既に学園関係者には箝口令が敷かれていたが、謎のISと直接戦闘した一夏、五飛、鈴の三人は誓約書まで書かされる事になった。
とはいえプリベンターには既に筒抜けなので、あまり意味は無いものではあったが。
その後、五飛は戦闘中にISも装着せずに乱入した篠ノ之に物申そうとも思っていたが、事情を把握した千冬や一夏に烈火の如く怒られていたので自分は控える事にした。
自分が言わずとも、あの行動がどれほど危険で無謀であったかを理解出来ればそれでいい。
しかもその時一夏は「行為は許しがたいが気持ちはありがたい」的な発言をして無意識のうちにフォローを入れていた辺りが、らしいといえばらしい。
鈴の方も保健室での一件以来、以前と同じ明るさを今度こそ取り戻していた。
何かが吹っ切れたのか、むしろ以前よりもテンションが高い位である。何かと五飛に飛びついてはやれおんぶだの肩車だの、まるで幼児退行でもしたかのようだった。
本来思春期の女子とは家族に反発するような時期なのだが、鈴の家庭事情を鑑みれば甘え足りない部分もあったのだろう。その戯れは男女の仲というよりも、兄妹か父娘に似た感覚を漂わせていた。
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「お前ら以外女だけの環境か、お前からのメールを見るにいい思いしてんだろうなー。俺にも紹介しろよ」
「してねえっつの、紹介も出来ねえよ」
「むしろ気を遣う事ばかりだ、息苦しくてかなわん」
五月も終わりに近づいた頃、やっと外出許可が降りた事で長らく放置していた実家の様子を見に行くついでに旧友の家に遊びに来ている一夏。どうせならばと、新しく出来た友人として五飛を紹介したいというので五飛も同行する事になったのだ。
一夏の友人の名前は五反田弾。ロングヘアーにバンダナを巻いた、平均より身長の高い一夏よりもさらに若干背の高い青年だった。
二人は何かISの戦闘を模したようなTVゲームで対戦しながらそんな話をしており、五飛はその後ろでそれを観戦しているといった構図である。
「何だぁ? やっぱり女だけで集まると結構凄いとか?」
「あー……まあそんなところだよな、五飛」
「まあな……」
二人が微妙に言葉を濁したのは、実際凄いどころの話ではなかったからだ。
確かに男子の前なので過敏に過ぎる位の反応を見せる女子も多いが、中には男子が居るから何なのだと言わんばかりの対応を続ける女子がいるのも事実だった。
寮生活で一緒にいる時間が長い所為か、寮の廊下を下着に近い姿で歩き回っていたり。年齢的には当然なのだが、ノーメイクで起き抜けの髪のままに挨拶をして来たりと。
頭上を生理用品が飛んで行ったのを見たときは、あの一夏ですら顔を引き攣らせて溜息しか出なかった。
そういうのが良いという嗜好の人間もいるであろうが、多数の男子にとっては幻想を砕かれる事だろう。一概に良い環境とは言い難かった。
見た所この五反田弾という青年、口ぶりからするに多少の幻想を持っている手合いだった。
「だけど五飛や鈴が来てくれて助かったよ、男一人であの中に居るってのはぞっとしないぜ」
「あ~、鈴か、鈴ねえ……」
妙に思わせぶった感で鈴の名を口にする弾。どうやら彼も、鈴が以前一夏に好意を寄せていた事を知っているようだ。
その時、部屋の扉が何かがぶつかる音と同時に勢いよく開けられた。扉の前には、弾と同じようにバンダナを巻き髪を纏め上げ、いかにも家着といったラフな服装をした少女が居た。
足が突き出ているのをみると、恐らく扉を蹴飛ばして開けたが故のあの音だった。
「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん! さっさと食べに来な……い! 一夏さん!?」
「あ、蘭。久しぶり、邪魔してる。五飛、彼女が弾の妹の五反田蘭」
「張五飛だ、邪魔させて貰っている」
一瞬呆けた顔を見せるも、自身のだらしない服装に気付いたのか咄嗟に身を隠した。最低限の身なりを整えているのだろう。
半身を覗かせながら応じる蘭。そして例によって、その顔は紅潮している。五飛は嫌な予感がした。
「い! いや、あ、あの……き、来てたんですか?」
「今日はちょっと外出にな。家の様子を見に来たついでに寄ってみた、新しい友人も紹介したかったし」
「あ、テレビで見た事あります。一夏さんと同じように中国で見つかったっていう男性の……」
先程の粗野な態度と言葉使いとはうって変わって、妙にたどたどしいというか、緊張しているような風だ。
