「そ、それは本当ですの!?」
「なんだか怪しいわねえ……そもそも当事者が当事者だし……」
月曜日の朝、教室に向かっていた一夏達は廊下にまで聞こえる声に目をしばたたかせた。
「何だ?」
「さあ?」
「朝から元気な事だな、女子は」
一夏は勿論、隣に居るデュノアも事の内容は知らないようだ。
何か噂話のようだが、IS学園のような閉塞された空間、それも十代の女子が殆どの人口を占める場所での噂話など常に尾ひれどころの話では済まない位脚色されている場合が多い。
今回もそのようなものだろうと高を括っていた。
「本当だってば! この噂で学園中持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際……」
「俺がどうしたって?」
『きゃああっ!?』
一夏がクラスに入り、女子達に声を掛けた途端に取り乱したような悲鳴が上がった。
五飛は、一夏が割って入る直前まで女子達が喋っていた言葉尻を捉えており、まさかと思って篠ノ之の座席へ目を見やる。
篠ノ之は表面上平静を装っているが、日本の六月の湿気に反して爽やかな陽気となった今日にも関わらず、額には先程から妙な汗が流れ続けている。
もはや五飛の予想は決定的だった。
「で、何の話だったんだ? 俺の名前が出ていたみたいだけど」
「う、うん? そうだっけ?」
「さ、さあ、どうだったかな~」
クラスメイトの谷本癒子とセシリアはあははうふふと言いながら話を逸らそうとする。一夏には聞かれたくない内容を話していた事は明らかだ。
鈴は一夏とその二人を冷ややかな目で見つめつつ、溜息をつきながらその場を後にした。
「はぁ……じゃ、あたし自分のクラスに戻るから」
「そ、そうですわね! わたくしも自分の席につきませんと」
どこかよそよそしい様子でその場から散っていく女子達。だが鈴が五飛とすれ違った瞬間、耳打ちをするように五飛にだけ聞こえる程度の小声で告げてきた。
「あとで教えてあげるわ。ま、一夏のいつものビョーキ絡みだろうけど」
後の休み時間、一夏が席を外した隙に鈴から聞いた噂の内容は『学年別トーナメントの優勝者は織斑一夏と交際できる』という、理解に苦しむ噂だった。
「まったく、一体全体何がどうなってそうなったんだか」
「……」
そうごちる鈴だったが、噂の出所であろう現場に遭遇していた五飛は沈黙を保ったままだった。あの篠ノ之の宣言だろう、それ以外に考えられない。だがそれもそうだ、寮の廊下でああまで高らかに宣言しては誰かに聞かれないわけがない。
それを聞いた幾人かの女子達が脚色して触れ回った末、噂を流した本人達にも手の負えない位に尾ひれがついて広まってしまった、そんなところだろう。
しかし本人の了承もあるのかどうか不確かな噂をよく信じる気になれるものだ。何にせよ、そんな一夏本人が言い出したわけでもない約束事、学年別トーナメントが終わればその瞬間立ち消えになるだろう。
五飛にとってその噂話は、その程度のものだった。
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「ヤ!」
「ム!」
二人揃って奇妙な声を上げてしまった。時間は放課後、場所は第三アリーナ。その二人は鈴とセシリアだった。
「奇遇ね、あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」
「奇遇ですわね、わたくしもまったく同じですわ」
闘志と闘志のぶつかり合いによって二人の間の空気が歪むような錯覚が起こる。どちらも狙うは優勝、セシリアは噂を信じて意中の人と付き合う為、鈴は戦いの中で己をさらに鍛えんが為。
だがここで全力を出した所でこれはあくまで訓練。この場で勝敗を決するのはいいが、力を振り絞り過ぎて互いに手の内を見せすぎるのは無意味と鈴は判断した。
「ちょうどいい機会だし、この前の実習の件も含めてどっちが上かはっきりさせる……ってのもいいけど、ここは一つスパーリングで抑えときましょうか」
「……まあ、良いでしょう。どちらの方がより強くエレガントであるか、決着の場はトーナメントにとっておきましょう」
鈴の意見に賛同するセシリア。口ではああいったものの、セシリアもここで全力を出せば互いに無傷というわけにはいかない事は分かっていた。
待機状態にしておけばある程度の自己修復機能が働くが、ダメージを引き摺ったまま学年別トーナメントに挑むのは得策ではない。
「では……」
双方ともメインウェポンを呼び出すと、それを構えて対峙する。が、互いに飛びかかろうとした瞬間。音速の砲弾が二人の間を飛来した。
