転生特典としてゾルトラーク使えるようになったけどなんか世界観違くね?   作:wet

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第8話

 数々のトラップを、魔法(物理)でゴリ押してきた俺たち。

 悪魔の罠はゾルトラークで焼き払い(脳筋)、空飛ぶ鍵はグリッチ(ゾルトラーク)で突破(暴挙)、巨大チェスはキング以外の駒を盤上から一掃した(蛮行)。

 

 その結果、ハーマイオニーからは「あなたのせいで冒険の情緒が台無しよ!」と涙目で訴えられ、ロンからは「お前のやり方、ちょっとだけクールだったぜ…」と若干引かれ気味に称賛された。ハリーは…うん、なんか遠い目をしていた。ごめんて。

 

 そして今、俺たちは最後の部屋へと続く扉の前に立っている。

 ハーマイオニーが言うには、これが最後のトラップ。スネイプ先生が仕掛けた、論理パズルの魔法薬だそうだ。テーブルの上には大きさも形も違う七つの小瓶が並んでおり、添えられた羊皮紙には謎めいた詩が書かれている。

 

「ええと…『危険は前に、安全は後ろに』…? 七つの瓶のうち、三つは毒、二つはワイン、一つは先に進む薬で、もう一つはここへ戻る薬…」

 

 ハーマイオニーが真剣な顔で羊皮紙を読み解いている。その横で、俺はゴクリと喉を鳴らした。

 やばい。論理パズルとか、前世含めて一番苦手なやつだ。俺の脳みそはもっと単純にできている。考えるな、感じろ。そして撃て。それが俺の信条だ。

 

(…もう、この扉ごとゾルトラークで吹き飛ばすのはダメか? いや、ダメだよな。さすがにハーマイオニーがブチギレる。というか、ここまで来たら最後まで付き合うのが男だろ…)

 

 内心で激しい葛藤を繰り広げていると、俺の殺気…じゃなくて、破壊衝動を察したのか、ハーマイオニーがチラリと牽制するような視線を向けてきた。

 はい、大人しくしてます。

 

「わかったわ! これよ!」

 

 数分後。さすがは我らが天才魔女ハーマイオニー。見事に正解の薬を導き出した。一番小さな丸い瓶だ。

 

「でも、これ、一人分しかないわ…」

 

「僕が行く」

 

 即答したのはハリーだった。その瞳には、恐怖を乗り越えた強い決意が宿っている。原作主人公の覚悟、マジかっけえ。

 

「ハリー、気をつけて!」

 

「君は本当に偉大な魔法使いだよ」

 

 ロンとハーマイオニーがハリーを激励する。ああ、友情って素晴らしい。俺も何か言った方がいいんだろうか。

 

「ハリー、もしヤバくなったら、壁に向かって叫べ。たぶん、俺がなんとかする」

 

「…うん、ありがとう、アーク。その時は頼むよ」

 

 ハリーは少し困ったように笑いながらも、力強く頷いてくれた。まあ、俺にできることなんて、壁ごとぶち抜いて助け出すことくらいだからな!

 

 ハリーは薬を一気に飲み干すと、部屋の奥にある黒い炎が揺らめく扉へと足を踏み入れた。炎は一瞬ハリーを包み込むと、何事もなかったかのように揺らめきに戻る。

 

 そして、ハリーの姿は完全に消えた。

 

「よし、俺たちも戻ろう」

 

 俺は紫の炎が燃え盛る入り口を指差す。ハーマイオニーが謎を解いたおかげで、戻るための薬も判明している。

 

「アークは行かなくていいの?」

 

「俺? 俺が行ってどうするんだよ。主役はハリーだ。俺みたいなモブは、ここで大人しく引き返すのがセオリーってもんだ」

 

 そう、俺はモブ。平穏を愛する一介のホグワーツ生。これ以上、原作イベントの根幹に関わるのは絶対に避けたい。胃が死ぬ。マジで。

 俺の切実な訴えに、ハーマイオニーは何か言いたげな顔をしたが、結局は頷いてくれた。

 

「…わかったわ。ハリーのこと、お願いね」

 

「ああ、任せとけって。…って、俺が頼む側だろ!」

 

