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『Infinite Stratos』、『インフィニット・ストラトス』
通称『IS』と呼ばれるそれは一人の天災、もとい天才科学者、篠ノ之束によって生み出された宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツである。
開発当初、ISは世論からも各専門分野からも特に大きな注目を浴びることは無かった。だが十年前に起こった『白騎士事件』によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、各国は宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用を開始、各国の抑止力の要がISに移っていった。
だがISには未だ謎が多く、特に心臓部であるコアの情報は自己進化の設定以外は一切開示されておらず、今なお完全なブラックボックスとなっている。さらにISは何故か女性しか起動させる事が出来ず、それにより世界は瞬く間に女尊男卑の風潮に染まる事となった。
そして極めつけに、ISの生みの親にして世界で唯一ISのコアを製造出来る篠ノ之束が、ある時期を最後にコアの製造を突如として中断、政府の監視下から失踪を遂げる。
これにより世界におけるISの絶対数が四六七機のみとなってしまう。
それに伴い国際社会は『IS運用協定』、通称アラスカ条約を制定。
軍事転用が可能となったISの取引規制、各国のコア所持配分、一定情報の共有等を取り決めると共に、国家のIS保有数や動きなどを監視する国際機関『国際IS委員会』を発足させる。
そしてそれと時を同じくして、誕生を公表されることなく一つの部隊が生まれた。
ISが存在するゆえに発生するテロ行為や国際紛争、果ては秘密結社によるISを利用した世界征服等々。それらによる戦乱を未然に防ぐために必要とされた組織。
国際IS委員会直属機密情報部、通称『プリベンター』の誕生である。
そして現在。ごく一部の人間を除き構成員の存在すら秘匿されているその部隊には、全身装甲のISを身に纏い正体を隠して戦う『少年』たちの姿が在った。
国際IS委員会本部のとある一室。
「今回、五飛には単独で任務に当たって貰う」
軍服を身に纏った女性は、目の前の少年にそう告げた。彼女の名はレディ=アン。このプリベンターの設立発案者でもあり、指揮官でもある。
「……任務内容は何だ」
そう短く答えるのは、黒髪を後ろに短く纏め眼鏡を掛けた少年、張五飛。専用IS『
ややもすれば直情的とも言える性格ではあるが、こと戦闘に置いては冷静を通り越し冷徹。本人の中国拳法の腕にISの特性も合わさり、一対一の白兵戦に関してはエージェントの中でも一、二を争う腕である。
本来はツーマンセルが基本であった今迄の任務において、今回単独任務を言い渡されたにも関わらず疑問を挟まなかった。元より自身の出自に誇りを持っており、単独行動を取る事を好む五飛としては渡りに船だったという点もある。
「『公式』では世界で最初に発見された男性IS適性者、『織斑一夏』の事は耳にしているな?」
「ああ、世界中上から下へ大騒ぎだ。委員会も彼の所属をどうするか揉めている最中だろう」
当然、五飛を含めたプリベンターのエージェント達は存在を秘匿されている為、織斑一夏は表向き世界初の男性適性者となる。
非公式を含めれば7人目だが。
「簡単に言ってしまえば彼の護衛任務だ。と言っても、デリケートな問題故にそれなりの事前準備と、周囲及び当人に護衛と気取られぬ必要があるが」
「それは日本政府の仕事ではないのか? わざわざこちらが請け負う必要があるとは思えん」
そう切り捨てる五飛。しかしレディは表情を変えずにファイルを取り出す。
「彼の経歴を見てみろ、幼少期の部分だ」
そう言って織斑一夏の個人データを五飛に手渡す。五飛はそれをまじまじと見るが、彼の経歴は何処にでもいる極々普通の男子学生のものであった。
ただ二つほど普通と違うのは、第1回IS世界大会総合優勝、及び格闘部門優勝者である織斑千冬を姉に持つ事。幼少の頃に誘拐事件の被害に遭っている事。
問題はその誘拐事件であった。何故か表向き事故として処理されており、無事救出されたものの事件の前後はおろか誘拐される以前の記憶を全て失っているという。
加えて、未だに首謀者が不明であることも漠然とした不安に拍車をかけていた。
