転生特典としてゾルトラーク使えるようになったけどなんか世界観違くね? 作:wet
クィディッチの試合で、俺がクィレルの杖を観客席から狙撃したあの日から数週間。ホグワーツはすっかりクリスマス休暇ムードに包まれていたが、俺の心は一向に晴れなかった。
ダンブルドアに一挙手一投足を監視されているという事実が、常に鉛のように俺の胃にのしかかっていたからだ。もはや慢性的な胃痛は俺の持病と化していた。
そんなある夜、グリフィンドールの談話室で暖炉の火にあたっていると、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が、神妙な顔で俺の元へやってきた。
「アーク、話があるんだ」
ハリーの真剣な眼差しに、俺は嫌な予感しかしない。
頼むから、もうこれ以上面倒ごとを持ってこないでくれ。俺の胃は、もうペラペラの紙みたいなんだ。
「スネイプが、賢者の石を盗もうとしてる」
ハリーは、声を潜めてそう言った。
曰く、スネイプはクィレルを脅して石の守りを突破させようとしている。そして、今夜にもそれを実行するつもりらしい。ダンブルドア校長が魔法省に呼び出されて不在の今夜が、絶好の機会だからだ、と。
(……来たか、原作クライマックスイベント)
俺は内心で天を仰いだ。
賢者の石。ニコラス・フラメル。三頭犬のフラッフィ。
原作知識がある俺は、彼らの話を聞きながら、これからの展開を正確に予測できていた。
そして、その予測は、俺に「全力で逃げろ」と警告を発していた。
「だから、僕たちで石を守るんだ!」
ハリーは、正義感に燃える目でそう宣言した。
ロンも「スネイプなんかに渡してたまるか!」と拳を握りしめている。
ハーマイオニーも、不安そうな顔をしながらも、固く頷いていた。
そして、三人の視線が、一斉に俺に注がれる。 その目は、こう語っていた。
「お前も来るよな?」と。
断る。
断固として断る。
俺はモブだ。主人公たちの冒険に、俺みたいな規格外の爆弾が混じっていいわけがない。
俺は、首を横に振ろうとした。
「アークの、あのすごい魔法があれば、きっと大丈夫よ!」
ハーマイオニーが、キラキラした目で俺を見つめる。
やめてくれ。その純粋な信頼が、俺の胃を抉る。
トロールを消し飛ばし、箒を粉砕したあの魔法のことだろう。あれは、そんな便利な代物じゃない。制御をミスれば、賢者の石ごとホグワーツを半壊させかねない危険物なんだぞ。
「そうだぜ、アーク!お前がいれば百人力だ!」
ロンが、俺の背中をバンと叩く。 その衝撃で、俺の胃から「ぎゅるる」と悲鳴が上がった。
ああ、もう。
俺に、拒否権はないらしい。 こうして俺は、半ば強制的に、賢者の石防衛隊(メンバー四名)の一員にさせられてしまったのだった。
その夜、俺たちはハリーが持つ透明マントに隠れ、談話室を抜け出した。
向かうは、三階の立ち入り禁止の廊下。
そこには、賢者の石を守る最初の番人、三頭犬のフラッフィがいるはずだ。
扉の前にたどり着くと、中から唸り声の代わりに、穏やかな寝息と、優しい竪琴の音色が聞こえてきた。
どうやら、クィレル(ハリーたちはスネイプだと思っているが)が、すでに魔法の竪琴でフラッフィを眠らせて、先に進んだ後らしい。
俺たちは、そっと扉を開け、眠っている巨大な三頭犬の脇を、抜き足差し足で通り抜ける。
そして、床に設置された活板扉を開け、暗い穴の中へと飛び込んだ。
どん、という衝撃と共に、俺たちは柔らかい何かに着地した。
ひんやりと湿った、植物の感触。
「うわっ、何だこれ!」
ロンが叫んだ瞬間、俺たちの体に、無数の蔓が絡みついてきた。
「動いちゃだめ!悪魔の罠よ!動けば動くほど、きつく締まってくるわ!」
ハーマイオニーが叫ぶ。
彼女は冷静に杖を取り出すと、呪文を唱えた。
「ルーモス・ソレム!」
杖の先から、太陽のような眩い光が放たれる。
悪魔の罠は、光と熱を嫌う。光を浴びた蔓は、まるで焼けるように縮こまり、ハーマイオニーの体を解放した。彼女は無事に地面に着地する。
「みんな、落ち着いて!光よ!」
ハーマイオニーが叫ぶが、ハリーとロンはパニックに陥り、もがけばもがくほど蔓にきつく締め上げられていた。
俺も、もちろん例外ではない。
(やばいやばいやばい!息が!苦しい!)