 俺たちはロンとハーマイオニーを見送り、再び静寂が訪れるのを待った。

 さて、ここからどうするか。

 ハリーがクィレルを倒し、ダンブルドア先生が助けに来るまで、ここで待機…というのが一番安全なルートだろう。

 

(しかし、万が一ってこともある。ハリーが負けそうになったら…いや、原作主人公がそんな簡単に負けるわけ…でも、俺がいることで歴史が変わってる可能性も…)

 

 ぐるぐると考えを巡らせていると、ハリーが進んでいった黒い炎の向こうから、微かに声が聞こえてきた。会話の内容までは聞き取れないが、緊迫した雰囲気だけは伝わってくる。

 

(…ダメだ、気になる! ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ様子を見るだけなら…)

 

 好奇心は猫を殺す、なんて言うが、俺は猫じゃないし、そもそも死んだら神様に文句を言う権利がある。俺は意を決して、めちゃくちゃ加減したゾルトラークで炎の向こう側に繋がる通路をくり抜くと、先へ進んだ。

 やっぱこの魔法、便利だよな(震え声)。

 

 ◇

 

 炎を抜けた先は、円形のだだっ広い部屋だった。

 天井は高く、壁際にはいくつもの石柱が並んでいる。そして部屋の中央には、例の『みぞの鏡』が鎮座していた。

 その鏡の前で、ハリーが誰かと対峙している。

 

「クィレル先生!」

 

 ハリーの驚愕に満ちた声が響く。

 そこに立っていたのは、いつもどもりがちで気の弱そうな、あの魔法防衛術のクィレル先生だった。しかし、その表情はいつもの臆病なものではなく、冷酷で歪んだ笑みを浮かべている。

 

(うわ、出た。黒幕。知ってたけど)

 

 俺は咄嗟に一番近くの石柱の影に身を隠し、息を殺して様子を窺う。頼む、こっちには気づかないでくれ。俺はただの壁紙、石柱の一部だ。

 

「僕にはわからない…スネイプ先生はあなたを…」

 

「スネイプか。ふん、いかにも奴がやりそうなことだ。私の邪魔をし、私を見張る…だが、奴は気づいておらん。私が誰に仕えているのかをな」

 

 クィレルはそう言うと、ゆっくりとハリーに背を向け、みぞの鏡と向き合った。

 鏡に映るクィレルは、ポケットから賢者の石を取り出し、満足げに眺めている。もちろん、それは鏡の中だけの幻影だ。

 

「石がどこにあるのかが分からん…。我が主人に石を渡している自分を見る…。だが、どうすれば手に入る…?あの方のお力が必要だ…」

 

 ぶつぶつと呟きながら、クィレルはゆっくりと自身のターバンに手をかけた。

 来る。

 原作最大級の衝撃シーンの一つが、今、目の前で繰り広げられようとしていた。

 

(マジかよ…マジで見るのかよ、アレを…)

 

 ごくり、と喉が鳴る。

 ハリーも、何が起こるのか分からず固唾を飲んで見守っている。

 やがて、紫色の布がはらりと床に落ちた。

 そして、現れた。

 

 クィレルの後頭部に、もう一つの顔が。

 蛇のように鼻が潰れ、爬虫類を思わせる縦に裂けた瞳孔を持つ、青白い顔。

 教科書で見たことがある。闇の魔術の歴史の教科書で。間違いない。

 史上最悪の魔法使い、『名前を言ってはいけないあの人』――ヴォルデモート卿、その人であった。

 

(キモーーーーーーーーーーーーーッ!!!!)

 

 俺の脳内は、恐怖と生理的嫌悪感でショート寸前だった。なんだアレは。ホラー映画でもお目にかかれないレベルのグロテスクさだ。何このキモすぎるクリーチャー。R-15指定だろ絶対!

