転生特典としてゾルトラーク使えるようになったけどなんか世界観違くね?   作:wet

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第5話

飛行訓練での一件以来、俺はかつてないほどに注目を浴びていた。

廊下を歩けば「あ、箒を爆発させた天才だ」「無言呪文の達人らしいぞ」などとヒソヒソされ、グリフィンドールの談話室では、上級生たちから「あの制動魔法、どうやったんだ?」と質問攻めに遭う毎日。

そのたびに俺は「いや、あれは事故で……」「直感です……」と曖昧に笑ってごまかし続けるしかなく、胃薬が手放せない日々を送っていた。

 

平穏な学園生活は、どこに行ったんだ。

俺はただ、モブとして静かに卒業したいだけなのに……!

 

そんな俺の心労などお構いなしに、ホグワーツでは季節が巡り、ハロウィーンの日がやってきた。 大広間は数千のかぼちゃのランタンで飾られ、天井からはコウモリの群れが飛び交う。テーブルには山海の珍味が並び、生徒たちはお祭り気分で浮かれていた。

俺も、この日ばかりは日頃のストレスを忘れ、かぼちゃパイを頬張りながら、つかの間の平穏を味わっていた。

 

(うん、うまい。やっぱりイベントはこうでなくっちゃな)

 

そう、このまま何事もなく、楽しいパーティーで終わるはずだったのだ。 あの男が、大広間に転がり込んでくるまでは。

 

「トロール!——地下牢に!——トロールが!」

 

ターバンを巻いた闇の魔術に対する防衛術の教師、クィレル先生が、血相を変えて叫んだ。

 

「——お知らせまで」

 

そう言い残して、彼はその場にばったりと倒れ、気を失った。

その瞬間、大広間はパニックの坩堝と化した。

生徒たちの悲鳴が上がり、誰もが我先にと出口へ殺到する。

 

「静粛に!」

 

ダンブルドア校長が杖から閃光を放ち、その声でようやく生徒たちの混乱は収まった。

 

「監督生諸君、速やかに自分の寮の生徒を談話室へ誘導したまえ!」

 

パーシーが「グリフィンドール生!こっちだ!落ち着いてついてこい!」と叫び、俺たち一年生もその後に続く。

よし、このまま大人しく寮に戻れば、面倒ごとに巻き込まれずに済む。俺は人波に紛れ、足早に談話室を目指した。

 

その時だった。

隣を歩いていたハリーが、はっとした顔で立ち止まった。

 

「どうしたんだい、ハリー?」

ロンが尋ねる。

 

「ハーマイオニーだ!彼女、トロールのことを知らないんだ!昼間、ロンと喧嘩して、女子トイレでずっと泣いてたんだよ!」

 

ロンが、しまったという顔で青ざめる。

そういえば、今日の呪文学の授業で、ロンがハーマイオニーのことを「知ったかぶりで鼻持ちならない」と言ってしまい、彼女を泣かせてしまったのだった。

 

「どうしよう……彼女、一人なんだ!」

 

ハリーとロンは顔を見合わせると、次の瞬間には監督生の列から離れ、逆方向へと走り出していた。 女子トイレへ向かう気だ。

 

(……おいおい、マジかよ)

 

俺は、彼らの後ろ姿を見ながら、心の中で頭を抱えた。

原作通りだ。この後、二人はハーマイオニーを助けるためにトロールと戦うことになる。そして、それをきっかけに三人の友情が芽生える、重要なイベントだ。

 

つまり、俺が関わるべきではない、ということだ。

そうだ。これは彼らの物語なんだ。俺みたいなイレギュラーが首を突っ込むべきじゃない。俺は寮に戻る。それが正解だ。

 

そう自分に言い聞かせ、俺は再び歩き出した。 しかし。

 

「うわあああん!」

 

脳裏に、昼間泣いていたハーマイオニーの顔が浮かぶ。 いつもは勝ち気で、少しおせっかいだけど、根は真面目で優しい女の子だ。そんな彼女が、今頃何も知らずに、巨大なトロールと遭遇してしまうかもしれない。

 

……クソッ!

 

俺は、自分の良心という名の厄介な感情に悪態をつきながら、踵を返した。

 

「なんで俺がこんな目に!」

 

悪態をつきながらも、足は自然とハリーたちを追っていた。

平穏な生活は、どうやら俺に微笑んではくれないらしい。

 

「ハリー!ロン!」

 

追いついた俺に、二人は驚いた顔をした。

 

「アーク!君も来てくれたのか!」

 

「ああ、もう!放っておけるか!」

 

俺たちは、地下牢とは逆方向の、一階の女子トイレへと急いだ。

角を曲がった瞬間、鼻を突く強烈な悪臭に、俺たちは思わず顔をしかめた。汚れた靴下と、誰も掃除していない公衆便所を混ぜ合わせたような、耐え難い匂い。

 

トロールだ。

 

俺たちは息を殺して、女子トイレの入り口を覗き込んだ。

そこには、信じられない光景が広がっていた。

 

身長は三メートル以上、灰色のごつごつした皮膚に、こぶだらけの体。小さな頭には、豆粒のような目。そして、その手には、巨大な木の棍棒が握られていた。

そのトロールが、一番奥の個室の前で、立ちすくんでいるハーマイオニーに狙いを定めていた。

 

「ハーマイオニー!」

 

ハリーが叫ぶ。

ハーマイオニーは、恐怖で声も出せない様子で、へなへなと床に座り込んでしまった。

 

トロールが、唸り声を上げながら棍棒を振りかぶる。

まずい!