暗闇と、体に絡みつく不気味な感触、そして徐々に奪われていく呼吸。
高所恐怖症に加えて、閉所恐怖症と暗所恐怖症の気がある俺にとって、この状況は地獄そのものだった。
パニックで、頭が真っ白になる。
ハーマイオニーが、俺たちを助けようと、もう一度呪文を唱えようとしているのが見えた。
だが、俺の理性は、それよりも早く限界を迎えた。
(こんなところで死んでたまるか!)
ダンブルドアとの約束?知るか!
力の制御?できるか!
今は、ただ、この苦しみから解放されたい!
やるぞ俺は!やってやる!!
「―――ゾルトラーク!!」
俺が、もはやヤケクソで叫んだ呪文は、呪文というよりは断末魔に近かった。
次の瞬間、俺の全身から、黄金の魔力が爆発した。
それは、光の奔流となって、悪魔の罠を根こそぎ焼き尽くす。
ゴオオオオッ!という轟音と共に、部屋全体が灼熱の光に包まれた。
俺たちに絡みついていた蔓は、一瞬で灰と化し、俺たちは数メートル下の石の床に、ドサドサと落下した。
「……いった……」
尻餅をついた痛みで、俺は正気を取り戻した。
見渡すと、部屋は煙で充満し、焦げ臭い匂いが立ち込めている。
そして、先ほどまで悪魔の罠が生い茂っていた場所は、黒く焼け焦げた巨大なクレーターに変わっていた。
「……アーク……あなたねぇ……」
ハーマイオニーが、呆れ果てたような、非難するような声で俺の名前を呼んだ。
ハリーとロンは、口をあんぐり開けて、ただクレーターを見つめている。
「いや、その、不可抗力で……」
俺の言い訳は、誰の耳にも届かなかった。
胃が、また一つ、大きな悲鳴を上げた。
気を取り直して、俺たちは次の部屋へと進んだ。
そこは、高い天井から、何百羽もの羽の生えた鍵が飛び交っている、広大な部屋だった。 部屋の反対側には、古めかしい木製の扉がある。
「見て!箒だ!」
ハリーが、部屋の隅に浮かんでいる一本の箒を指差した。
「あの鍵の中に、一つだけ羽が傷ついた古い鍵があるはずだわ!それを捕まえて、扉を開けるのよ!」
ハーマイオニーが、興奮気味に解説する。
なるほど、フリットウィック先生らしい、繊細な魔法の罠だ。
ハリーが、天才シーカーの腕を見せる見せ場でもある。
ハリーは、自信に満ちた顔で箒にまたがると、空へと舞い上がった。
彼が、無数の鍵の中から、目的の鍵を探し始める。
俺は、それを下から見上げながら、考えていた。
(……いや、待てよ?)
目的は、なんだ?
あの扉を開けて、先に進むことだ。
鍵を捕まえるのは、あくまでそのための手段であって、目的じゃない。
つまり、扉が開きさえすれば、別に鍵なんてどうでもいいんじゃないか?