「蘭、お前なあノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ……」
そう弾が言った瞬間、射殺さんばかりの視線を兄に向ける蘭。そして顔をさっと青くする弾。兄の威厳などあったものではない。
「……なんで言わないのよ……!」
「い、言ってなかったか、そうか、そりゃ悪かったな、ハハ……」
握り拳を作りながら小声でドスを利かせる妹に、青ざめた顔のまま乾いた笑いで返答する兄。そして、それを不思議そうに見つめている一夏。
これも一つの才能と呼ぶべきか。こいつは一体過去に何人女を惚れさせているのだろう。
蘭からの勧めもあったので、一夏と五飛も五反田家で昼食を取ることにした。五反田家は食堂を営んでおり、確かな味であった。
そこには余所行き用かと思うくらいの色直しをした蘭も同席していたのだが、そこでも一夏は「デートにでも行くのか」と無慈悲な煽りを平然と言ってのけたり、蘭が「IS学園を受験する」とまで言い出したりで、かなり騒々しい食事になってしまった。
「……弾と言ったか、一夏は以前からこの調子なのか?」
「ああ……ってことはやっぱりIS学園でも?」
二人揃って溜息しか出なかった。
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「今日はなんと! 転校生を紹介しまーす!」
休み明けの月曜朝のSHR、山田真耶が分かりやすい位の上機嫌でそう声を上げた。
四月の入学に間に合わない、ないしそれぞれの所属の事情もあって遅れて転入というのは、数が多いわけではないが、別段珍しい事でもない。
彼女のテンションが妙に高いのは、その転校生自身に由来していた。
「シャルル=デュノアです。フランスから来ました、この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
男である。
礼儀正しい立ち振る舞い、中世的な整った顔立ち、濃い金髪を後ろで束ね、身長は若干低めなもののすらりと伸びた脚。
「お、男……?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を……」
クラスから誰ともなく上がった声に答えるように彼は続けた。一夏や五飛と同じ、それだけで彼女達にとっては充分な答えであった。
一夏は呆気に取られていたが、五飛は無言のまま耳を塞いだ。次の瞬間襲いくるであろう衝撃に備えて。
『きゃああああああーーーーーっ!!!』
「男子! 三人目の男子!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
つんざくような黄色い悲鳴を上げるクラスメイト達。一夏や五飛のような外見からして男性然としたタイプとは正反対の印象に、クラスの女子達は想像以上に興奮していた。
だが五飛にはそれが男には見えていなかった。いや、本当に男なのか確信を持てていなかった。
確かに仕草や振る舞いに不自然な点は見られない。だがその呼法、重心の掛け方からは目の前の人物は女であると報せていたからである。
何よりも、フランスで男性IS適性者が発見されたという情報は一切入ってきていない。
しかし五飛には、カトルという前例があった。世の中には女性と思われても可笑しくない男性というのは確かに存在する、彼もその一人なのかもしれない。
もしそれが、本人が気にしている事だとしたら。カトルに暴れられたトラウマが、五飛の正確な判断力を鈍らせてしまっていた。
「騒ぐな、静かにしろ! 今日は二組と合同でIS実習を行う、各員は直ぐに着替えて第二グラウンドに集合。それから織斑と張はデュノアの面倒をみてやれ、同じ男同士だろう。では解散!」
千冬の鶴の一声で、それまでの喧騒が嘘の様に静まる。指示が終わると授業の準備に再び騒がしくなるが、一夏と五飛は直ぐに移動しなければならなかった。
「君が織斑君に張君? 初めまして、僕は」
「ああいいからいいから、とにかく移動が先だ。女子が着替え始めちまうから」
咄嗟にデュノアの手を掴み、引っ張る様にいそいそと教室から出てゆく一夏とそれに続く五飛。そして五飛はデュノアが一夏に手を握られた瞬間の反応を見て、さらに疑念を深めていた。
「俺達はアリーナの更衣室で着替えるんだ。実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれよな」
「それに今日は急がねばならん理由がもう一つあるからな」
だがいくら性別を偽るような真似をしていても、流石に着替えを同じくすればバレないわけはない。その時に確かめられるだろう。
