午前中に戦場の状況整理をする。
俺はまだ見習い程度なので、戦場の物資の手配の書類の作成を主に行なっている。
先輩に確認して貰って午前中の作業は終わりだ。
問題は午後の稽古だ。
見習いが皆逃げ出したという稽古。
本当に逃げ出したくなる気持ちが分かる。
俺の担当はシャルル先輩だ。
シャルル先輩のメニューに付き合うのだが、これが常軌を逸してる。
他の先輩達に担当されてる同期が憎い。
シャルル先輩のメニューは基礎が多く、その上回数も多い。
昔に父が作ったメニューは、ウォーミングアップ同然だ。
「僕やアランのような体型は筋肉が付きにくい。だから速さと精密さで勝負するのが最適だ。まずは無駄についた肉を絞ろう。後は体力を付けるのをしばらくは目標にする」
厳しい稽古だけど、昔の自分の体質に合わない稽古と違って、成果がしっかりと出てやる気が出た。
「怠けているから、筋肉が付かないんだ!ノアを見ろ!もうお前より、腕も脚もこんなに太い。背が低いんだから筋肉ぐらいつけろ」
うるさいな。
付かないんだよ。
背だって低くないし、標準より上だ。
大体、父上が作ったメニューを毎日やっているんだ。
弟のノアより、多いメニューを。
「兄だと思われるのが恥ずかしい。元が恵まれてないのですから、大人しく妾の元へ帰ったらどうです?あ、もう亡くなってるんでしったっけ?」
俺だって、帰りたいよ。
生意気なんだよ。弟のくせに。
なんでそんなにデカいんだよ。
筋肉もなんでそんなにあるんだよ。
俺より、緩い稽古のくせに。
「アラン。起きろ。お前、夢の中でも稽古してるのか?また、うなされてたぞ」
「先輩......。休憩時間はもう終わりですか?」
稽古の休憩中は気づいたら、いつも寝ている。
残った力で木陰に行き、水だけ飲んで草の上に寝転がる。
そして、いつもと同じ夢を見て先輩に起こされる。先輩は俺の汗を軽く拭き、濡らしたタオルを額に置いてくれる。
最初は先輩にこんなことをさせるわけにはいかないと断っていた。
だが、同期達も担当の先輩に同じ事をしてもらっていたので断るのはやめた。
「アランは夜は静かなのに、稽古の休憩中はいつもうなされてるね」
先輩は少し乱れた長い髪を、編み直していた。
石鹸のいい香りが鼻をくすぐる。
「先輩は夜、たまにうなされてますよ」
「本当かい?悪夢をみているのかもしれないね」
「髪、切らないんですか」
三つ編みをくるくると纏めていた先輩に聞いた。
初めて、自分から質問をした。
「親友が褒めてくれたからね。切るに切れない」
桃色の緩くウェーブのかかった髪。
毎朝晩、丁寧に丁寧に梳いている腰まである髪。
親友のために伸ばし続けていると聞いてから、その髪が一層美しく見えた。