俺の思考は、どんどん常識から逸脱していく。
胃痛とストレスが、俺の判断力を著しく低下させていた。
(そうだ……なんでわざわざ、あんな面倒なことを……)
俺は、ふらふらと扉に近づくと、その巨大な鍵穴をじっと見つめた。
そして、そっと右手の指先を向ける。
(出力は最小……狙うは、鍵穴の内部機構のみ……)
クィディッチの試合での成功体験が、俺を大胆にさせていた。
俺は、ハリーたちが鍵探しに夢中になっている隙に、極小のゾルトラークを、音もなく放った。
―――カチリ。
非常に小さな金属音がして、重厚な扉の錠が、内側から弾け飛んだ。 そして、ギィィ……と、古びた蝶番の音を立てながら、扉がゆっくりと開いていく。
「え?」
空中で鍵を探していたハリーが、間の抜けた声を上げた。
ロンとハーマイオニーも、突然開いた扉を見て、目を丸くしている。
「……開いたな。行こうぜ」
俺は、何食わぬ顔でそう言うと、さっさと扉の向こうへと歩き出した。
「ちょ、ちょっとアーク!どうやったのよ!?」 「パズルを解いてないじゃない!」
背後でハーマイオニーが抗議の声を上げているが、俺は聞こえないふりをした。
パズル?ああ、解いたさ。「施錠された扉」というパズルを、最も効率的な方法でな。
そして、俺たちがたどり着いた最後の部屋。
そこは、床が市松模様になった、巨大なチェス盤の部屋だった。
俺たちの行く手には、人間ほどの大きさの、石でできたチェスの駒たちが、ずらりと並んで俺たちを待ち構えていた。
「……魔法使いのチェスだ」
ロンが、ゴクリと喉を鳴らした。
彼は、この中で唯一のチェスの達人だ。
「僕たちが駒にならなきゃ、向こう側へは行けないみたいだ。僕がナイトになる。ハリーはビショップの空きマスに。ハーマイオニーはクイーンの隣のルークだ。アークは……そこのポーンで頼む」
ロンは、的確に指示を出す。
彼の目は、もはや遊びではなく、真剣な戦略家のものだった。
これは、彼の見せ場だ。俺は大人しく、ポーンとして彼の指示に従おう。そう、心に決めた。
ゲームが始まり、ロンの巧みな采配で、俺たちは順調に敵陣へと進んでいく。
しかし、敵の駒も容赦がない。
俺たちの駒が取られるたびに、石の駒は、味方の駒を無慈悲に打ち砕いていく。
そして、ついに、勝負を決定づける局面が訪れた。
ロンは、苦渋の表情で、自らが犠牲になる作戦を立てた。
「僕が、クイーンの前に出る。そうすれば、ハリー、君がキングにチェックメイトをかけられる」
「だめだ、ロン!」
「チェスは、時に犠牲が必要なんだ!」
友の自己犠牲。熱い展開だ。
原作でも、ここは屈指の名シーンだった。
俺は、固唾を飲んで彼らのやり取りを見守っていた。
……はずだった。
(……いや、長くないか?)
ロンの覚悟。ハリーとハーマイオニーの葛藤。
それは、確かに感動的だ。
だが、俺の胃は、もう限界だった。
一刻も早く、この状況を終わらせて、暖かいベッドで眠りたい。
それに、よく考えたら、なんでチェスで負けたら死ななきゃいけないんだ?理不尽じゃないか?
俺の思考は、またしても、あらぬ方向へと暴走を始めた。
(そもそも、なんでこいつらのルールに従って、律儀に一マスずつ進んでるんだ?)
目的は、向こうの扉に行くことだ。
チェスに勝つことじゃない。
俺の中で、何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
「……みんな、ちょっと下がっててくれ」
俺は、静かにそう言った。
俺のただならぬ雰囲気に、三人は戸惑った顔で俺を見る。
「アーク?何を……?」
俺は、彼らの言葉を無視して、一歩前に出た。
そして、目の前に立ち塞がる、巨大な石の駒たちを、冷たい目で見据えた。
「……チェックメイト」
俺がそう呟いた瞬間。
俺の右手から、扇状に、黄金の閃光が迸った。 それは、もはや一本のビームではない。
全てを薙ぎ払う、破壊の嵐だった。
「
俺が、イメージトレーニングの中で編み出した、対軍勢用の応用技だ。
もちろん、口から出まかせの技名である。
黄金の光は、チェス盤の上を薙ぎ払った。
敵のクイーンも、ビショップも、ナイトも、ルークも、ポーンも、全てが光の中に飲み込まれ、一瞬で塵と化す。
ただし、俺は一体だけ、手加減して残しておいた。
敵陣の奥に鎮座する、キングの駒だけは。
光が収まった時。
そこには、ただ一人、ぽつんと玉座に座り、ガタガタと震えているキングの駒と、その向こうにある扉へと続く、だだっ広い、何もない空間が広がっていた。
「…………」
「…………」
「…………」
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、完全に言葉を失っていた。
特に、命を懸ける覚悟を決めていたロンは、口をパクパクさせて、まるで金魚のようだった。
「……ほら、これでキングは
俺は、そう言って、がらんどうになったチェス盤を、さっさと歩き始めた。
背中に突き刺さる、三人の視線が、痛い。
すごく、痛い。
「情緒がないわ……!」
遠くで、ハーマイオニーの泣き声が聞こえた気がした。