緊急回避の後、鈴とセシリアは揃って砲弾が飛来してきた方向に向き直ると、そこにはあの漆黒の機体『シュヴァルツァ・レーゲン』を装着したボーデヴィッヒが佇んでいた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
「……どういうつもり? 横合いからいきなりぶっ放すなんて」
苦く強張った表情を浮かべながら敵の名をつぶやくセシリアに、連結させた双天牙月を肩に担ぎながら話しかける鈴。
セシリアの方は分からないが、鈴は今ボーデヴィッヒとやり合う気は全く無かった。千冬直々に扱かれたであろう技量もさることながら、鈴やセシリアも本国の軍とは多少の関わりはあったとはいえ、敵は本職である軍人。
生半な相手ではない。如何に二人掛かりで相手をしたとしても、先日の授業では連携の不得手が露呈してしまった二人でどこまで出来るものか。
しかも先日の五飛とのやり取りもあり、恐らく今のボーデヴィッヒの態度と鈴の言葉では、彼女の心には届かない事を分かっていた。
「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」
だが鈴の意思も虚しく、ボーデヴィッヒのいきなり挑発的な物言いを浴びせて来た。相手は明らかにこの場でぶつかり合う気満々であった。
見ればセシリアの方は口元を引き攣らせている、不味い兆候だ。
「あらあら、ドイツの方と言うのは言語をお持ちではないのかしら? それとも闇討ちでもしなければわたくし達に勝てないと知ったうえでの行動かしら」
「……悪いけど、今あんたとやり合う気はないの。訓練っていうなら付き合うけど、本気モードは学年別トーナメントまで取っておきなさい」
どこまでも見下すかのようなボーデヴィッヒの目つきと物言いに並々ならぬ不快感を抱いたセシリアだったが、なんとか怒りのはけ口を言葉に見出そうとしている。
望みは薄い、だがここで相手が引き下がってくれれば何とかなる。が、その希望的観測はものの見事に砕かれた。
「はっ……二人がかりで量産機に負けたそうだな? その程度の力量しか持たぬ者が専用機持ちとは。数くらいしか能の無い国と、古いだけが取り柄の国ではそれが関の山か」
何かが切れたような音を鈴は聞いた。セシリアが装備の最終安全装置を外している。
「やめなさい! あんたもセシリアも、こんな所でやり合ったって何にもならないでしょうが!」
「鈴さんはくやしくないんですの!? 鈴さんにその気がないのであればわたくし一人でも……!」
「はん! 二人掛かりでも一向に構わんぞ? 一足す一は所詮二にしかならん、下らん種馬を取り合うような雌にこの私が負けるものか」
確かにセシリアの言う通り鈴とて怒りの感情はあるし、ボーデヴィッヒの勘違いしているらしき発言も訂正させたい気持ちはあった。
だがボーデヴィッヒの傲岸なまでの自信に裏打ちされた執拗なまでの挑発に乗ってしまえば、その時点で勝負は敵のペースに乗せられたまま始まってしまう。
「場に居ない人間まで侮辱するとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限り。その軽口、二度と叩けぬようにいたします!」
「とっとと来い」
鈴を振り払い、得物を握りしめる手にきつく力を込めるセシリア。それを冷ややかな視線で流すボーデヴィッヒは、僅かに両の手を広げて手招きをする。
「ああんもう! 結局こうなっちゃうわけ!?」
最後の最後まで回避する術を模索していた鈴だったが、セシリアもボーデヴィッヒも既に臨戦態勢に入ってしまった。
こうなってしまった以上、セシリア一人を置いて自分だけ退くわけにも行かなくなった事を悟った鈴も双天牙月を構えなおす。
完全に頭に血が上ってしまったセシリアをどこまでフォローできるか分からない、しかも幸か不幸か今日のアリーナには自分達三人以外に殆ど人影が見えない。
先日の様に周囲に被害が及ぶ心配は無い、だがもし大事に発展してしまった場合、発見も連絡も大幅に遅れてしまう。
ボーデヴィッヒを抑え込めるだけの力量があるかどうか自信の無い己の腕と、今日この日に居合わせてしまった間の悪さに嘆く頭を切り替え、今は目の前の敵をどう対処するかだけに思考を働かせる。
この場に居ない、いつ来てくれるのか定かではない人物に心中で謝罪を述べながら。
「(ごめん五飛、ちょっと不味い事になるかも……!)」
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「一夏、今日も放課後訓練するよね?」
「ああ、勿論だ。今日使えるのは、ええと……」
「第三アリーナだ」
「わあっ!?」
廊下で一夏、五飛、デュノアの三人で並んで歩いていた所に、いきなり予想外の声が飛び込んできた事に驚く一夏とデュノア。