 

『ハリー・ポッター…』

 

 後頭部の顔が、か細く、しかし底冷えのする声で囁いた。

 

『ここまで来たか。我ら相見えるのは、運命だったようだ』

 

「ヴォルデモート…!」

 

『そうだ。驚いたか? ほんの影、蒸気のような存在に成り果てた我が、他人の肉体に寄生し、生きながらえているとは!』

 

 始まった。

 闇の帝王、ヴォルデモート卿による、長々とした自分語りタイムである。

 

 曰く、ハリーの母親の愛の力が、赤ん坊だったハリーを守ったこと。

 曰く、そのせいで自分は力を失い、かろうじて生き永らえている状態であること。

 曰く、森でユニコーンの血を啜って命を繋いでいたこと。

 曰く、そんな時に愚かで貪欲なクィレルと出会い、体を乗っ取ったこと。

 曰く、賢者の石があれば、自分の体を取り戻し、不死の命を得られること。

 

 ペラペラペラペラと、まあよく喋る。

 正直、最初の五分は恐怖でガチガチに震えていた。最強の闇の帝王。その威圧感は本物で、存在しているだけで魂が凍てつきそうだった。

 

 十分が経過した。恐怖はまだある。だが、それと同じくらい「話、なげぇな…」という感想が心を占め始めていた。

 

 十五分経過。もはや恐怖よりも、退屈と、そして膀胱が主張する生理的欲求の方が勝り始めていた。

 

 いや、気持ちはわかる。十数年も雌伏の時を過ごし、やっと宿敵と再会できたんだ。そりゃあ、溜まりに溜まった思いの丈をぶちまけたくもなるだろう。

 だがしかし、だ。こっちは恐怖と緊張で膀胱がブレイクダンスを踊り始めているというのに、そんなお涙頂戴(?)の自分語りに付き合っている余裕はない。

 

(早く終われ…早く石を渡せって言え…そしてハリーが覚醒して、原作通りクィレルを灰にして終わり! それでいいだろ!)

 

 俺は柱の影で、ただひたすらに念仏を唱える。

 だが、闇の帝王の独演会は、まだまだ終わる気配がない。

 

「…お前の父親も、私に逆らい、そして死んだ。母親もそうだ。今、私を阻むものは何もないのだ、ハリー・ポッター!」

 

 おお、ようやく核心に近づいてきたか? と思いきや、ヴォルデモートはそこで言葉を切ると、ふと視線を俺が隠れている柱の方へと向けた。

 

 ――目が、合った。

 

 血のように赤い、蛇のような瞳と、俺の引き攣った目が、確かに交差した。

 

(ひっ…!?)

 

 心臓が喉から飛び出そうになった。全身の血が凍りつき、思考が停止する。

 終わった。見つかった。俺の平穏なモブライフ、ここに完全終了のお知らせだ。

 

「ほう…」

 

 ヴォルデモートの顔が、愉快そうに歪んだ。

 

「そこに隠れているのは、ウィンドソア家の小僧か。クィディッチの試合では、クィレルの呪文をよくも妨害してくれたな」

 

 ああ、やっぱりあの時のこと、バレてた! そりゃそうか!

 

「どうだ、小僧。お前も私に仕える気はないか? その力を私のために使えば、望むだけの栄誉と力を与えてやろう。ポッターのような半純血の小僧ではなく、純血のお前こそ、私の隣に立つにふさわしい」

 

 まさかのスカウト。

 だが、その勧誘は、俺の恐怖心という火薬庫に、見事なまでに火をつけた。

 

(ふ、ふざけんなああああああああ!)

 

 誰がお前の下につくか! 俺は目立ちたくないんだ! 平穏に、静かに、本を読んだり猫と戯れたりしながら、卒業までの七年間を穏便に過ごしたいだけなんだよ!  闇の帝王の部下とか、一番面倒くさいポジションじゃねえか! 福利厚生もなさそうだし、上司はパワハラ気質だし、絶対ブラックだろ!

 

 恐怖、緊張、そして名指しされたことによるパニック。

 俺の中で、何かがブツリと切れる音がした。

 手のひらに、じわりと黄金の魔力が収束していくのがわかる。まずい。暴発する。

 

(やめろ! 落ち着け俺の魔力! まだだ、まだ耐えろ…!)