 

「おい!エテ公!こっちだ!」

 

ロンが、近くにあった水道の蛇口をひねり、金属のパイプをトロールの背中に向かって投げつけた。

ガツン、と鈍い音がして、トロールはゆっくりとこちらを振り返る。その目は、明らかに怒りに燃えていた。

 

「ロン、何してるんだ!」

 

「気を引くんだよ!」

 

作戦は成功し、トロールの注意は俺たちに向いた。しかし、それは同時に、俺たちがターゲットになったことを意味する。

トロールが、地響きを立てながら俺たちに迫ってくる。

 

「ウィ、ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 

ハリーが、トロールが持つ棍棒に向かって呪文を唱える。

原作通り、棍棒を浮かせて頭に落とす作戦だ。

 

しかし、ハリーの呪文では、巨大な棍棒はぴくりとも動かない。

トロールは、そんな俺たちを嘲笑うかのように、再び棍棒を振り上げた。

 

(死ぬ)

 

俺の脳裏に、その一言が浮かんだ。

変身術の授業。飛行訓練。これまでの失態が走馬灯のように駆け巡る。

だが、今回はレベルが違う。今までの比じゃない。本物の、死の脅威が、目の前にある。

 

ダンブルドアとの約束が、頭をよぎる。

『二度と、あの魔法を軽々しく使ってはならん』

 

……軽々しく、なんて思ってない!

今が、その『万が一』の時じゃなくて、いつだって言うんだ!

 

俺は、震える右手をトロールに向けた。

恐怖で、目の前がチカチカする。

 

棍棒が、振り下ろされる。

スローモーションのように、全てが見えた。

ロンとハリーの絶望した顔。

ハーマイオニーの閉ざされた目。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

俺は、雄叫びを上げていた。

もはや、魔力の制御なんて考えている余裕はなかった。

ただ、目の前の脅威を排除する。その一心で。

 

「ゾルトラーク!!」

 

指先から放たれた黄金の光は、もはやビームではなかった。

それは、全てを飲み込む光の奔流。トイレの狭い空間を、眩いばかりの閃光で満たし尽くす。

 

轟音。

 

俺が今まで聞いたこともないような、鼓膜が破れそうなほどの轟音が響き渡った。

衝撃で、トイレの壁がビリビリと震え、天井から埃がパラパラと落ちてくる。

 

光が収まった時。

そこには、信じがたい光景が広がっていた。

 

トロールが、いた場所に、何もなかった。

いや、正確には、その下半身だけが、膝から崩れ落ちるようにして、その場に残っていた。

上半身は、跡形もなく消滅していた。

 

そして。

トロールがいた場所の、さらに後ろ。

トイレの壁、そしてその向こうにある廊下の壁にまで、直径二メートルはあろうかという、完璧な円形の風穴が、ぽっかりと口を開けていた。

穴の向こうには、先ほど俺たちが走ってきた廊下が見えている。

 

「…………」

 

トイレの中は、死んだような静寂に包まれた。

鼻を突くのは、先ほどの悪臭に加えて、何かが焼けたような、オゾンの匂い。

ハリーも、ロンも、ハーマイオニーも、口をあんぐりと開けたまま、目の前の光景を信じられないといった顔で見つめている。

 

俺は、自分の右手を、呆然と見下ろした。

 

(……あ、やべ。また、やりすぎた)

 

その時だった。

廊下の向こうから、複数の足音が聞こえてきた。

 

「今の音はなんだ!?」

「こっちだ!」

 

現れたのは、マクゴナガル先生、スネイプ先生、そして気を失ったはずのクィレル先生だった。

三人の教師は、トイレの惨状と、壁に開いた巨大な穴を見て、絶句した。

 

「……一体……何が……あったのですか?」

 

マクゴナガル先生が、震える声で尋ねる。

その視線は、トロールの下半身、壁の大穴、そして、未だに右手を突き出したままの俺の間を、行ったり来たりしていた。

 

「あ、あの、先生!僕たちが!」

 

ハリーが慌てて前に出る。

 

「僕たちがトロールを探しに来たんです!アークは、僕たちを助けようとして……!」

 

「そうです!彼がいなかったら、私たちは死んでました!」

 

ハーマイオニーも、涙ながらに訴える。

 

しかし、マクゴナガル先生は、もはやトロールのことなどどうでもいい、といった様子だった。

彼女は、ゆっくりと俺に近づくと、その細い指で、壁の穴の縁を、そっとなぞった。

 

「……ミスター・ウィンドソア」

 

その声は、地獄の底から響いてくるかのように、低く、冷たかった。

 

「トロールを倒したことについては、後でグリフィンドールに点をあげましょう。友人を救ったのですから。……ですが」

 

先生は、俺の目を、まっすぐに見据えた。

 

「私の城に、無断で窓を増やすのは、感心しませんね」

 

その言葉に、俺はもう、胃が痛いを通り越して、無の境地に達していた。

 

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