私と呼ぶときだけ   作:パレット24

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プロローグ

 

プロローグ ― 雨の夜に

 

 冷たい雨が、石畳を打ち続けていた。スピナーズ・エンドの古びた屋敷は、まるで世界から切り離されたように静まり返っている。窓辺には、かすかに明かりが漏れていた。

 扉を叩く音が、雨音に混じって響く。応じて現れたのは、黒衣の男──セブルス・スネイプだった。険しい表情を浮かべるその目は、訪問者を冷ややかに射抜いた。

「……我輩に子守をさせるつもりか」

 彼の視線の先には、ひとりの少女がいた。まだ十一歳にも満たない年齢。しかし、腰まで伸びた黒髪と透き通る青い瞳は、幼さの奥に不思議な大人びた冷静さを宿していた。

母──エレノア・フロストは娘の肩に手を置き、沈んだ声で言った。

「セブルス……フロストの血を受け継ぐ者は、常に狙われてきました。私も……そしてこの子も。

 だからこそ、表舞台から消えた。でも……彼女は隠れるだけでは生きられない。ホグワーツに行けば、必ず狙われる。」

 スネイプの目がわずかに細まる。

 エレノアはさらに言葉を重ねた。

「お願い……私は母親として、この子を守りきれない。あなたは“闇を知る人間”でしょう。だからこそ……この子を導けるのは、あなたしかいないの。」

「……我輩を信用するとは、物好きだな」

「違うわ。信用しているんじゃない……選択肢がないの。だけど、あなたなら……利用ではなく知識で導いてくれるはず。そう信じたいのよ。」

 スネイプが返すより早く、セレナが小さく口を開いた。

「でも、あなたは断らないでしょう?」

 雨音が強くなる。スネイプの眉が、わずかに動いた。

「……ほう。根拠は何だ、小娘」

「だって……あなたの目は、嘘をついていないから」

 少女の声は澄んでいて、冷たい夜の空気を切り裂くように響いた。

 スネイプは短く鼻を鳴らす。だがその心には、得体の知れぬ感覚が生まれていた。

 

 その夜。蝋燭の炎が揺れる書斎で、セレナは薬棚の前に立っていた。ガラス瓶に並ぶ薬草や粉末を、興味深げに観察している。

「勝手に触るな」

「触ってない。ただ……見てるだけ」

 青い瞳が瓶に映り込む。その瞳はただ観察するだけではなく、すべてを理解しているように見えた。

「この調合……マンドレイクの根を煮る順番を変えれば、効果が倍になるわ」

 スネイプは振り返り、目を細める。

「誰に吹き込まれた」

「誰にも。……見れば分かります」

 小さく微笑むセレナ。

 その笑みは、冷たく見えた印象を一瞬で溶かし、柔らかな光を宿していた。

 

 

 スネイプは、わずかに息を呑む。

 自分の中に、説明のつかない感情が芽生えるのを感じながら──。

 

 

 

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