「あ……う、うん……」
「どうしたそわそわして、トイレか?」
「ち、違うよ……」
というよりも、それ以前にかなりバレバレである。一夏に握られた手を見ては頬を上気させているそれは、何処からどうみても男性に免疫のない女の顔であった。
男性らしい仕草や立ち振る舞いについてはある程度訓練は積んだのだろうが、男性と接する為の訓練は積んでいなかったらしい。
そんな予想を立てていると、今日はさらに急がねばならないもう一つの理由が襲ってきた。
「あっ噂の転校生発見!」
「しかも織斑君と張君も一緒!」
「見て見て手握ってる! 創作意欲が掻き立てられるわ!」
目の前の廊下の曲がり角から飛び出して来た女生徒三人。それが呼び声となって、続々と集まってきた女生徒に取り囲まれる三人。
もう一つの理由とはこれだった。男子の転校生となれば、女子の野次馬と質問攻めの標的になるのはこの環境では当然といえば当然である。
だがまともに相手をしている時間はない。少しでも授業に遅れようものならば、担任である千冬からの厳しい懲罰を課せられてしまう。
「一夏、デュノア、悪いが先に行かせて貰うぞ」
「あっ五飛! 薄情者ー!」
「えっ!? ここ二階……!」
咄嗟に開いていた廊下の窓から飛び出す五飛。
廊下の前後を取り囲まれ、引くも押すも出来ない状況から逃げ出すのは一夏と五飛にとってはこれが初めてではない。加えて時間も圧している状況などの時は、五飛はよくこの手を使っていた。
少々非常識な手ではあるが、二階程度の高さからの着地など五飛にとっては造作も無い事だ。
「あっ張君が逃げた!」
「待ってー! せめて三人揃って写真だけでもー!」
「織斑君と早速手を繋ぐデュノア君に嫉妬して拗ねる張君! あーん夏に間に合うかしら!!」
結局一夏とデュノアも、完全に取り囲まれる前に脱出出来たものの、更衣室には大分遅れた到着となってしまった。見れば五飛は既に半ばまで着替え終わっている。
「うわっ時間ヤバいな! 早いとこ着替えちまおうぜシャルル」
「わあっ!?」
「どうしたデュノア、荷物でも忘れたのか。早く着替えんと遅れるぞ」
一夏が上半身になった途端、頓狂な声を上げるデュノアに疑問をぶつける五飛。やはり男性の身体に免疫はないのだろう。
「いっいや着替えるよ? でも、その、あっち向いてて欲しいなあ……」
「そりゃまあ人の着替えをジロジロ見る気は無いけど……シャルルは見てるな、俺の身体何か変か?」
「見てない! 別に見てないよ!?」
見るなと言われてしまえば致し方無い、これでも見ていようものなら変質者になってしまう。
五飛は最後の仕上げを終え、一夏もデュノアからの妙な視線に気づいたのか、五飛と同時にデュノアの方に振り返る。
だがデュノアは既に最後のジッパーを引き上げ、着替えを終わらせていた。ISスーツ上から見ても、やはり外見上は男にしか見えなかった。
流石にそう簡単に尻尾は掴ませてくれないようだ。
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やはり一夏とデュノアは遅れてしまい、五飛もそれに付き合う形で千冬からの制裁を受けてしまった。授業に差し障りの無いよう出席簿を頭に落とされるだけで済んだのは不幸中の幸いだったか。
「では本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する。オルコット、凰、前に出ろ。戦闘を実演して貰う」
専用機持ちで、既に一通りの訓練を経ているので、直ぐにでも実演を始められるであろう代表候補生二人を呼ぶ千冬。
「鈴さん、授業だからといって手加減はいたしませんわよ」
「ふふん、こっちの台詞。返り討ちよ」
「慌てるな馬鹿ども、今回の対戦相手は……」
千冬がそう言いかけた所で、何かが空を裂く音が聞こえてくる。上空を見れば、量産型IS『ラファール・リバイブ』を纏った山田真耶が降りてきていた。いや、落ちて来ていた。
「あああああーっ! どいてください~っ!」
「へ?」
一夏が気付くも時既に遅く、真耶は一夏にぶつかった後数メートルは吹っ飛び、二人揃ってもんどり打ちながら地面を転がった。
かろうじて白式の展開が間に合ったようで、二人とも怪我は見られない。だがここでも一夏の才能が発揮されてしまっていた。
「あ、あのう、織斑君? そ、そのですね。困ります……こんな場所で……。ああいえ! 場所が良ければいいという意味ではなくて! 私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね!」