「なるほど、先天的な適性ではない可能性、か」
「そうだ。再度その手の者たちが標的にした場合、日本政府では対応しきれない部分が出てくる」
「対応しきれないだと?」
「うむ、織斑一夏の身柄は所属が決まる決まらないに関わらず、間違いなく日本のIS学園に在籍することになるだろう」
IS学園。
アラスカ条約に基づいて日本に設置された、世界唯一のIS技術教育を主な目的として設立された特殊国立高等学校。操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成される。
日本に設立されたのも、件の篠ノ之束の出身である日本に国としての責任、及びIS技術独占を防ぐ為に日本負担で国際教育機関を設立するよう、諸外国から暗に要求された結果である。
世界中からIS関係者が集められるこの場所は、その性質上いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約が存在する。
とは言うものの、その規約はあくまで表向きのもの。ほぼ有形無実となっており、裏では各大国からの干渉は日常茶飯事である。それに加えてそんな国際規約など鼻で笑う非合法組織からしてみれば生け簀のようなものに等しかった。
「ではその学園に潜入して、外部からの不審者を洗えばよいのだな」
「いや、潜入ではなく『入学』だ。その為にも一旦中国へ飛んでもらう」
「何?」
そこで部屋のドアが開かれ、一旦会話を止めたレディと五飛の視線は開かれたドアへ向かう。
「ここに居たか五飛、ということはレディから任務は聞いたな?」
「老師O? 老師もこの任務に参加を?」
老師Oと呼ばれた男は、いかにもといった感じの科学者然とした白衣を来てはいたものの、学者然とした装いに似つかわしくない巨躯に加えて、白衣を着こんだ上からでも判るほど鍛えられた肉体をしていた。
「参加といってもお前のISの外見を改修するだけだがな。幾ら隠してきたとはいえ、今迄の任務に出ていた姿形をしていては不味いだろう。ほれ」
そう言って手を出し催促する素振りをする老師に、渋々といった面持で眼鏡を外し手渡す五飛。
「心配するな、せいぜい全身装甲を省くのと出力リミッターを設けるくらいだ。リミッターの方も任意で解除できるようにしておこう」
プリベンターのエージェントが操るISは、元々は五人の科学者によって別個に開発されていた。五人とも優秀な科学者であり、各々の得意分野ならば、かの天災科学者篠ノ之束に匹敵するレベルである。
五飛のアルトロンはその五人の科学者の中でも機体駆動制御のエキスパート、老師Oが開発したものである。それほどの科学者達が何故表舞台に出ずにこのような立場にいるのか。
実の所、五人ともこれまた篠ノ之束には及ばないものの揃って奇人変人なので、研究成果が注目される事もなければ、本人達が表に出る気も無かった。
「心配するな、任務に就くまでには終わるからお前はその間下準備に入っていればいい」
「さっきからレディも準備だ入学だと訳の分からん事を言っていたが、一体何の事なんだ」
少々の苛立ちを含ませ不満を述べる五飛。
説明を求めるために老師からレディに顔を向けると、彼女は先程の真面目な表情から一転、満面の笑みを浮かべ五飛の肩を叩きながら告げた。
「おめでとう、あなたは今日から世界で二人目の男性IS適性者よ」
「…は?」
横で二人の会話を聞いていた老師は堪らず噴出した。
五飛とは彼が幼少の頃から親交があったが、五飛がここまで間の抜けた顔と声を人前に晒したのはこれが初めてだった。
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なんだかんだで五飛は今、中国政府管理の元、IS関する最低限の知識と経験を学んでいた。勿論素人を装っての事だが。
カバーストーリーはこうだった。
織斑一夏の登場直後から、彼に続けと言わんばかりに世界中で男性対象のIS適性検査が実施されていたが、一人も後に続くものは現れなかった。
ドイツのギムナジウムに留学していた五飛はドイツでも検査を受けることは可能だったが、どうせならばと一時本国へ戻り検査を受けることにする。
そして発覚するIS適性。そう簡単には見つからないかと殆ど諦めていた担当者にとって、これほど嬉しいことは無かった。事実五飛の手を取り、上下に大きく振りながら泣いて喜んでいた。
しかしそこで問題が浮上する。
