転生特典としてゾルトラーク使えるようになったけどなんか世界観違くね?   作:wet

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本作は元々息抜きで書いていた作品でして、展開もろくに考えず好き勝手書き散らしてました。
まさかここまで反響があるとは思ってもおらず…(言い訳)。
というわけで真面目に書きたくなったというのもあり、大幅にリメイクすることにしました。
オチが一辺倒すぎてアレだったしね…(遠い目)。



新版
新版 第1話


人生の終わりとは、存外あっけないものだ。

横断歩道。青信号の点滅。駆け出す小学生の背中を押そうとして、代わりに自分がトラックの前に躍り出た。まあ、よくある話。俺の三十年の人生は、砕けたガラスの音と、タイヤが肉を轢く鈍い感触と共に、あまりにも事務的に終了した。

 

(あ、やべ。昨日やり始めたゲームのデータ、セーブしてねえ)

 

それが、俺の最後の思考だった。

 

◇◆◇◆◇

 

次に目を開けた時、そこは真っ白な空間だった。床も壁も天井もなく、ただ無限の白が広がっている。匂いも音も、温度さえもない。五感が正常に働いているのかすら怪しい、奇妙な浮遊感だけが身体を包んでいた。

 

「お疲れーっす。えーと、佐藤…誠さん、で合ってる?」

 

唐突に、背後から気の抜けた声がした。振り返ると、白い空間に不釣り合いなパイプ椅子に座り、缶コーヒーをすするジャージ姿の男がいた。寝癖のついた髪。無精髭。どう見ても、近所のコンビニに深夜出没するタイプの人間だ。

 

「……誰だ、あんた」

「あ、俺?神様的な?まあそんな感じのやつ」

 

男――神様(仮)は、ひらひらと気安く手を振った。そのあまりの軽薄さに、俺は死んだことによる混乱よりも、目の前の現実に対する呆れが勝ってしまう。

 

「神様…ねえ。で、ここは天国か地獄か。それとも賽の河原で石でも積まさせられるのか」

「いやいや、そういう面倒なのは基本ナシで。最近は人手不足と働き方改革でさ、死後処理もだいぶ簡略化されてんのよ。君みたいに、まあ、なんつーか…他人のために死んじゃった、みたいな〝アタリ〟の魂は、特典付きで異世界転生コースにご招待ってわけ」

 

神様は「今ならお得ですよ」みたいな口調で言った。まるで携帯電話の乗り換えキャンペーンを勧める店員だ。

 

「異世界転生…。ラノベとかでよく聞くやつか」

「そそ、それ。君、ラッキーだよ。で、早速特典なんだけど…ジャーン!」

 

神様が指を鳴らすと、俺の目の前に一枚の羊皮紙のようなものがふわりと浮かんだ。そこに書かれていたのは、たった一つの単語。

 

【人を殺す魔法(ゾルトラーク)】

 

「……は?」

「ど?すごくない?これ、某人気ファンタジー漫画に出てくる超強力な魔法。一般攻撃魔法なんだけど、人類の魔法体系を根底から覆した歴史的魔法で、防御魔法の概念すら変えちゃったっていう代物。これを君にあげちゃう」

 

得意満面な神様の説明は、まったく頭に入ってこない。いや、わかる。知ってる。その漫画、俺も全巻持ってた。けど、問題はそこじゃない。

 

「人を殺す魔法、ねえ。もうちょっとこう…平和的なやつはなかったのか?鑑定スキルとか、アイテムボックスとか」

「んー、でもこれが一番ウケがいいんだよね。やっぱ派手なのが人気っていうか。それに大丈夫だって。この魔法、応用範囲も広いから。岩とかも砕けるし、土木作業にも使える、かも」

「かも、ってなんだよ。無責任だな」

 

俺は思わずこめかみを押さえた。頭が痛くなってきた。死んでるから頭痛なんてないはずなのに。

 

「大体、転生する世界はどんなところなんだ?剣と魔法のファンタジー世界か?それとも中華風?SF?」

「あー、その辺は行ってからのお楽しみってことで」

「はあ!?一番大事なとこだろそこは!世界の文明レベルとか、貨幣価値とか、最低限の情報は…」

「大丈夫大丈夫!言語は自動翻訳つくから。なんとかなるって!」

 

神様は俺の肩をバンバンと叩いた。その顔には「細かいことは気にすんなよ」と書いてある。こいつ、絶対何も考えてないな。

 

「待て、待ってくれ!利用規約は!?チュートリアルは!?せめて取扱説明書くらい…!」

「はいはい、時間だからねー。それじゃ、次の人生もエンジョイして!」

 

