私と呼ぶときだけ   作:パレット24

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第5章 ― 個別指導の日々

 

 それからの日々、セレナは度々授業後に呼び止められるようになった。

 難解な調合、古代の処方、理論の裏に潜む危険──。

 他の生徒が知ることのない知識を、スネイプは淡々と教え込んだ。

「材料の持つ“癖”を理解しろ。文字に書かれた理論よりも、素材が語る声を聞くのだ」

「……素材が語る、ですか」

「そうだ。お前なら……感じられるはずだ」

 厳しい言葉の中に、一瞬だけ“信頼”が滲む。

 その度に、セレナの胸はわずかに熱を帯びた。

 

 やがて、寮内や教室で噂が立ち始める。

「フロスト……スネイプ先生に呼ばれてるらしいぞ」

「絶対、特別扱いだ! 先生の寵愛を受けてるんだ」

 ドラコは憮然とした表情を浮かべた。

「……あいつは他の誰とも違うんだ」

 一方、ハーマイオニーは唇を噛みしめる。

「私だって……! 私だってもっと知識があるのに!」

 噂と嫉妬の視線の中で、セレナはただ静かに教室を後にした。

 だが彼女の足取りは、不思議なほど確かだった。

 

それからの日々、セレナは頻繁に呼び止められるようになった。

 授業が終わると、生徒たちが慌ただしく退出していく中、ひときわ冷たい声が落ちる。

「フロスト……残れ」

 ただそれだけ。

 だが、生徒たちの目にはそれが特別な響きを持って映った。

 

個別指導の始まり

 

 地下室に残されたセレナは、教授と二人きりになる。

 机には教科書には載っていない材料が並んでいた。

「これは“夢幻薬”だ」

 スネイプの声が低く響く。

「飲めば夢を操れる。だが……失敗すれば、二度と目覚めぬ」

「……危険すぎるのでは」

「だから教えるのだ。お前は、知るべき立場にある」

 教授の声は冷たく響いたが、瞳の奥には奇妙な“必然”の色が宿っていた。

 セレナは頷き、材料を手に取る。

 彼女の指先は迷いがない。

 だが時折、鍋の温度や薬液の色に戸惑うと、背後から短く声が飛ぶ。

「温度を上げろ」

「そこに触れるな」

「よし……今だ」

 その声は冷徹だったが、どこか守るように寄り添っていた。

 

影に潜む噂

 

 やがて、スリザリン寮や大広間では、噂が広まり始めた。

「フロスト、またスネイプ先生に呼ばれてたぞ」

「絶対、特別扱いだ。普通じゃない」

「寵愛されてるんだろ」

 その言葉に、ハーマイオニーは悔しさを隠せなかった。

「私だって、授業で誰よりも正確に写しているのに……!」

 ロンは肩をすくめて呟く。

「いや、あの先生が誰かを“特別扱い”とか……ありえねぇだろ」

 だが、ドラコだけは違っていた。

 彼は鋭い視線でセレナを見つめ、唇を噛む。

「……あいつは他の奴とは違う。父上も言っていた。フロスト家の血は……」

 羨望と焦燥、そして別の感情が胸に芽生え始めていた。

 

教授と弟子の距離

 

 ある夜、夢幻薬の調合を終えたセレナの額には汗が滲んでいた。

 銀色に光る薬液を前に、彼女は小さく息を吐く。

「……完成、です」

 スネイプは瓶を持ち上げ、長く観察する。

 やがて、声を落とした。

「……悪くない。だが、まだ甘い」

 その声音は冷たい。だが、次の言葉が落ちた時、セレナは一瞬息を呑んだ。

「……お前は才能だけでなく、努力を恐れぬところがいい」

 それは、彼が滅多に口にしない“肯定”の言葉だった。

 セレナは思わず視線を上げ、黒い瞳を見つめる。

 その瞳は氷のように冷たいはずなのに、ほんのわずかに揺れていた。

「教授……」

 その一言に、スネイプは心の奥で危うい熱を覚える。

 喉まで出かかったのは──“私”という言葉。

 だが、彼は慌てて視線を逸らし、冷たさを取り戻す。

「……片付けろ。次はもっと精度を上げるぞ」

 黒衣が翻る。

 その背を見つめながら、セレナの胸の奥にもまた、熱い灯が小さくとも確かに揺らめいていた。

 

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