当然の事ながら貴重な男性適性者である。中国としても、彼には是非とも専用機を用意してデータを取りたいのだが、如何せんコアはあっても技術も予算も既存の国家代表及び代表候補生等に注いでしまっている為、五飛の専用機開発にまで手が回らない状況だった。
人手を割けば何とかなるかもしれない。だが中国としても男性IS適性者に尽力し過ぎて、それ以外の所属IS方面がおざなりになるのは躊躇われた。
そこで、ある財団が名乗りを上げた。アラブ随一の豪商ウィナー財団である。
現ウィナー財団の当主カトル=ラバーバ=ウィナーは、早くして両親に先立たれる不幸に見舞われながらも血筋に相応した社交性と度量を持ち、加えてあどけなさを残した中世的な顔立ちから経済界の女性達に絶大な人気を誇っている。
芸術的センスに優れ、感受性も豊か。性格は心優しく穏やかと非の打ちどころのない、正しく「砂漠の王子様」だった。
ともかく、そんな状況でウィナー財団から資金・技術両面での支援の打診、喉から手が出るほど欲しい代物だった。
だが中国政府は、これに乗じて五飛を中東方面の所属に取り込もうとする可能性を危惧していた。しかし不思議な事に、ウィナー財団が見返りとして要求したのは、僅かばかりの男性IS適性者の稼働データと、引き続き中国との友好関係の維持、それぐらいのもの。
当然何か裏があるのではと思われたが、いずれIS学園に身を置くことになれば多少のデータ共有は元より致し方無いと割り切っていた事に加えて、中国も御多分に漏れず、昔に比べて政治の中枢に身を置く女性の数が増えていた。
そんな女性達からの強烈な受け入れ賛成意見もあって、中国政府はそれほど時間を掛けずにウィナー財団の提案を受け入れた。
上手い嘘をつくにはその中に僅かな真実を混ぜる、とはよく言ったものである。
事実、五飛はギムナジウムに籍を置いていた過去があるし、そちらの方に根回しも済んでいるので発覚する心配は無いだろう。
勿論ウィナー財団が五飛のISを開発するというのはフリ。後日調整が済んだアルトロンがウィナー財団を通じて送られてくるだけだ。
カトル=ラバーバ=ウィナーは、ウィナー家現当主にしてプリベンターのエージェントでもあった。
「どうですか五飛、有名人になった気分は」
「性に合わん。こんな役回りはお前かデュオ辺りが適当だろうに」
訪中の際、カトルは五飛に個人的な会談の場を求めた。
普通に考えれば、ISを動かせる男性に興味を持つのは同じ男性の立場として自然だろう、中国政府は快く許可した。幸い二人は年頃も近い。互いにプライベートな交友関係が作られれば、より強固なパイプになるという少々の打算も含めて。
「僕はもう十分有名人ですから。これ以上の多忙は僕も御免ですよ」
カトルは苦笑しながら答えた。五飛には知らされていないだろうが、これもレディの目的の一つなのだろうとカトルは察していた。
プリベンターのエージェントは全員表の顔を持っている。ある者はジャンク屋を営み、ある者は国際IS委員会メンバーの一人にSPとして仕えている。またある者はサーカスの花形ピエロ、そしてウィナー家当主のカトル。唯一五飛が表の顔を持っていなかった。
身分を隠す為にも必要ではあるし、何より彼らは『自分達を必要としない世界』の為に戦っている。それが何時になるか、はたまた本当にそんな時代が来るのか。それは誰にも分からなかったが、自分たちに死ぬまでプリベンターである事を要求してはいないだろう。
いつか来た時の為に、五飛にも用意させておきたかったのだろう。そんなレディのささやかな気遣いを、カトルは持ち前の神懸かり的な直感で察していた。
「ふん、こんな回りくどい事をせずとも、お前ならば女物の服を着るだけで女だと通用しそうなものだがな」
五飛が冗談を言う。以前の五飛を知る者からすれば信じられない丸く成り様である。
しかし五飛の不幸は、その手の話題はカトルにとって禁忌であることを知らなかった事だろう。
見ればカトルはそれを聞いた瞬間から茶を飲む手を止め、碧色をした宝石のような瞳からは光が失せていた。
「カ、カトル……?」
「そう……五飛までそんな事を考えていたんだね……」
五飛『まで』。そう聞いた時点で五飛は地雷を踏み抜いてしまった事を悟った。
「子供の頃は、よく姉さん達のおさがりを着させられたっけなあ……それを見た大人たちは『まあ可愛い』『お人形さんみたい』『肌がすべすべで羨ましいわ~』ってね……
その手の噂や中傷はよく地元でも流れていたしね……実際、未だに疑っている人が居るのも知っている……確かに! 僕は声が高いし背も低い! 体重だって軽すぎる!