神様がスマホを取り出し、画面をスワイプする。その瞬間、俺の足元が消失した。いや、白い空間そのものがぐにゃりと歪み、俺の身体は凄まじい力で一点に吸い込まれていく。

 

「このクソ神があああああああ!!」

 

俺の悪態は、次元の狭間に虚しく消えていった。

 

◇◆◇◆◇

 

次に意識が浮上した時、俺の五感を襲ったのは、不快な情報の洪水だった。

まず鼻をついたのは、古びた木材と埃の匂い。それに、微かに薬品のようなツンとした香りが混じっている。耳には、窓ガラスを叩く雨音と、遠くで軋む床の音が聞こえた。

身体は鉛のように重く、特に頭がぐらぐらする。薄い毛布のざらついた感触が、やけに肌にまとわりついた。

 

ゆっくりと瞼を開ける。

視界に映ったのは、薄暗い部屋の天井だった。黒ずんだ太い梁が何本も渡っており、ところどころ蜘蛛の巣が張っている。視線を巡らせると、自分が豪奢な彫刻の施された天蓋付きベッドに寝かされていることがわかった。

しかし、そのベッドも、部屋にある他の家具――ワードローブや化粧台――も、一見して年代物とわかるが、手入れが行き届いているとは言い難い。彫刻の隙間には埃が溜まり、木材の表面は艶を失ってカサカサに乾いていた。壁紙はかつては美しい模様だったのだろうが、今は湿気で所々がめくれ、染みが広がっている。

 

(…どこだ、ここ)

 

状況を整理しようと頭を働かせるが、靄がかかったように思考がまとまらない。身体もそうだ。手足を動かそうとしても、まるで自分のものではないかのように、言うことを聞かなかった。どうやら、子供の身体になっているらしい。視界の低さ、手足の短さがそれを物語っていた。

 

「…ユウ?目が覚めたの?」

 

不意に、穏やかだが、どこか疲労の滲む女性の声がした。ベッドの脇に置かれた椅子から、簡素なローブをまとった女性が立ち上がる。歳の頃は三十代半ばだろうか。透けるように白い肌に、銀に近い金髪。顔立ちは驚くほど整っているが、目の下には隈が浮かび、その表情には深い憂いが刻まれていた。

彼女は俺の額にそっと手を当てる。ひんやりとした感触が心地よかった。

 

「よかった…。熱は下がったみたいね。三日も眠り続けていたのよ。本当に心配したわ」

 

彼女は英語を話している。だが、不思議と俺はその言葉の意味を完璧に理解できた。

 

(これが神様の言ってた自動翻訳か。そこだけは有能らしい)

 

「…あなたは?」

「まあ、何を言っているの。お母様でしょう?」

 

女性――俺の新しい母親らしい――は、困ったように微笑んだ。その笑顔は痛々しいほどに優しく、そして儚げだった。

 

「気分はどう?どこか痛むところは?」

「…大丈夫。少し、頭がぼーっとするだけ」

 

俺は、まだ馴染まない小さな身体を起こした。母親が背中にクッションを当ててくれる。その仕草は手慣れたものだった。

 

「覚えていないかもしれないけれど、あなたは庭の階段から落ちて、頭を強く打ったの。本当に、肝が冷えたわ…」

 

なるほど。転生者である俺の魂がこの身体に入るための、都合のいい事故というわけか。ありがちな設定だが、助かる。これで多少言動がおかしくても、頭を打った後遺症で誤魔化せるだろう。

 

俺は改めて部屋を見回した。

窓の外は雨。薄暗い光が差し込む室内は、静かで、時間が止まっているかのようだ。この家の没落ぶりは、部屋の様子を見れば一目瞭然だった。かつては裕福だったのだろう。しかし、今はその栄光も過去のもの。かろうじて体面を保っているだけの、ハリボテの貴族。そんな印象を受けた。

 

俺は、この新しい人生で最も重要になるであろう質問を、子供らしい無邪気さを装って口にした。

 

「お母様。…僕たち、貧乏なの?」

 

その言葉に、母親の肩が微かに震えた。彼女は一瞬、悲しげに目を伏せたが、すぐに作り物の笑顔を浮かべると、俺の頭を優しく撫でた。

 

「…変なことを聞くのね、ユウ。さあ、まだ寝ていないと。何か温かいものでも持ってくるわ」

 

彼女はそう言って、足早に部屋を出て行った。

扉が閉まる音を聞きながら、俺はその反応だけで全てを悟った。

 

(図星かよ…)

 

前途多難。その言葉が、やけに重く頭にのしかかってきた。

 

◇◆◇◆◇

 