白式を展開した一夏の手が、真耶の豊満な胸を掴んでいた。傍から見れば確かに一夏が真耶を押し倒している様にしか見えない。単なる事故である筈なのに、真耶は妄想の世界へトリップしてしまっている。
常の服装ではなく全身にフィットしたISスーツを着ている所為だろうか、大きな真耶の胸が殊更大きく見えている。しかも白式の手でようやくすっぽりと収まる程の大きさ、戦闘の邪魔にならないのだろうか。
その姿に嫉妬したセシリアのスナイパーライフルが一夏の額を掠めた。咄嗟に上体を起こさなければこめかみに直撃していたコースだった。セシリアは笑ってはいるが、額に青筋を浮かべている。
何故その展開速度を実戦で使えないのかと疑問に思っていた五飛だったが、急に背中に鋭い痛みを感じて振り返った。
列の前に出ていた筈の鈴がいつの間にか五飛の後背に回り込み、背肉を抓っていた。
「……何をする」
「べっつに! ふんだ鼻の下伸ばしちゃって! あたしだってあれくらいあれば……!」
鈴は五飛が真耶の胸に注目していた事が気に喰わなかったらしい。下心があったわけではないし鼻の下を伸ばしていたつもりもないのだが、そんな釈明をこの場でしても見苦しいだけなので言われるままにした。
どうやら彼女は真耶の胸に注目していた五飛だけでなく、真耶の胸の大きさにも嫉妬していたようだった。自分の胸の小ささを気にしていたのか、胸の大きさで人間の価値が決まるわけでもなかろうに。
「胸の大きさで人間の価値が決まるわけでもあるまい、些細な事を気にするな」
「えっ……それって、五飛は小さくても……」
「織斑先生が呼んでいるぞ、出席簿を喰らいたくなければ急げ」
言葉を遮られ、むうと頬を膨らませながらも大人しく列の前に戻る鈴。
セシリアと鈴の相手というのは、山田真耶であった。流石に二対一に難色を示した二人であったが、千冬の「今のお前らでは勝てない」という言葉が気に障ったのか二人は瞳に闘志を滾らせた。
確かに二人は真耶に勝てなかった。惨敗と言ってもいい結果であった。
シールドも駆使した真耶の回避術は見事で、これまた正確な射撃によりセシリアを、別方向から龍咆で仕掛けていた鈴にぶつかるように誘導していた。
元々連携訓練も碌にしたことのない二人に加え、言い換えれば二人がそれだけ周囲に気を配る余裕がない程真耶の射撃と回避が正確だったということだ。
射撃戦重視であるブルーティアーズの戦法を考え、同士討ちを避けるために自身も射撃戦を行っていた鈴の戦法も裏目に出てしまっていた。
試合中、隣では千冬の指示を受けてデュノアが真耶の使っている量産型IS『ラファール・リバイブ』の解説を行っていた。
言い淀みの一切ない、極めて分かりやすく適切な説明。どうやら一夏とは違い確かな知識を備えての転入のようだ。
真耶の思惑通りに衝突した二人は、動きが止まった所をグレネードランチャーによって纏めて撃墜された。
撃墜された無様な姿のままいがみ合う二人を尻目に、千冬が説明をしたところ真耶は元代表候補生だったそうだ。当人は謙遜していたが、現代表候補生二人を量産機で手玉に取る手腕である。
セシリアと鈴が実力不足なのか、真耶が今なお根を詰めて訓練に励んでいるかのどちらかであることは明白だった。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力が理解出来ただろう。以後は敬意を持って接するように」
どちらにしても、普段のどこか抜けた感の否めない真耶の姿からは想像出来ない、見事な技前であった。
「では次に八人グループになって実習を行う。各グループのリーダーは専用機持ちが行う事、では別れろ」
「織斑君、一緒に頑張ろう~」
「張君、分からない所は厳しく罵って! 時には優しく教えて!」
「デュノア君の操縦技術見てみたいな~」
だが授業の進行を支持する千冬の言葉が終わった瞬間、ニクラス分の女子が一夏、五飛、デュノアに殺到してきてしまった。
「この馬鹿どもが……各員は出席番号順に各グループに入れ! 次にもたつくようなら今日は展開したISを背負ってグラウンド百週だ!」
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「どうしてこうなった……」
昼休み、一人恨み節を吐く篠ノ之を含めて一夏達は屋上に居た。
いつものメンバーに加えて今日はデュノアを交えて皆で昼食を取ることになった。元々午前の実習中、篠ノ之が一夏と昼食を取る約束を取り付けたらしいのだが、そこでも一夏は才能を発揮していた。
