階段の前に立つ。

 そこからは、黒い水のように“恐怖”が流れ出していた。冷たい圧が肌を撫でるたび、背筋がぞわりとする。

 

「——ここからが本番だ」

 榛名さんが静かに言う。

 弓を肩に掛け、皆を見渡す代わりに、声で引き締める。

「今日で終わらせる。巣を潰し、恐怖を薄める。そして——全員、無事に帰るぞ」

 

 鎧塚さんが盾を叩き、奏子が杖を掲げる。

「おう!」「やったるじゃン!」

 

 僕も短剣を握り直した。

(怖い。……でも、震えは止まらんでも進める。今日は——絶対に終わらせる)

 

 地下へ。

 恐怖と決着をつける戦いが、静かに幕を開けた。

 

 

--

 

 地下駐車場。

 降りた瞬間、空気が重油みたいにまとわりつく。柱の影が何百って並んで、黒い“息”が床からじわ……っと湧いてる。

 息が重くなる。胸に石を詰め込まれたみたいな圧力。

(うわ……めっちゃおるやん。一発でも派手にやったら、群れで雪崩やわ)

 

 

 広い。見渡す限りのコンクリの柱。

 奥の奥まで車の影が連なり、壁の剥がれから黒い“靄”がじわじわ流れ込んでいる。

 ——ここで一戦起きたら、間違いなく巣全体に伝播する。

 

「……一旦、止まれ」

 榛名さんの声。全員の足が同時に止まる。

 彼は弓を肩から外し、矢羽に指をかけたまま、低く言い放つ。

 

「広すぎる。数も見えん。下手に小出しにしても押し潰されるだけだ」

 短い沈黙。僕の鼓動がやけに響く。

 

 そして、榛名さんは顔を上げた。

「前衛、盾持ち——技を惜しむな。踏鳴でも剛壁でもいい、壁を作って耐えろ。」

 

「おう!」前衛を代表して鎧塚さんが胸板を鳴らす。他の面々も自信有りげに薄い笑みを浮かべる。

 

「影——凪。お前は出来るだけ多くスリラーを引っ張って来い。姿は見せずに“波”だけ呼び込め。」

「……了解っす。もう隠れる準備はできてます」

 短剣を握り直す。喉は震えてるのに、心臓はやけに熱い。

 

「弓と魔法は全力で一気に削る! 迷うな、撃ち抜け! 削り切った後に残ったやつは——」

「首を刈るだけじゃン!」奏子が杖を振り上げ、にかっと笑った。

 

戦士のオジサンが肩を回して、にやり。

「よぉし、若いのにまたいいとこ見せてやるか」

「張り切りすぎるな。退く段取りを忘れるな」榛名さんが軽く釘を刺す。

「任せとけ。命は仕切り直せねぇ、だろ?」

 

「ふふっ……血がぐらぐら沸騰してきたじゃン! やっっっと“大舞台”じゃン!魔法の見せ場じゃン! 氷も詠唱も、今日は止まらんじゃン! 鳴らして、燃やして、冷やして、ぜんぶぶっ飛ばすじゃン!」

「おい、声がでけぇ」鎧塚さんが苦笑い。

「小声じゃン!(全然小さくない)」

 思わず僕も口元が緩んだ。

(……ほんま、うるさい。でも、頼もしさが隠しきれてへんのがすごいわ)

 

 

「その通りだ」榛名さんが弦をきぃと鳴らす。

「一撃目が勝負だ。……全員、臆すな! 今日で終わらせる!」

 

「「おうっ!」」

「任せるじゃン!BGMは“圧勝”をガンガン鳴らすじゃン!」

「鳴らすな」僧侶。

「小声じゃン(頭の中は自由)」

 

 

「工兵は符杭と砂袋、口の後ろに置け。神殿は前衛の背に薄清めを一枚。倒れたら引く。以上」

 榛名さんがきぃと弦を鳴らす。音は細いのに、胸がぐっと締まる。

 

 僕は柱影へするり。輪郭を落として、床の目地に指を滑らせる。

(**踵の“トン”**は一画目、**麻糸“ぱち”**で半歩崩す。白札で道標。声は要らん。足だけ呼ぶ)

 

「じゃ、行ってらっしゃいじゃン。帰ってきたら褒めまくるじゃン」

「言葉は後払いでええ。結果持って帰る」

 喉は震えとる。でも、足は軽い。

 

 駐車場に、火蓋が切られる寸前の空気が張りつめた。

 

 僕は柱影へすべり込み、影に輪郭を落とす。

(よっしゃ……。引っ張るで。全部まとめて!)

 

 恐怖に満ちた地下は、もうすぐ——戦場になる。

 

 

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