でもねえ何が悔しいって、まさか君達までそんな風に考えていたって事だ! 僕は決して忘れない…そして、決して忘れさせないよ…この日のことを! フフフ……ハハハハハ……! アハハハハハ……!」
「お、おい落ち着けカトrぶはぁっ!?」
カトルのあまりの様子のおかしさに落ち着かせようとした五飛だったが、突如カトルがそれまで向かい合って座っていたテーブルをちゃぶ台返しの如くひっくり返した。
当然正面にいた五飛にはテーブルクロスやらティーカップやらが顔面に襲い掛かり、ひっくり返ったテーブルそのものまで追い打ちを掛けてきてとんでもないことになっている。
「何事ですかカトル様! ってああ、カトル様が黒化してる!?」
「もうこうなったら私達じゃ手がつけられないわ! 直ぐに隊長を呼んできて!」
部屋の騒ぎを聞いて飛び込んできたのは、カトルの護衛部隊マグアナック隊の隊員だった。ちなみに構成員は40人、全員女性である。
状況への対応速度からして、かなりの場数を踏んだ猛者であるとともに、普段温厚なカトルが癇癪を起すのは今回が初めてではない事を証明している。
吹き飛ばされた五飛は、暴れるカトルとそれを抑えようとするマグアナック隊を呆然と見ながら、冷静にそんな事を考えていた。
少々の騒動はあったものの、落ち着いたカトルから「悪いのはこちら」と謝罪の言葉を受けてその場は事無きを得た。
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日本に赴くまでおよそ一ヶ月。五飛は政府より宛がわれた自室で一人思案を巡らせていた。
政府管理下なのだろう寮らしき建物で、入り口には警備員が立っている。
ここに来て初めて分かったことがあった。本来の実力以下に振る舞うのは案外難しいという事だ。
ISを駆るようになる前はマニュアルを読んだには読んだが、目を通した事があるのは起動に必要な最低限の部分のみ。元より才能があったのだろうか、体を通して感覚を掴む事ができ、必要なものは後付的に覚えていった。
だがISに関して素人という肩書を与えられた以上は、そのように振る舞わなければいけない。
量産型ISを使った機動訓練などは、事前にその旨を伝えてくれればすぐにでも始められると達しを貰っていたが、迂闊な事は出来なかった。
千鳥足で無様な姿を晒せばいいのか、素人と一概に言っても何が出来て何が出来ないものなのか、五飛はそういったノウハウに欠けていた。
なので暫くは座学に興じる事にした。基本知識の確認に念を入れることは無意味ではなかったし、机に向かう事など久しぶりだった分感慨があった。
五飛の一族は古来より続く戦士の一族であり、本人も幼少から武術・知識両面の教育を受け、優れた才を発揮していた。だが五飛は当時、戦士よりも学者として身を立てたいと思っていた。
歴史の流れや戦争といったものの前には、個人の存在など取るに足らないものであると、今とは正反対の考えを持っていたからだ。
それ故に争いや正義といったものを冷めた目で見ており、ISの登場により混迷し女尊男卑に移ってゆく世界を見ても、そういう時代なのだろうと思うだけであった。
たが2年前に起こったある事件が、彼の全てを変えたと言ってもいい。以降彼は己の正義を確かめるべく、また己が断じた『悪』を滅ぼすべく苛烈な戦いに身を投じるようになった。
「別にいいじゃない! 男とはいえIS使えるんでしょう!」
「困ります、この時期彼の身に万が一の事があったら……」
「何も捕って食おうってわけじゃないの! 訓練の一環って事よ!」
暫く机に向かっていると、外から何か言い争う声が聞こえてくる。
玄関まで出てみれば、そこには警備員と、警備員より頭二つも小さいだろうか、所謂ツインテールと呼ばれる髪型をした少女が居た。
「出てきたわね、貴方がISを動かせるもう一人の男?」
「実感は湧かないが、どうもそういう事らしいな。失礼だが君は何者だ」
「何よ知らないの? まあいいわ、私は中国代表候補生の
彼女の言は、初対面の人間に対する物言いでは無かった。
ここで五飛をもう一人と言ったのは、勿論織斑一夏に続く者という意味であろう。そして人の顔を見るや否や「戦え」と言っているのだ。代表候補生という事は、それに見合うIS稼働時間と腕前を持っているのだろう。
少なくとも、名目上ISに関わるようになって半月も経たない人間に対する挑戦ではなかった。
「……いいだろう、ISの使用を申請しておこう。二、三日すれば使用許可が下りるはずだ」
本来ならば五飛とて、こんな少女の我儘には付き合わなかっただろう。だが何故か、少女の無茶な言い分に反論することなく従った。
巻き込まれた形になった警備員は困り顔をするばかりであった。
確証は無かったが、五飛は感じ取っていた。
彼女の眼光と気配から、何かに囚われているように、追い立てられるように「結果」を求める彼女の心を。
後書き欄があるので、折角だから新しい試みその一(その二以降あるかどうか不明)
(脳内BGM:コードネームはヒイロ・ユイ)
新たな任務の為に中国に渡った五飛
彼はそこで、純粋であるが故に歪な少女、凰鈴音と出会う
あくまで任務と誇りの為に彼女との勝負を受ける五飛だったが、彼は思いがけず少女の心の叫びを聞くことになる
思春期を殺し切れない少年少女達の翼、第二話『鈴音の涙』