五飛は既に気配を察していたので、別段驚くことはなかった。むしろそこまで驚くことだろうか、訓練用ISの空きがなくとも篠ノ之が訓練に同席するのは日常である。
「……そんなに驚くほどの事か、失礼だぞ」
「お、おう、すまん」
「ごめんなさい、いきなりの事でびっくりしちゃって……」
「あ、いや別に責めているわけではないが……」
律儀に頭を下げるデュノアに、流石の篠ノ之もその気勢が削がれてしまっているようだ。
「ともかく、第三アリーナへ向かうぞ。今日は使用人数が少ないらしい、上手くすれば本格的な模擬戦も出来るだろう」
場を仕切りなおすようにそう言う五飛に従って、気合を入れなおして第三アリーナに歩を進める一夏達。
だが様子がおかしい。アリーナに近づくにつれ何やら慌ただしい様子が伝わってくる。先程から廊下を走っている生徒も多い。
どうやら目的地の第三アリーナで何かが起こっているようだった。
「何だ?」
「何かあったのかな? こっちで先に様子を見ていく?」
観客席へのゲート方向を指しながらそう提案するデュノア。確かにその方がピットへ入るよりも早くアリーナの様子を伺う事が出来る。
そこへ同じように騒ぎを聞きつけた女生徒達が、話をしながら足早に一夏達を追い越してゆく。
「第三アリーナで代表候補生三人が模擬選やってるって!」
刹那、その場にいた全員に閃く物があった。だがその閃きは、最悪の予想。
「五飛!」
一夏が確認の意味も含めて五飛の方を向く。だがそこには五飛の姿は無かった。
五飛は女生徒達の話を聞いた瞬間に疾風の如く駆け出し、既にその女生徒達を追い抜き、遥か前方の観客席入り口まで辿り着こうとしていた。
五飛が観客席に辿り着くと同時に、アリーナ中央で大きな爆発が上がった。
その煙を切り裂くように二つの影が飛び出てきた、いや、吹き飛ばされてきていた。
「鈴! セシリア!」
エネルギーシールドで隔離されているステージから此方に爆発が及ぶ事は無い。だがこちら側からの声も二人には届いていない。
二人は苦い表情のまま、爆発の中心部へと視線を向ける。そこに居たのは、やはり漆黒のISを身に纏ったラウラ=ボーデヴィッヒだった。
鈴とセシリアのISはかなりのダメージを負っている。機体は所々損傷しており、アーマーの一部は完全に欠損している。
ボーデヴィッヒの機体も無傷とまではいかないが、二人の損傷に比べれば微々たるものであった。
周囲の観客である女生徒達は、これはあくまで模擬選であると前提して観戦している。だがボーデヴィッヒの様子は模擬戦のそれではない事は、五飛には読み取れていた。
連携が不得手とはいえ、専用機を持つ代表候補生二人をあそこまで圧倒する技量とISの性能。そして本気ではないと信じたいが、所々に覗かせている殺気。
鈴の甲龍が龍咆を放つも、ボーデヴィッヒはそれを回避しようともしない。回避する必要など無かったのだ。
「無駄だ。このシュヴァルツァ・レーゲンの停止結界の前ではな」
「くっ! まさかここまで相性が悪いだなんて……!」
何か見えない障壁の様なものを展開させているのか、ボーデヴィッヒは右手を突き出しているだけで衝撃砲を完全に無力化しており、すぐさま反撃へと転じた。
肩に搭載された刃が左右一対で射出されたワイヤーブレードが複雑な軌道を描いて鈴の迎撃を潜り抜け、鈴の右足を捉える。
「AICだ……」
「そうか、あれを搭載していたから龍咆を避けようともしなかったのか!」
「AIC?」
遅れて追いついてきた三人がシュヴァルツァ・レーゲンの能力を見てそう言った。一夏は初耳と言った顔をしていたが、デュノアと篠ノ之はあの能力を知っていた。
シュヴァルツァ・レーゲンに搭載されている、ブルーティアーズや龍咆と同じくインターフェースを利用した第三世代型兵器、アクティブイナーシャルキャンセラー。
全てのISの基本動作である浮遊、加速、停止行動を行うシステム、パッシブイナーシャルキャンセラーの技術を応用したそれは、捕えた標的の慣性を完全に停止させるというものである。
五飛も知識として知ってはいたが、第三世代ISそのものが試験運用段階でありながら既にここまで実戦可能なほどに完成精度を高めていたとは終ぞ思っていなかった。
「そうそう好きにはさせませんっ!」
鈴の援護の為にビットを射出し、ボーデヴィッヒへ向かわせるセシリア。
だがボーデヴィッヒはそこでも右腕を突き出し、視認できない何かを展開させると肉薄していたビットの動きを停止させた。
「動きが止まりましたわね!」
「貴様もな」
スナイパーライフルによる狙撃を大型カノンによる砲撃で相殺するボーデヴィッヒ。セシリアもすぐさま第二射を放とうとするも、先に捕まえた鈴を振り子の様に振り回しセシリアに思い切りぶつけた。