 

 俺は必死に理性の手綱を握りしめる。

 だが、ヴォルデモートは、そんな俺の努力を嘲笑うかのように、さらに言葉を続けた。

 

「さあ、返事を聞こうか、アーク・ウィンドソア。私と共に来るか、それともここでポッターと共に…」

 

 うるさい。

 黙れ。

 お前の話は、もう聞き飽きたんだよ。

 

「うわああああああああああああああああ!」

 

 俺の口から、もはや悲鳴とも雄叫びともつかない絶叫が迸った。

 それと同時。

 俺の両の手のひらから、制御を失った黄金の閃光が、嵐のように解き放たれた。

 

「ゾルトラーク!!!!」

 

 それは、もはや一本のビームではなかった。

 部屋全体を白く染め上げるほどの、凄まじい魔力の奔流。

 狙いなんて、あったもんじゃない。ただ、目の前の恐怖の対象を排除したい、その一心で放たれた、完全なパニック乱射だった。

 

 黄金の光が、クィレルの体を、その後頭部に寄生するヴォルデモートの魂を、まとめて飲み込んでいく。

 

「なっ…! こ、この魔法は…一体…!? 我は…闇の帝王…ヴォルデモー…ぐぎゃあああああああ!」

 

 闇の帝王の断末魔は、あまりにも情けなく、そして短いものだった。

 彼の長々とした自己紹介に比べれば、コンマ一秒にも満たない。

 

 轟音と閃光が部屋を蹂躙する。

 石の柱がバターのように溶け落ち、床は焼け爛れ、壁には巨大な風穴が空いた。

 

 人を殺す魔法、ゾルトラーク。

 その本質は、魔力を直接ぶつけ、対象の魔力そのものを破壊し、肉体と魂を分解する、極めて純粋な破壊の魔法だ。

 クィレルの肉体は一瞬で塵となり、そこに宿っていたヴォルデモートの魂の欠片もまた、聖なる光に浄化されるかのように、悲鳴も残さず消滅していった。

 

 やがて、光が収まる。

 

 後に残されたのは、半壊した部屋と、耳鳴りがするほどの静寂だけだった。

 クィレルとヴォルデモートが立っていた場所には、人型の黒いシミと、ターバンの焼け焦げた切れ端が寂しく転がっているのみ。

 

「はぁ…っ、はぁ…っ…」

 

 俺は両膝に手をつき、荒い息を繰り返す。魔力をごっそり持っていかれて、立っているのもやっとだった。

 自分の手のひらを見つめる。まだ、黄金の魔力の残滓がチリチリと火花を散らしていた。

 

「あ…れ…?」

 

 自分が何をしでかしたのかを、遅れて理解する。

 サーッと、全身から血の気が引いていくのがわかった。

 

(あ、あ、あ、やべ……また、やっちまった……)

 

 しかも、今度のはレベルが違う。

 トロールとか、暴れ柳とか、そういう次元じゃない。

 あの、闇の帝王を、ラスボスを、喋ってる途中で消し飛ばしてしまった。

 

「……」

 

 呆然とする俺の視界の端で、何かが動いた。

 ハリーだった。

 彼は、口をあんぐりと開けたまま、俺と、クィレルがいた場所のシミを、何度も何度も交互に見比べている。その目は完全に点になっていた。

 

「アーク…」

 

 やがて、ハリーがかすれた声で俺の名前を呼んだ。

 

「…今の…なに…?」

 

 その問いに、俺はぶんぶんと、ちぎれんばかりに首を横に振った。

 

「ち、違う! 違うんだハリー! これは事故なんだ! 俺は悪くない! あいつの話が長すぎるのが悪いんだ! 不可抗力なんだって! 信じてくれえええええ!」

 

 半泣きで訴える俺の絶叫が、がらんとした部屋に虚しく響き渡る。

 その時だった。

 

「ふむ。少しばかり、静かにしてはおれんようじゃったのう」

 

 穏やかで、しかし全てを見通すような声と共に、部屋の入り口に現れたのは、半月型の眼鏡をかけた、長い銀髪の魔法使い。

 アルバス・ダンブルドア校長、その人だった。

 彼は半壊した部屋を見回し、それから俺とハリーを見て、にこりと優しく微笑んだ。

 

 その笑顔を見た瞬間、俺の胃に、今シーズン最大級の激痛が走ったのだった。

 

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