恐らく篠ノ之の言は二人きりで、という意味だったのだろうが一夏は皆で食べた方が上手いと皆を誘った。
当然ながら篠ノ之の考えを見抜いたセシリアは対抗心剥き出しである。その微妙な空気を読み取ったのか、デュノアも自分が場違いなのではないかと疑問をぶつける。
「ええと、本当に僕が同席してよかったのかな」
「折角の昼飯だし大勢で食った方が上手いだろ? それにシャルルは転校してきたばかりだし右も左も分からないだろうし」
「そ、それはそうだが……」
ぐぬぬと納得が行かない様子の篠ノ之。IS学園は全寮制なので三度の食事は世話されているが、弁当を持参したい生徒の為に早朝は食堂の厨房は開放されている。そして篠ノ之の手には、弁当の包みが二つ。
成程、その為に一夏を誘ったのかと五飛は得心がいった。
しかも偶然なのか示し合わせたのか、今日は揃いも揃ってセシリアと鈴も弁当を作って来ていた。篠ノ之は和風メイン、鈴は件の酢豚、セシリアはサンドイッチの詰め合わせと言った感じだった。
「おお、酢豚だ!」
「そ、あんた前に味見役してもいいって言ってたでしょ」
「ンンッ! 一夏さん、今朝は私もたまたま偶然朝早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの。よろしければ五飛さんもお一つどうぞ」
「そうか、では有難く頂こう」
一夏は鈴の酢豚に、五飛はセシリアのサンドイッチにそれぞれ食指を伸ばす。だがセシリアのサンドイッチを口にし二度三度咀嚼した瞬間、五飛の顔からみるみるうちに汗がふき出した。
五飛は確かに卵のサンドイッチを食べた筈だった。だが口の中には何故か食塩やマヨネーズといった調味料の味ではなく、砂糖の甘味とマスタードの辛さが混合したようなえも言われぬ味が広がった。
思わず吐き出しそうになってしまう五飛だったが、セシリアが丹精を込めて作った物を本人の前で粗末にするわけにはいかない。それ以前に、食べ物を粗末に扱うという発想は五飛には存在しない。
なんとかして飲み込んだ五飛は、セシリアを傷付けない程度に精一杯の苦言を呈した。
「……セシリア、味見をしたのか?」
「え? いえ、自分では……」
「恐らく調味料を間違えている、気をつけたほうがいい」
そんなまさかと言った表情で自分のサンドイッチを頬張るセシリアだったが、当然の事ながら顔を青くしてむせ返っていた。
どうやらレシピ通りに作ったのではなく、レシピに載っていた写真に似せて作ること、見た目を重視し過ぎて味は二の次になってしまっていたようだ。見た目は完璧であるだけに勿体ない。
「うん、美味い! これなら謙遜しないで今からでも約束守って欲しいくらいだぜ」
気落ちするセシリアの傍ら、鈴が作ってきた酢豚をひょいひょいと頬張っている一夏。だが鈴の表情は歓喜のそれではない、やってしまったというバツの悪い表情だった。
「ほほう……約束、だと?」
「鈴さん、ちょーっと詳しく聞かせて頂きたいのですが?」
約束という言葉に反応して、篠ノ之とセシリアが睨みを利かせる。鈴は一夏が約束の事を口にするとは考えていなかったようで、慌ててこの難局を誤魔化そうと奇声を上げながら思案していた。
「わわ! わーっ! そそそんな事ないわよこんなのまだまだよ! ほ、ほら五飛! あんたも食べてみなさい!」
自分の箸で酢豚を一掴みし、半ば強引に五飛の口へ押し込む鈴。実際の所はまだまだというレベルではない、立派に人に出せる味であった。
だが五飛が咀嚼している間、鈴はひたすら目で訴えかけて来ていた。話を合わせろ、と。
鈴自らの不注意で引き起こした状況ではあるが、口に含んでしまったものは仕様がない。五飛も鈴に合わせてやることにした。
「……確かに、まだまだだな」
「でしょう!? というわけでまだまだ先の話ってことで!」
「あ、これってもしかして日本ではカップルがするっていう『はい、あーん』っていうやつなのかな? 仲睦まじいね」
そんな二人のやりとりを眺めていたデュノアが、得心がいったように言葉を発した。そう見られることもままあるが、五飛は鈴と自分が男女の仲であるつもりは無い。
その言葉を聞いた篠ノ之とセシリアは鈴を追及することなど二の次にして、あの手この手で一夏にその真似事をしようと、また自分にさせようとさや当てを始めていた。
そのような日本の風習を知らなかった五飛は素直に感心し、なんとか難局を誤魔化した鈴は半泣きになりながらも顔を真っ赤にさせて乾いた笑い声を上げるのみだった。
山田真耶のバストは実際豊満であった。キャバァーン!