空中で姿勢を崩した二人へとボーデヴィッヒが突撃を仕掛ける。その速度は、僅か一秒にも満たずに一瞬で間合いを詰める。
格闘戦ならば鈴にも分がある。だがボーデヴィッヒの両腕の袖パーツからプラズマ刃が展開すると同時に、両肩に加えて腰部左右に取り付けられていたワイヤーブレードも同時に展開させていた。
その六つの得物が三次元展開で接近してくる。さしもの鈴も全てを捌ききるには無理があった。
衝撃砲により距離を離そうとした鈴だが、放とうとした直前にラウラの近距離砲撃により肩のアーマーを爆散させられてしまう。
体勢を大きく崩した鈴の懐へ、ボーデヴィッヒがプラズマ手刀を突き立てようとする。
「させませんわ!」
間一髪のところで鈴とボーデヴィッヒの間に入ったセシリアが、スナイパーライフルを盾代わりにして致命の一撃を逸らす事に成功した。
同時に腰部装甲に装着された弾頭型ビットを零距離で射出、当然爆発にはセシリア自身も鈴も巻き込まれ地上に吹き飛ばされるが、少なくとも仕切り直しには成功した。
「ケホッケホッ……無茶するわね、アンタ……」
「苦情はあとで。けれど、これならば相手も無傷とは……!」
セシリアの言葉が詰まる。煙が晴れたそこに、ボーデヴィッヒは事も無げに無傷で佇んでいたからだった。
「終わりか? ならば、次はこちらの番だ」
そう言うと同時に瞬時加速を使い地上の二人へ肉薄、鈴を蹴り飛ばし、大型カノンによるセシリアへの零距離射撃も平行して敢行するボーデヴィッヒ。
さらにワイヤーブレードが飛ばされた二人の身体を捕らえ、再びボーデヴィッヒの元へ手繰り寄せられる。そこからは、ただ一方的な暴虐が始まった。
その腕に、脚に、身体にボーデヴィッヒの拳が叩き込まれる。二人のシールドエネルギーはあっという間に機体維持警告域を超え、操縦者生命危険域へと到達する。
これ以上ダメージが増加しISが強制解除される事があれば、その時は冗談ではなく生命に関わる。だがボーデヴィッヒは攻撃の手を止めない、淡々と、確実に鈴とセシリアのISを破壊して行く。
流石に様子がおかしいと感じたのか、それまで観戦していた女生徒達もにわかに騒がしくなり始める。
常と変らないボーデヴィッヒの無表情が、確かな愉悦に口元を歪めたその瞬間、既に五飛の隣に追いつき事を見ていた一夏が雄叫びを上げながら白式を展開した。
「おおおおおっ!」
同時に雪片弐型を展開、零落白夜を発動させてアリーナを包んでいる遮蔽シールドへと叩きつけた。あらゆるエネルギーを消滅させる零落白夜の能力は、遮蔽シールドとて例外では無かった。
シールドを突破し、暴虐を止める為に瞬時加速を最大出力にしてボーデヴィッヒへ突っ込んで行く。
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本来であれば、五飛も当然同行する筈である。むしろ緊急時には一夏よりも行動が早い。だが五飛にはその瞬間、全く別の物が見えていた。
もしこの時、ボーデヴィッヒの相手に鈴が含まれていなければ五飛はこのようにはならなかったかも知れない。一夏よりも早く事態に対処していたであろう事は想像に難くない。
鈴がボーデヴィッヒのワイヤーブレードに捕らわれたまま攻撃に晒され、操縦者生命危険域まで達するほどのダメージにより意識が朦朧とし始め、その腕が力無く垂れ下がった時。
五飛の目には、鈴ではない別の誰かが鈴の姿と重なっていた。
忘れていたわけでは無い、忘れる事など出来る筈も無い。だが五飛を知る人間も、五飛自身も、まさかこのような地であの時の光景をまざまざと思い出すような事が起こるとは想像していなかった。
だが五飛は思い出してしまった。正義を成し、悪を倒す事を第一とする五飛の今の生き方を決意させた人物を。かつて五飛の腕の中で死んでいった、女性の事を。
『こんな風に花を見た事……無かったな……』
五飛は一夏より少し遅れて、微動だにしないままアルトロンを展開させた。少しばかり俯き加減のその顔は、周囲からは表情は読み取れない。
だが横に居た篠ノ之は感じていた。彼から肉眼で確認出来るのではないかと思えるほどの気焔が立ち昇っているのを。その気焔は、さながら猛り狂う龍が如く。
「喜べナタク……このような地でも倒すべき『悪』に巡り会えたぞ」
五飛もボーデヴィッヒの様に僅かに口元を歪めた。笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣の牙を剥く行為が原点である。
だがそこにあった感情は愉悦ではなく、怒りと歓喜と、少々の悲しみ。
ボーデヴィッヒは、知らずの内に龍の逆鱗に触れていた。