母親が出て行ってから数時間後、俺はようやく身体を動かす許可を得て、この屋敷の探検を始めた。

セルウィン家。それが、俺の新しい家族の苗字らしい。先祖代々続く純血の魔法使いの一族だが、ここ数代でめっきり落ちぶれた、と。そんな事情を、食事を運んできた父親から、遠回しな表現で聞かされた。父親は父親で、神経質そうで、どこか現実から目をそらしているような男だった。

 

屋敷は、思った以上に広かった。しかし、その大半は使われておらず、分厚い埃と静寂に支配されている。長い廊下には、歴代当主であろう人々の肖像画がずらりと並んでいたが、そのどれもが陰気な顔でこちらを見下ろしている。まるで、この家の没落を嘆いているかのようだ。

 

俺は、一階の奥にあった書斎に足を踏み入れた。

そこは、屋敷の中で唯一、人の営みの気配が残る場所だった。壁一面を埋め尽くす本棚。しかし、その多くは虫食いだらけで、革の装丁はひび割れている。空気は黴と古い紙の匂いで満ちていた。

 

(さて、現状把握といこうか)

 

俺の当面の目標は、この家の財政状況を正確に把握することだ。生きるか死ぬか。それは金があるかないかで決まる。異世界だろうが魔法があろうが、その原則は変わらないはずだ。

 

幸い、机の上には帳簿らしき革綴じの分厚い本が置かれていた。子供の身体には少し重いそれを、俺は「よいしょ」と声を出しながら床に下ろし、ページをめくった。

そこに記されていたのは、絶望的な数字の羅列だった。

 

収入の欄には、魔法省からの僅かな純血維持の助成金と、先祖代々の土地から上がる微々たる賃料しかない。一方で、支出の欄は凄まじいことになっていた。

 

「屋敷維持費、フクロウの餌代、杖のメンテナンス費用、魔法薬の材料費…」

 

一つ一つの項目を、俺は声に出して読み上げた。どれもこれも、俺の前世の常識では考えられないものばかりだ。特に驚いたのは、肖像画の維持費という項目だった。なんでも、描かれた人物の魂の一部が宿っているため、定期的にメンテナンスが必要なのだという。

 

(死んでまで金食うなよ、ご先祖様)

 

帳簿をめくっていくと、さらに深刻な事実が判明した。借金だ。それも、グリンゴッツ魔法銀行という、ゴブリンが経営する銀行からのものが大半を占めている。返済は滞りがちで、利子は雪だるま式に膨れ上がっていた。

 

「……マジかよ」

 

思わず乾いた笑いが漏れる。

チート特典付きの異世界転生?冗談じゃない。これはただの、破産寸前の零細企業にいきなり社長として放り込まれたようなもんじゃないか。神様の野郎、どこが「ラッキー」なんだ?

 

俺は帳簿をばたんと閉じた。埃が舞い上がり、光の筋の中でキラキラと輝く。

静まり返った書斎で、俺はこれからの人生についてシミュレーションを始めた。

 

(このままいけば、屋敷は差し押さえられ、一家は路頭に迷う。最悪、魔法使いとしての地位も失い、マグル(非魔法族)の世界で生きていくことになるかもしれない)

 

この状況を立て直すには、莫大な労力が必要だ。まず、安定した収入源を確保しなければ。

だが、何かを始めるにしても、元手となる金がない。まさに八方塞がり。

 

(……いや、一つだけあるな。元手ゼロで始められるものが)

 

俺は自分の小さな手のひらを見つめた。

神様から与えられた、唯一のチート特典。

【人を殺す魔法(ゾルトラーク)】

本来の用途で使う気は毛頭ない。そんな物騒なことに首を突っ込むのは、俺の主義に反する。

だが、神様は言っていた。「応用範囲も広い」と。

 

(岩を砕けるなら、鉱石の採掘ができるかもしれない。土木作業に使えるなら、インフラ整備で稼げるか?精密な出力調整ができれば、木材の伐採や加工も…)

 

思考が、金策の方向に一気に加速していく。

そうだ。この魔法は、俺にとっての唯一の資産なのだ。これをどう活用するか。どうやって金に換えるか。それが、このクソみたいな状況を打開する唯一の鍵になる。

 

「まずは、威力と燃費の検証からだな…」

 

俺は誰に言うでもなく呟き、立ち上がった。

冒険も、世界の危機も、伝説の勇者も、今はどうでもいい。

俺の戦いは、この家の家計を立て直すことから始まるのだ。

そう決意した俺の腹が、ぐぅ、と情けない音を立てた。まずは今日の夕飯の心配かららしい。

 

まったく、先が思いやられる。

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